次の100年へ、先人の想いをつなぐ
一人ひとりの幸せを守るために

済生会は「社会の最終ライン」を守るという気概を持って、3つの基本的使命(生活困窮者への支援、地域医療への貢献、総合的な医療と福祉サービスの提供)を遂行していきます。

済生会は、明治天皇による「済生勅語」によって設立され、「施薬救療の精神」に基づく生活困窮者の救済を使命としています。生活困窮者を救済するための社会保障制度が整う今日においても、現実的には、救済しきれない新たな複雑化した問題を抱える生活困窮者は存在しており、更にはその存在自体が埋もれている生活困窮者も存在しています。
そのような環境下においてこそ、本会は3つの基本的使命を、時代の変化を踏まえながら的確に果たし続けていく必要があります。しかしながら使命を果たすためには、経営基盤を安定させる必要があり、両者を両立させるための研究と両者の両立を支える人材の確保・育成が急務となっているのです。

済生会総研News Vol.25

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第24回 SDGsで思うこと

 済生会では昨年度から始まった「第2期中期事業計画」ではSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを新規に盛り込んでいる。各支部、病院、施設等の代表的な取り組みをまとめて、「SDGsと済生会」と題する冊子を作成して広く頒布している。今後とも積極的に目標達成に向けて努力し、医療や福祉分野でのモデルとなるようにしていきたい。
 ところで最近、企業でもSDGsに取り組むことを表明する企業が、増えている。これにはいくつかの理由がある。
 欧米での潮流を受けて、1970年代ごろから日本では、CSR(企業の社会的責任)に関心を持つ企業が現れた。今では大半の大企業は、CSR重視の経営方針を取り、CSR報告書を公表している。
CSRに対する熱意によって企業価値が判断される。フランスの個人投資家の3分の2は、会社の環境や社会に対する貢献度を投資の判断材料にするという。
 かつて欧米で事業展開をしている日本企業が人種差別を行い、地域社会から厳しい批判を受けて工場や事務所の閉鎖の危機に瀕するという手痛い経験によって、CSRの重要性を学んできた。
 SDGsは、これまで取り組んできたCSRの延長にあるので、比較的取り組みやすい素地あることが、企業で浸透している理由の一つだろう。また、SDGsは、ISOと違って認証を受ける必要がなく、17の目標のうち、企業にとって取り組み可能なものを選択できるので、企業にとってハードルが低い。
 SDGsは、企業の本来の事業遂行によって達成することが、基本的な実行方法である。特別に経費を支出しなくても構わないので、負担感が少ない。
 世界各国でSDGsに取り組もうとする機運が、盛り上がっている。日本国政府も2016年5月に推進本部を設置して、行政機関、企業、団体等あらゆる機関が取り組むように呼び掛けている。
 このような様々な理由から日本企業は、SDGsに取り組んでいることは、喜ばしいことである。
 私は、長い間、環境行政に従事してきた。公害防止、廃棄物処理、地球温暖化対策などいろいろな局面で企業側と熾烈な交渉を行った。経産省(旧通産省を含めて)とは、怒号が飛び交う深夜に及ぶ交渉は、日常茶飯事だった。
 企業経営や経済の論理を根底に一歩も引かない主張と激しく衝突し、徒労感や諦観を感じることも少なくなかった。
 最近のSDGsを巡る状況は、私が経験してきた風景とは、全く異なっている。これを契機に日本社会のパラダイムが転換するならば、素晴らしいことである。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

研究の進捗状況

 今回は、「済生会DCAT」(研究タイトル「済生会DCATの取り組みにおける現状と課題 ―組織化と派遣職員へのサポート―」)の研究について、報告いたします。


  • Ⅰ.研究の目的と方法

     本研究は、日本においていち早く災害時の福祉分野にかかわる支援活動を行ってきた済生会による済生会DCAT(Disaster Care Assistance Team:災害派遣福祉チーム)の組織化の過程や取り組みの現状と課題について、調査を通して明らかにすることを目的としている。
     また、「支援者支援」の観点からも、済生会DCATの支援活動に参加した職員のメンタルヘルスなどへの影響も考慮し、どのようにサポートしていくのかも含め、実践に寄与しうるような研究を目指す。本研究は主に調査による実証研究である。

  • Ⅱ.調査にあたっての検討

     先行研究のレビューを行うと共に、済生会DCATにこれまでかかわってきた済生会の現場の職員へ研究協力者として参画を依頼し、研究ミーティングを行った。その研究ミーティングでの意見交換をもとに、調査対象や調査項目の検討を行った。

  • Ⅲ.調査の概要

     済生会DCATは、これまでに3回、「熊本地震(H28年)」「岩泉災害(H28年)」「7月豪雨(H30年)」派遣されている。この3回で活動に参加した職員、派遣施設、受け入れ施設を主な調査対象とする。調査の実施にあたっては、日本社会福祉学会の研究倫理指針等を遵守し、倫理的配慮のもと実施する。そのため、当研究所の倫理委員会で調査内容についての承認を受けた。

    調査① 済生会DCAT参加職員への質問紙調査(6月実施)
     活動参加にあたっての不安、実際の活動内容や評価、活動によるストレス、活動後の取り組み等
    調査② 派遣施設へのインタビュー調査(6~7月実施)
     職員の派遣にあたっての困難事項、派遣職員へのサポート等
    調査③ 受け入れ施設へのインタビュー調査(6~7月実施)
     活動支援内容、受け入れにあたっての困難事項、事前準備で必要なこと等
    調査④ DCAT部会長、現地調整員(本部)へのインタビュー調査(6~7月実施)
     調査①・②・③を踏まえた済生会DCAT活動の課題整理、今後の研修や活動への展開等

  • Ⅳ.今後の取り組み

     済生会DCAT参加職員、派遣施設、受け入れ施設への調査を通して、済生会DCATの検証をすることで、災害時の済生会内・外での取り組みへの波及効果が期待できる。調査結果について分析を進めると共に、研究ミーティングを開催し、調査結果への考察を深めた上で、提言を行う。報告書の取りまとめをはじめ、学会等でも積極的に成果を発表していくこととする。

人材開発部門

訪問看護ステーション管理者研修

 令和元年度訪問看護ステーション管理者研修を5月23~24日に本部で開催しました。今年度新設された1事業所を含め、50人(うち10人が新任)が参加されました。
 1日目は、炭谷茂理事長の基調講演が行われ、「訪問看護師はまさに「地域包括ケアの推進」の一役を担っている重要な存在である。済生会の訪問看護師が患者・利用者満足度の向上と、「住民に信頼される済生会」を目指し、内外に済生会の活動を発信して欲しい」と語られた。
 続いて、日本訪問看護財団常務理事・佐藤美穂子氏の講義「訪問看護制度をめぐる動向」において全国の訪問看護ステーションの経営状況や人材確保の課題等の現状について解説され、ICT化等により成果を可視化し、多職種との連携の効率化・タイムリーな情報共有により看護の専門性を発揮して真っ先に選ばれる訪問看護ステーションを目指してほしいと話された。
 2日目は、一般社団法人空と花訪問看護リハビリステーション 日本財団在宅看護センター代表理事・神奈川歯科大学短期大学部看護学科教授 石川徳子氏の講義「訪問看護ステーションの経営戦略について」が行われ、訪問看護師に必須であるフィジカルアセスメント能力、コミュニケーション能力そしてマネージメント能力を育成することの重要性と管理者に求められる役割について示された。
 続いて、(株)在宅看護センター横浜代表取締役 山本志乃氏の講義「訪問看護ステーションの運営・経営」において自身の家族の在宅看取りをきっかけに、起業するまでの経緯を説明され、経営者としての管理者の取るべき行動やコミュニケーションの重要性を解説された。

 午後は、中央病院・副院長兼看護部長 樋口幸子氏と中津病院看護部長 中西裕子氏が「訪問看護ステーションの連携について」説明いただいた後、グループワークを行いながら、2人の看護部長と活発な意見交換が行わた。多くのグループから「病院との人事交流をもっと増やし、ステーションの現状を知って欲しい」、「病院の看護管理者に向けて、在宅看護の研修をぜひ取り入れて欲しい」などの意見が出された。
 続いて、済生会訪問看護ステーション管理者間の交流を通して、連携・親睦を深める目的で「交流ワーク」を行った。はじめに、新任管理者の自己紹介があり、全体交流会で各施設の状況を紹介。次に8グループに分かれて事前に調査した意見や質問についてグループワークを行った。活発な意見交換と情報共有の場となった。

済生会総研から ―編集後記―

 研究部門の報告にもありますように、済生会DCATの調査を行っております。インタビュー調査で各支部・施設に直接訪問する機会があるのですが、先日おじゃました熊本県済生会の取り組みに感銘を受けました。
 済生会熊本福祉センターの障害福祉サービス事業の就労継続支援として、障がいを持つ方々が、熊本病院の清掃やカフェの場でいきいきと役割をもって活動をしている様子を拝見することができました。地域で信頼されていることも垣間見えて、素敵だなと感じました。
 今後も、インタビュー調査等で各支部・施設におじゃますると思いますが、普段の素敵な取り組みにも出会えたらと思います。よろしくお願いいたします。

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第23回 新しい階層の研究

 社会学の重要なテーマに階層論がある。最近の社会を見ると、世界全体で階層に激動が起きている。
 先進国は、経済成長とともに中間層が増大し、低所得者層は減少していく歴史だった。社会全体の生活水準が上昇し、多くの人が豊かな生活を享受するようになった。所得水準が平準化し、健康、教育、文化などは向上した。
 一方、途上国は、中間層が育たず、貧困層が多い状態が継続している。一部の国では資源の独占などによって巨額の富を持つ者が生まれる。所得分布は著しく不平等で、大多数の国民の健康や教育は低水準に放置されている。
 しかし、近年、先進国の図式は、大きく変化している。中間層が細る傾向が顕著になり、途上国と同様に低所得者層が増大している。
 世界の標準的な社会学の教科書であるアンソニー・ギデンズ著「社会学」では、階級を論じる章に「アンダークラス」という概念を特記して解説している。階級構造の最下部に位置付けられる人口区分を表わすために「アンダークラス」が使用される。この層に属する人は、長期失業者、転職を繰り返す者、常住できる住まいを持たない者などで、不利な境遇に置かれ、社会的に排除されている。
 さらにギデンズは、エスニック・マイノリティグループもアンダークラスを構成していると言及する。アメリカではインナーシティに住む貧しい黒人、ヨーロッパでは移民である。
 最近、日本では、橋本健二早大教授が、アンダークラスの概念を使用して日本社会の問題を指摘している。十分な給料が得られない非正規雇用の労働者の増大に注目する。彼らは、家庭を持つことが困難なため少子化が進み、老後の備えがされないため社会保障負担は増大する。
 アンダークラスは今後とも増大し、所得格差は拡大し、固定化していく。これは先進国共通した現象である。
 対策が急がれる貧困家庭の子どもの問題は、ここから派生してくる代表例である。7人の子どものうち 1人は、貧困家庭である。50年前の日本では、低所得の家庭の子どもでも教育を受け、処遇の優れた仕事を得、中・上流社会に移動することができた。世代間移動が活発だったが、最近は停滞している。
 貧困家庭の子どもは、行政や大学の実態調査から明白なように、小学生の時から健康や学力に明らかなハンデキャップを背負う。年齢を重ねてもこの差は縮小せず、親と同じ低所得者層に沈殿する。
 このような現象は、社会の不公正感を増大させ、活力を喪失させる。早急に根本的な対策が求められるが、このためには世界的に起きている階層変化を分析し、把握することが必要である。

研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭

研究テーマ 「重症心身障害児(者)施設における現状と課題」

  • 1.はじめに

    今年度は重症心身障害児(者)施設に焦点をあて、研究をすすめていくことにした。
    本号では、重症心身障害児(者)施設等の現状について、整理した。

  • 2.重症心身障害の定義

     重症心身障害とは、重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態をいい、その状態にある子どもを「重症心身障害児」という。また、18歳以上の重症心身障害児を含めると「重症心身障害児(者)」という。重症心身障害児(者)(以下、「重症児者」)は、医学的診断名ではなく、わが国独自の児童福祉行政上の法律概念である。
     重症児の判定基準は、国は明確に示していない。現在では、「大島分類」(表1)によって判定するのが一般的となっている。
     重症児に対して行われる保護並びに治療及び日常生活の指導を目的とする施設を「重症心身障害児施設」(児童福祉法第43条の4)という(以下、「重症児者施設」)。重症児者施設は、児童福祉施設であると同時に医療法に規定された病院でもある。

    表1 大島分類*

    表1 大島分類

    出所:社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会,療育相談ネットワーク,
    5.重症心身障害とは~いのちゆたかに~, 重症心身障害児(者)とは,
    http://www.normanet.ne.jp/~ww100092/network/inochi/page1.html
    より筆者引用,一部加筆.

    *表1の赤枠の1~4の範囲になるものを「重症心身障害児」と判定
    *元東京都立府中療育センター院長大島一良博士により考案された判定方法

     さらに、呼吸管理など医療的なニーズが高く障害の思い重症児について、鈴木康之氏による「超重症児・準重症児判定基準」が診療報酬の中で位置づけられている。
     「超重症児(者)・準超重症児(者)の判定基準」(表2)の各項目に規定する状態が6ヶ月以上継続する場合、それぞれのスコアを合算し、スコア25点以上を「超重症心身障害児」(以下、「超重症児」)、スコア10~24点を「準超重症心身障害児」(以下、「準超重症児」)とした。

    表2 超重症児(者)・準超重症児(者)の判定基準

    1.運動機能:座位まで
    2.判定スコア
    (1)レスピレーター管理10
    (2)気管内挿管・気管切開8
    (3)鼻咽頭エアウエィ5
    (4)O2吸入またはSpO2 90%以下の状態が10%以上5
    (5)1回/時間以上の頻回の吸引8
            6回/日 以上の頻回の吸引3
    (6)ネブライザ6回/日以上または継続使用3
    (7)IHV10
    (8)経口摂取(全介助)3
            経管(経鼻・胃ろう含む)5
    (9)腸ろう・腸管栄養8
            持続注入ポンプ使用(腸ろう・腸管栄養時)3
    (10)手術、服薬でも改善しない過緊張で発汗による更衣と姿勢修正を3回/日以上3
    (11)継続する透析(腹膜灌流を含む)10
    (12)定期導尿 3回/日以上5
    (13)人工肛門5
    (14)体位交換 6回/日以上3

    出所:岡田喜篤 (監修), 小西徹 (編集), 井合瑞江 (編集), 石井光子 (編集), 小沢浩 (編集)『新版重症心身障害療育マニュアル』, 第1編 基礎編―重症心身障害の基本的理解 第1章 重症心身障害児(者)の療育と理解 1.重症心身障害児(者)問題の変遷, 4)鈴木康之:超重症児(者)、準超重症児(者)、いわゆる動く重症心身障害児(者), P16, 表1-1-3 超重症児(者)スコア(現行)より筆者引用改変.

  • 3.重症心身障害児者、重症心身障害児者施設の状況

     重症児者は全国で約43,000人と推計されており、そのうち、在宅がおよそ28,000人、施設入所がおよそ15,000人となっている1)
     平成31年3月時点において、重症児者施設は、国立センターが1か所60床、国立病院機構(国立療養所重症児病棟)が72か所7,343床、公・法人立が136か所13,754床、あわせて208機関21,248床が全国に整備されている2,3)
     さらに、近年、新生児医療や小児救命救急医療など、医療の進歩により、NICU等に長期入院した後、引き続き、人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たん吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な障害児(以下「医療的ケア児」)が増加してきた。平成27(2015)年までにおいて、0~19歳の医療的ケア児は、全国で17,078人となっている(図1)。
     また、18歳未満の在宅にいる重症児(以下、「在宅重症児」)は19,000人~28,500人とされ、そのうち、医療的ケアを受けている在宅重症児は10,000~15,000人となっている。さらに、人工呼吸器を必要とする在宅重症児は3,069人となっている(図2)。

    図1 医療的ケア児数
    図1 医療的ケア児数
    図2 在宅人工呼吸器患者数
    図2 在宅人工呼吸器患者数

    出所:埼玉医科大学総合医療センター, (研究代表者)田村 正徳, 平成28年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究」の中間報告. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000147259.pdf,P7~8より筆者引用.


    図3 医療技術の進歩によって変わっていく子供たちの病態
    出所:日本医師会小児在宅ケア検討委員会『平成28・29年度小児在宅ケア検討委員会報告書』,P6より筆者引用.
     このように、寝たきりで医療的なケアを受ける子どもが増加している。しかし、最近では、医療的ケアが必要で、立って話せる子どもが急速に増えており、その子らの定義や呼称は決まっていないことに加え、福祉制度や社会制度の保障も十分ではないのが実態である(図3)。こうした実態の中、小児の在宅医療において、国も動きを見せている。例えば、永田町子ども未来会議の超党派(自民、公明、民主、厚労省、文科省、内閣府など)の勉強会では、医療的ケアを加味した新判定基準の確立、報酬改定に関する加算の算定、教育分野と医療・福祉との連携等について提言をしている4)。また、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律において、医療的ケアを要する障害児が適切な支援を受けられるよう、自治体において保健・医療・福祉等の連携促進に努めることを明記したこと、などである。

  • 4.全国の入所待機者数

    全国における在宅重症児は約28,000人である。近年、在宅重症児の重度化が増加しており、特に、医療的ケアの対応の困難さから入所を希望される方が増えている5)。また、重症児本人の加齢に伴い、介護者の高齢化や健康状態の悪化により、在宅での支援が困難となることも出現している。しかしながら、重症児が入所できる重症児者施設等は満床状態であり、すぐに入所できる状況にはない。
     そこで、平成23年度障害者総合福祉推進事業(厚労省)において、社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会が実施した調査結果を紹介する。
     全国の入所待機者数については、各県市、東京都内児童相談所、重症児者施設等を対象に実施している(表3~4)。ブロックでは関東・甲信越、圏域別では首都圏において、入所待機者数が多くいることが明らかとなっている。全国の重症児者施設等の入所待機者は、3,703人と推計している6)

    表3 全国の推計入所待機者数
    表3 全国の推計入所待機者数
    表4 圏域別入所待機者数
    表4 圏域別入所待機者数

    ※入所待機者数を推計するにあたっては、正確な基礎データが存在しないこと等を考慮すると、全国の入所待機者数は3,000~5,000人とするのが妥当であるとしている5)

    出所:社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会. 厚生労働省平成23年度障害者総合福祉推進事業『重症心身障害児者の地域生活の実態に関する調査についての事業報告書』,P4~5より筆者引用.

     また、同報告書において、全国の重症児者施設(196施設)を対象に、入所待機者の把握について調査をしている。その結果、入所の待機場所で最も多かったのは「自宅」が811人(60.5%)で、次いで「一般病院」が238人(17.8%)となっている。一般病院で入所を待っている方が約20%程度いることから、自宅以外の行き場の選択肢が数少ないことが示唆されたといえる。また、入所待機者のうち、「医療的ケア」が必要である重症児者は668人(53.9%)だ。
     施設入所の理由(複数回答)では、「医療的ケアの対応の困難性」が348人、「主介護者の高齢化」が243人、「主介護者の病気又は健康状態」が198人となり、入所を希望する時期については、「早急に」が467人38.6%)、「将来の重度化・介護者の高齢化に備えて」が340人(28.1%)という結果となっている6)

  • 5.まとめ

     このように、早期の入所を望んでいながらも、重症児者施設は、全国的に満床状態であり、なかなか入所できない状態にある。こうした中、数多くの重症児者が在宅でのサービスや支援を受けながら生活していることがわかった。
     なるべくでれあば、重い障害を抱えた子を自分たち(親として)のそばで看ていきたいという気持ちは、どの家族にもあるのではないかと考える。しかしながら、様々な理由によって、在宅生活の継続が困難になる場合もある。その際、家族にとっては安心して入所させることができる施設を望むのは当然のことである。重い障害を抱える本人や家族が、「この施設なら、子ども自身が楽しく、安心して過ごすことができる」と思ってもらえるような施設づくりを目指していくことが、これまで以上に今後は重要となってくるのではないか。

    • 引用文献
    • 1)椎原弘章:重症心身障害児(者)の概念と実態. 小児内科, 40, 1564-1568, 2008.
    • 2)厚生労働省:第2回障害児入所施設の在り方に関する検討会(第2回参考資料),社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 障害児・発達障害者支援室調べ(平成31年3月26日時点), P1.
    • 3)全国重症心身障害児(者)を守る会:機関紙『両親の集い』. 第721号(2018年5・6月号).
    • 4)永田町子ども未来会議 提言2017. 平成29年9月19日版. https://www.arai21.net/wp-content/uploads/2017/09/提言170919.pdf.(2019.3.28閲覧)
    • 5)杉本健郎, 河原直人, 田中英高, 谷澤隆邦, 田辺功, 田村正徳, 土屋滋, 吉岡章:超重症心身障害児の医療的ケアの現状と問題点―全国8府県のアンケート調査―. 日本小児科学会雑誌, 112(1), 94-101, 2008.
    • 6)社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会:厚生労働省平成23年度障害者総合福祉推進事業 重症心身障害児者の地域生活の実態に関する調査についての事業報告書. 東京, 2011.
    • 参考文献
    • ・日本医師会小児在宅ケア検討委員会:平成28・29年度小児在宅ケア検討委員会報告書. 東京, 2018.
    • ・岡田喜篤, 蒔田明嗣:重症心身障害児(者)医療福祉の誕生―その歴史と論点―. 医薬出版, 東京, 2016.
    • ・岡田喜篤 (監修), 小西徹 (編集), 井合瑞江 (編集), 石井光子 (編集), 小沢浩 (編集):新版重症心身障害療育マニュアル. 医薬出版, 東京, 2015.
    • ・大島一良:再び重症心身障害とは何か. エル・エス・ティ学会誌 1(2), 51-60, 1986.
    • ・障害児支援のあり方に関する検討会ヒアリング「重症心身障害児(者)への支援について」, 公益社団法人日本重症心身障害福祉協会, 北住映二資料.
    • ・東京都:障害児入所施設利用者数の推移.
      http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/shougai_kyogi/dai8ki/senmonbukai2.files/290808_8-5.pdf. (2019.4.19閲覧)

済生会総研から ―編集後記―

 今号は、障害福祉分野の重症心身障害に焦点をあて、基本的理解に関することを中心に書きました。
 研究をすすめるにあたり、多くの文献を整理し検討しています。そこで、重症心身障害のことについて知りたいと思う方へ、私がお勧めする著書を紹介します。
 それは、髙谷清著『重い障害を生きるということ』(岩波新書)です。
 著書では、重症心身障害の歴史をはじめ、医師としての実践経験からの事例も紹介をしています。事例では、心身に重い障害を抱えた人たちが日常生活をどのように感じ、生きがいや喜びは何か、という視点から重症児者の日常を細かに捉え、懸命に生きぬく重症児者の様子、そして、施設職員の熱心な支援状況が紹介されています。
 本を読み終えた後、重症心身障害を抱えた人の支援の奥深さと家族支援の重要性について考えさせられました。

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