済生会総研News Vol.74

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第73回 こども未来戦略方針を読み解く(2)

 前回に引き続き政府が6月13日に策定した「こども未来戦略方針」について考察する。
 最も重要な論点は、この方針によって日本の少子化が止まり、出生数が増加に反転するかである。結論から言えば、期待できないどころか、この方針によって施策が実行された場合、むしろ少子化を加速させると心配する。
 日本の少子化の最大の理由は、非婚化・晩婚化の進行にあることは、大半の人口学者の意見が一致している。しかし、今回の方針には具体的な対策が盛り込まれていない。このような批判が出ることを見越してか、岸田総理は、方針を発表した記者会見では若者の給料をアップさせるなどの必要性を冒頭で触れていたが、具体案は示されなかった。
 50歳までに結婚したことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は、1980年は男性が2.6%、女性が4.5%だったが、2022年には男性が28.3%、女性が17.8%と上昇している。男性は4人に1人、女性は6人に1人が結婚しない時代になっている。何も対策が講じられなければ、この割合は、上昇を続けることは確実である。
 女性の平均初婚年齢も高くなっている。1950年は23歳だったが、2021年には29.5歳と高くなっている。
 それでは非婚化・晩婚化が進行している理由は何か。最大の理由は、低所得の若い世代の増加である。各種の意識調査で結婚の判断要素として生活の安定が大きい割合を占めていることを冷静に直視すべきである。
 7月4日、厚生労働省が公表した「国民生活基礎調査」は、大変有益なデータを提供している。2021年の子育て世帯の平均所得は、785万円であった。これは全世帯平均所得546万円の1.4倍に当たる。このデータは、所得が高い人ほど結婚して子どもを持つ傾向があることを明確に示している。
 近年日本では所得格差が拡大し、低所得者層が増大している。非婚化の増加は、これとパラレルな関係が存在している。
 韓国の昨年の合計特殊出生率は、0.78と日本以上に少子化が進んでいる。韓国の有識者に聞くと、韓国社会で進む所得格差の拡大や社会の分断が原因であると述べていた。日本と全く同じ事情である。
 日本の少子化対策で真っ先に掲げるべきことは、低所得の非正規雇用者対策などを始め、若者の経済面を改善することである。これが方針から欠落しているのは、経済政策と関係が薄いこども家庭庁が方針策定の中心だったためか、そもそも政府が効果的な対策を持っていないためだろうか。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

社大福祉フォーラム2023への参加報告

 本号では、6月24日(土)に行われた社大福祉フォーラム2023に関する参加報告をしたい。
 社大福祉フォーラムとは、日本社会事業大学社会福祉研究大会で今回が第61回となる。今回の大会テーマは、「『生』に寄り添う社会福祉~誰一人取り残さないソーシャルワーク~」であった。
 このフォーラムは、基調講演など講堂での全体プログラムの後、分科会や自主企画などが行われる形式で、福祉分野の研究者や実践者だけでなく、在学生や地域の方々も参加する大規模なイベントであり、今回はYouTubeなども用いたハイブリッド方式をとっていた。
 まずはじめに、講堂にて、炭谷茂理事長による基調講演「気候変動・災害と福祉」が行われた。理事長が構築されてきた環境福祉学をベースに、気候変動と貧困の状況、災害弱者への対応の課題などが提示された。さらに、日本でのソーシャルファームの動きや、環境福祉のまちづくりとしてアメリカやブラジルなど海外の事例について紹介もなされた。
 その後、研究棟に場所を移し、学長室の多心型福祉連携センターの自主企画として、「災害と福祉の支援と受援」と題したシンポジウムが行われ、筆者もシンポジストとして参加した。
 今回の企画の立案と運営をされてきた高橋幸生教授が進行役となり、筆者がまず「済生会における災害対応の現状と課題」と題した研究報告を行ない、さらに、社会福祉法人浴風会の有坂幹朗氏、社会福祉法人全国社会福祉協議会の今井遊子氏が登壇し、それぞれの実践報告を行なった。コメンテーターとして、ビーサイドユー株式会社の藤野将睦氏がそれぞれの具体的な取り組みについて質問をし、シンポジストが答えることを通して、意見交換ができた。
 さらに、フロアの参加者による質疑応答の中で、東日本大震災を経験した社会福祉関係者からは、災害時だけでなく平時からの取り組みや、受援という言葉もあり、ディスカッションできることが感慨深いという話もあった。また、済生会の取り組みについて質問があった際、受勲受賞のスピーチを講堂でされた後、シンポジウムにも参加してくださっていた潮谷義子会長が熊本での済生会による実践などを紹介してくださるなど、活発な意見交換となった。
 総括として、社会福祉法人慈愛園 慈愛老人ホーム・ケアハウスの施設長を現在されている潮谷有二先生によるコメントがあった。福祉の関係者として、利用者が抱える課題と利用者を取り巻く環境との関連を意識した支援のあり方を検討し、実践していくことの重要性に気づけたのではという、シンポジウムだけでなく、基調講演を通しての発言がなされた。
 福祉分野の先駆的な学びの場であり、歴史のある日本社会事業大学にて、多くの福祉関係者や地域の住民、学生に対して、シンポジウムに参加することで、少しでも済生会の取り組みや総研としての研究成果をアピールできていればと感じた。今後も、いろんな場で発信を続けていきたいと考える。

―編集後記―

 先日、和歌山で行われた全国済生会在宅サービス協議会に参加してきました。ひさびさに直に顔を合わせる形での会となり、情報交換も積極的に行われていました。地域でのニーズに合わせた在宅サービスのあり方を考える中身の濃い会合であったように思います。
 写真は、会場の和歌山城ホールから見た景色です。堀の石垣を眺めるだけでも興味深く、石の積み方にも特徴があるようで、間近でじっくりみてみたいなと思いました。
(Harada)

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