済生会総研News Vol.56

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第55回 問題解決の意志

 現在開催されている国会に「こども家庭庁」を設置する法案が提出される。近年の子どもを巡って少子化、保育所待機児童、児童養育家庭の貧困、児童虐待、不登校、引きこもり、いじめ、非行と数多くの問題が発生している。昨年春に当時の菅内閣によってこれらの問題を一元的に解決するために「こども庁」を創設する準備が始められた。
 その時私は、日本の子どもに関する事業を所管する組織を漏れなく「こども庁」に集約するならば、これらの諸課題の解決に役立つのでないかと考えた。
 集約する組織は、保育所、幼稚園、母子保健、児童手当、ひとり親家庭、障害児対策、児童健全化、児童公園などと広範囲に及ぶ。所管する組織も厚労省、文科省、内閣府、国交省、警察庁などいくつかの省庁にまたがる。これらの業務を一元的に強力に遂行するためには、専任の大臣が指揮する行政組織を新設することも一つの選択肢であると思った。
 しかし、最近のメディアの報じるところでは、提案される法案では大所の幼稚園関係が、すっぽりと抜けるなどこども関係業務の一元化というには訳にはいかないようだ。これでは行政組織の肥大化、重複化、公務員の増員を招くだけに終わってしまう。
 幼保一元化問題は、戦後の中央官庁の縦割り行政の象徴であった。国民の目からは両者の違いは、分からない。常に行政改革の検討のテーマにされたが、結論は、いつも見送りであった。
 私は、旧厚生省でこの問題の仕事にほんのわずかだけ関係したことがある。昭和53年4月に出向していた福井県から旧厚生省に戻った後、7月に在英日本大使館に赴任するまでのわずか3カ月間である。幼保問題の報告書がまとまり、提出される前後の仕事であった。
 旧行政管理庁の行政監察を受けて、幼保一元化を含めて保育所と幼稚園の関係を見直すための学識経験者を中心とする検討会が設けられた。事務局は、旧厚生省と旧文部省のそれぞれの所管課が担当していた。審議は、1年以上かけて行われていただろうか、私が仕事に加わる前に保育所、幼稚園はそれぞれ目的を有し、性格が異なるので、幼保一元化は適当でなく、両者の連携を強化するのが最適という結論がまとめられていた。
 そもそも検討会が始まる前から両省には幼保を一元化する意志などは存在せず、行政管理庁から指示が出たので、検討会は、それに応えるための形作りに過ぎなかったのだろう。幼保問題の問題点を解明し、解決する意志がなければ、検討会は、税金と時間の無駄というものだ。
 研究も問題を解決しようとする意志がなければ、成果の乏しいものになる。済生会総研の研究に当たっても心掛けたい点である。

研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭

済生会重症心身障害児(者)施設職員による事例検討会の開催

1.はじめに
 これまで、重症心身障害児(者)施設(以下、「重症児者施設」)および重症児者施設に勤務する職員を対象とした調査を実施してきた。しかしながら、限定された調査のみでは、実際の現場職員が支援を通して、どのようなことに困っているのか、具体的な背景や状況までは捉えにくい。
 また、自施設で課題となっているケースに対して、解決の糸口がなかなか見いだせないこともあるのではないかと考える。そこで、同法人の他施設の職員同士が、1つの事例を検討し深めるとした事例検討会を実施することは、職員の質および入所児者のQOL向上につながると考えた。
 ここで、論文検索エンジンCiniiを活用して「事例検討」に関する先行研究を調べてみることにした(2021年6月28日閲覧)。
 「事例検討」のみのキーワードでは2,551件となった。続いて、「事例検討」に次のキーワードとして検索した結果が( )内となる。看護師(149件)、保育士(13件)、介護福祉士(4件)、社会福祉士(6件)、ソーシャルワーカー(24件)、サービス管理責任者(0件)となった。
 これらの結果から、看護師における事例検討の先行研究は多く、福祉専門職における事例検討に関する先行研究は少ないことが明らかとなった。

2.目的
 済生会重症心身障害児(者)施設職員のうち、福祉専門職(注)を対象に、事例検討会を実施することとした。
(注)福祉専門職とは、保育士、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士のいずれか、または複数の国家資格を有する者とする。

3.福祉専門職を対象とした理由

(1)看護師に比べて、事例検討に関する先行研究が少なかったこと

(2)重症児者施設では医療や福祉、教育も含めた支援を一体的に提供しており、看護師や教師と比べ、重症児者施設に入所する重症心身障害児(者)(以下、「入所児者」)の生活全般の支援や療育に携わる機会が多い

(3)重症児者施設における福祉専門職の配置割合は医療職に比べて、非常に低い

(4)済生会の重症児者施設に勤務する福祉専門職同士の横のつながりが構築できる

 以上の背景を含め、福祉専門職の質および入所児者のQOL向上のために、福祉専門職を対象とした事例検討会の機会をもつことが必要であると考えた。

4.事例検討会の意義

(1)事例検討後から実践が可能となる。

(2)自らの実践を振り返ることによって、新たな気づきや知見が得られる。

(3)新たな視点を持って入所児者やその家族に対してアセスメントでき、これまで以上に、よりよい支援の提供が可能となる。

(4)各施設において、定期的に事例検討会の開催をおこなうことで、職員全体の底上げや新人教育にも活用できる。

5.実施方法

(1)参加者
各施設から2名
重症心身障害分野での経験年数が5年以上の福祉専門職

(2)開催方法
Web会議システムZoomを利用する。
開催時間は1回2時間を予定とする。
開催回数は、2021年8月から2022年2月の間で2回を予定とする。
次回開催時に、事例提供した施設から、その後の状況について報告してもらう。

6.謝辞

第1回 10月25日(月)14:00~16:00 参加者:11名
事例提供者:A施設 児童指導員
事例タイトル:Zさんの訴えのわかりにくさへの対応方法

第2回 12月13日(月)14:00~16:00 参加者:13名
事例提供者:B施設 主任保育士
事例タイトル:制限の多いXさんの生活を豊かにするためには

※学術的な立場から、山崎美貴子氏(東京ボランティア・市民活動センター所長、済生会総研・顧問)が参加する。

7.事例検討会を終えて(感想)

他施設と意見交換をすることで新しい発見と共に、同じような悩みを抱えていることがわかり、済生会の関係施設がより身近に感じた時間となりました。

たくさんのご意見をいただき、改めて、事例について考えさせられたり、気づかされることが多くありました。

こうした機会が今後も継続できればよいと思いました。また、施設内でも始めていくことができればよいと感じました。

どこの施設にも同じような事例、課題があるなと感じるとともに、改めて、自らの普段

どこの施設にも同じような事例、課題があるなと感じるとともに、改めて、自らの普段の実践について考えさせられるとともに、共感することも多くあり、良い学びにもなりました。

8.事例検討会を開催するにあたり参考とした文献

樋口明子,村松愛子,久保田純,國吉安紀子,新保祐光,佐藤豊道:ソーシャルワーカーの成長からみる事例検討会の意義―「人間:環境:時間:空間の交互作用」を実践するために―.ソーシャルワーク研究,36,234-239,2010.

岩間伸之:援助を深める事例研究の方法―対人援助のためのケースカンファレンス―.第2版,ミネルヴァ書房,京都,2005.

山崎美貴子監修,明治学院大学山崎美貴子ゼミソーシャルワーク勉強会著:ソーシャルワーカーの成長を支えるグループスーパービジョン―苦しみやつまずきを乗り越えるために―.初版,中央法規,東京,2018.

米本秀仁:一例が語るもの.ソーシャルワーク研究,27,271-275,2002.

渡部律子:基礎から学ぶ気づきの事例検討会―スーパーバイザーがいなくても実践力は高められる―.初版,中央法規,東京,2007.

人材開発部門

令和3年度 アドバンス・マネジメント研修Ⅲ

 アドバンス・マネジメント研修Ⅲが1月19日~21日に本部で開かれ、74施設(重症心身障害児(者)施設1、訪問看護ステーション1含む)74名がオンラインで参加した。
 1日目は、炭谷茂理事長が基調講演をし、「コロナ禍こそ、済生会は地域包括ケアのトップリーダーとして、地域の要請に応じて総合的な地域医療・福祉サービスを提供し、病院・福祉施設機能の拡大とソーシャルインクルージョン(社会的包摂)に基づく、まちづくりの推移に努めなければならない」と訴えた。
 続いて、高輪心理臨床研究所主宰・岸良範氏が、「人間関係とリーダーシップ―互いに育てあう職場を目指して―」と題して、「創造的な人間関係」と「コロナ禍における職場の不安」についての講義と演習(グループワーク)があった。
 2日目は、関東学院大学大学院看護学研究科看護学部教授・金井Pak雅子氏が「より輝ける看護師を目指して」と題して、中堅看護師の期待される役割や効果的なコミュニケーションスキルについて講義があった。「中堅看護師は変革推進者としての役割がある。交渉能力を高め、自部署だけでなく、組織の一員として組織全体を俯瞰(ふかん)すること。現在の問題点を理論的かつ構造的に考えていくこと。そして、上司、スタッフ間だけでなく他部門とのコミュニケーションスキルを向上させるように努めなければならない」と話された。
 3日目は、岸氏による講義と演習を行った。演習では「伝えあう、わかりあう関係作りのための創造的対話を考える」、「今回の研修を日常の業務にどのように活かすか」をテーマに討議を行い、参加者から「言い訳を一生懸命に聴く」、「ゆっくりと話せる(聴きやすい)環境作りをする」、「自分自身の傾向を知る」、「相手の言葉だけでなく、表情やしぐさも見て、直ぐに答えを出せなくても心を傾けて聴けるようにする」といった意見があった。
 演習を通して、岸氏は「反対意見でぶつかり合っても、相手の意見を認め、尊重しあえる関係を作っていくことが大切である。どんな反対意見でも組織の新たな価値観となり、多くの『知恵』となる。そして良好な人間関係がある組織へと繋がっていく」と参加者にアドバイスをした。(看護室)

―編集後記―

 Zoomでの開催になりましたが、10月と12月の2回にわたり事例検討会を無事に終えることができました。同一法人の職員同士が事例検討会を通して、学び合えたことは非常に良い機会となりました。
 事例検討会を機に、今後さらに、同一法人の現場職員同士の横のつながりを構築することができれば、さらなる強みになるのではないかと思いました。
 改めまして、大変お忙しい中、事例検討会にご参加くださいました福祉専門職の皆さまに感謝を申し上げるととともに、事例検討会で現場の皆さまと共に学べたことにも感謝いたします。
(吉田護昭)

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