済生会総研News Vol.82

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第81回 介護保険制度の将来像(2)

 介護保険制度は、平成12年4月に発足、それから25年を経過した。その間高齢者介護サービスの確保のため一定の役割を果たしたが、今では限界が明らかになっている。行政は保守的に作用するのが、古今東西変わらぬ真実であるが、介護保険制度も同様の状態で漂流し始めた。
 しかし、現行制度の維持にこだわるならば、高齢者介護に障害が生じるだけでなく、日本の経済、社会、国民生活に大きな影響を及ぼす。すでに現行制度では十分に対処しきれない状態が表れているので、現在の高齢者介護を巡って生じている問題を整理しておきたい。

 まず「老老介護」の増加である。家族の小規模化や長寿化によって介護を夫婦間で担うケースが増加している。厚労省の「国民生活基礎調査」によると、高齢者介護を行っている世帯のうち、65歳以上同士で介護を行っている割合が、2001年が40.6%に対して、2022年は63.5%と20%を超える状態である。
 この中には子ども等の他の家族、介護保険によるホームヘルパーが一部を担っている世帯も含まれるが、主な担い手は65歳以上である。お互い高齢であるため、共倒れの危険性を抱える。私の国家公務員の先輩にも同様の事情を抱える人がいる。夫婦2人世帯であるが、両者とも軽い認知症である。公的な支援を受けずに頑張っているように見えるが、両人の行動を見ると、何か事故が起きないか危なかしい。共倒れになった場合、どのような支援が用意されているのだろうか。

 次に「介護と育児のダブルケア」の問題も最近毎日新聞が、重点的に取り上げている。内閣府は2016年に2012年の就業構造基本調査に基づき該当者は、25万3千人と推計している。その後、国は推計を発表していないので、毎日新聞は、同様な手法で2012年~17年の5年間で29万3千人と4万人増加していると推計している。就業構造基本調査は子育ての対象を未就学児に限っているので、実際のダブルケア件数は膨らむと同紙では述べている。
 ダブルケアを担っている人の7割近くが女性である。就労している人が多く、離婚等でシングルの女性も少なくない。このような人の重圧は、想像を絶する。介護保険等の公的支援策は、このような個別の事情を斟酌しない。個人の負担に委ねられる。
 「ヤングケアラー」や「介護離職」、「高齢者虐待」、「孤独死」等については次回に回したい。

研究部門 済生会総研 研究部門 原田奈津子

令和6年度介護報酬改定について

 令和6年度の介護報酬改定について、厚生労働省のホームページでの介護報酬改定の資料「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230330.pdf)をもとにみていくことにする。今回の改定の概要として、人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、1.「地域包括ケアシステムの深化・推進」、2.「自立支援・重度化防止に向けた対応」、3.「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」、4.「制度の安定性・持続可能性の確保」を基本的な視点として、介護報酬改定を実施したと記している。以下詳細である。

出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230330.pdf

 1.「地域包括ケアシステムの深化・推進」では、認知症の方や単身高齢者、医療ニーズが高い中重度の高齢者を含め、質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組を推進となっている。
 具体的には、居宅介護支援における特定事業所加算の算定要件について、ヤングケアラーなどの多様な課題への対応を促進する観点等から見直しを行うことや、医療と介護の連携推進として、高齢者施設等における医療ニーズへの対応強化や協力医療機関との連携強化を挙げている。看取りへの対応強化として、訪問入浴介護における看取り期の利用者へのサービス提供について、その対応や医師・訪問看護師等の多職種との連携体制を推進する観点から、事業所の看取り対応体制の整備を評価する新たな加算が示された。さらに、短期入所生活介護において、看取り期の利用者に対するサービス提供体制の強化を図る観点から、レスパイト機能を果たしつつ、看護職員の体制確保や対応方針を定め、看取り期の利用者に対してサービス提供を行った場合に評価する新たな加算を設けるとしている。

 2.「自立支援・重度化防止に向けた対応」では、高齢者の自立支援・重度化防止という制度の趣旨に沿い、多職種連携やデータの活用等を推進しており、具体的には、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組等や自立支援・重度化防止に係る取組の推進、LIFEを活用した質の高い介護を目指している。新設の1つに、退所者の栄養管理に関する情報連携の促進があり、介護保険施設から、居宅、他の介護保険施設、医療機関等に退所する者の栄養管理に関する情報連携が切れ目なく行われるようにする観点から、介護保険施設の管理栄養士が、介護保険施設の入所者等の栄養管理に関する情報について、他の介護保険施設や医療機関等に提供することを評価する新たな加算を設けるとしている。

 3.「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」では、介護人材不足の中で、更なる介護サービスの質の向上を図るため、処遇改善や生産性向上による職場環境の改善に向けた先進的な取組を推進するとしている。介護職員の処遇改善、生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり、効率的なサービス提供の推進を具体的に挙げている。具体的には、介護ロボットやICT等の導入後の継続的なテクノロジー活用を支援するため、見守り機器等のテクノロジーを導入し、生産性向上ガイドラインに基づいた業務改善を継続的に行うとともに、効果に関するデータ提出を行うことを評価する新たな加算を設けるとしている。

 4.「制度の安定性・持続可能性の確保」では、介護保険制度の安定性・持続可能性を高め、全ての世代にとって安心できる制度を構築することを目指している。評価の適正化・重点化、報酬の整理・簡素化を挙げている。

 5.「その他」として、「書面掲示」規制の見直しや通所系サービスにおける送迎に係る取扱いの明確化、基準費用額(居住費)の見直しや地域区分が行われている。基準費用額(居住費)の見直し(令和6年8月施行)では、令和4年の家計調査によれば、高齢者世帯の光熱・水道費は令和元年家計調査に比べると上昇しており、在宅で生活する者との負担の均衡を図る観点や、令和5年度介護経営実態調査の費用の状況等を総合的に勘案し、基準費用額(居住費)を60円/日引き上げるとしている。

 今後も引き続き、介護報酬改定により、現場の環境や実践においてどのような影響があるのか、みていきたいと考える。

―編集後記―

 3月に入り、卒業シーズンを迎えたようで、はかま姿の晴れやかな笑顔の集団や卒業パーティに赴くにぎやかなスーツの集団に出くわすなど、新たな旅立ちを目にすることで、まぶしさを感じる瞬間が増えました。
 そんな妙に浮きたつ街を歩きつつ、写真のメロンソーダで一息つきました。私はシンプルに携帯でパチリと撮ったのですが、他のお客さんは皆、推しぬい(推しのぬいぐるみ)やアクスタ(アクリルスタンド)を並べるなど気合いの入った撮影をしていました。ぬいの角度など、自分の世界観を追及した余念のない撮影姿に「すごっ、強っ」という言葉が浮かんできました。
 出会いと別れの3月、それぞれの道に向け、それぞれのペースですすめるといいのではと思いました
(Harada)

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