済生会総研News Vol.59

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第58回 孤独・孤立実態調査を読む

 4月8日、政府は、孤独・孤立に関する初の全国実態調査の結果を公表した。この調査は、昨年12月、約2万人を対象に行われ、有効回答率が59.3%で、1万1千人余から回答を得た。国による最初の調査だが、いくつかの注目すべきデータが得られている。
 第1は、「孤独だと感じることがあるか」の問いに対して「ある」と回答した人が約4割という結果であった。この数字は、今後各場面で引用されていく。
 孤独・孤立感は主観的なので、同じ環境に置かれていても、受け取り方は、人によって差が生じる。調査に応じた時の精神状態にも影響する。ただ、あるNPOが、今年2月に3千人に孤独感について調査したところ、37.3%が感じると回答しているから(朝日新聞4月4日付)、国の調査結果は、妥当なのだろう。
 第2は、孤独・孤立感に影響を与える要素の分析である。年齢については孤独感を感じるのは、男女とも30歳代が最も多い。筆者は、高齢者だと思っていたが、60歳以上についてみると、孤独感を感じる割合は、20~59歳に比べて低い。その理由は、今後解明していきたい。
 世帯年収については、予想通り所得が低いほど孤独感が強くなっている。貧困と孤立は、表裏の関係であることは、本調査でも明確に裏付けられたことは、意義がある。
 電話、スマホ等のコミュニケーションツールの利用状況との関係は、利用していない人が利用している人より孤独感が強かったと本調査で述べているが、調査を待つまでもないだろう。社会活動への参加状況も同様である。
 第3は、筆者が最も注意したのは、孤独感を持つきっかけになった出来事の解明である。孤独感に至る前に経験した出来事として「一人暮らし」、「家族との死別」、「心身の重大なトラブル」、「転校、転職、離職、退職」、「人間関係による重大なトラブル」の順になっている。これらが直接的な原因であると言えないが、孤独感と関係を有することは事実だろう。
 ところで、筆者は、日本の社会問題をとしては孤独や孤立の観点よりも「社会的排除」の観点が重要であると考えている。障害者(特に精神障害、発達障害)、貧困者、ひとり親家庭、被差別部落、元ハンセン病患者やコロナ、エイズ等の患者、ホームレス、元受刑者、在日コリアン等は、地域社会から排除の力が働くために社会参加が妨げられる。孤独や孤立よりも問題は深刻で、社会的な支援が必要である。また、孤独や孤立の背景に社会的排除が存在することが多い。
 社会的排除を解決し、ソーシャルインクルージョンを求める権利は、近年ベルギー等では法定化されているが、日本でも近年の社会状況に照らすと、導入を検討する必要性があると思う。

研究部門 

令和4年度における研究実施計画について

 総研における令和4年度の研究計画について、2月に行われた総研の研究評価委員会にて承認されました。以下の通り、進めていく予定となっております。

●生活困窮者支援、地域医療への貢献、総合的な医療・福祉サービスの提供という3つの基本的な使命を実現すべく、研究や人材開発に関する事業を行う。

●研究部門で行う研究課題を、総研として重点的に取り組む「重点課題」、済生会医療施設・介護施設・外部機関と連携して実施する「連携課題」、そして、総研の研究員が個別的に実施する「個別課題」に整理して研究に取り組む。令和4年度は以下の研究を計画している。

重点課題(総研として重点的に取り組む課題)
重点課題1. DPC等の大規模データを活用した診療支援

(1) 診療サービス指標の作成と公開(継続)

(2) 機能評価係数Ⅱ等を用いた病院のデータ分析担当者の育成(継続)

(3) 医療と福祉の評価指標の公開事業(継続)
本部事業推進課と総研による事業

(4) 医療と福祉の評価指標の活用方法の検討(継続)
本部事業推進課と総研による事業

重点課題2. 地域での暮らしを支える医療と福祉の連携

 ―済生会の特徴をいかした地域包括ケアモデルの確立に向けて― (継続)

重点課題3. なでしこプランとソーシャルインクルージョンの展開と課題

 ―地域の特性に応じた各地の取り組みから― (継続)

今後取り組むべき重点課題

(1) 支部未設置県における医療・福祉の現状と課題の分析

(2) ウィズコロナ・ポストコロナにおける地域の在り方に関する検討

連携課題(済生会医療施設、介護施設、外部機関と連携して実施する研究課題)
連携課題1.科研費取得と実施を目指す済生会職員との共同研究

(1) リアルタイム脳波解析を用いた譫妄モニタリングと革新的な予防的治療法の創出
総研客員研究員・静岡済生会総合病院救命救急センター副センター長 足立裕史

(2) 周術期アナフィラキシー反応症例の発生頻度調査
総研客員研究員・済生会松山病院麻酔科部長 鈴木康之

(3) 機械学習を用いた入院日数管理支援システムの開発-消化器癌の周術期DPCデータ探索
総研客員研究員・水戸済生会総合病院外科主任部長 丸山常彦

(4) 安全かつ迅速で正確な腹腔鏡手術のための革新的上方照明システムの有用性の検証
総研客員研究員・済生会松山病院外科主任部長 高井昭洋

(5) 放射線画像診断における生命を脅かす危険性のある偶発的所見の特性に関する疫学的解析
総研客員研究員・済生会横浜市南部病院客員研究員 鳥本いづみ

連携課題2.済生会内で連携する共同研究

(1) 福祉施設における看取りの現状と課題 (継続)
済生会総研と福祉施設長会、看護部長会と協働して研究実施

(2) 済生会薬剤師会と済生会総研との連携課題(新規)
1.済生会高齢者福祉施設における服薬等に関わる調査
2.済生会児童福祉施設における服薬等に関わる調査
3.済生会施設における薬物治療管理(PBPM :Protocol Based Pharmacotherapy Management)による有効性評価

連携課題3.外部機関との共同研究

(1) 新型コロナウイルス感染症患者の重症化因子の同定および経過中の精神科疾患発症に関する研究 (新規)
済生会総研と慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室(代表者 内田裕之)との共同研究

個別課題(総研の研究員が個別的に実施する課題)

(1) 福祉施設における被災時の「受援」に関する研究 (継続)

 済生会総研は、実践的な研究を目指し、保健、医療、福祉を担う済生会施設の活動の支援を目指していきます。済生会内外の施設との研究ネットワークを構築して共同研究を推進しますので、引き続き済生会総研へのご支援をよろしくお願いします。

人材開発部門

今年度も研修等の開催に関する報告記事を掲載する予定です。

―編集後記―


 新年度、見るからに新しいスーツや制服をまとった人々で通勤時の電車も混雑していますし、ビルの1階で待ち合わせをしている新入社員らしき集団を目にすると春だなと感じます。で、気がつくと、桜も満開から葉桜になっていました。
 この写真はとある日のお昼の桜です。今年撮った桜の写真はこの1枚きりです。この手前に鶏肉屋さんがあり、店先で売っている焼き鳥がお気に入りで時折買うのですが、5月からやむをえず値上げしますとお知らせの紙が貼ってありました。さまざまな事象による、身近な生活への波及を感じる今日この頃です。
(Harada)

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