済生会総研News Vol.50

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第49回 研究は疑問から始まる

 講演で話をさせていただくことがある。講演時間は、90分が多いが、準備には10倍以上の時間をかける。一度話したテーマであっても、新たな気持ちで準備する。貴重な時間を使って聞きに来てくれるのだから、「聞いて良かった」と何らの収穫を得て、帰ってほしいからだ。
 講演終了後司会者が、会場からの質問を受け付けることがある。私は、この時間がたまらなく嫌である。あらかじめ「さくら」の質問者が予定されている場合以外は、会場内はシーンと不気味な沈黙が走る。
 情熱を傾け、用意したものをすべて伝えきったという達成感が、この静寂によって打ち消されたように感じる。「私の話が分からなかったからだろうか」と要らぬ詮索をする。司会者は、質問がないのでは講演者に失礼だと思うのだろうか、どうでもよいような質問をすることがある。このような気配りは、講演者にはちっとも有り難くない。聴衆も早く席を立ちたくてうずうずしている。
 なぜ質問が出ないのだろうか。聴衆が問題意識を持って講演に臨んでいないからである。常日ごろから抱えている問題を解決するためのヒントをつかむために講演に参加した時は,聞く姿勢が全く異なる。解決の手がかりが得られたときは、それでよし。得られなかったときは、質問を演者にぶつけたくなる。回答次第では質問が次々に繰り出される。
 私にとってこんな質問は、嫌ではない。自分では気が付かなかったことが教えられるからである。
 ある講演会で「ソーシャルインクルージョンとノーマライゼーションの違いは?」と質問されたとき、それまで研究しなかった観点で、大変良い質問だった。これを機会に両者の歴史的沿革を深めることができた。
 研究は、疑問から出発する。疑問が明確化されたときは、解決策の半分が見えたようなものである。小学校の国語の教科書でフレミングがペニシリンを発見する物語を読んだことがある。細菌を培養した皿にできたアオカビの周りの細菌が死んでいたことを不思議に思ったことが、ペニシリン発見のきっかけになった。一つの疑問が、たくさんの人間の命を救うことになった。
 このようにノーベル賞級の研究から小学生の夏休みの研究まで優れた研究は、疑問から始まる。
 医療や福祉の研究でも疑問を常に持ち、解決方法を研究していきたいものだ。そうでなければ、有用性や独自性のある仕事はできない。
 疑問は、他人から提供されることもある。済生会の病院や施設から済生会総研に寄せられる質問は、この塊である。これが多ければ多いほど済生会総研の研究は、発展していくだろう。

研究部門 済生会総研 上席研究員 持田勇治

済生会総合研究所報(第1号)の創刊について

 平成29年2月25日済生会保健・医療・福祉総合研究所は発足した。令和3年6月済生会総研のこれまでの活動内容を取りまとめた「済生会総合研究所報(第1号)」を創刊した。今回その内容を紹介する

巻頭言
 「研究所報創刊に当たって」(済生会総研所長 炭谷 茂)
トピックス
 「医療の質の評価・公表推進事業」(済生会総研所長代理 松原 了)

研究部門活動報告

テーマ1 :
診療サービス指標の作成と公開
テーマ2 :
DPC 機能評価係数Ⅱの分析
テーマ3 :
地域包括ケア病棟運用最適化の検討
テーマ4 :
医療・福祉の質指標の整備と分析評価、活用に関する研究
テーマ5 :
なでしこプランの展開と課題―地域の特性に応じた各地の取り組みから―
テーマ6 :
済生会独自の地域包括ケアモデルの確立に向けて
―地域での暮らしを支えるためのまちづくり―
テーマ7 :
福祉施設における看取りの現状と課題
テーマ8 :
重症心身障害児(者)施設におけるアセスメントに関する研究
科研費 :
福祉施設における被災時の「受援」に関する研究
終了済の研究課題 :
済生会 DCAT の取り組みにおける現状と課題
―組織化と派遣職員へのサポート―

研究部門活動成果
□入院した週内の薬剤管理指導料の実施率 入院した曜日と実施率についての考察
□済生会は日本の急性期入院医療にどのように関わって行くのか
   ―DPCデータ分析の結果より―
□入院中院内感染が死亡退院リスク、在院日数、医療収益に与える影響
   ~済生会74病院のDPCデータ分析から見えてきたこと~
□地域での暮らしを支える医療と福祉の実践としてのなでしこプランとソーシャルインクルージョン―済生会が果たす役割と意義
□重症心身障害児(者)施設における新規入所児者の実態―入所理由に焦点をあてて

人材開発部門活動記録

2017年 研修会・ワークショップ
10回開催
2018年 研修会・ワークショップ
26回開催
2019年 研修会・ワークショップ・セミナー
21回開催
2020年 研修会・セミナー
7回開催
2021年 研修会
3回開催

 研究部門では医療・福祉中心とした研究を進めており、人材開発部門においては多岐にわたる分野への研修会、ワークショップ、セミナー等を通じて人材開発を進めている。
 当研究所報については、すでに各支部・各施設にすでに発送している。また、インターネット済生会総研ホームページ、なでしこネットワークへの掲載も予定している。

 今後とも皆様のご指導、ご協力のほどお願いします。

人材開発部門

副看護部長研修

 令和3年度副看護部長研修が7月1、2日に本部で開かれ、新任の副看護部長16人を含む56人がオンラインで参加した。
 1日目は、炭谷茂理事長が基調講演で、「新型コロナが長期化している状況こそ済生会は地域包括ケアのトップリーダーとして総合的な医療・福祉サービスを提供し、病院・福祉施設機能の拡大に努めなければならない」と訴えた。
 中央病院副院長兼看護部長・樋口幸子氏は「看護部長のマネジメント~済生会看護の歴史と展望~」と題し、同院の取り組みを紹介、「生き生きと輝く看護師を育てる要は副看護部長である」と言及した。
 2日目は、昭和大学大学院保健医療学研究科准教授・的場匡亮氏が、「人材の活用と病院経営への参画」の講義と、「2040年以降社会保障制度の課題」「COVID-19に関連して行政、地域等に対して実施した内容」などをテーマに受講者と意見交換を行ない、的場氏は、「成功体験や失敗事例をスタッフで共有し、自院の強みを引き出すことが大切である」と訴えた。
 また、「新型コロナ等の災害危機管理」「副看護部長の役割」についてグループワークを実施。樋口氏のほか、脇和枝(福井)、檜山千景(水戸)、松本久美恵(香川)、岩﨑理佳(唐津)の4看護部長が受講者をサポート。「副看護部長は、組織横断的に自由に動ける存在。多職種との連携を強化してほしい」「看護部長と同じ方向を向いて、一枚岩で意思決定に加わってほしい」などとエールを送った。

―編集後記―

 研究部門診療分野では、令和2年度DPCデータを使用した診療サービスの指標を作成中です。年々この指標に関して多くの問合せやご意見をいただいています。できるだけ早く指標を完成し、病院へ届けたいと考えています。

(持田 勇治)

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