済生会総研News Vol.42

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第41回 融合的研究の重要性

 11月7日、東京都中野区に所在する「こども教育宝仙大学」で環境福祉学会を開催した。
 環境福祉学会は、私が環境事務次官在職の時に同じ考えを持つ人達の参加を得て平成16年に発足した。環境福祉学は、私の仕事の歩みで必要性を痛感して提起した。
 昭和40年代の日本は、高度経済成長の真ん中にあったが、繁栄の陰には障害者など恩恵を受けられない生活困窮者がたくさん存在した。また、水俣病や四日市ぜんそくなど公害の被害が発生していた。私の学生時代は、これらの問題に関心を持つようになった。
 卒業後、自然の選択として旧厚生省に入省した。福祉問題と公害問題の両者の仕事に従事したいという動機からである。この2分野は、私にとっては異質なことではなく、同じ仕事だった。当時の行政官や研究者も、公害問題を福祉の重要なテーマであると認識していた。
 昭和46年に環境庁(当時)が発足し、福祉と環境が別の省庁で所管されるようになると、行政官の間では、福祉と公害は無関係と考えるようになった。研究者も同様な認識を示すようになった。一方、公害問題は地球温暖化問題などに広がっていくと、身近な問題を扱う福祉とは、ますます距離が離れていった。今では両者は、全く別個に研究が進められている。
 しかし、現在でも福祉と環境は、大変、関係が深い。両者の関係を考量しないと、支障が生ずる。
 途上国では貧困から脱出するためにジャングルを開発して農地へ転換される。すると無秩序な開発によって土砂崩れが発生し、せっかく整備した農地が破壊され、再び貧困に陥る。環境の悪化と貧困が悪循環になっており、国際的な関心を集めている。
 別の例を示そう。2006年にブッシュ米大統領が地球温暖化対策のためにバイオエタノールの普及を推奨した。本来は食料にすべきトウモロコシやサトウキビがエタノールの原料に使用されたため、食料の国際価格が高騰し、貧困者の生活を苦しめた。環境に良いが、福祉には悪い結果になった。
 今回環境福祉学会のテーマだった子どもの分野についても、自然との触れ合いが少ないと、子どもの心身の成長に悪影響を及ぼすように、福祉と環境は密接な関係を有する。
 新型コロナは、奥地に生息しているこうもりの体内に生存するウイルスが、奥地開発により人体に侵入したためである。現在野生動物に潜み、人間に病気を発生させる危険のあるウイルスは、82万種もいる。これからもジャングルの乱開発や野生動物の取引によってこれらのウイルスが人間を襲うことは、疑いようがない。新型コロナも環境と密接な関係があるのだ。
 このように今日我々が抱える問題は、各種の専門分野から多角的にアプローチをしなければならない。済生会総研も、このような融合的な研究の必要性が高い。

研究部門 研究員 吉田 護昭

Ⅰ.調査結果(重症心身障害児(者)施設の入退所)

1.はじめに
 済生会総研News Vol.39号(8月号)にて、済生会重症心身障害児(者)施設全6施設(以下、「6施設」)の入退所に関する研究概要と進捗状況について報告した。今号では、研究方法と調査結果の一部を報告する。

2.研究方法
 研究方法については、調査対象は6施設とし、質問紙を用いた郵送調査により実施した。調査期間は、令和2年9月30日から同2年10月23日の期間とし、6施設すべてから回答を得ることができた。

3.調査内容
 調査を行うにあたり、以下の3つの内容の調査票類を作成した。
 1つ目は、「施設概況に関する調査(49項目)」であり、①施設環境に関すること、②新規入所児(者)の「入所プロセス」に関すること、③入所児(者)の「退所プロセス」に関すること、の3つの内容で構成した。
 2つ目は、「新規入所児(者)の個別調査(21項目)」であり、①新規入所児(者)の基本情報(昨年度に実施した調査内容に合わせた質問項目とした)、②入所前に関すること、③入所形態や入所理由などに関すること、の3つの内容で構成した。
 3つ目は、「退所児(者)の個別調査(17項目)」であり、①退所児(者)の基本情報(昨年度に実施した調査内容に合わせた質問項目とした)、②退所理由に関すること、の2つの内容で構成した。
 新規入所児(者)および退所児(者)の個別調査については、過去5年間(平成27年4月1日~令和2年3月31日)のデータを収集した。
 なお、本研究は、済生会保健・医療・福祉総合研究所倫理審査委員会で審査され、承認を受けている。

4.調査結果
 11月24日時点において、6施設すべての調査票類についての基本集計を終えた。現時点で、すべての調査結果を報告することはできないが、新規入所児(者)および退所児(者)の個別調査の結果の一部を報告する。

4-1.新規入所児(者)
 6施設全体における新規入所児(者)は、154人であった。性別では、「男性」が86人(55.8%)、「女性」が68人(44.2%)となっている。

 年齢では、「0-2歳」が23人(14.9%)と最も多く、次いで「3-5歳」が20人(13.0%)、「6-8歳」が15人(9.7%)となった。「0-8歳」の範囲でみてみると、58人(37.6%)となり、全体の約4割弱を占めていた(図1)
 医療的ケアを受けているか否かについては、入所時点で「医療的ケアを受けている新規入所児(者)」は71人(46.1%)、「医療的ケアを受けていない新規入所児(者)」は83人(53.9%)となった。さらに、「医療的ケアを受けている新規入所児(者)」の71人のうち、新規入所児(者)1人がどれだけの医療的ケアを受けているかについて調べたところ、(図2)のとおりとなった。
 入所理由(複数回答)については、「介護者の病気等」が49人、「介護者の高齢化」が46人、「虐待」が20人の順に多かった(図3)


図1 新規入所児(者)の年齢分布


※調査票における医療的ケアの項目は、人工呼吸器、気管内挿管・気管切開、鼻咽頭エアウェイ、
酸素吸入、たん吸引、ネブライザー、中心栄養静脈(IVH)、経管栄養、腸瘻・腸管栄養、定期導尿、人工肛門、その他、の12項目とした。

図2 新規入所児(者)1人につき受けている医療的ケアの数


図3 入所理由

4-2.退所児(者)
 6施設全体における退所児(者)は、90人であった。性別では、「男性」が54人(60.0%)、「女性」が36人(40.0%)となった。
 年齢では、「15-17歳」が11人(12.2%)と最も多く、次いで「3-5歳」、「12-14歳」、「30-34歳」がそれぞれ7人(7.8%)ずつとなった。「0-17歳」の範囲でみてみると、41人(45.6%)となり、全体の約4割弱となった(図4)
 退所時点において受けていた医療的ケアの項目については(複数回答)、「経管栄養」が41人で最も多く、次に「たん吸引」が35人、「気管内挿管・気管切開」が21人となった(図5)
 退所理由では、「死亡退所(自施設)」が26人(28.9%)、「死亡退所(自施設以外)」が20人(22.2%)、「その他」が44人(48.9%)となった(図6)


図4 退所児(者)の年齢分布


図5 医療的ケア(退所時点)


図6 退所理由

5.おわりに
 以上、新規入所児(者)および退所児(者)の個別調査の結果の一部を報告した。現時点で、基本集計は終えたが、これから、さらに分析をすすめていく。また、本調査結果をもとに、6施設との研究ミーティングを開催し(Zoom)、調査結果の内容をより一層深めていきたい。
 本調査にご協力いただきました6施設の関係職員の皆様方に、改めまして感謝致します。

人材開発部門

アドバンス・マネジメント研修Ⅳ(対象:中堅看護師及び副看護師長の任にある者)

 令和2年度アドバンス・マネジメント研修Ⅳが11月11日(水)~11月13日(金)本部にて開催された。今年度は新型コロナウイルス感染防止対策のため、本部での集合研修を中止し、全日程をビデオ会議ツール「Zoom」を活用したオンラインにて開催された。56施設(訪問看護ステーション1施設含む)から56名が参加した。
 この研修は次世代の看護管理者として役割を担う中堅看護師の役割を明らかにし、いきいきと輝いて看護ができることを目的としている。
 1日目は炭谷茂理事長による基調講演「看護に関する済生会原論~新型コロナによる転換期での済生会の進む方向~」が行われた。新型コロナウイルス感染拡大により、世界経済・社会・文化・人々の暮らしに多大な影響を及ぼしている。このような状況こそ、済生会が一体となり、徹底した対策を実施し、攻めの姿勢を持ってこの危機を乗り切っていくこと。長い歴史を有し、世界最大の医療と福祉サービスを提供する恩賜財団として、内外に済生会の活動を発信し、ブランド力の向上を図り、済生会の発展に努力していきたい、という講義であった。
 続いて、社会保険労務士法人あい事務所・福島紀夫氏による「医療従事者の管理者がおさえるべき院内活性化の労務管理」の講義が行われた。研修開催前に労務管理について悩んでいる事や質問事項のアンケートを実施した。多くの受講生から回答があり、残業、有給取得、パワハラ等について多くの悩みや質問が寄せられた。福島氏は事前アンケートの質問項目に合わせながら、対策方法について解説された。
 2日目の午前中は公益社団法人東京都看護協会教育部部長補佐・栗原良子氏による「人材育成」の講義が行われた。病院の組織構造の解説やマズローの欲求と自身の職場内の立ち位置と役割について、具体的に分かりやすく解説された。この講義では、4人1組になりグループワークも行った。初めてのオンライン上でのグループディスカッションは、対面とは違う緊張感があり、なかなか話し出せないグループもあったが少しずつ慣れてきた様子も見受けられた。栗原氏よりグループワークの発表の総括として、「看護部長は良い組織を作りたいから、皆さんはこの研修の受講生に選ばれた。期待させれているから選ばれた。中堅看護師になると、様々な業務があり、責任も重くなり、辛くなることが多い。しかし、こんなに大変な仕事でもずっとやり続けているということは、看護が好きだっていうこと。こんなに大変でも、この素晴らしい看護師という職業を選んだ自分自身を褒めて欲しい」という温かいメッセージに受講生の表情がとても穏やかになったのが、画面上から分かりとても印象深かった。

 午後からは、高輪心理臨床研究所主宰・岸良範氏による「人間関係とリーダーシップ-互いに育てあう職場を目指して-豊かに働くために~メンタルヘルス(パワハラ対策を含む)・人間関係~」の講義と演習を行った。今年度は主にコロナ禍における職場の不安、ストレス、人間関係(コミュニケーション)、パワーハラスメントについて、事例をもとに重点的に解説された。

 本研修におけるオンライン研修は2回目であった。事前のインターネット環境整備、Zoom操作確認、研修会場の確保等、各施設の情報システム管理者及び関係者のご協力のもと、3日間無事に開催することができ心から感謝申し上げたい。途中通信状態が不安定になり、パソコンの不具合が生じた施設もあったが、受講生の多くが徐々にZoom操作にも慣れ、集中して受講していた。
 本研修はグループディスカッションが多く組み込まれていたが、慣れてくるとスムーズにディスカッションや発表をすることができた。
 対面研修のような交流は出来なったが、オンライン上であっても、徐々に慣れてくると距離感を感じさせない交流の場となった。今後の課題もあるが、この研修で体験したことを、各施設でぜひ活用していただきたい。(看護室)

―編集後記―

 これまでに、済生会の障害者支援施設(5施設)、重症心身障害児(者)施設(6施設)を対象に、調査を実施してきました。お忙しい中、調査にご協力いただき、貴重なデータを得ることができました。ただ、私の中でどうしても引っ掛かかっていることがあります。それは、これまでに実施した調査の結果を、どのように現場に反映し、活用できるのか、といったことです。色々と考えた結果、やはり、現場の実践者同士による交流機会を多く作ることが必要ではないかと考えました。
 そこで、来年度は、これまでに実施した調査結果や研究ミーティングを踏まえ、現場で実践されている、特に福祉職(社会福祉士、介護福祉士、保育士など)を対象に、座談会や勉強会、事例検討会などを企画し、ビデオ会議ツール「Zoom」を活用したオンラインで実施していきたいと考えています(新型コロナウイルス感染防止対策のため)。
 現場の最前線で実践している職員同士が、こうした機会を得ることによって、他施設の良い点を自施設で活用したり、取り入れたり、または改善してみたり、といったような行動変容にも繋(つな)がる可能性があるのではないかと思います。
 私一人の考えでは限界があります。現場の皆様のご意見等をお聞きしながら、企画していきたいと思いますので、引き続き、宜しくお願い致します。

(吉田護昭)

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