済生会総研News Vol.30

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第29回 再度、再検証要請対象施設問題について

 先月、本欄で9月25日、厚労省の公表した公立病院・公的医療機関等の再検証要請対象施設問題について述べた。公表直後、医療関係者だけでなく、地方自治体、地域住民に激震が走ったが、時間が経過しても住民の不安は、むしろ燎原りょうげんの火のごとく広がっている。
 例えば、11月下旬に発売された発行部数30万部を超える女性週刊誌は「消える病院全国424全公開」という刺激的なタイトルで報じ、住民を一層不安に陥らせている。
 済生会では21の病院が掲載されたが、これらの病院では患者や病院職員に動揺が広がり、看護師等採用内定者の辞退などの病院経営に多大な実害を受けている。
 済生会では、全国の病院の意見を踏まえ、見解をまとめている。地域医療構想については、従来から病棟機能の転換、公立病院等の引き受けなど積極的に協力してきたが、これが評価されないなどをはじめ、たくさんの問題があることを指摘している。もちろん、今後も地域医療構想の検討には積極的に参加していく方針には、変わりはない。
 地域医療構想の検討に当たって、地域の個別の医療事情、地域で各病院が担っている役割等を明確なデータをもとに検討され、地域医療が適切に確保されるという観点が基本である。地域医療が崩壊しては、意味がない。
 今後の検討に当たっては、公立病院、公的病院、民間病院の関係が大きな論点の一つになる。
 公立病院は、赤字補填がなされているので、競争原理が機能しない点では、公的病院や民間病院とは異なる。公的病院も公立病院と同じだと誤解されている。前回も述べたので、繰り返しは避けたいが、今回の公表後、著名な大学教授は、「隗かいより始めよ」で都道府県知事が影響力を行使できる公立病院と公的病院を先行して発表したと述べている。公的病院である済生会は、地方自治体の下部機関ではない。独立採算で経営し、地方自治体を含め他の団体が行わない高度な公的使命の履行を目的とする非営利の民間団体である。
 一方、医療の分野でも「民でできることは民で」という主張がなされることがある。この場合「民」は、公的病院を除いた民間医療機関を意味しているようだが、公的財源の投入状況という面では、両者はほとんど変わらない。
 そこで仮に公的病院を含めた「民」が医療の主体を担うという議論を進める場合、医療保障の本質論の議論が避けられない。医療の保障は、教育と並び、17世紀の市民革命以来歴史の中で形成されてきた民主主義社会を支える根幹的な人権である。人間の生命は、最も尊い人権である。
 医療経済学では医療保障の公平性と効率性が大きな命題である。両者は、トレードオフの関係とされる。私は、公平性を保障したうえで効率性を追求することが、妥当であると考えているが、本テーマについてはさらに深めたい。

研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭

Ⅰ.研究概要および研究ミーティング

 済生会総研News Vol.24(5 月号)では重症心身障害児(者)施設等の現状について、文献を中心に整理をしました。今月号では、私が主担当とする今年度の研究概要等について、ご報告します。

Ⅰ―1.研究概要

≪研究テーマ≫
 済生会重症心身障害児(者)施設6 施設のアセスメントの現状と課題

1.研究背景
 重症心身障害児(者)施設(以下、「重症児者施設」)では、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢の方が入所していることに加え、医療的な支援を要する重症心身障害児・者(以下、「入所児者」)が増加している。また、入所児者は言葉による意思疎通が難しいため、表情やしぐさなどの細かな変化や反応などから読みとることが必要なため、一人一人の詳細な情報を捉え、理解を深めることが求められている。そこで、重要な鍵となるのが、入所児者のアセスメントであると考える。

2.研究目的
 本研究は、重症児者施設で暮らす入所児者の生活の質を高め、望む生活の実現をより可能とするために、入所児者の「アセスメント」に着目をした重症児者のアセスメントモデルの開発を目指している。
 今年度は、済生会重症児者施設6 施設を対象に、アセスメント対象である入所児者および施設におけるアセスメントの現状と課題を抽出することを目的とする。そして、調査結果から抽出された課題に対する方策を検討する。

3.研究意義
 重症児者のアセスメントモデルの開発に向けて、本研究によって得られた結果は、貴重な基礎資料となる。また、今後の職員調査を実施していく上においても重要なものとなる。

4.研究方法
 調査方法は質問紙調査を実施し、調査対象は済生会の重症児者施設6施設で、調査期間を2019年10月23日~11月14日とした。

5.研究結果
 6 施設すべてから回答を得て、現在、調査結果を分析している。
 研究成果については、来年開催の済生会学会(新潟)の一般演題(口頭発表)にて報告するとともに、年度内には学術雑誌への論文投稿、報告書を作成し配付する。


図1 本研究が最終的な目標とするもの

Ⅰ-2.研究ミーティング

 本研究をすすめていくにあたり、2019年5月23日から7月1日にかけて、済生会の重症児者施設6施設を訪問し、施設長や施設職員等から施設の現状や課題について聞き取りを実施した。
 また、済生会以外の重症児者施設として、島田療育センター(東京)、旭川荘療育・医療センター(岡山)の2施設を訪問し、アセスメントに関する実態について聞き取りをおこなった。

 各施設の訪問を通して得た情報をもとに、2019年8月30日に済生会総研で研究ミーティングを開催し、6施設のアセスメントに関する情報共有と調査票における調査項目について検討した。研究をすすめていく上において、現場の皆様のご意見は大変貴重なものとなった。次回は、2020年1月31日に第2回目の研究ミーティングを開催し、主に調査結果について検討する。
 この場をお借りして、調査にご協力くださいました済生会重症児者施設6施設の施設長はじめ職員の皆様に深く感謝申し上げます。

Ⅱ.研究所顧問との研究打ち合わせ

 8月1日付けで、済生会総研に山崎美貴子(神奈川県立保健福祉大学名誉教授・顧問、東京ボランティア・市民活動センター所長)氏が研究顧問として就任された。主に福祉分野に関する研究について、月に1回のペースで打ち合わせをしている。これまでの4回すべて、私が主担当で取り組んでいる研究【重症心身障害児(者)のアセスメント】研究について助言があった。主に調査内容や分析方法をはじめ、福祉制度などを踏まえた内容となっている。また、山崎先生の経験に基づいた貴重なお話も伺っている。

 山崎先生から「実践を研究にまとめていく作業はとても意義があります。大変だけど面白い体験をしていただく機会ですね。私も楽しみになりました」と話された。
 この言葉を聞いて、現場で実践されている皆様の実践を“理論化する”、“普遍化する”、“見える化する”ことが済生会総研で私自身が果たすべき役割であることを再確認した。
 引き続き、現場実践されている皆様方からのご意見等を聴きながら、現場で実用できるための研究をすすめていきたいと思う。

Ⅲ.学会発表報告

 第57回日本医療・病院管理学会学術総会が新潟市で11月2日~4日に開催された。当学会は、保健・医療・福祉分野における諸問題を多面的に考究し、保健・医療・福祉のあり方を追求することを目的とした学会である。今大会のテーマは「持続可能な地域医療を支える医療・病院管理学」と題し、済生会総研からは、山口直人研究部門長、持田勇治上席研究員が参加した。

 11月3日のシンポジウム では「公的医療機関等の病院グループにおけるこれからの医療・病院管理機能」と題したテーマで、山口研究部門長が「済生会からみた医療・病院管理学への期待」について 発表した。11月4日には、山口研究部門長が「入院中感染症罹患リスクと医師の時間外労働との関連に関する生体的分析」を、持田上席研究員が「股関節・大腿近位の骨折の入院病床のコントロールについての考察」と題し、それぞれ口頭発表した。今後も済生会総研として、研究成果を積極的に社会へ発信していくことが責務であると考える。


山口研究部門長


持田上席研究員

人材開発部門

令和元年度 認知症支援ナース育成研修

 済生会独自の「認知症支援ナース育成研修」が10月24日~25日に本部で開催された。63名(48施設)が参加した。平成28年度の診療報酬改定で新設された「認知症ケア加算2」の算定条件に満たすには、認知症患者のアセスメントや看護方法等に係る「適切な研修(9時間以上)」を受けた看護師を対象とし、対象病棟に2名以上配置することが条件となっている。本研修は「適切な研修」に該当する。受講者全員が算定条件に満たす研修時間をクリアし、修了証書が交付された。
 1日目は、兵庫県病院認知症看護認定看護師・谷川典子氏による「認知症ケア加算」、「急性期病院での認知症看護の視点」の講義に続き、横浜市東部病院副院長脳神経センター長・後藤淳氏による「せん妄について」、「認知症の原因疾患と病態・治療」、「認知症の行動・心理症状について」の講義が行われた。具体的な事例をもとに、せん妄・認知症の病態について分かりやすい解説があった。2日目の午前中は、兵庫県病院認知症看護認定看護師・谷川典子氏と中央病院認知症看護認定看護師・浅水香理氏による「入院中の認知症患者に対する看護に必要なアセスメントと援助技術」の講義が行われた。様々な事例をもとに看護に必要なアセスメントや看護ケアの視点を解説した。

 続いて、横浜市東部病院老人看護専門看護師・丸山理恵氏による「認知症に特有な倫理課題と意思決定支援」の講義と事例検討会を行った。「倫理的な気付きとジレンマ」を感じることが重要で、医療チームの中で話し合うと自分自身の価値観に気づくことができる。そして、認知症患者にとって最善のケアにつながっていく、と解説した。
 次に、認知症患者への「意思決定支援」における看護師の役割と「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」について解説があった。ACPとは、将来の意思決定能力の低下に備えて、個人が病状に応じた今後の医療について理解し、振り返り、大切な人や医療者と話し合うことで、医療者・ケアチーム全体で話し合うプロセスが重要である、という講義が行われた。
 2日目の午後は、富山病院認知症看護認定看護師・橋本佳子氏と金沢病院認知症看護認定看護師・ 松田美紀氏による「認知症患者とのコミュニケーション方法」、「療養環境の調整方法」についての講義が行われた。認知症患者のコミュニケーション方法では、認知症患者が元の居場所に戻ることができるように、チームで話し合い、ケアを計画し、お互いをカバーしながら多職種とスムーズな連携につなげることが重要で、看護管理者は認知症患者のケアを行っているスタッフのストレスを理解し、サポートを行ってほしい、という講義であった。
 続いて、認知症患者への看護やコミュニケーション方法についてグループワークを行い、事例をもとにグループで話し合った看護師の対応の演習を行った。平成28年度に新設された本研修で修了した延べ人数は764名となった。

福祉施設リーダー研修

 11月7~8日に福祉施設リーダー研修が本部で開催された。職種にかかわらず福祉施設のリーダーとなる職員が対象。年3回開催の2回目で、全国から21人が参加した。
 はじめに炭谷茂理事長が「済生会の福祉事業~激変する社会の期待に応えるために~」と題して講演。「福祉ニーズは増大しているが、障害者の社会参加は、なかなか進まない。刑余者の社会復帰の難しさ、被差別部落への根強い差別も残っている。さらに近年は、児童虐待の急増や、ホームレスの高齢化など、新しい課題も出現しており、このような問題こそ、済生会が対応すべきである。そのためには、徹底した「攻めの姿勢」で取り組む必要があり、『済生会ブランド』の確固たる地位を固めたい」と訴えた。

 その後は、外部の専門講師が2日目の終了時まで担当。「自分たちが目指す済生会グループの施設のあり方」「現状における問題点」「職場のコミュニケーションを円滑にするには」について、グループディスカッションを実施。リーダーシップの必要性を学んだ。
 最後に難しいパズルゲームを通して、リーダーに求められる役割を実践した。
 今年度の最終回、第3回は12月5~6日に岡山で開催される。

済生会総研から ―編集後記―

 11月25日に済生会総研のホームページをリニューアルしました。ホームページのリニューアルについては、今年の5月頃から検討をしてきました。リニューアルに伴い、済生会総研のシンボルマークも新たに作りました。シンボルマークについては「Saiseikai Research Institute」の頭文字「SRI」を図形に変換し、それぞれの要素を研究・解析=構造の理解という表現をイメージしています。他にもいくつかデザイン案がありましたが、最終的に研究員全員一致のもと、このデザイン案を選択しました。この場をお借りして、5月からホームページのリニューアルに向けて、何度も打ち合わせをさせて頂きました大空出版の近藤大晃常務取締役、川島太樹Webデザイナーのお2人に感謝いたします。

(吉田護昭)

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