済生会総研News Vol.55

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第54回 行政のコスト意識

 先ごろ新型コロナ対策として18歳以下の子どもに対する10万円の交付方法を巡って政界や自治体を巻き込んで混乱した。政府の原案は、10万円のうち5万円分は、消費喚起のためにクーポンで配付するものであったが、自治体の実務作業が煩雑で、事務経費も余計に970億円も要することが明らかになると、政府原案に対する反対の声が一斉に上がり、修正を余儀なくされた。
 なぜこのようなお粗末な結果になったのだろうか。私は、中央官庁での勤務経験からその理由を推測することは容易だ。中央官庁に勤務する国家公務員にはコスト意識が欠如しているからである。自分はどうだったかと振り返ると、偉そうなことは言えない。コスト意識を持っていたつもりだったが、民間のレベルには到底達していなかった。
 退官後リゾート基地の経営者となった。利益を確実に出し、銀行に借入金の返済を毎月しなければならない。「滞ると資産を差し押さえるぞ」といつも銀行の担当者から脅かされた。代表者である私は、個人保証をしていたので、退官後なけなしのお金で購入したちっぽけなマンションも差し押さえの対象となっていた。着任時の経営状態は低迷していた。日本経済も活気がなく、顧客数は伸びず、必死だった。
 民間のコスト意識は、従業員に教えられた。現場では少ない経費で高いサービスを提供する行動が徹底していた。毎年度、基地単位のノルマ目標を示したが、達成に向けて職員が一丸となって懸命に努力してくれた。私は、彼らの士気の維持に意を尽くした。素人なりの新しい方策も講じた。
 就任2年目にすぐに成果が表れ、利益が大きく上振れした。税金で取られるくらいならと、職員に3月末日に0.5月分の臨時賞与を支給した。予想外の臨時賞与は、職員の士気がさらに盛り上がったのは言うまでもない。
 中央官庁にはコスト意識のほか、税負担、利子、原価償却など経営の基礎が欠如している。収入を上げる必要はなく、お金はどこかから入ってくる意識なので、経営努力が求められない。
 そもそも優秀な官僚の判定は、与党の議員や上司の受けが良い、国会答弁が滑らかにできる、メディアにそつなく説明できるなどである。無駄なコストをたくさん要しても派手な政策を打ち出した官僚が評価される。一方で執行段階になると他人任せだ。これではコスト意識が生まれる余地がない。
 日本の国家財政は、火の車だ。この傾向を続ければ国家破産が現実味を帯びる。世界で断トツの少子超高齢社会になった日本では、行政の無駄を徹底的に省くことが救国のスタートである。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田奈津子

ウィズコロナ時代におけるソーシャル・インクルージョンのあり方シンポジウム参加報告

 人権文化を育てる会主催のシンポジウム「ウィズコロナ時代における、ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)のあり方」に参加しました。このシンポジウムは人権週間(12/4-10)に行われてきたもので、今年も感染症対策のため定員を絞った上で衆議院第二議員会館の会議室において実施されました。以下、内容について報告をいたします。

シンポジウム概要
 はじめに、炭谷茂氏(人権文化を育てる会代表世話人、社会福祉法人恩賜財団済生会理事長)により、ソーシャル・インクルージョンが今の社会で重要とされる背景の説明があった。社会的排除と孤立が進む社会、さらにコロナ禍で生じた課題(感染者への差別や排除、療養する感染者やその家族への対応)などについて解決に向け、専門職による相談対応や安否確認などに加えて、社会のつながりの構築としてソーシャル・インクルージョンが求められているということであった。
 次に、山田憲児氏(更新会常務理事)により、刑務所出所者が再び犯罪や非行を繰り返すような孤立した悪循環に陥らないよう、再び受け入れる社会(リエントリー)としてのソーシャル・インクルージョンのあり方についてのこれまでの実践を踏まえた報告がなされた。特に、就労の機会と住まいの確保により、生きる希望を見出せる状況をいかに構築するかが課題であるということであった。


 続いて、遠津孝保氏(社会福祉法人草むら理事、ぷらっと訪夢施設長)からは、事例をもとに、就労困難者・生活困窮者への支援についての報告があった。多様化・複雑化した課題について、ワンストップの相談窓口の設置、当事者が集まる居場所づくり、就労に向けた訓練の場や働く場の設定など、ニーズに応じた支援を展開しているとの話であった。コロナ禍での自殺防止も大きな課題だということであった。
 最後に、柏倉美保子氏(ビルゲイツ財団日本常駐代表)から、行政、民間企業をはじめとしたさまざまなの団体と連携し、日本における困窮者への支援実践や国際的な支援活動などを展開していることについて話がなされた。
 まとめとして、ソーシャル・インクルージョンについては、世界各国で取り組みが続けられており、トライアルアンドエラーの状況である。日本においても、よりよい社会やよりよい支援に向けて、多様性を考慮しながら、ソーシャル・インクルージョンに基づいた施策等を構築していくことが求められているということであった。

人材開発部門

令和3年度 新人看護職員教育担当者研修

 新人看護職員教育担当者研修が10月20日~21日に本部で開かれ、67病院から67人がオンラインで参加した。
 1日目は炭谷理事長の基調講演で「コロナ禍こそ、済生会は地域包括ケアのトップリーダーとして総合的な医療・福祉サービスを提供し、病院・福祉施設機能の拡大に努めなければならない」と訴えた。
 続いて、東京工科大学名誉教授・齊藤茂子氏は「新人看護職員支援のあり方」と題し、新人看護職員研修における教育担当者の役割、新人看護職員の育成に必要な基礎知識を解説した。特に、今年度は新型コロナウイルス感染症下による看護基礎教育の変化について解説があった。
 2日目の午前中は、杏林大学保健学部看護学科教授・金子多喜子氏が「風通しの良い関係とコミュニケーション」と題し、はじめに看護職員の離職率の推移と離職の一要因とメンタルヘルスについて解説した。「風通しの良い関係」を築くには、相手の目・表情を見て伝えることが大切である。さらに対面的ではなく共に考えていくような伴走型が重要である、と解説した。
 続いて、午後からのグループワークに向けて、齊藤氏は「新人看護職員研修の考え方」と題し、新人看護職員研修計画の立案・実施・評価方法について解説した。
 次に、公益社団法人東京都看護協会・教育部部長補佐・栗原良子氏が「新人看護職員研修の考え方 研修企画の提案書について」と題し、現在のコロナ禍の新人についての課題、そのような新人に必要な研修について解説した。そして、午後からのグループワークの研修企画提案書作成の考え方・記入方法について解説した。
 午後からは、受講生が事前に6つの課題を選択し、その課題別に編成した16グループでのグループワークを行った。これまでグループワークでは、パソコンや模造紙等を活用してグループワークを行っていた作業を、Zoomの画面共有の機能を活用して効果的に研修企画提案書を作成した。
 自己紹介と自施設の情報交換後、各課題別のテーマで話し合いを行った。各グループに齊藤氏、金子氏、栗原氏がファシリテーターとしてサポートし、指導方法・内容等のアドバイスを提供した。各グループから様々な提案が生まれ、活発な意見交換の場となった。

令和3年度 アドバンス・マネジメント研修Ⅳ

 アドバンス・マネジメント研修Ⅳが11月17日(水)~19日(金)本部で開かれ、74施設(重症心身障がい者児施設1施設含む)74人がオンラインで参加した。
 1日目は炭谷理事長の基調講演で「コロナ禍こそ、済生会は地域包括ケアのトップリーダーとして総合的な医療・福祉サービスを提供し、病院・福祉施設機能の拡大に努めなければならない」と訴えた。
 社会保険労務士法人あい事務所・福島紀夫氏は「医療従事者の管理職がおさえるべき院内活性化の労務管理」と題し、医療従事者の働き方改革に関する業務環境改善への取り組み状況と、労務管理の基本を解説した。次に、看護管理者が行う労務管理として、新人・中途入職者に対する対応や労働時間管理、管理者に求められるヒューマンスキル・役割、パワーハラスメント対策について解説した。最後に新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた今後の対策について解説した。
 2日目の午前中は、公益社団法人東京都看護協会教育部部長補佐の栗原良子氏が「人材育成」と題し、日本の人口動態、2040年に向けた国の看護職員確保の施策について解説した。次に、施設内における自身の役割、看護におけるマネジメント、人材(人財)育成について解説。続いて、5人1組になり「なぜこの研修を受講したのか?」「仕事で楽しかったこと、つらかったこと」をテーマに話し合った。自施設の情報交換と交友の場となった。
 午後から3日目にかけて、高輪心理臨床研究所主宰で茨城大学名誉教授、福島学院大学教授の岸良範氏が「人間関係とリーダーシップ-互いに育てあう職場を目指して-豊かに働くために~メンタルヘルス(パワハラ対策を含む)・人間関係~」と題し、講義と演習を行った。コロナ禍における職場の不安、ストレス、人間関係(コミュニケーション)、パワーハラスメントについて重点的に解説した。
 次に「熱心なリーダーが陥りやすい点」「ある主任の指導」について話し合った。パワハラの背景にある心理的要因についての分析や注意・叱るときの方法と態度、上手な叱り方を具体的に説明した。次のグループワークではクライアントとカウンセラーの対話をそれぞれ体験した。この演習は「聴く」関係の中で、「応える」相手の感情や経験を理解し、相手に配慮する気持ちが必要であることを学ぶのが目的。こころを傾けて相手をわかろうとする技法を解説した。
 続いて、「スリー・テン-誰が生き残るべきか-」をテーマに話し合った。このテーマをもとに異なった考えと向き合い、対話をしていくことが目的で、各グループで様々な考えが生まれ、活発な充実した内容のディスカッションとなった。

看護補助者の活用と支援についての看護管理者

 看護補助者の活用と支援についての看護管理者研修が11月30日に本部で開かれ、58施設58人がオンラインで参加した。この研修は「急性期看護補助体制加算及び看護補助者加算」に対応している。
 講師は済生会東神奈川リハビリテーション病院院看護部長・藤原佐和子氏、アドバイザーは龍ケ崎済生会病院看護部長・氏家みどり氏。はじめに、藤原氏が現在の日本の少子高齢社会の背景から、看護職や介護職の勤務形態の多様性が求められていると解説。
 続いて、看護補助者の歴史、看護補助者の定義、看護職と看護補助者の業務範囲・業務分担の在り方、労務管理、雇用形態について解説した。
 看護管理者は看護補助者と協働する上で責任と存在は大きく、看護補助者の業務基準や管理体制を明文化すること、スタッフへ看護職の責任や業務委譲の判断基準を明記して看護チームの一員であると教育していくことが重要である、と解説した。
 午後からは、各施設の現状や課題を踏まえた上で「看護補助者を定着させるにはどうするか~明日からできること~」をテーマにグループワークを行った。各グループから様々な具体策が挙がり、また情報交換の場となった。
 研修の総括として、藤原氏と氏家氏からは、グループで話し合ったことを明日からすぐに自施設で生かしてほしい、というメッセージがあった。

―編集後記―


 13年ぶりに宇宙飛行士募集のニュースを目にして、子どもの頃、3年間過ごした種子島を思い出しました。その町には宇宙科学少年団があり、天体観測やロケットの仕組みを学びました。夏にはキャンプがあり、夜にみた一面の星空は忘れられません。
 そして今、なかなか夜空を見上げることはありませんが、ある日の帰り道にパチリと撮影しました。東京タワーのライトアップ、いつものオレンジ色とは異なり、毎週月曜はカラフルなのです。月ごとにテーマがあり、12月は緑を基調とした輝きを放っています。調べると、「Forever Green(常盤色)」とありました。
 昨年は街中のライトアップも遠慮がちでしたが、今年はだいぶ明るくなってきました。よい年になりますように。
(Harada)

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