済生会総研News Vol.113

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第112回 済生会基本構造改革論(7) ~一つの済生会へ~

 かなり前の理事会での某理事の発言である。
「あまり本部で無低診療事業を強く指導すると、済生会から脱退する病院が出てくる心配がある」
 法的にはあり得ない話である。済生会は、〇〇協議会や〇〇期成同盟の類とは異なる。企業の工場長が、「会社の経営方針に反対だから、自分たちの工場は独立します」というのと同じである。私は、このように答えると、理事は、納得できない表情を隠さなかった。後日までずっと持論を話されていた。
 これは当時の済生会の雰囲気を如実に表している。このような発言が理事会でなされても、暴論とか空論とは考えられなかった。
 済生会は、戦後の沿革から病院・施設の「独立採算制」を取ってきた。病院・施設の経営は、病院長や施設長に全面的に委ねられていた。これは病院長や施設長が地域状況を常時、的確に把握し、責任を持って経営を行うことを意味する。
 大半の病院・施設ではこの仕組みは、機能した。地域の患者・利用者の状況、他の病院・施設の動き、当該自治体の方針などを最もよく知る病院長や施設長は、苦労を重ね、経営に汗を流した。
 しかし、すでに本欄で説明してきたように最近の病院・施設を巡る経営環境は、歴史的な変化を生じ、厳しくなっている。済生会の病院・施設は、対応を誤ると、衰退への道に一瀉千里である。済生会基本構造改革を実施する所以もここにあるが、その一項目として「組織構造」を掲げている。
 済生会は、医療と福祉の両部門を担う民間公益団体としては世界で最大級である。しかし、バラバラでは意味がない。「一つの組織」として進むことが重要である。
 病院・施設が参加・協力することで大きな成果を得られる共同事業分野がたくさん存在する。共同購入、共同治験、外国人募集、人材養成等である。
 経営についての経験を交換し、経営の向上に生かすことは、有益である。外部からは岡目八目で病院・施設の問題点が分かり、改善策がアドバイスできる。保守的独善的な経営方針や「地域環境がどうしようもないから」という投げやり的態度では座して死を待つのみである。
 済生会の土壌を踏まえながら「一つの済生会」として力を発揮できる「組織構造」の改革が、今求められている。

研究部門 済生会総研 客員研究員/済生会神奈川県病院/統計数理研究所 客員助教 古田 裕亮

集団の異質性を捉える ― データ駆動型マネジメントに向けて ―

 医療・福祉の現場では、診療情報、各種調査、経営指標、人事・労務に関する情報など、さまざまなデータが日々蓄積されています。こうしたデータを単に収集・集計するだけでなく、現状の把握や課題の発見、施策の検討・評価につなげていく「データ駆動型のマネジメント」は、今後ますます重要になっていくと考えられます。

 済生会には、全国の病院・施設から得られる診療データをはじめ、多くのデータが蓄積されています。これらを有効に活用するためには、一部の専門家だけでなく、現場を含めた組織全体でデータを読み、考え、活用する力、すなわちデータリテラシーを高めていくことが重要です。済生会総研では、全国の済生会施設から蓄積されたデータを活用した研究が複数進められ、統計セミナーの開催などを通じたデータリテラシー向上の取り組みも始まっています。こうした研究・教育の両面から、済生会が有するデータの利活用を進めています。

 では、実際にデータを見る際には、どのような視点が必要なのでしょうか。さまざまな分析方法もありますが、近年注目されている考え方の一つに、集団の「異質性」を捉えるという視点があります。

 医療・福祉の対象となる人々は一様ではありません。同じ疾患、同じ年齢であっても、その状態やその後の経過は異なります。例えば、同じ80歳の肺炎患者さんであっても、肺炎の改善とともに元の生活に戻れる人もいれば、入院をきっかけに生活動作に介助が必要となる人、食事を十分に摂れなくなる人もいます。それぞれの患者さんに必要となる治療やリハビリテーション、退院支援は異なります。こうした違いをデータから捉えることができれば、本当に必要な医療資源や支援を考える手がかりにもなります。

 これは患者さんだけに限りません。職員、組織、地域、医療機関のなかにも、それぞれ異なる特徴があります。

 データを全体として集計し、その傾向を把握することはもちろん重要です。しかし、集団の中に「どのような異なる特徴を持つ人やグループが存在しているのか」という視点を加えることで、新たに見えてくるものがあります。集団を一様なものとして捉えるだけでなく、その内部にある異質性に目を向けることは、具体的な課題の把握や、対象に応じた施策を考えるうえでも有用です。

 こうした「集団内の異質性」を統計的に捉える方法の一つに、潜在クラス分析があります。潜在クラス分析では、複数の観測された特徴から、その背後に存在するいくつかのサブグループを統計モデルによって捉えます。社会科学を中心に発展してきた手法ですが、近年では医療・健康データへの応用も広がっています。こうした方法を用いることで、平均的な傾向だけでは捉えにくい、サブ集団の特徴を、施策を考える単位として可視化することができます。

 私自身も、潜在クラス分析をはじめとした潜在構造モデルを、医療・組織データへ応用する研究に取り組んでいます。また、このたび、Allan L. McCutcheon著『潜在クラス分析』を翻訳し、2026年8月に共立出版より刊行いたしました。本書が、こうした分析手法や「集団の異質性を捉える」という視点を、より広く知っていただく一つのきっかけになればと考えています。

 今後も、済生会が有する多様なデータを単に集計するだけでなく、その中にある「違い」に目を向け、現場の課題発見や意思決定につながるデータ活用を進めていきたいと考えています。

―編集後記―

 国際展示場(ビッグサイト)で開催されている国際福祉機器展に行ってきました。最新の介護や看護などに関する機器の展示だけでなく、DXを意識したセミナーや企業ブースの設置が昨年よりも多いようでした。また、海外の参加者や学生らしき集団が、体験ブース等で熱心に質問している様子が目に付きました。現場から来ていると思われる集団の方々が上司らしき人にうちにも導入したいなど最新の福祉機器を前に訴えかける様子も目にしました。産官学連携などのプロジェクトに基づく製品も増えている中で、どのように医療や福祉の現場で導入されていくのか、スピード感と適切さが求められているように感じました。(Harada)

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