済生会総研News Vol.83

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第82回 介護保険制度の将来像(3)

 本稿では現行の介護保険制度の問題点について論じているが、第1の問題として介護保険料の問題を取り上げている。介護保険料は、3年ごとに見直されるが、今年度から適用される介護保険料について全国主要74自治体の調査結果が、4月10日付朝日新聞に掲載されていた。

 これによると保険料基準額(月額)を引き上げたのは、48自治体で全体の65%だった。増額幅が最大だったのは大阪市で、前年度よりも1,155円増、次いで千葉市が900円増、福岡市が674円増であった。この結果基準額が最も高くなるのは大阪市で9,249円、続いて堺市の7,417円、京都市の7,160円である。

 制度が発足した2000年の全国平均が2,911円であったから2倍を超える額になっている。以前に述べたように年金を主たる収入源とする高齢者には、負担の限度を超えている。滞納のため保険給付制限や差し押さえを受ける人も多い。

 また、自治体の保険料額の格差も問題になる。同記事によると、調査をした自治体で低額だったのは、東京都千代田区の5,600円であったから、大阪市と1.6倍の格差がある。両者の違いが、自治体の介護行政に対する努力や住民の寝たきりに対する努力の程度などによるものであれば、住民の理解を受けられるだろう。しかし、高齢化率の差異のように努力の及ばない理由であれば、理解が困難である。

 大阪市の介護保険料が高額の理由の一つが、一人暮らしの高齢者の割合が45.0%で全国平均の29.6%に比べて、飛び抜けて高いことである。一人暮らしのため買い物、掃除などの日常生活に困難を抱える人が多いためである。このような社会的事由をどのように考えたらよいだろうか。自治体によっては介護保険に頼らずに住民間の助け合いによるところもあるから、判断が難しい。

 4月12日、国立社会保障・人口問題研究所は、「日本の世帯数の将来推計」を公表した。これによると世帯総数は、30年にピークになり、減少に転じる。これは人口減少が大きい理由だろう。一方、一人世帯は、36年をピークに減少に転じるが、全世帯に占める割合は上がり続ける。20年の38.0%から50年には44.3%と上昇する。これまでも一人世帯化の実態は、予想を上回るスピードで進んでいるので、現実はもっと高くなるだろう。

 特に65歳以上の一人暮らしの割合は、20年と50年の比較では男性が16.4%→26.1%、女性で23.6%→29.3と増加する。一人暮らしの高齢者は、医療、介護、日常生活、財産管理、防火、防災、犯罪被害など多くの課題を持つ。これからの日本社会の最大の問題の一つである。大阪市の高額の介護保険料は、その前触れで、すべての自治体が鋭意対策を急がなければならない。

研究部門

令和6年度 研究部門の研究活動

令和6年度の研究部門における研究活動は、以下のとおりです。

重点課題1 DPC等の大規模データを活用した診療支援
 (1)診療サービス指標の作成と公開
 (2)DPCマンスリーレポートの作成と公開および説明会
 (3)医療と福祉の評価指標の公開事業
 (4)医療と福祉の評価指標の活用方法の検討
 (5)済生会における新型コロナ感染症対応に関する分析
 (6)DPCデータ等に基づく将来推計による病院経営・運営への支援

重点課題2 地域での暮らしを支える医療と福祉の連携
 ―済生会の特徴をいかした地域包括ケアモデルの確立に向けて―

重点課題3 なでしこプランとソーシャルインクルージョンの展開と課題
 ―地域の特性に応じた各地の取り組みから―

連携課題1 科研費等外部資金に基づく済生会職員の研究

連携課題2 済生会内部の共同研究
 (1)福祉施設における看取りの現状と課題
 (2)済生会薬剤師会と済生会総研との連携課題
 (3)人材開発部門との共同研究

連携課題3 外部機関との共同研究
 済生会総研と慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室との共同研究

 済生会総研は、実践的な研究を目指し、保健、医療、福祉を担う済生会施設の活動の支援を目指していきます。済生会内外の施設との研究ネットワークを構築して共同研究を推進しますので、引き続き、今年度も済生会総研へのご支援をよろしくお願いします。

―お知らせ―

総研DPCマンスリーレポートオンライン説明会の開催

 済生会総研では、済生会職員向けに総研DPCマンスリーレポートを発行しておりますが、この度、その内容に関して、オンライン説明会を開催することになりました。

講師  池田周一氏 (株式会社シーユーシー病院事業部長)
テーマ 医療、看護必要度の変化(一般・ICU・HCU)と対策
日時  令和 6 年 5月13日(月)12:00~13:30
    ZOOMを用いたWEB開催 (接続情報等は後日お知らせします)

 総研DPCマンスリーレポート 2024年4月号(4月末に発行予定)の内容を、 済生会の病院長・幹部職員向けに分かりやすく解説していただきます。詳細については、後日お知らせします。

―編集後記―

 今年は、新年度がはじまった頃にようやく桜が咲きました。季節は動き、現在、つつじが見頃になっています。職場の近くにある芝公園は花々を見に来た人々でにぎわい、活気に満ちています。もちろん東京タワーのあたりも海外からの観光客を中心に混んでいるようです。
 そんな中、ここ三田国際ビル周辺にも写真を撮りまくっている人々が目につきます。以前より結婚式用の記念写真を撮っている姿やファッション誌用の写真撮影かなという場面は帰りによく遭遇していましたが、最近は、推しのMV(ミュージックビデオ)やインスタと同じような構図で写真を撮りたい方々が来ているようです。その行動力と熱量に感心することしきりです。
(Harada)

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