済生会総研News Vol.63

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第62回 対象者の分類に伴う深刻な問題

 研究や政策においては、対象を類型化することが多い。日本の医療保険制度は、被雇用者、自営業者、高齢者等に分類されている。生活保護の被保護者の分析に当たっては、高齢者世帯、母子世帯、傷病・障害世帯、その他の世帯と分類されている。
 日本社会が比較的均一化していた半世紀前であれば、シンプルな分類で支障なかったが、今日では経済・社会状況が流動化・多様化し、同様な分類では不適当なことがたくさん生じている。
 第1は、主に政策面でみられるが、現在の社会保障制度の大半は、制度発足当時の分類を維持していることから発生する問題である。例えば厚生年金の対象者は、企業等の勤務者であるので、自営業者や農業従事者は加入できない。制度設計当時は、これらの人は、生産手段を持っているので、高齢になっても収入を得ることができたから、低額の年金で足りるとされたからである。
 しかし、農業や自営業の経営形態は70年でがらりと変わり、高齢になって生活を支えられない人が多くなった。また、パート、アルバイト、無業者のように厚生年金の被保険者になれない人が増加し、国民年金だけに依存する人がたくさん存在するようになった。このため、超高齢社会に入っている日本の高齢者の半数は、貧困世帯となっている。何らかの抜本的な制度改革を早急に実施しないと日本の将来は暗い。
 第2は、研究面でもみられるが、大くくりの分類で対象を捉えることから、例外的なマイノリティの存在は、無視や軽視されることが多いことである。
 性については、長い間、男女の区分だけだったが、今ではLGBTQのマイノリティの視点が必須である。性的マイノリティ問題の勉強を始めたのは、10年ほど前に関西大学で講演会講師に招かれたときに、当事者から生活体験をもとにした質問を受けてからである。仕事や生活面で深刻な差別を受け、独自の課題を抱えているので、これに焦点を当てた研究や政策が必要である。
 障害についても身体、知的、精神の3分類が以前から使用されている。しかし、大きな分類では各々の個別の障害の特徴がとらえきれない。内部障害と四肢の障害とは違った対策が求められる。対象者の少ないマイノリティの障害の場合、大括りの中で埋没してしまう。
 また、複数の障害分類にまたがる場合や分類された障害の谷間に落ちる障害がある。発達障害や重症心身障害などがこれに該当するが、ともすればこれらの研究や政策は、遅れ気味になる。
 分類化は、研究や政策に必要であるが、それに伴う問題を十分に留意しておかなければならない。

研究部門 済生会総研 客員研究員/ 慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 専任講師 吉村 公雄

医師の勤務状況、健康状況、職務満足度の関係に関する先行研究

 済生会保健・医療・福祉総合研究所が行った「済生会病院医師の働き方の実態と今後の在り方に関する研究」第2回医師調査では、勤務時間などの勤務状況に加えて、睡眠、疲労、心身の状態への不安、ストレスチェックの結果など医師自身の健康の状況、さらには、いわゆる職務満足度を質問している。このような医師の勤務状況、健康状況、職務満足度の関係について調査した先行研究はほとんど見当たらないが、最近発表された論文にその点を検討している研究があるので紹介し、今回の総研の調査結果と比較したい。
 その論文は2009年に41病院の臨床経験3年以上の医師614名を対象として行われた自己記入式質問紙調査による研究の報告で、有効回答405名分のデータが解析されたものである。測定された要因は、(1)「深夜勤務に伴う負担感」「仕事についての精神的負担感」「仕事についての身体的負担感」の3項目からなる主観的勤務負担感(論文では「勤務状況」と表現)、(2)「よく眠れない」など精神症状(論文では「精神的自覚症状」と表現)、(3)「ぐったりした疲れ」など疲労感(論文では「身体的自覚症状」と表現)、(4)「専門医が取得可能」など専門性の向上が可能な職場環境(論文では「キャリアを高められる環境」と表現)、(5)全体的職務満足度(論文では「職務満足」と表現)、(6)「患者にとってよりよい医療を提供している」など医療の質に対する自己評価(論文では「診療提供状況」と表現)の6種類であった。
 これら6つの要因間の関係が構造方程式モデリング(共分散構造分析)により解析され、以下のことがわかったと報告されている。a.主観的勤務負担感は、精神症状と疲労感の両方に正の影響を与えていた。b.疲労感は、全体的職務満足度に負の影響を与えていた。c.全体的職務満足度は、医療の質に対する自己評価に正の影響を与えていた。d.専門性の向上が可能な職場環境は、全体的職務満足度と医療の質に対する自己評価の両方に正の影響を与えていた。e.その他の要因間には有意な関連が認められなかった。
 総研の調査では、主観的な負担感ではなく客観的な勤務時間などの働き方を質問している点、勤務だけでなく家庭の負担も質問している点が異なるが、先行研究において勤務の負担感が疲労感を通じて職務満足度に負に作用していた点は、総研の行った研究の結果と非常によく一致していると言えるだろう。
 また、総研の調査では、専門性の向上が可能な職場環境等については質問していないが、この先行研究におけるその他の要因はほぼ質問しており、特に勤務の負担、睡眠の状況、自身の健康状態などについては詳しく質問していること、標本数が倍以上あることから、今後、総研のデータも構造方程式モデリング等を用いて、多因子間の関係を明らかにすることで、病院経営にとって有益な知見を得ることが出来ると期待される。

<文献>
 宇城令「医師の診療提供状況に対する勤務状況,ストレス反応,職務満足,キャリア支援との関連」日本医療・病院管理学会誌59巻1号p.11-22,2022年

人材開発部門

看護室研修報告 看護室 室長 樋口幸子

 看護室では、7月に副看護部長研修、新任看護師長研修を開催した。
 今年度の研修は、すべてオンライン研修である。
 昨年度までは、病院管理者以外は、参加できなったが今年度から対象者の枠を広げ訪問看護ステーションや福祉施設においても希望する方がいれば参加可能とした。まだわずかな人数だが一緒に学びを共有できている。
 どちらの研修もまずは、炭谷理事長より「看護に関する済生会原論」の講義を受け、済生会に務める看護職としての使命を改めて認識することから始まった。
 副看護部長研修は、参加者68名で「看護部長のマネジメント」脇副院長(併)看護部長(福井)と外部講師の高田誠氏より「人材育成と経営参画」というテーマで講義を受けた。組織における人材育成の具体的な課題の認識と育成する方向性を間違えないことが組織の経営に貢献できる人づくりとなること、組織を支えることができるということが講義の鍵であった。特に高田氏から目標管理シートを頂き、受講生一人ひとりがそのシートに従って自部門、また自分自身の課題・目標を整理し具体的な実践を行い12月にフォローアップとしての発表会を設けることができた。現在、コロナ感染の拡大、天災により従来の組織運営が進まない状況ではあるが受講生一人ひとりが各施設で役割遂行していくための重要な研修となったと思う。
 また、新任看護師長研修は、68名の受講予定だったが日々のコロナ感染者の対応により最終的には、59名の受講となった。師長経験0年~1年未満が8割以上となった今年度の研修受講者であるが、看護師歴の平均は24年であった。講義は、「看護部長のマネジメント」岩崎看護部長(唐津)、「労務管理」加藤社労士、「人材育成」栗原講師、「ポジティブマネジメント」市瀬講師で改めて看護管理者としての基本を習得することができたと思う。
 コロナ禍3年目となり従来の施設における看護管理の遂行が難しい状況ではあるが研修で学んだことを今後の実践にかしてもらいたい。

指導医ワークショップ3年ぶりの対面開催 事業推進課

 新型コロナで延期やオンライン開催となっていた全国済生会臨床研修指導医のためのワークショップが約3年ぶりに対面での開催を実現した。
 第47回となる本ワークショップは7月30~31日、2日間にわたり今治病院主催により大阪市のクロス・ウェーブ梅田で開かれ、19病院から27人が参加した。
 松野剛院長(今治病院)が開催責任者となり、チーフタスクフォースの船﨑俊一・川口総合病院循環器内科部長・リハ科部長のほか、本会病院から参加した7人のタスクフォースが受講者をサポート。事務局は今治病院のほか次回主催予定の長崎病院、次々回主催予定の水戸済生会総合病院、本部職員が務めた。
 全国で新型コロナの感染者数が急増する中、特別講師である医師臨床研修専門小委員会の塩出純二委員長(岡山済生会総合病院院長)や、同外部委員の小西靖彦先生(静岡県立総合病院院長)が病院でのコロナ対応のため、オンラインに変更、タスクフォースも1名が勤務先からの参加を余儀なくされるなど、コロナの影響による変更が相次いだが、主催病院である今治病院スタッフやタスクフォースの先生方の柔軟かつ適切な対応により、無事、開催することができた。
 内容は、主なテーマはとして、研修医が行なう研修プログラムの立案、目標設定、研修方法(方略)、評価等、指導に必要な知識と技術についてグループワークで学んだ。

また、今回からeラーニングによる事前学習も導入され、事前に内容の理解度を上げることも試みた。今後も効果的な導入を検討していきたい。
受講者からは「指導医として実践にかせる多くのことを学べた」「適切で丁寧なタスクの先生のサポートがあり、理解を深めることができた」といった声が寄せられた。
平成18年2月の第1回開催以来、修了者は1365人に達した。

―編集後記―

 お盆も過ぎ、通勤時間帯の電車もやはり混雑してきました。路線によって乗客の傾向があると思うのですが、電車内での過ごし方にいくつか特徴があります。
 私の利用している路線では、スマートフォンを手にしている方が半数くらいで、ゲームをしている動きやマンガを読んでいるしぐさが目につきます。一方、スマートフォンではない層をみると、中高生は教科書や参考書を手にして、必死に数学や英語の勉強をしている姿が目につきます。さらに、大学生や社会人も、文庫本や資格試験の本を手にしている方が多い気がします。あとはオーソドックスに新聞を器用にミニサイズに折りたたみながら読んでいる方もいます。
 社会状況の変化として、電子書籍を利用している方が増えているようですが、混雑した空間でも片手で器用に本を読みこなしている姿をみると親近感が湧く気がします。ちなみに私はそんな車内をウォッチングしていることが多いです。
(Harada)

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