済生会総研News Vol.41

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第40回 SDGsの実質を高める

 日本におけるSDG s(持続可能な開発目標)の普及は、目を見張る。国、自治体を始め、たくさんの企業や団体が SDGsの取り組みを表明している。このように企業が社会貢献活動に努めることは、画期的なことだ。全国紙でも特集を組んで企業の活動を伝える。
 企業がSDG sに取り組む理由は、企業のイメージアップになるからだろう。 SDGsは、ISOのように認証や実施状況のチェックを受ける必要がないので、面倒な手続きや費用がかからない。また SDGsを履行といっても特別の行為が求められず、本来の事業で SDGsに貢献できるので、特別の負担は、生じないという面もある。
 これは悪いことではない。企業は、利潤を追求することが、存立の目的だから、ともすれば環境破壊のように外部不経済を招来したり、従業者の人権を侵害するなどの問題が発生している。 SDGsへの参加は、これを抑制する効果がある。また、企業が等閑視 (とうかんし しがちな SDG sの掲げる人権、福祉、環境などの価値を学ぶ機会になる。
 少し消極的な効果を述べたのは、SDGsに参加している企業や団体 の中 には、 SDGsの目的や内容について理解し、これに貢献する積極的な意志があるのか、疑わしいケースに出合うからである。従前からの企業や団体の事業が単にSDG sの17の目標に関連するので、SDGsに取り組んで いると掲げられている。どのくらい SDGsの目標達成に貢献しているのか、読み取れない。
 SDGsは、2015年9月、国連本部で 150ヵ国以上が参加した国連サミットで採択されたが、ここまで至るには長い歴史の歩みがある。第2次世界大戦は、5千万~8千万人の犠牲者を出した。戦後この惨禍を繰り返さないために、国連の発足、世界銀行の創設、世界人権宣言の発表などが行われ、地球全体の平和や発展に努力がされてきた。
 2000年には、各国が協力して途上国の生活水準の向上と経済発展のため2015年までに到達すべき「ミレニアム開発 目標」を掲げて取り組んできたが、目標の達成に遠く及ばず、途上国は、世界の繁栄から取り残された。加えるに先進国の側には新しい貧困などの問題が出現してきた。そこでSDGsが制定され、新たに2030年までに達成すべき目標が具体的に定められた。
 そこでSDGsの実行に当たって重要なことは、ミレニアム開発目標の反省に立って、目標 の 確実 な 達成に寄与することと先進国内の新たな問題に取り組むことである。日本の場合は、貧困、人権、環境の項目で遅れが顕著であると指摘されている。これらは、日本国内に深刻な問題を抱えるが、行政や企業の熱意が薄い。
 済生会では第2期中期事業計画でSDGsの履行を盛り込んだが、これらの項目も含め、実質的な結果を残していかねばならない。

研究部門 済生会総研 上席研究員 持田 勇治

Ⅰ.第22回日本医療マネージメント学会 シンポジウム「医療と介護のビックデータ戦略」

 10月6日・7日に第22回日本医療マネージメント学会(会長: 三木恒治 済生会滋賀県病院院長において 、 シンポジウム「医療と介護のビックデータ戦略」(座長 三角隆彦 済生会横浜市東部病院院長・山口直人 済生会 総研研究部門長)が行われた。
 シンポジストは、産業医科大学 医学部 公衆衛生学 教授 ・ 松田晋哉氏、筑波大学 医学 医療系ヘルスサービスリサーチ分野教授・ヘルスサービス開発研究センターセンター長 ・ 田宮菜奈子氏 、 済生会総研の持田勇治上席研究員です。
 最初に松田氏から「医療と介護の連携」として 医療と介護の情報共有の重要性について、田宮氏から「医療介護ビックデータによるヘルスサービスリサーチ 生活と調和した医療のために」として介護データベース活用の現状と将来性について、済生会総研 の 持田からは「効率的運用に向けた医療ビックデータの活用」として 、済生会の DPC データの活用方法について の発表があった。
 発表後は、参加者の質疑応答を含め活発な意見交換の場となった。

Ⅱ. 「診療サービスの指標」作成状況報告

平成30 年度・令和元年度診療実績にもとづく診療サービスの 13 指標が完成し て 、済生会なでしこネットワークに掲載しました。今回はその中から 「退院困難な入院患者における入退院支援加算の算定率」 を紹介します。

「退院困難な入院患者における入退院支援加算の算定率 」
 退院困難患者に対して退院支援を行った場合に評価されます。
 【入退院支援加算 1 】(退院時1回・ 600 点)は、患者が安心・納得して退院し、早期に住み慣れた地域で療養や生活を継続できるように、施設間の連携を推進した上で、入院早期より退院困難な要因を有する患者を抽出し、入退院支援を実施することが評価されるものです。原則として入院後3日以内に患者の状況を把握するとともに退院困難な要因を有している患者を抽出する必要があります。
 施設基準は、入退院支援及び地域連携業務を担う部門が設置、入退院支援及び地域連携に係る業務に関する十分な経験を有する専従の看護師又は専従の社会福祉士が配置(当該部門に専従の看護師が配置されている場合にあっては専任の社会福祉士が、専従の社会福祉士が配置されている場合にあっては専任の看護師が配置されていること)、各病棟に、入退院支援及び地域連携業務に専従として従事する専任の看護師又は社会福祉士が配置されていることが要件です。

  • □退院困難な要因を有する患者
  • ア 悪性腫瘍、認知症又は誤嚥性肺炎等の急性呼吸器感染症のいずれかであること
  • イ 緊急入院であること
  • ウ 要介護認定が未申請であること(介護保険法施行令 平成 10 年政令第 412 号 第2条各号に規定する特定疾病を有する 40 歳以上 65 歳未満の者及び 65 歳以上の者に限る)エ 家族又は同居者から虐待を受けているもの又はその疑いがあること
  • オ 生活困窮者であること
  • カ 入院前に比べ ADL が低下し、退院後の生活様式の再編が必要であること(必要と推測されること)
  • キ 排泄に介助を要すること
  • ク 同居者の有無に関わらず、必要な介護を十分に提供できる状況にないこと
  • ケ 退院後に医療処置(胃瘻等の経管栄養法を含む)が必要なこと
  • コ 入退院を繰り返していること
  • サ その他患者の状況から判断してアからクまでに準ずると認められる場合

 入退院支援では、 退院困難な要因を有する患者について患者及び家族と病状や退院後の生活も含めた話し 合いを行うとともに、関係職種と連携し、退院支援計画の作成に着手 します 。退院支援計画の内容は、以下の内容を含むものとします。

  • ア 患者氏名、入院日、退院支援計画着手日、退院支援計画作成日
  • イ 退院困難な要因
  • ウ 退院に関する患者以外の相談者
  • エ 退院支援計画を行う者の氏名(病棟責任者、病棟に専任の退院支援職員及び退院支援部門の担当者名をそれぞれ記入)
  • オ 退院に係る問題点、課題等
  • カ 退院へ向けた目標設定、支援機関、支援概要、予想される退院先、退院後の利用が予測される福祉サービスと担当者名

 実施率は、退院 困難な要因を有する患者の要件のうち、 65 歳以上の患者 及び 悪性腫瘍を有する患者に対しての入退院支援加算の算定率 です 。

退院困難な入院患者における入退院支援加算の算定率(平成2 9 年度~令和元年度)

各病院において入退院支援の体制整備が、年々進んでおり実施率も上昇しています。
なでしこネットワークでお示しした最新版の診療サービスの指標(平成 30年度・令和元年度)を確認いただき、 ご活用ください。

―編集後記―

 最近の天気予報は当たる(的中率が高い)ようにな った感じがします。
 そこで 、実際に天気予報の的中率はどうなのかインターネット検索してみました。
 (天気予報の的中率 天気予報は当たる? 予報精度の検証 http://outdoor.ymnext.com/weather-03.html
 この ホームページによると「夕方発表した翌日の天気予報の的中率」として、東京地方の天気予報を例にして、「翌日雨が降るかどうか」の予報の的中率を調べてみると次のような結果になるようです。
 (いずれも過去 5年平均値。気象庁調べ)
 1950年:的中率約72% ・ 1975年:的中率約79%
 2000年:的中率約84% ・ 2006年:的中率約86%
 確かに的中率は上がっているのですが、ここ最近急に的中率が上がったわけではないようです。

(持田 勇治)

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