済生会総研News Vol.33

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第32回 国際機関の権威と脆弱性

 日本人は、国際機関に対して潜在的に信頼感を持っていないだろうか。
 私は、小・中学校の社会科の授業で国際連合が世界平和維持のため重要な役割を果たしていると教えられた。国際連盟が無力で、第2次世界大戦の勃発を防止できなかった反省に立って、国際連合を設立したことを学んだので、国際連合に漠然とした信頼感を幼心に抱いた。
 当時、国際連合事務総長は、スウェーデン出身のハマーショルドだった。1953年に就任した彼は、朝鮮戦争、スエズ動乱、コンゴ内戦の解決のために獅子奮迅の活躍をし、着実な成果を上げたので、国際連合を崇拝されるに値する存在にした。
 社会保障の分野でも国際機関は、大きな影響力を発揮してきた。第2次大戦後の福祉国家の設計図は、1942年に出されたべヴァリッジ報告とILOの「社会保障の途」によって描かれたが、ILOは、労働者の地位の向上にとどまらず社会保障全般にわたって大きな貢献をした。
 ILOは、1952年に「社会保障最低基準条約」(第102号)を採択した。医療給付、疾病給付、失業給付など9部門について国が保障しなければならない最低基準を定めたものである。日本は1976年に批准したが、旧厚生省に勤務していた時に、この批准作業の末席に参加した。批准に当たっては、基準を達成していない部門の改善に議論が集中したが、この条約がその後の社会保障充実に大きな推進力になった。
 同様にWHOも世界の保健医療の発展に貢献した。WHOで日本人の蟻田功は、天然痘撲滅プロジェクトリーダーとして活躍し、1980年には天然痘根絶宣言までに至らせた。WHOが人類の健康のために残した金字塔である。
 しかし、近年、国際機関の権威が揺らぎ始めている。大国の利害が、露骨に正面から主張される。気候変動枠組条約締約会議が激論の末まとめたパリ協定は、トランプ大統領の脱退表明によって協定の効果を減衰させている。
 また、今回の新型コロナウイルス感染についてWHOの対応に世界各地から厳しい批判が、噴出している。国際感染症対策の司令塔のWHO事務局長は、中国に配慮したのか、1月30日の記者会見で「中国の対応は過去のないほど素晴らしい。中国の対応は感染症対策の新しい基準を作った」として、「他の国も中国の対策を見習うべきだ」と発言したのは、いかがだろうか。
 グローバル化の勢いは、さらに激化していく。国家や民族間の対立は、激しくなり、一触即発で大規模な軍事衝突が起こりかねない。保健、労働、環境、災害など国際的に解決しなければならない課題は、山積している。
 第2次世界大戦直後は人類の希望の星だった国際機関は、かつての栄光を取り戻してほしいものだ。済生会総研は、研究という手法で国際社会に寄与していきたい。

研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭

Ⅰ.第72回済生会学会 シンポジウム「済生会が目指す地域包括ケア」

 2月9日(日)第72回済生会学会において「済生会が目指す地域包括ケア」(座長:山口直人済生会総研研究部門長)と題して、シンポジウムが行われた。

 発表者は、済生会総研の原田奈津子上席研究員、特別養護老人ホームめずら荘生活相談室主任生活相談員・森田亜希氏、新潟病院健診センター副センター長(新潟市医師会地域医療推進室室長)・斎川克之氏、産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授・松田晋哉氏の4名。
 まず、原田上席研究員が「済生会独自の地域包括ケアモデルの構築に向けた現状と課題―調査結果から―」と題し、MSW(医療ソーシャルワーカー)および福祉施設の相談員並びに施設長を対象とした調査結果について報告を行った。


原田上席研究員
 次に、森田氏から「済生会地域包括ケアにおける福祉施設の役割」について、唐津医療福祉センターにおける施設の役割および取り組みについて、斎川氏は「病院から発信する医療と介護の連携の実践~新潟市在宅医療・介護連携推進事業から~」について、医療と介護の連携に関する取り組みについて報告を行った。松田教授は「済生会がめざす地域包括ケア-地域医療構想と地域包括ケア」と題して、各地域におけるデータ分析を基に、医療・ 福祉・介護を併せ持つ済生会の強みを活かした実践の重要性について述べられた。
 各シンポジストの発表後は、参加者との質疑応答も含め活発な意見交換の場となった。


森田主任生活相談員


斎川副センター長


松田教授

Ⅱ.済生会学会(一般演題)の報告

 一般演題(口演発表)では、済生会総研の持田上席研究員が「DPCデータを使用した診療サービスの指標の作成と活用について」と「DPC機能評価係数2の決定プロセスの理解について」、吉田研究員は「重症心身障害児(者)施設におけるアセスメントの現状と課題」について発表を行った。
 済生会総研の研究にご協力いただきました各病院、施設の職員の皆様ならびに学会の場を提供くださいました新潟病院の学会運営事務局のスタッフの皆様に感謝いたします。

Ⅲ.研究ミーティング(重症児者施設におけるアセスメントに関する研究:吉田研究員)

 1月31日(金)済生会総研会議室において、2回目の研究ミーティングを開催した。
 今回は、重症児者施設の調査結果(特に、入所児者の実態)についての意見交換とアセスメント項目の整理を行った。意見交換の中では、措置で入所している方の支援をはじめ、児童相談所や家族との連携や調整といったことに多くの時間を費やしている実態が明らかとなった。「措置」から「契約」への移行期の問題は、各施設がかかえる課題でもあった。
 意見交換に続き、本研究の柱でもある「施設で重視するアセスメント項目」の結果について、研究協力者と一緒にKJ法による整理を行った。それにより、現場の最前線で実践されている6名の方のそれぞれの捉え方や視点について、多くのことを学ぶことができた。

 限られた時間の中でしたが、大変有意義な研究ミーティングとなった。
 この場をお借りして、調査への協力と研究ミーティングに快く派遣してくださいました重症児者施設6施設の施設長はじめ、ご参加いただきました6名の研究協力員の皆様ならびに6施設の全職員の皆様に改めて深く感謝申し上げます。

 本研究の成果については、2月9日の済生会学会での発表、学術誌への投稿ならびに報告書の作成をしていきます。
 来年度も「アセスメント」をテーマにした研究を継続していきますので、引き続き、よろしくお願いいたします。

人材開発部門

アドバンス・マネジメント研修Ⅲ

 中堅看護師(全国済生会看護職教育体系クリニカルラダー・レベルⅢ以上)を対象としたアドバンス・マネジメント研修Ⅲが1月22~24日、本部で開かれ、73施設から80人が参加した。
 初日、炭谷茂理事長は「看護に関する済生会原論~済生会の飛躍的発展を目指して~」と題し基調説明。「優れた人材は、組織の理念の旗のもとに集まる。厳しい経営状況の中、支部・施設・本部が一体となって攻めの姿勢を持ってこの危機を乗り切りたい」と訴えた。

 2日目は、関東学院大学大学院看護学研究科の金井Pak雅子教授が「より輝ける看護師を目指して」と題し講義。組織における問題解決に関し、効果的なコミュニケーションスキルについて事例をもとに解説した。将来のリーダーを見据え、「変革推進者として組織全体を俯瞰(ふかん)してみてほしい」と語った。
 高輪心理臨床研究所主宰の岸良範氏は「人間関係とリーダーシップー互いに育てあう職場を目指してー」と題し、講義とグループワークを3日間通して行なった。人間関係の構築には相手に敬意を払って話を「聴く」ことが重要と解説。グループワークでは、「スタッフと話しやすい環境(時間と場所)をマネジメントする」「リーダーとしてスタッフと上司との橋渡しできるような環境作りに努めたい」といった意見があった。岸氏は「相反する意見でも、相手を認め、尊重しあえる関係を作っていくことが大切。反対意見でも組織の新たな価値観となり、多くの『知恵』となる」と総括した。

臨床研修管理担当者研修

 2月8日に朱鷺メッセ新潟コンベンションセンターで「臨床研修管理担当者研修会」が行なわれ、指導医37人が参加した。

 進行は企画責任者で済生会医師臨床研修専門小委員会・塩出純二委員(岡山済生会総合病院院長代理)と千葉義郎同委員(水戸済生会総合病院臨床研修センター長)により行われた。
 研修会は2つの講演会で構成され、第一部の講演では、富田林病院・宮崎俊一院長が「これからの専門医制度について」と題し、同氏が副会長を務める日本内科学会専門医制度審議会での議論等を踏まえ、専門医制度のこれまでの経緯と今後の展開について解説した。
 第二部の講演では、京都大学大学院医学研究科医学教育・国際化推進センター臨床教育部門長の小西靖彦教授が「これからの医学教育」と題し講演。医学部卒業前から卒業後までの教育やその継続性、アウトカム基盤型教育の重要性などを学ぶことができた。
 それぞれの講演後は、意見交換が行われ、今後の臨床研修に関する理解を深めるとともに、済生会における医師の育成に寄与する研修会となった。

初期研修医合同セミナー

 2月8日に朱鷺メッセ新潟コンベンションセンターで済生会初期研修医のための合同セミナーが開催され、全国から初期研修医247人、研修責任者等37人の計284人が出席した。当セミナーは、1年目の研修医に済生会の規模を実感させることにより、帰属意識を高めることが目的。

 この済生会医師臨床研修専門小委員会は泉学委員(宇都宮病院総合診療科主任診療科長)と田中和豊委員(福岡総合病院臨床教育部部長)が企画責任者となり学会・総会に合わせて開催している。研修責任者(指導医)も出席し初期研修医・指導医との交流も深めている。
 本部・松原了理事の挨拶に続き、同小委員会・登谷大修委員長(福井病院院長)が「済生会の理念と医師臨床研修」と題して講演。その後、近年課題となっている「医師の働き方改革」をテーマに基調講演とグループワークを行なった。
 基調講演は、京都大学大学院医学研究科医学教育・国際化推進センター臨床教育部門長の小西靖彦教授が「医師の働き方と医学教育」について講演。グループワークでは、医師の働き方改革に対して議論が交わされた。昨年に続き、アンサーパッドと呼ばれる集計機器が研修医全員に配られ、事前に設定された質問への回答者数がリアルタイムに分かることから、積極的にセミナーに参加していた。
 つづいて、レジデント企画「当院の初期臨床研修について」と題して、研修医(代表者)が自院の研修の魅力についてスライドを交えてアピールした。研修責任者の投票の結果、優勝―中央病院、準優勝―山口総合病院、3位―福井病院に賞状と記念品が贈られた。

―編集後記―

 今号では、私が好きなアーティストをご紹介いたします。
 私は3年前から熊本県出身のロックバンド『WANIMA』にハマっています。きっかけは、子どもが運動会で披露したダンス曲でした。どの曲もノリがよく、かっこいいです。それだけでなく、歌詞がとても良く、心に突き刺さるものばかりです。
 そのなかでも、最近、私の心の支えになっている曲があります。それは「りんどう」です。
 歌詞の「弱いままで強くなれ」、「生きて、生きて、生き抜いてやれ」というフレーズは、いろんな想おもいが込み上げ、胸が熱くなります。
 「りんどう」以外にも「シグナル」、「ともに」、「やってみよう」など、コマーシャルなどでも 耳にしたことがあると思います。歌詞にも注目しながら、『WANIMA』の曲をぜひ一度、聞いてみて下さい。

(吉田護昭)

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