済生会総研News Vol.73

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第72回 こども未来戦略方針を読み解く(1)

 千億円と巨額に上るだけに岸田政権の意気込みが伝わる。しかし、今回示された政策パッケージで少子化が反転できるかと言えば、私は全く思えない。それどころか実施していくに従い、予期せぬ副作用が生じて逆に少子化を促進してしまう結果になることを本当に心配している。
 メディアの論調を読むと、財源論を先延ばししている、つなぎ国債で負担を将来に回すのは無責任だ、総選挙を睨んだバラマキではないかという批判が目立つ。確かにこれらは当たっている面がある。こんな巨額の支出をしてよいのかと不安になる。もし国民に金をばらまけば、選挙に有利になると考えられているとしたら、有権者は、むしろ反発するだろう。
 これらは政治論であるが、学問的な見地から実証的論理的に今回の政策パッケージを分析する方が、より求められる。部外者から観察していると、政府部内での検討が不十分なように見える。政策案を検討し、政治家に提示する役割を担う官僚はどのように行動したのだろうか。
 少子化は、急に始まったわけではない。1990年の1.57ショックから33年間、中央官庁の官僚は、少子化対策について検討を重ね、累次、政策を提示し、法律の制定や予算の確保が行われきたので、研究の蓄積は膨大に存在するはずだ。政府が繰り出してきた少子化対策は失敗の連続の歴史だったから、「物事は失敗から学ぶのがベスト」と巷間言われているように研究材料はたっぷりあるはずである。しかし、今回の政策決定プロセスを観察すると、活用されているとは思えない。
 今回、政治が先行しているようだが、この過程で官僚は、政策の効果や問題点を政治家に提示する役割を的確に果たしたのだろうか。
 私の国家公務員時代の見聞では、官僚は、新規政策を策定することに生きがいを感じ、栄進の道だと考える。過去の政策の検証には興味を抱かない。今回もこの癖が出ていないか懸念される。

研究部門 済生会本部 事業基盤課(兼)済生会総研 研究員 見浦 継一

医療・福祉の質の確保・向上等に係る指標の活用方法の検討について

 済生会は、平成23年度に厚生労働省の「医療の質の評価・公表等推進事業」の対象団体に選定され、提供する医療・福祉サービスを可視化してその質を向上させることを目的に、「医療・福祉の質の確保・向上等に係る指標(以下、「質指標」)」の作成と公表を行う事業を開始した。以降、年度ごとに質指標を集計し、ホームページ上で公表を行っている。令和2年度(2020年度)分の質指標は、医療を対象とした39指標(うち、DPC病院を対象としたものは39指標、DPC以外の病院を対象としたものは16指標、診療所を対象としたものは5指標)、介護・福祉を対象とした20指標(うち、介護医療院・介護老人保健施設を対象としたものは17指標、特別養護老人ホームを対象としたものは15指標)で構成されており、現在、令和3年度(2021年度)分の報告書を作成中で、7月を目途に完成予定である。
 当事業は、開始当初より済生会本部事務局の担当部署で進められてきた。平成29年(2017年)に済生会保健・医療・福祉総合研究所(以下、「済生会総研」)が開所した際に、重点的に取り組む研究テーマの一つとして掲げられた「DPC等のビッグデータを活用した地域医療構想における病院経営の在り方及び病院経営に資する分析手法等に関する研究」の一環として進められることとなった。済生会総研では、これまで質指標の作成やホームページ上での公表といった実作業を中心に行ってきたが、今後は、作成した質指標をどのように活用するかという視点を中心に事業を進めていく。
 質指標は、済生会の全ての病院のDPCデータやレセプトデータを集積したデータベースから必要なデータを抽出して集計される。対象年度分のデータ集積(データベースへのアップロード)が完了した後の作業開始となるため、質指標完成後の確認作業の期間を含めると、令和3年度分の結果の公表が本年度となるように、指標対象年度と公表タイミングに1年以上のタイムラグが発生する。作成した質指標の活用という視点においては、データの鮮度は重要な要素であることから、本年度より試験的に、いくつかの指標を数ヵ月遅れの月単位で速報値として集計し、なでしこネットワークを通じて各病院へ指標結果を提供したい。あわせて、医療の質管理を目的としたデータ抽出やこれまで作成している既存の質指標以外の指標作成の要望を個別に募集する。
 医療の質の改善活動は、済生会の多くの病院で、TQM部門や委員会活動により積極的に行われている。各病院にとって有用なデータ提供やその活用方法を検討することを目的に、本年5月から6月にかけていくつかの病院に協力を仰ぎ、どのように質改善活動を進められているかヒアリングを行った。協力いただいた病院は、それぞれ独自の手法により医療の質の管理を行い、多様な課題を抱えながら質改善活動に取り組まれている。済生会総研としては、各病院が抱える課題に個別に応じた情報提供の内容・方法を模索するとともに、済生会全体でのデータや指標を用いた質改善活動の推進に寄与するよう、検討を進めたい。

―編集後記―

 旅行などの際、時間が許せば近隣の神社・仏閣を訪問しています。特に信心が深いというわけではなく、静謐な雰囲気を味わうためだけに立ち寄っています。先日は、嵐山滝神社へ参拝しました。インターネットで調べればすぐにわかると思いますが、この場では詳しい場所は述べません。嵐山滝神社は写真の通り花手水で有名な神社です。閑静な滝のそばに佇む神社で、きれいな花で飾られた手水舎は、管理されている方のこだわりを感じました。
 この神社に祀られている小松女院という方は、笛が得意な青年と身分違いの恋に落ち、その青年を追いかけて遠い地までやって来たところ、彼にはすでに妻子がいたために滝に身を投げたそうです。不幸な最期は別として、今の時代にもありそうなストーリーですね。
 そして小松女院の最期の際、十一人の侍女も一緒に身を投げたそうです。お姫様に逆らえず「え、わたしも?」という侍女は、おそらくいなかったのだと思います。自らの力ではどうしようもない運命に振り回された小松女院に心を寄せるもよし、最期まで雇い主に付き従った侍女の心情を慮るもよし。これらに相似する悩みをお持ちの方は、こちらに参られてはいかがでしょうか。
(見浦)

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