済生会総研News Vol.44

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第43回 貧困の研究

 今日のアカデミックの世界では貧困研究は、人気がない。大学では貧困問題を専門にする研究者は、少なくなってしまった。
 昭和20年代、30年代の社会福祉学で最も重要な分野は、貧困問題だった。数多くの研究者が優れた研究を行い、著書や論文が発表された。
 旧厚生省でも生活保護が最重要分野で、財政当局との予算折衝のヤマ場は、生活保護予算だった。しかし、国民の所得水準の向上とともに、被保護者は減少し、生活保護行政のウエイトは、低下していった。
 私が生活保護行政を担当する保護課長になったのは、平成元年の時である。保護率は、漸減傾向だった。大学の研究者は、高齢の人が主になり、若手の研究者は少なくなっていた。若い研究者は、高齢者福祉論などを選択した。
 そのころ月刊誌「文芸春秋」に医事評論家の厚生省の内幕話が掲載された。その中で「生活保護行政は、地盤沈下し、保護課長は、以前は花形ポストで、事務次官候補が就任したが、今は格落ちの人間が就いている。」と書かれていた。人事的にはそのとおりだが、生活保護は、当時も変わらずに重要だったので、この医事評論家の認識は、全く間違っていた。確かに研究者や政治家、国民の関心は、貧困問題から高齢者福祉に移った。この傾向は、今日も続いている。
 しかし貧困問題は、次のように変化し、むしろ重要性は増大し、日本社会を根底から揺さぶっている。
 第1は、量的な増加である。保護率で見ると、1995年に0.7%と過去最低を記録したが、その後、漸増傾向にある。高齢者の貧困の増加が主な理由だが、低年金の高齢者人口増によりこの傾向は、継続していく。
 さらに新型コロナは、経済の低迷を長期化させ、産業構造が激変するので、非正規雇用の従業者や未熟練労働者は、失業に追い込まれる。失業期間は、長期になり、生活保護受給者は増加していく。すでに最近の公表データからでもこの兆しが読み取れる。
 第2は、貧困と社会的排除と孤立が結び付き、複雑な社会問題を発生していることである。刑務所出所者やホームレスは、社会から排除され、一層貧困になる。単身世帯の高齢者や引きこもりの人は、貧困の状態で孤立するという問題が生じている。
 第3は、貧困が外部から見えにくくなったことである。地域のつながりの弱体化、プライバシーの尊重などが理由である。このため貧困と関連性が強い孤立死、DV被害、児童虐待などの発見が遅れる。
 このように貧困問題を正面から捉え、解決しないことには日本の国の将来は危うい。昭和20年代に展開されたような実証的な貧困研究の必要性が高まっている。

研究部門 済生会総研 上席研究員 持田 勇治

入退院支援加算の算定状況について

 入退院支援加算(A246)は、済生会経営情報システムのDPCデータ(以下:「済生会DB」という。)で調査した結果、全退院患者の約30%に実施されていました。

1.入退院支援加算
 「入退院支援加算」は、患者が安心・納得して退院し、早期に住み慣れた地域で療養や生活を継続できるように、施設間の連携を推進した上で、入院早期より退院困難な要因を有する患者を抽出し、入退院支援の実施について評価するものです。


(診療報酬点数表)
A246 入退院支援加算(退院時1回)
1 入退院支援加算1
  イ 一般病棟入院基本料等の場合 600点
  ロ 療養病棟入院基本料等の場合 1,200点
2 入退院支援加算2
  イ 一般病棟入院基本料等の場合 190点
  ロ 療養病棟入院基本料等の場合 635点
3 入退院支援加算3 1,200点

 「入退院支援加算1・2」は、退院困難な要因を有する入院患者であり,在宅での療養を希望する者に対して退院支援(退院困難な要因、他院に係る問題点・課題等、退院に向けた目標設定、支援機関、予想される退院先・退院後の福祉サービス及び看護師・退院支援員・社会福祉士等の共同カンファレンスの実施等)を行った場合に算定が可能です。また、「入退院支援加算3」は、新生児特定集中治療室管理料(A302)、新生児集中治療室管理料(A303の2)等を算定した者で入退院支援を行った場合に算定することができます。

2.入院前、退院後の居住地
 入退院支援加算の実施患者の入院前の居住地と退院後の居住地の状況について調べてみました。使用したデータは、済生会DBの2018年4月1日以降に入院し2018年4月~2020年3月に退院した患者のデータ[入院患者総数819,806人・入退院支援加算実施患者数240,811人(29.4%)]を使用しました。居住地のデータは済生会DBのDPC提出様式1号の居住地データを使用しました。

(1)入院前の居住地

 入院前の居住地は「家庭からの入院」(91.1%)がもっとも多く、入退院支援加算の実施は「他の病院・診療所の病棟からの転院」(45.2%)、「介護施設・福祉施設に入所中」からの入院(53.1%)と家庭以外からの入院患者に対する入退院支援加算の実施率が高い結果でした。

(2)退院後の居住地

 退院後の居住地は、「家庭への退院」が、当院に通院(67.2%)・他の病院・診療所に通院(13.0%)・その他(3.4%)を合わせて83.6%ともっとも高く、入退院支援加算の実施は、「他の病院・診療所への転院」(67.6%)、福祉施設等(「介護老人保健施設に入所」(64.0%)・「介護老人福祉施設に入所」(60.6%)・「社会福祉施設、有料老人ホーム等に入所」(63.8%))が多く、家庭以外への退院患者に対する入退院支援加算の実施率が高い結果を示しました。

(3)入院前の居住地・退院後の居住地
 入院前の居住地・退院後の居住地の違いを、①全体、②入退院支援加算実施の別に構成比で比較してみました。入院前の居住地、退院後の居住地の項目を次のようにまとめました。

①入院前居住地と退院後居住地の構成比(全 体)

②入院前居住地と退院後居住地の構成比(入退院支援加算実施)

□自宅への退院:自宅からの入院数に対して自宅への退院数が大きく減少している(△7.5㌽)
入退院支援加算実施も大きく減少している(△12.6㌽)

□他院への退院:他院からの入院数に対して他院への退院数が増加している(+4.0㌽)
入退院支援加算実施も大きく増加している(+11.9㌽)

□介護施設への退院:介護施設からの入院数に対して介護施設への退院数が減少している(△0.2㌽)
入退院支援加算実施は増加している(+0.9㌽)
入退院支援加算の実施は、「他院」・「介護施設」への退院に向けて、大きな効果を生んでいるものと考えられます。


3.DPC症病名別分析
(1)DPC症病名別入退院支援加算実施状況
 調査対象データは、済生会DBの2018年4月1日以降に入院して2018年4月~2020年3月に退院した患者のデータでDPC包括点数にて算定した患者のデータを使用しました。DPC診断群分類別の集計では、症病名別の集計(MDC6)としました。 入退院支援加算の実施患者の入院前の居住地と退院後の居住地の状況について調べてみました。使用したデータは、済生会DBの2018年4月1日以降に入院し2018年4月~2020年3月に退院した患者のデータ[入院患者総数819,806人・入退院支援加算実施患者数240,811人(29.4%)]を使用しました。居住地のデータは済生会DBのDPC提出様式1号の居住地データを使用しました。

①入退院支援加算算定率の高いMDC06

最も実施率の高いMDC06は股関節・大腿近位の骨折で72.3%でした。非外傷性頭蓋内血種、その他の糖尿病(糖尿病ケトアシドーシスを除く・末梢循環不全あり)と続いています。


②入退院支援加算算定数の多いMDC06

最も実施件数の多いMDC06は脳梗塞で肺炎等、心不全等と続いています。


(2)DPC症病名別入退院支援加算実施による入院日数の影響
 入退院支援加算が実施された場合は、入院日数が短縮されるものと考えられます。そこで入院支援加算を実施した場合と未実施の場合を対比しました。対比は診断群分類ごとに、そこに定められている入院期間Ⅱまでの日数との乖離を指数化(=乖離指数)して比較しました。具体的には次のとおりです。

(例)乖離指標: 済生会の入院日数の合計 / (入院期間Ⅱの日数)

この場合(0.56+0.43+0.45)/3 = 0.48となります。乖離指数は1を下回っていれば全国のDPC病院の入院平均日数よりも短い入院期間ということになります。

 入退院支援加算実施による入院日数への影響は、想定外に入退院支援加算実施患者の入院期間が長いという結果となりました。入退院支援加算実施の効果を確認するためには、同じ入院患者での入退院支援加算の有無のデータを作成して入院短縮に効果があるのかを判断すべきでしたが、現実にはそのようなデータ作成を行うことができませんので、実際に実施した患者と未実施の患者のデータの比較になっています。この結果から入退院支援加算を実施した患者は退院困難な要因を有する入院患者が多く、入院期間の長くなる要素の強い患者が多かったのではないかと考えられます。

―編集後記―

 アレルギー性鼻炎の症状は、日本人の5人に1人がかかっている国民病です。
「鼻水」、「鼻づまり」、「くしゃみ」の3つの症状が主な症状で、原因は原因物質であるアレルゲン(花粉・ハウスダスト等)を鼻から吸い込み、鼻の粘膜から体内に入りアレルギー反応を起こします。 私も20数年前からアレルギー性鼻炎でこれからは「はなたれシーズン」に突入します。アレルギー症状で「マスク警察」等への誤解を生まないため、このようなバッジがインターネット通販で販売されていました。このバッジのデザインは可愛いいのですが、早くこのようなものがなくても、普通に生活できる世の中に早く戻ればいいなと思いました。

(持田 勇治)

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