済生会総研News Vol.31

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第30回 病院の役割の拡大

 済生会は、平成30年度から始まった第2期中期事業計画では医療・福祉周辺分野への取り組みとまちづくりへの寄与という新たなミッションを掲げた。
 済生会の精神的源流は、聖徳太子が593年、四天王寺寺院(大阪市)に創設した悲田院、施薬院、療病院にある。仏教に深く帰依し、「三経義疏」を著した聖徳太子は、「慈心は楽を与え、悲心は苦を抜く」という慈悲の思想によって貧民の救済を始めた。
 聖徳太子の創設した施設は、今日の目から見ると無料の病院、薬局、福祉施設にわたる総合的な施設群であるが、貧民のニーズを考えれば、すべてが必要とされた機能である。
 この施設の運営には住民の参加を幅広く求めた。参拝者も多く集まったので、四天王寺は、まちの中核として賑(にぎ)わい、まちづくりの機能を果たしていた。
 江戸時代後期、徳川吉宗は、江戸小石川の町医小川笙船(しょうせん)から提案を受け、小石川療養所を設立した。これをモデルにした山本周五郎の「赤ひげ診療譚」は、黒澤明監督によって映画化され、広く知られるようになった。
 黒澤映画では、主人公の医師新出去定が、治療だけでなく、患者のもめごと、経済、住まいの問題などの解決に乗り出すことが描かれている。患者のことを考えると、医療以外の分野にも乗り出さなければならなかったからである。
 ヨーロッパの病院の原型であるホスピスは、中世に聖地エルサレムへの巡礼を行うキリスト教徒に食事や宿を提供するため、修道院に設けられた憩い場であった。修道女がこれに従事した。また、病気になった人に医療も提供するようになり、役割は、拡大していく。
 ヨーロッパの病院は、この伝統を継承し、奉仕の精神に基づき、住民に対して精神面から社会面まで幅広い援助を行っている。病院の経営主体の多くが教会、慈善団体、労働組合など非営利団体であるのもこのゆえである。
 先日アフガニスタンで亡くなった中村哲医師は、貧困者への医療だけの支援では壁にぶつかり、井戸を掘って灌漑(かんがい)用水や生活用水に供給することに活動範囲を拡大していったことも、住民の幸せを考えると自然な道だったと思う。
 済生会の病院は、第2期中期事業計画に基づき、例えば、がん患者に対して精神面、経済面、家族関係など各種の問題について相談に応じ、ハローワークと連携をして就職の支援を行っている。また、住民から厚い信頼を受け、住民とともに歩いてきた伝統を生かして、まちづくりに貢献するようになった。
 しかし、これらは、未開拓の分野であるので、当研究所でも効果的具体的な方策に関する研究を深めていきたい。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

「地域包括ケア」に関する研究レポート

 今回は、総研News vol.28(9月号)でも記載した「地域包括ケア」(研究タイトル「済生会独自の地域包括ケアモデルの確立に向けて―地域での暮らしを支えるためのまちづくり―」)の研究の進捗について報告する。

Ⅰ.研究の目的と方法

 地域包括ケア推進にあたっては、医療、保健、福祉、介護などさまざまな施設・機関及びそこに所属する専門職がいかに連携し、それぞれの地域のニーズに応えていくかが重要となる。済生会各地の保健・医療・福祉の連携の取り組みを蓄積し、地域包括ケアモデルを可視化することを目的とする。そのために、地域包括ケアを担う職員を対象とし、先行研究や視察等で得た知見、研究ミーティングをもとに調査票を作成し、調査を実施する。

Ⅱ.2019年度の調査結果

 2019年度は、済生会の福祉施設の「施設長」と「入退所の調整や外部機関との窓口となっている職員」を対象に調査を実施した。調査の実施にあたっては、日本社会福祉学会の研究倫理指針等を遵守し、倫理的配慮のもと実施することを心がけると共に、総研内の倫理委員会の審査を経て承認を得た。
 調査票の配布と回収については、各施設に個別の封筒と共に調査票を配布し、済生会総研へ返送する自記式調査票による郵送調査を用いた。調査時期は、2019年11月である。
調査対象施設は、121入所施設(短期入所除く)であり、種別は、特別養護老人ホーム(53)、介護老人保健施設(30)、養護老人ホーム(6)、軽費老人ホーム(10)、救護施設(1)、障害者支援施設(5)、障害児入所施設(8)、乳児院(7)、児童養護施設(1)となっている。
 調査項目は、昨年度行ったMSWへの調査を踏まえ、主な項目は、「多職種・多機関との連携」「地域包括ケアと日常業務」「職場環境」「個別要因」「資格」等である。
回収率は、121施設中116施設からの回収で95.9%だった。なお、調査票242のうち228を回収した(94.2%)。
 MSW調査との比較から、福祉施設における特徴として、以下のことが明らかになった。


  • 1. 「地域包括ケア」の研修を受ける機会は少ないが、包括ケアを意識した業務実践をしている
  • 2. 自施設での専門職との連携はうまくいっていると感じている
  • 3. 「医療と福祉」・「医療と介護」の一体的な提供体制は、MSW調査よりも連携できていると思う割合が高いが、「医療と福祉」は半数以上が不十分であると感じている
  • 4. 「民生委員・児童委員」、「ボランティア」、「利用者・利用者家族」、「地域住民」に関しては、連携できていると答える層の割合がMSW調査よりも多かった
  • 5. 職場環境については、「業務量が過大」・「専門職確保が困難」という項目が目立った

 地域における「医療と福祉」の一体的な提供体制に対して課題があることが明らかになった。また、職場環境における課題も示された。引き続き、「施設長」と「入退所の調整や外部機関との窓口となっている職員」に分けたクロス集計やその他の多変量解析を行うと共に、自由記述を分析し、結果検討を行っていく。これらをまとめ、2月に行われる福祉施設長会や済生会学会でのシンポジウム「済生会が目指す地域包括ケア」において報告する予定である。

Ⅲ.研究ミーティング

 地域包括ケアに関する研究ミーティングを済生会福祉施設長会による全国6ブロックから選出された生活相談員の方々に研究協力者として参画いただき、また、研究テーマに関係する本部事務局の職員もオブザーバーに加え、12月18日に開催した。
 調査結果をもとに、地域包括ケアの構築に向けての連携のあり方、ボランティアなど地域住民との連携の実際、職場環境の改善に関する取り組みについての情報交換や検討を行った。意見交換を通して、地域包括ケアをはじめとした施設のあり方は、「連携」という共通する要素はあるものの、それぞれの地域でそれぞれの形にあったあり方があるのだということが共有できた。

  今回の研究ミーティングでの検討を加味しながら、調査結果をまとめて、先に述べたシンポジウム等での発表や報告書を仕上げて発信していきたい。

 *お忙しい中、調査への回答、及び、研究ミーティングにご協力くださいました福祉施設の皆さま、本当にありがとうございます。
 今後ともよろしくお願いいたします。

人材開発部門

第4回済生会地域包括ケア連携士(連携士)養成研修会

 11月19~22日の4日間、第4回済生会地域包括ケア連携士(連携士)養成研修会が開かれた。
 連携士は済生会が構想する地域包括ケアを中核となって進めていく役割を担っており、研修は高齢、障害、児童、生活困窮者など各分野における連携や施設における地域貢献、さらには、ケアマネジメントやICF(国際生活機能分類)、職種間連携など多岐にわたるハードな内容となっている。4回目の今回は、病院のMSWや看護師、福祉施設の相談員、訪問看護師など、様々な連携業務に携わる74人が参加した。

 受講者からは、「ソーシャルインクルージョンを、なぜ済生会が行うのかがよく理解できた」「多彩な講師陣による様々な分野の話が聞けて本当によかった」「実際の支援事例なども含めた話でとても理解が深まった」「今後の自身の活動に、夢が広がる感覚と責任感を抱くことができた」といった意見が寄せられた。全国で地域共生社会に向けた取り組みが進められる中、本研修は済生会内外から多くの注目を集めている。今回で計339人の連携士が誕生した。

副看護部長フォローアップ研修

 副看護部長フォローアップ研修が11月27~29日に本部で開かれ、48人が参加した。7月に実施した副看護部長研修の受講者が、その役割と看護管理を実践に結びつけることが目的。
 参加者は9グループに分かれ、「成果に繋(つな)げる副看護部長の仕事」をテーマに議論。樋口幸子・中央病院副院長兼看護部長や町屋晴美・本部看護室長らが参加者をサポートした。最終日、各グループはパワーポイントを用いて討議した内容を発表した。発表内容に共感する意見も多く聞かれた。優秀な企画を提案したグループへの表彰では、全9グループが受賞した。

アドバイザーからは、「グループワークでの気付きが出発点。さすが副看護部長だと感心した」「副看護部長の役割は多い。多忙の中、様々な選択を強いられ、悩むこともあるが優先順位をつけて行動してほしい」「今回学んだ言葉一つ一つの意味を大切にして、済生会というネットワークを活用して、成長してほしい」とエールを送った。
 受講後のアンケートでは、「今後に生かせる内容で、自身の課題が明確になった」「改めて副看護部長の仕事はすばらしい仕事だと再認識できた」という意見があった。

―編集後記―

 今年は、元号も「令和」になり、新たな時代の幕開けを感じる年になりました。全国でさまざまな事業を展開している済生会だからこそできる研究になるよう、取り組んでいきたいと思います。来年も引き続きよろしくお願いいたします。

(Harada)

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