済生会総研News Vol.37

総研News 一覧はこちら ≫

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第36回 人格と学問

 しばしば大学での教授などによるセクハラ、パワハラがメディアで報じられる。教壇で社会的弱者に対する差別発言を確信犯的に繰り返す教師もいる。近年はアカハラという用語が、一般化したが、大学の教師による不祥事が目立つ。
 学問は、人格を錬磨するためだと言われた時代があった。江戸時代の藩校は、これが主目的だった。四書五経の素読での人間教育に力点が入れられた。
 松下村塾は、松陰という人間と塾生が同じ目線でぶつかりあう教育だった。2年間という短い期間だったが、この教育が日本の新時代を拓ひらく人物を輩出した。このような教師が、今の日本の学校にどのくらいいるのだろうか。
 学問と人格の関係は、今日では問われなくなった。学問の成果さえ出せば、人格は問われないという風潮が一般化した。
 かつて東大総長だった南原繁や矢内原忠雄の発言は、社会に対して大きな影響力を与えた。学識の深さだけでなく高潔な人格が、人々を引き付ける。南原繁の「理想は、一人の青年の夢想ではなく、また単なる抽象的な概念でもなく、われわれの生活を貫いて、いかなる日常の行動にも必ず現実の力となって働くものである」という名言が残されているが、彼の人物が想像できる。
 今ではこのような学者は、少なくなってしまった。
 ノーベル賞は、受賞者の人格を問われないと聞いたことがある。純粋に業績だけで評価される。数年前、あるノーベル賞受賞者と都内のシンポジウムで一緒になったことがある。日本では人気があり、来日して講演をすることがあった。しかし、彼の行動は、母国を始め外国では批判を受けていたが、私も、発言から人格的に違和感を禁じえなかった。
 多くの研究者は、大学等で教育に従事する。教育者は、人格が問われる。大学で非常勤ではあるが、30年以上教育に当たってきた私は、学生に対する影響を常に意識している。背筋をぴんとして悪い影響だけは与えまいと注意している。
 一方、研究の方は、人格は問われないのだろうか。人権・倫理や価値判断が伴う研究分野は、人格が大きく影響する。医学や社会福祉も該当する。学問の中でも社会福祉分野ほど研究者の人格が、大きな影響を受ける分野はない。宗教的バックグランドを有する人、困窮を極める人生を経験してきた人などで、人格が優れた人の研究は、含蓄に富み、教えられることが多い。
 戦後の社会福祉学の萌芽期では、研究者の層が薄かったので、哲学、歴史学、経済学等の他分野の研究者が社会福祉分野に移った。もちろん福祉問題に関心が強く、人格的に立派な人も多かったが、本の世界にとどまっている研究も混じっていた。
 社会福祉の研究は、現実の世界に対して影響するだけに研究者の人格が、常に問われなければならない。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田奈津子

社会福祉士養成に関する動向

1.社会福祉士とは
 済生会総研の一員となってから、社会福祉士として活躍する各地の支部・施設の職員の方ともお目にかかることが増えてきているが、その一方で社会福祉士に関する質問や養成などの課題について聞かれることもあった。そこで、今月は社会福祉士について取り上げてみたい。
 目まぐるしく変化する社会情勢の中、そういった社会だからこそ活躍しうる専門職が存在する。そのひとつが社会福祉士である。社会福祉士とは、「社会福祉士及び介護福祉士法」(昭和62年)において位置づけられた国家資格であり、「専門的知識及び技術をもつて、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整その他の援助を行うことを業とする者」(第2条)と定義されている。つまり、人びとの抱える多様な生活のしづらさに向き合い、さまざまな専門職や人々と連携しながら、日常生活を支援する役割を担っている。

2.社会福祉士のカリキュラム改正
 社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会報告書(平成30年3月)では、地域共生社会の実現に向け、「複合化・複雑化した課題を受け止める多機関の協働による包括的な相談支援体制」や「地域住民等が主体的に地域課題を把握して解決を試みる体制の構築」のためのソーシャルワーク機能を発揮できるような社会福祉士養成内容の見直しについて指摘されていた。その後、社会福祉士養成課程における教育内容等の見直しが行われ、令和2年3月6日に一部改正された(図参照)。
 主な改正点について以下に触れておく。
 ① 地域共生社会に関する科目「地域福祉と包括的支援体制(60時間)」の創設
 ② 司法領域の科目「更生保護(15時間)」から「刑事司法と福祉(30時 間)」への拡充
 ③ 実習時間180時間から240時間に増やし、2か所以上の施設での実習実施
 ④ 地域における多様な福祉ニーズを学べるよう実習施設の拡充(地域若者サポートステーション等)
 この他、科目名として「相談援助」が「ソーシャルワーク」へと変更されている。また、社会福祉士養成の特徴でもある多岐に渡る科目について、これまで選択制の科目だったものも必修化し、すべての内容を網羅することも大きな改正点である。

3.社会福祉士養成の今
 社会福祉士等の養成校の集まりである日本ソーシャルワーク教育学校連盟は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会福祉士養成課程への影響についての緊急調査を実施し、速報を出している。講義科目などは遠隔授業の実施などの取り組みなどができているが、実習については調査時点(4月30日)では、7月以降予定通り実施が約3割にとどまっていた。6月に入り、養成校の教員と話した際、感染者の少ない地域では実習の実施予定の傾向があるが、首都圏の養成校では学内実習に切り替えざるを得ないようであった。実習で得られる現場での学びや気づきを今年は体験できない学生が多いことから、養成校での学びの工夫が求められているようである。

4.まとめ
 これまで、社会福祉士養成に関する動向について述べてきたが、養成校での学びをその後どういかすのかがさらに重要になってきている。日本社会福祉士会による平成30年度『ソーシャルワーク専門職である社会福祉士のソーシャルワーク機能の実態把握と課題分析に関する調査研究事業報告書』においても、ソーシャルワーク機能の発揮が十分でないことが課題とされている。つまり、資格取得後の職場での研修やスキルアップをどのように構築するかが問われているといえよう。研究を通して、寄与できればと考える。

―編集後記―

 最近、2020年の上半期のヒット曲や商品などの紹介を目にするようになりました。もうそんな時期なのかと驚きつつも、先月と打って変わって混雑した通勤時の電車内で、今年の流行語や今年を表す漢字一文字は何になるだろうかと思いをはせる今日この頃です。

(Harada)

Adobe reader

PDFファイルをご覧になるためには Adobe Reader が必要です。
お持ちでない方は、 Adobe Readerをダウンロードしてください。