済生会総研News Vol.40

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第39回 歴史からの考察

 病気が歴史を変えることは、頻繁にある。
 ペストが最も知られている。黒死病として恐れられたペストは、14世紀にヨーロッパに蔓延した。ペストは、人口の3分の1が亡くなったと伝えられる。封建社会の領主の経済は、領民が担っていたが、この相当分を失うことになったため、中世は終焉し、ルネサンスに入った。
 最近、英語について興味あるエピソードを知った。英国は、14世紀、フランスの支配下にあったため、フランス語が支配者層で使用され、勢力を増大していった。英語は、労働者層の使用に留まっていたが、ペストで労働者が減少したため、支配者層は、英語を使って労働者を確保する必要に迫られ、英語が広く使用されるようになったという。もしペストの猛威がなければ、今日の国際語としての英語は、なかったかも知れない。
 このほか天然痘、スペイン風邪などがあるが、今回の新型コロナも歴史を変えていくだろう。
 新型コロナは、「長くて後1年程度で収束し、元の状態に戻るだろうから、歴史を変えるというのは大げさだ」と考える人もいるだろう。
 しかし、誰もが「あれが私の人生の転機だった」と考える出来事がある。しかし、それを経験している時には分からず、振り返ったときに実感できるものである。歴史の転換期も同様で、後年になって明らかになる。
 新型コロナは、地球全体に感染が拡大し、すでに多数の死者を出している。終息の目途が分からないが、終息しても新しい感染症の発生を覚悟しなければならない。新型コロナは、経済、社会、文化などあらゆる面に劇的な影響を与え、歴史を変えていくので、今日の問題や今後の方向を考えるに当たっては、歴史的な見地からの考察が必須になる。
 ここで問題になるのは、歴史的考察の方法である。学校で勉強する歴史は、権力者による政治が中心である。これだけでは、歴史の真実には迫れない。
 樺山紘一が「世界史への扉」(朝日新聞社)で述べているが、歴史を動かすのは、権力者による政治だけでない。私が歴史的考察で常に留意することは、第1にミクロ的視点からの積み上げである。一人の人物の生涯の活動を知ると、歴史によって翻弄され、また貢献したかリアルに分かる。また、市町村単位での動きを把握するようにしている。歴史の変化は、小さな町の片隅ですでに起こっている。
 第2は、政治以外の経済、社会、文化、環境など全方位で把握する。今回のような場合は、医療や人権が重要な要素になっている。歴史の変化は、多くの要素の絡み合いで生じている。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田奈津子

科研費に関する動向

1.科研費とは
 そもそも科研費とは何か触れておく。科研費の運営を担っている独立行政法人日本学術振興会のホームページにおいて、“科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)は、人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」であり、ピアレビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行うもの”とされている。
 済生会総研は、科学研究費助成事業申請に必要な研究機関としての登録を行った。そして、今年度、早速、私の申請した研究課題が採択された(科研費基盤C:福祉施設における被災時の「受援」に関する研究)。

2.科研費で行う研究の概要
 科研費基盤C:福祉施設における被災時の「受援」に関する研究

研究の概要
 災害発生時、さまざまな「災害派遣福祉チーム」の活動が行われている。本研究では、派遣チームに関する検証を踏まえ、被災した福祉施設がどのように支援を受け入れるのか、福祉施設の「受援」について着目して検討していく。受援体制の構築にあたっては、児童、障害者、高齢者など対象者に広がりのある福祉施設の特性や、さらに地域性も考慮しなくてはならない。それぞれに応じた受援の仕組みの構築が求められている。
 これまでに被災し受援した経験のある福祉施設への聴き取りと共に、災害派遣チームの派遣元などにも聴き取りを行うなど、多角的に受援の現状と課題を明らかにし、福祉施設の普遍的な受援体制の構築に寄与したいと考える。

研究の目的
 災害時の「派遣」や「応援」に関しては少しずつ整備されつつあるが、「受援」に関しての課題が大きな課題となっている。国としての整備はもちろん、都道府県、市町村においてもガイドラインを作成するなど「受援」の体制づくりが求められている。病院でも大規模訓練が行われるなど受援体制の構築と運営が専門機関でも必須となっている。
 そのような中、福祉施設における「受援」の課題に関する研究はまだ少ない。福祉施設での受援体制の構築にあたっては、児童、障害者、高齢者など対象者に広がりのある福祉施設が存在している点や、さらには地域性も考慮しなくてはならない。それぞれに応じた受援の仕組みの構築が求められている。
 災害支援福祉活動における「可視化」と「普遍化」のために、これまでの課題を整理し、ノウハウとスキルを蓄積することで、共通要素を導き出すことが可能になる。被災時の受援マニュアルの開発を通し、現場での実践に寄与していくことを最終的な目的としている。

図 福祉施設の「受援」の位置づけとプロセス

研究実施計画
 研究スケジュール(3年間:2020年4月~2023年3月)は以下の通りである。
 2020年度は、「研究チーム編成と災害派遣福祉活動の実践把握のための調査実施」を行う。なお、新型コロナの影響もあり、WEB会議やWEBによるインタビュー調査を可能な限り取り入れて研究をすすめることとする。具体的は、①現場の職員(福祉施設の職員や他の団体の職員等)の協力による研究チームの編成、②2019年度に行った「済生会DCATの調査」に関する意見交換の実施、③災害派遣福祉チームの派遣元団体へのインタビュー調査(日本社会福祉士会等)を予定している。
 2021年度は、「被災時の受援に関する調査」をメインに行う。これまでに被災した経験を持つ福祉施設を対象として、「被災時の受援について施設視察とインタビュー調査、質問紙調査」を予定している。施設視察やインタビュー調査に関しては、社会情勢を考慮し、WEBの活用も検討しつつ、実施する。
 2022年度では、「被災時のマニュアルの開発」を目指す。具体的には、「被災時の受援に関するマニュアルの作成」を福祉施設の全体的な共通版の作成と、利用者や入居者など対象者や福祉施設の特性に応じた各種版の作成に向けた取りまとめを行う。マニュアルにおいては、受援の位置づけとプロセスを明らかにしたい。被災を想定した受援マニュアルの整備と職員教育、被災時の受援体制、回復期としての通常業務へのシフトなどを現場職員や福祉の団体と共に検討していくことを予定している。最終年度では、さらに3年間の研究成果を取りまとめた報告書の発行を行う。

3.まとめ
 科研費での研究ということで、調査の対象などを含め、済生会以外の団体や施設等にもアプローチしていくことになる。研究を通してどう社会に還元するのかということをより一層考えながら取り組みたい。また、研究によって現場での実践に加え、人々のよりよい暮らしに寄与できればと考える。

人材開発部門

新任看護師長研修

 令和2年度新任看護師長研修が9月15日~17日本部にて開催された。今年度は新型コロナウイルス感染防止対策のため、本部での集合研修を中止し、全日程をビデオ会議ツール「Zoom」を活用したオンラインにて開催された。済生会本部では初めての試みである。40病院及び特別養護老人ホームの新任看護師長51名が参加した。
 講義「労働法と看護管理(加藤看護師社労士事務所・加藤明子氏)」、基調講演「看護に関する済生会原論~新型コロナによる転換期での済生会の進む方向~(炭谷茂理事長)」、講義「人材育成(東京都看護協会教育部部長補佐・栗原良子氏)」、講義「看護部長のマネジメント~いきいきと看護管理をしよう~(常陸大宮済生会病院看護部長・鈴木典子氏)」、講義「ポジティブ・マネジメント―自ら考え、行動し、助け合う組織をつくる―(東京外国語大学・市瀬博基氏)」と内容の濃い講義が進められた。
 初のオンライン研修に向けて、事前のインターネット環境整備、Zoom操作確認、研修会場の確保など、各施設の情報システム管理者及び関係者の方のご協力のもと、3日間無事に開催することができた。また、オンラインでのグループワークも初めて行ったが、スムーズに話し合いができたグループが多かった。途中通信状態が不安定になり、パソコンの不具合が生じた施設もあったが、受講生の多くが徐々にZoomの操作にも慣れ、集中して受講していた。対面研修とは違った受講生の真剣な眼差しや緊張感が、画面から感じられたとても貴重な研修となった。今後の課題もあるが、看護管理者として、この研修で体験したことを、各施設でもぜひ活用していただきたい。

―編集後記―

 9月に入って涼しくなり、だいぶ秋めいてきました。今年の夏はなんだかあっという間に過ぎた気がします。職場近くの東京タワーに多くの観光客が来るのが例年の夏の光景なのですが、今年は本当に静かでした。最近は少しずつ街に人が増え、活気が戻ってきた感もあります。
 そんな街の様子を横目に、京都で以前みた“とある言葉”を思い出します。それが「自休」です。自ら立ち止まり足元を見つめ、深く考えることという意味だったと記憶しています。年度でいうと折り返し地点にあたる9月、よりよい明日につながるよう「自休」し、一日一日を丁寧に過ごせたらと思います。

(Harada)

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