済生会総研News Vol.43

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第42回 政治の判断基準

 コロナの感染拡大が止まらない。国内の感染者数は、令和2年12月18日現在で19万4千人余、死者は2,854人で連日増加していく。
 現政権は、感染対策と経済の両立を基本としているが、狙い通りには効果が表れていない。「二兎追うものは一兎も得ず」ではないかと、GoTo事業に批判が集中している。政府は、GoToが感染拡大に影響を与えている証拠はないとしてGoTo事業を継続し、経済に重点を置いていたようである。
 しかし、12月14日、年末からの全国一斉停止を発表し、感染対策に重点を切り替えた。現政権は、感染対策と経済の間で揺れている。
 健康と経済の両立は、理想的であるが、現実的には実現は難しい。今回の状況は、私には既視感がある。それは1960年代、日本が水俣病、四日市喘息など深刻な公害に苦しめられた時代である。
 当時の公害基本法では「生活環境の保全については、経済の健全な発展との調和が図られるようにするものとする。」といわゆる経済調和条項が定められていた。公害対策と経済の両立を目指していたが、現実は経済重視になり、公害被害を深刻化させた。その頃も「工場からの排出が健康被害を起こしているという証拠はない。」と、経済官庁の幹部や著名大学の研究者が、繰り返し発言していた。
 メディアによると、今回の突然の政策変更の大きな理由に内閣支持率の急落があったという。
 これに関連して思い出されるのは、ケネディ米大統領のことである。
 ケネディが39歳の時に「勇気ある人々」を出版し、ピューリッツアー賞に輝いた。これはケネディが脊椎の大手術で入院中に執筆した本である。次の選挙を気にせず、多数に媚びずに自分の信念を貫徹した8人の上院議員を描くとともに、ケネディ自身の政治信念を著した。ケネディは、本書の執筆によって先輩議員の行動を学ぶことで、自分のこれからの政治信念を固めたのではないだろうか。
 大統領に就任してからはキューバ危機、東西冷戦緩和、平和部隊の創設を始め、精神障害者・知的障害者の人権の向上、公民権の確立等、平和と人権の向上について歴史的転換をする政策にまい進した。
 私もそうだったが、世界の若者は、ケネディの行動に強烈な影響を受けた。しかし、これによって多くの敵を作り、最後は凶弾に倒れる結果になったが、ケネディは、常に圧力を恐れない不動の政治信念による判断基準を持っていた。
 ケネディは読書家で知られたが、優れた指導者は、読書によって歴史観や世界観を深め、判断基準を磨いている。
 これはあらゆる分野の組織にも当てはまる。済生会総研は、正しい判断に資する研究成果を提供していきたい。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田奈津子

ソーシャル・インクルージョンとソーシャルファームシンポジウム参加報告

 人権文化を育てる会主催のシンポジウム「ソーシャル・インクルージョンとソーシャルファーム~東京都ソーシャルファーム条例支援事業について~」についての参加報告をいたします。このシンポジウムは人権週間(12/4-10)に行われてきたもので、今年は感染症対策のため定員を絞り、十分な換気の下、集合にて実施されました。以下、内容について報告をいたします。

シンポジウム概要
 はじめに、炭谷茂氏(人権文化を育てる会代表世話人、社会福祉法人恩賜財団済生会理事長)によるソーシャル・インクルージョンとソーシャルファーム、さらに東京都のソーシャルファーム推進条例の活用に関する話があった。ソーシャル・インクルージョンについては、障がい者の就業や社会参加など古くからある問題や、児童虐待、コロナ禍でネットカフェなどの居場所を失ったホームレスなど新たな問題等に対しての必要性が説かれた。また、世界各国においても社会的排除などの課題解決に向けて法整備が進み、ソーシャル・インクルージョンの推進に向け、就労支援が大きな要素として取り上げられていることが示された。
 その具体的な取り組みがソーシャルファームであり、東京都でも条例を整備し推進されており、障がい者などの当事者と健常者が一緒に働く、「誰一人取り残されることなく誇りと自信を持って輝く社会の実現」を目指しているという。都の認証制度では、補助金を出す手当型でなく、官民で一緒に仕組みを作る伴走型をもとに、採算の確保や商品開発、経営者の養成など課題はあるが、動き出しているという報告であった。
 次に、田嶋康利氏(日本労働者協同組合連合会専務理事)により、地域における取り組みに関する報告がなされた。「労働者協同組合とは、働く人や市民がみんなで出資し、自ら経営に参加して、生活と地域に必要とされる仕事をおこす協同労働の協同組合」であるとし、地域社会の主体者として活動しているということであった。具体的な事例として、商店のない地域にコミュニティカフェを立ち上げた取り組み、障害やひきこもり経験など、就労に困難を抱える人と共に働く場としての高齢者向けデイサービスの運営など、それぞれの地域のニーズに応じて事業を立ち上げ、実施していることが紹介された。
 最後に、風間美代子氏(認定NPO法人多摩草むらの会代表理事)から、就労支援事業やグループホーム、一般相談支援などの取り組みが紹介された。もともと障がい者の家族が集まり発足した会であり、農作物の生産・販売、レストランの運営、公園等の清掃など多様な事業を行うことで、利用者の特性にあわせた就労が可能になっている。障がい者の支援だけでなく、地域雇用の場としても大きな役割を担っており、スタッフとして、高齢者、ひきこもりやニートの方、一般就労を目指す利用者を雇用するなどソーシャルファームの機能を発揮しているのも大きな特徴であるという報告であった。
 その後、ディスカッションがあり、コロナ禍での環境の変化や不安の影響を受けやすい、子どもや障がい者などへの支援についても言及がなされた。不安から休みがちになるなど、メンタル面でのサポートなどが求められていることが話された。一緒に居場所をつくることや一緒に働くなど、地域で共に暮らすという視点を持つことで、持続可能な地域づくりを目指せるのではないかということであった。

人材開発部門

薬剤部(科・局)長研修会

令和2年度薬剤部(科・局)長研修会を12月4日、本部で開催しました。本部会場には10病院が参集し、53病院がZoomによるオンラインでの参加となりました。

 炭谷理事長の基調講演「済生会経営の基本的方向~新型コロナによる転換期での済生会の進む方向~」では、コロナ下において済生会が行うべき3つの基本方針や、困難を乗り越えるために必要な経営基盤の強化などについての方針が示されました。松原理事の本部連絡事項では、本会施設の経営状況や、施設の統廃合に備えた再建・統廃合基金(仮称)の検討状況などについての説明がありました。植松特別参与からは済生会共同治験に関する報告がありました。
 講演では、一般社団法人 医薬品安全使用調査研究機構 設立準備室長 土屋文人氏より「改正薬剤師法・薬機法が求める薬剤師像-改正法への対応と留意点-」と題して詳しく解説いただきました。会場参加者だけでなくZoom参加者との質疑応答も行われ、活発な意見交換を行うことができました。

―編集後記―

 今年は、“日常”や“普通”について見つめなおす1年でした。それと共に、人とのかかわりや気づかいに、よりありがたみを感じる1年だったように思います。
 来年はどんな年になるのでしょうか。引き続きよろしくお願いいたします。

(Harada)

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