済生会総研News Vol.60

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第59回 歴史の視点

 冒頭に当研究所の上席研究員の持田勇治さんが、5月17日にご逝去されたことをご報告するとともに、心から哀悼の意を表したいと思います。
 持田さんは、研究所の設立時から勤務され、精力的に研究業務に励まれてきたことは、本誌の読者は、ご存じのとおりです。医療データの実証的な分析にかけては、済生会の中でも、否、日本の医療関係者の中でも群を抜く存在でした。持田さんが積み重ねられた輝かしい業績は、当研究所の誇りでした。
 持田勇治さんと同様なことは、到底できませんが、築かれた研究業績を基礎に当研究所を発展させることが持田さんの思いに応えることだと確信し、努力してまいりたいと思います。

 私は、研究に当たっては常に歴史の視点を重視している。過去の理解なくして現在を正確に認識することはできないし、未来を予測することもできない。
 ロシアによるウクライナ侵攻は、日本人の目には帝国主義時代と同じ侵略戦争で、「まさか、21世紀の今に」という認識であった。しかし、欧州の識者は、欧州の歴史から今回の事態を想定していた。例えばアンソニー・ギデンズ(脇阪紀行翻訳)の「揺れる大欧州」(岩波書店2015)は、その危険性を繰り返し示唆している。
 例年と同様に、今年4月から済生会本部で支部長会議、医療施設長会議、社会福祉施設長会議等一連の会議を開催し、今年度の済生会経営方針の説明をした。今年は、例年以上に力が入った。と言うのは、現在が「歴史の転換点」にあり、極めてクルーシャルな時だからである。国際関係、政治、経済、社会等あらゆる分野で大きな構造的な転換が起き、済生会は、的確に対応していかなければ、衰退の一本道である。
 医療や福祉の分野は、他の分野より大きな歴史の荒波が襲う。現在歴史を動かす要因の一つは、コロナの世界的な感染蔓延だからである。コロナは、いずれ収束するが、未開発地域に潜む新たなウイルスが人間を襲うことは、疑いようがない。我々は「感染症常在時代」に入った。
 医療や福祉分野は、これに対処できる制度や体制を早急に構築しなければならない。例えば感染症患者の在宅ケアの整備である。欧州が日本よりはるかに多数のコロナ感染者が発生したにもかかわらず、医療提供体制は揺るがなかったのは、戦後営々と築いてきた家庭医を中核とするコミュニティケアの充実である。一方、日本は、根本から欠如し、在宅で亡くなる感染者がかなりいた。これでは感染症常在時代は、絶対に乗り切れない。
 歴史の視点から医療や福祉を考察すると、早急に対策を講じるべきことが自ずと浮き彫りにされてくる。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田奈津子

調査のデザイン

<はじめに>
 調査についての質問や相談を受けることも増えてきたので、今回は、調査について、記述してみたいと思う。調査のデザインを下記に図示した。まず、言えるのは、最初の「調査テーマの設定と明確化」が調査の成否を左右するということである。質問紙調査やインタビュー調査において、質問項目が確定するまでにどれだけ準備ができるのかが問われる。そこで、今回は、特に「調査テーマの設定と明確化」について、調査の必要性を踏まえて提示してみたい。

図 調査のデザイン

図 調査のデザイン

出典:原田「社会福祉調査の方法と実際」『基礎研修テキスト上巻』日本社会福祉士会p333より

<調査が必要となる背景>
 社会調査とは、社会の状況を把握するため、人々の意識や行動について、現地調査によって科学的・客観的な方法でデータを収集し、分析を行う一連の作業を指す。「ある事象や問題を把握することや明らかにすること」が調査を通して行われてきたといえる。
 調査が必要とされる背景には、大きく二つの要因が挙げられる。
 1つ目は、利用者主体のサービスとは何かを検証する必要があるということである。地域のニーズにはどのようなものがあるのかを把握し、ニーズに対応しうる社会資源が充足しているのか、またサービスの提供が行われているのかを検証する必要が生じる。
 2つ目は、サービスやその実践において、どのような効果があったのか評価する必要が生じていることが挙げられる。よりよいサービスやプログラムの提供がなされているのかを評価をしていくことや、その積み重ねによる検証が求められている。
 特に、分野によっては、これまで経験や勘に重きをおいて実践をする傾向も見られたが、そういった経験や勘を尊重しつつも一般化・普遍化する作業、すなわち調査を行うことで効果を検証し、よりよい実践をしていくことが可能になると考える。EBP(Evidence Based Practices:根拠に基づいた実践)が求められており、調査の果たす役割は大きいと考える。

 <調査の実施前の準備>
 調査の実施にあたっては、その必要性を十分に見極めなければならない。そのために、既存の研究や資料を丁寧に読み込む作業が必要となる。情報収集の能力が問われる。
 既存の研究や調査で明らかになっておらず、調査を行う必要性がでてきた場合、まずは調査を実施することによって、「何を明らかにするのか」、「何を検証するのか」をしっかりと設定していかねばならならない。と同時に、調査の実施に向けて、テーマ自体の意義、調査対象の設定、調査方法、調査における倫理的な課題、調査費用や時間の確保、所属先での協力や支援の体制などを検討する必要がある。

 <まとめ>
 調査が必要となる背景から、調査のための実施前の準備について示してきた。次の段階の「調査をいかに実施するか」は、調査を実施する側において、調査に関するスキルがどれだけ備わっているかにかかっている。よりよい方法を選択できるよう常に最新の調査のトピックに触れておく必要があるといえる。

引用・参考文献
武田丈『ソーシャルワーカーのためのリサーチ・ワークブック ニーズ調査から実践評価までのステップ・バイ・ステップガイド』ミネルヴァ書房 2004 年
原田奈津子「第1章社会福祉調査のデザイン第1節問いの設定と流れ」『新MINERVA社会福祉士養成テキストブック社会福祉調査の基礎』ミネルヴァ書房 2022年
原田奈津子「社会福祉調査の方法と実際」『基礎研修テキスト上巻』日本社会福祉士会2021年

人材開発部門

新任15名を迎え看護部長・副学校長研修

 看護部長・副学校長研修が4月21日に本部で開かれ、全国から看護部長82名(新任看護部長13名)、副学校長6名(新任副学校長2名)の88名がオンラインで参加した。
 初めに、厚生労働省医政局看護課の習田由美子課長による講義「看護の動向」が行われた。講義内容は、下記の4点で「今後の新型コロナウイルス感染拡大に備えた看護職員確保について」、「看護師の特定行為に係る研修制度の概要・現状と推進について」、「医師の働き方改革を進めるためのタスクシフト/シェア推進の具体的な普及・推進策について」そして、新型コロナウイルス感染症の対応に関する看護職員養成事業と看護マネジメント体制整備事業、医療現場の負担を軽減するための取り組みにつながる「医療専門職支援人材(看護補助者・医師事務作業補助者)の活用を目的とした事業」についての説明があった。
 次に、昨年度より全国済生会看護部長会と本部看護室が協働で活動している3つのワーキンググループ代表の看護部長より活動報告の発表があった。
 はじめに、水戸済生会総合病院看護部長・檜山千景氏より「特定行為研修など看護の動向に関するワーキング活動報告」、次に香川県済生会病院看護部長・松本久美恵氏より「タスクシフト、タスクシェアワーキンググループ活動報告」、最後に唐津病院看護部長・岩﨑理佳氏より「看護補助者マニュアル改訂にともなうワーキング報告」があった。発表後は質疑応答を交えながら、意見交換会を行い有意義な情報交換の場となった。
 午後からは、茨城大学名誉教授・福島学院大学客員教授・高輪心理臨床研究所主宰・岸良範氏による講義と演習「メンタルヘルスとパワーハラスメント-豊かにはたらくために-」が行われた。「パワーハラスメント」の概要と実際の事例をもとにした内容であった。管理者はスタッフに対して業務遂行に伴う疲労や心理的負担が過度に蓄積して、心身の健康を損なわないように注意する義務「安全配慮義務」が求められると説明があった。
 その後、事例をもとに「スタッフや部下への対応について」「叱り方」についてグループワークし、そのあとの発表では、様々な意見があがり有意義なグループワークとなった。
 最後に講師は、「人間関係を豊かにするためには、その人なりの事情の中で生きてきた人へのリスペクトすることから管理は始まる。つまり、管理は人をひとりの人として『尊敬・尊重』することから始まる。」と力説した。(看護室)

―編集後記―


 先日、ローマの休日を地上波にて放送していたので録画してひさびさに観ました。初めて観た時は、白黒なのになぜかいきいきと色が伝わってくる映像に新鮮さを感じたものでした。アン王女役のオードリー・ヘプバーンの表情やしぐさがかわいらしく、かつ、ラストシーンでの王女としての微笑みがかっこよく、名作っていいなと思った令和の一日でした。ちなみに、ジェラートを初めて知ったのがこの映画だったので、今でもジェラートを食する時は思い出します。
(Harada)

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