済生会総研News Vol.28

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第27回 宗教と社会保障との関係

 必要があってオランダの社会保障を勉強していると、宗教の影響が強いことが分かった。一般的に日本人は、宗教を強く意識して生活をしていないので、この感覚がつかみにくい。
 欧州の歴史を学ぶために最も適切な本は、欧州の高校生の共通教科書として作られた『ヨーロッパの歴史』(東京書籍から1994年に翻訳して出版)である。国家間の対立は、国民の歴史観から形成される面が強い。歴史観は、学校での教育が大きく影響するので、EU加盟国の高校生が共通に使用する教科書が作られた。
 各国の12名の歴史家が参加し、4年間をかけている。写真や図がふんだんに使われ、一般の人が読んでも面白く、水準が高い。
 本書でオランダの宗教について調べてみると、1517年のマルティン・ルターによる宗教革命を受けたジャン・カルヴァンによるカルヴィニズムがオランダを席巻したが、その後カトリック派と勢力を2分している。
 19世紀末から両派は、政治、教育、医療、福祉などの分野で組織化を進めてきた。政治分野ではキリスト教民主主義系の政党が政権を握ってきた。福祉国家の形成に当たっては、教会系の非営利民間団体が医療・福祉サービス提供者として大きな役割を果たし、今日に至っている。
 だからオランダの社会保障の本質を理解するためには、宗教との関連性を抜きにしてはできない。
 これはヨーロッパの他の国も同様である。4年前、ドイツで済生会と同様に、病院や福祉施設を多数経営している全国法人を訪れたことがある。説明をしてくれた法人幹部からは社会的弱者に対する並々ならぬ思いが伝わってきた。宗教的心情が基盤にあるのではと感じた。
 一方、日本の社会福祉の発展の歴史を見ると、宗教の果たした役割は、実は大変大きい。日本の社会事業の始祖は、聖徳太子であるが、その思想的根拠は、『三経義疏』(さんぎょうぎしょ)に著されている仏教福祉思想である。
 その後、行基、最澄、空海、空也と続く古代の福祉活動は、仏教の教えによるものである。仏教が日本の初期の福祉を形成したと言える。
 今日においても医療や福祉において宗教が大きな役割を担っている。
 近年、家族や地域社会の状況の変化により社会とのつながりを失い、孤立する人が増えている。急速な技術革新と競争社会の進行によって心の悩みを抱える人も多い。多死社会となり、看取りの問題が生じている。
 このような課題に対して宗教がどのような役割を果たせるのだろうか。これまで考えることを避けてきた日本社会は、真剣に考える段階に入っている。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

研究の進捗状況

 今回は、「地域包括ケア」(研究タイトル「済生会独自の地域包括ケアモデルの確立に向けて
―地域での暮らしを支えるためのまちづくり―」)の研究について、報告いたします。

Ⅰ.研究の目的と方法
 地域包括ケア推進にあたって、医療、保健、福祉、介護などさまざまな施設・機関及びそこに所属する専門職がいかに連携し、それぞれの地域のニーズに応えていくかが重要となる。済生会各地の保健・医療・福祉の連携の取り組みを蓄積し、済生会独自の地域包括ケアモデルを可視化することを目的とする。地域包括ケアを担う職員を対象とし、先行研究や視察等で得た知見、研究ミーティングをもとに調査票を作成し、調査を実施する。

Ⅱ.2018年度の研究成果
 昨年度は、総研内の倫理委員会での承認後、済生会の病院に所属するMSWを対象に郵送調査を行った。調査の質問項目は、「所属施設内での多職種連携」、「諸機関との連携」、「職場環境」、「資格や年齢などのフェイス項目」、「自由記述」からなる。
 済生会の81病院に所属するMSWを対象とし、418名のうち回収したのは404名となった(回収率96.7%)。以下の通り、MSWが抱える現状と課題が明らかになった。

  • 1. 「地域包括ケア」を意識した取り組みを行っている
  • 2. 職場内での多職種と連携できていると感じている
  • 3. 「医療と福祉」・「医療と介護」の一体的な提供体制は半数が不十分であると感じている
  • 4. 福祉施設、ボランティアや地域住民とのかかわりが薄いと感じている

 地域における「医療と福祉」および「医療と介護」の一体的な提供体制に対して課題があることが明らかになった。また、自由記述から、退院後の生活、住み慣れた場所での暮らしについて、看取りを含めて検討していく必要があることがわかった。
 さらに3月、全国6ブロックのそれぞれ稼働病床数の一番大きな病院に勤務するMSWに研究協力者として協力いただき、研究ミーティングを実施した。調査結果をもとに、連携のあり方、地域包括ケアの構築に向けて専門職が専門性を発揮できる環境について意見交換を行った。

Ⅲ.2019年度の研究進捗
 今年度は、福祉施設の職員を対象に調査を実施し、済生会における地域包括ケア構築の課題、医療と福祉の連携に関する課題を明らかにする。それにあたり、5月に、各ブロックから選出された生活相談員に研究協力者として参画いただき研究ミーティングを行った。昨年度のMSW対象の調査結果を共有した上で、福祉施設における課題について、意見交換を行った。現在、調査票を作成中であり、今後、倫理委員会に諮り、承認されれば、調査を実施する予定である。さらに得られた結果をもとに、結果検討のための研究ミーティングを行う。

人材開発部門

令和元年度アドバンス・マネジメント研修Ⅳ

 次世代の看護管理者としての役割を担う中堅看護師を対象とした「令和元年度アドバンス・マネジメント研修Ⅳ」を8月28~30日、本部で開催し、68施設から80人が参加しました。
 1日目は、炭谷茂理事長の基調講演「看護に関する済生会原論~済生会の飛躍的発展を目指して~」に続き、加藤看護師社労士事務所の加藤明子氏から4月1日に施行された改正労働基準法について事例を基に労働時間の上限規制や医療従事者の勤務環境改善の取り組みなどを解説していただきました。

 2日目午前中は、関東学院大学大学院看護学研究科委員長の金井Pak雅子教授が「より輝ける看護師を目指して」と題し、中堅看護師は自己のキャリア形成を考えること、コミュニケーションスキルを磨き自身で得た知識・技術を伝えることが大切とお話ししていただきました。午後と3日目は高輪心理臨床研究所主宰の岸良範氏が「人間関係とリーダーシップ―互いに育てあう職場を目指して―」と題し講義と演習をいただき、パワハラにならない上手な〝叱り方〟と傾聴・対話力といったコミュニケーションスキルを解説されました。
 参加者からは「相手との意見の違いを認めて、良い意見を素直に取り入れるという視点が広がった」などの意見があり、大変有意義な研修会となりました。

令和元年度薬剤部(科・局)長研修会

 令和元年度薬剤部(科・局)長研修会を9月6日、本部で開催し、72病院から73人が参加されました。

 林紀次事業部次長より本部連絡事項として法人の厳しい経営状況等についての説明の後、植松和子特別参与が済生会共同治験の状況に関して報告しました。
 その後、国際医療福祉大学薬学部特任教授の土屋文人氏から「10年後・20 年後に求められる薬剤師像と業務手順書改訂の留意点―薬機法・薬剤師法改正及び0402通知とAIが薬剤師業務に及ぼす影響―」と題しての講演がありました。最後に炭谷茂理事長が「令和元年度の済生会の経営の基本方向 ~経営の抜本的強化に向けて~」と題した基調説明を行いました。

済生会総研から ―編集後記―

 地域包括ケアや済生会DCATなど、私が取り組んでいる研究の実施にあたっては、現場の方々に研究協力者になっていただき、「研究ミーティング」を行うことが不可欠な要素です。済生会総研の特徴、つまり、「現場における実際の取り組みの把握」、「現場の職員が抱えている課題に関する情報収集」、「現場の職員が参画できるような体制づくり」を体現していると考えます。今後ともご協力のほど、よろしくお願いいたします。

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