済生会総研News Vol.29

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第28回 医療機関の経営主体論

 9月25日、厚労省によって公立病院・公的医療機関等の再検証要請対象施設が発表された。この発表の趣旨は、今後地域医療構想の検討を活性化させるためで、統廃合を前提としたものではないと説明をされている。
 しかし、メディアや国民は、そのようには取っていない。掲載された424の公立病院・公的医療機関等は、統廃合されるという誤解を与えてしまった。掲載された病院の患者や職員に大きな動揺を与え、多大な実害を受けている。職員の新規採用には顕著な悪影響を受けている。
 厚生労働省は、この状況を踏まえ、国民やメディアの誤解を解消するようあらゆる手段を講じて欲しい。地域医療構想は、今後の医療提供体制のあり方から進めるべきであることには異論はない。済生会としてもこの議論に積極的に参加し、医療の向上のために努力していきたい。
 今回の発表方法や内容について疑問に思ったことは、たくさんある。その一つとして公立病院と済生会等の公的病院が同一性格を有するような印象を与えてしまう扱いがされていることである。
 公立病院は、都道府県や市町村によって設立され、赤字が生じたときは一般財源から繰り入れが行われる。その額は、年間8,000億円になる。不採算の医療分野や離島、山間辺地等の医療を担っているから必要性があるが、非効率的な運営がなされている病院も多いので、批判が集まる。
 一方済生会等の公的病院については、同じようなことはされていない。しかし、複数の社会保障の大学教授からの「公的病院は、公立病院と同様に赤字補填を受けている」との公の場での発言を聞いた。一般国民が誤解するのも無理からぬことだ。
 公的病院は、独力で持続的な経営を維持しながら、それぞれの病院が与えられた高度なミッションを果たすという大変険しい道を歩まねばならない。済生会の設立に貢献した渋沢栄一翁の「論語と算盤」は、済生会が歩む道を端的に表現している。
 ところで公的病院の定義、範囲、役割もこの際、明確にしなければならない。
 医療法第31条では「公的医療機関」を定めている。この制度は、昭和23年の医療制度審議会の答申を受けて、戦災により損耗した医療提供体制に補助金を交付して地方自治体に早急に設置を促すためだった。自治体とともに済生会、日赤、厚生連等が「公的医療機関」に含められ、戦後の医療機関の整備を担った。
 しかし、今日ではこの役割は終えている。その後の医療法改正では、医療施設の地域開放等の任務が加えられたが、今日における位置づけが不明確である。
 そもそも日本の医療提供体制の経営主体は、基本的にどのようにあるべきなのか、掘り下げた検討が求められる。

研究部門 済生会総研 上席研究員 持田 勇治

DPC データを使用した地域包括ケア病棟入院料運用への取り組みの研究

 済生会総研医療分野の新たな研究テーマとして、DPC データを使用した地域包括ケア病棟入院料運用への取り組みの研究を開始いたします。地域包括ケア病棟入院料は、在宅復帰を目標にして、患者が自宅へ退院できるように支援していくための病棟・病床を評価した入院料であり、①急性期からの受け入れ(ポストアキュート)②在宅・介護施設等からの受け入れ(サブアキュート)③在宅復帰支援の3つの目的を果たすべく、2014年の診療報酬改定で新設されました。済生会病院経営調査(平成30年4月)で済生会病院では、79病院中38病院、1,836床(全病床の8.25%相当)が当入院料の届け出をしています。
 各病院においては地域医療の充実や病院経営改善のために地域包括ケア病棟入院料への移行を検討する必要性は高まっていると考えます。本研究では、病院経営管理システムのデータを使用し、地域包括ケア病棟入院料へ移行した場合の診療報酬請求のために、シミュレーション可能なツールを作成していきます。また、一般病棟に入院している患者を地域包括ケア病棟へ移す場合の病床コントロール方法についての研究も行います。
 具体的な内容は次の通りです。

  • (1) 地域包括ケア病棟入院料への届出変更した場合の経済的な分析方法に関する検討
     病院経営管理システムのデータを使用して分析方法を検討し、一般病棟入院基本料での診療報酬請求額と地域包括ケア病棟入院料の診療報酬請求額を推計してデータベース化します。そして、患者別、診療科別、疾患別、入院期間別等の様々な面から分析を行います。また、研究の結果として各病院で自院のデータで分析可能なツールを提供していきたいと考えています。
  • (2) 地域包括ケア病棟入院基本料へ届出変更後の病床コントロールに関する検討
     一般病棟入院基本料の病棟に入院している患者の地域包括ケア入院料の病棟への移動に関する判断基準(ベッドコントロール)は、各病院がそれぞれの形で運用しています。
     本研究は、様々な観点から一般病棟入院基本料の病棟から地域包括ケア入院料の病棟へ移動する判断基準に関する研究を行います。より良い形での判断基準を提案できることを目的として研究を進めます。その運用方法を情報共有して、各病院で活用していただきたいと考えています。

人材開発部門

新任看護師長研修

 令和元年度新任看護師長研修を7 月24 日~26 日に本部で開催しました。今年度は53 病院から75 名の新任看護師長の皆さんが参加しました。
 1日目は、炭谷茂理事長の基調講演「看護に関する済生会原論~済生会の飛躍的発展をめざして~」に続いて、常陸大宮済生会病院看護部長・鈴木典子氏が「看護部長のマネジメント~いきいきと看護管理をしよう~」と題して講義。常陸大宮済生会病院において鈴木氏が経験された「忘れられない患者さんとの場面」から学んだ「私の看護観」を解説し、すばらしい臨床家としての自分に誇りをもって、いきいきと看護管理をしてほしいと話しました。

 2日目は、東京都看護協会教育部部長補佐・栗原良子氏が「人材育成」をテーマにし、看護管理者が学んで実践し、結果を見て反省して学ぶことの繰り返しで身につけるマネジメント能力等についてのご講演。また、加藤看護師社労士事務所・加藤明子氏が「労働関係法規の理解と看護管理の実務」と題して、「育児・介護関連」、「働き方改革」の関係法規、「ハラスメント」について、具体的なケーススタディを交えながら解説されました。
 3日目は、東京外国語大学・非常勤講師の市瀬博基氏による講義「ポジティブ・マネジメント―自ら考え、行動し、助け合う組織をつくる―」が行われ、ストレス・マネジメントとレジリエンス(回復プロセスからの教訓を得る)や、「認知行動療法」の手法の一つである瞑想・呼吸法の体験、演習等、協働と対話から生まれる職場の学びと成長について説明され有意義な学習となりました。

看護補助者の活用と支援についての看護管理者研修

 「看護補助者の活用と支援についての看護管理者研修」を9月25 日、本部で開催しました。急性期看護補助体制加算及び看護補助者加算に対応する研修で今年が4年目。副看護部長や看護師長65 人が参加し、全員が修了しました。
 講師は東神奈川リハビリテーション病院の藤原佐和子看護部長、アドバイザーは龍ケ崎済生会病院の氏家みどり看護部長が務めました。
 藤原看護部長は、全国済生会看護部長会と本部看護室が作成した「看護補助者育成のための業務・教育指針」をもとづき、看護職と看護補助者の業務範囲・業務分担の在り方、労務管理、雇用形態について事例を交えて解説しました。
 グループワークでは、「明日からできること」をテーマに看護者と補助者が協働するために必要なことを議論。「看護チームの一員として認める」「積極的に声を掛けてコミュニケーションを図る」「自分達が変わり、積極的に情報を共有する」など具体策が挙がりました。
 氏家氏は「看護補助者をきちんと名前で呼び、感謝の気持ちを表すだけでなく日ごろの挨拶も大切」「業務マニュアル、就業規則を確認して、見直すところがあれば、すぐに改善してほしい。看護チームの一員として守っていくことも看護管理者の重要な役割」と訴えました。

令和元年度 新人看護職員教育担当者研修

 令和元年度新人看護職員教育担当者研修を10月9日~11日、本部で開催し、60名(57施設)が参加しました。各施設で新人看護職員研修を効果的に行うため計画の立案・実施・評価、実地指導者との関係調整や支援の在り方について再考し、実施することを目的としています。
 1日目は炭谷茂理事長の基調講演に続き、東京工科大学名誉教授・齊藤茂子氏による「新人看護職員の成長支援」の講義が行われ、厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン」の効果的な活用方法の解説に加え、具体的な指導方法について実体験をもとに解説していただきました。
 2日目は、杏林大学保健学部看護学科准教授・金子多喜子氏による「看護師のメンタルヘルス」の講義に続き、齊藤茂子氏による「『こうすれば新人の成長を支援出来る』提案集をPBLで作ってみよう!」の講義が行われ、PBL(プロジェクト基盤型学習、または問題基盤型学習)の演習を行いました。
 3日目は各チームで生み出した「知の成果」のプレゼンテーションを行い終了となりました。「知の成果」は「こうすれば新人の成長を支援できる研修提案集」として冊子にまとめ、受講施設の看護部長及び受講生に送付を予定しています。

済生会総研から ―編集後記―

 現在、ラグビーワールドカップが日本で開催されています。開幕当初は、注目度も今一つの感じがしていましたが、いざ開幕すると日本の活躍のためか、日本中で大きな盛り上がりなっています。済生会本部、済生会総研の入っているビルの所有会社は、ラグビーワールドカップのスポンサーで、1階のフロントでは写真のように結果を表示するボードが展示されています。

(持田勇治)

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