済生会総研News Vol.99

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第98回 外国人問題考察の視座(2)

 外国人に対する社会保障のあり方は、国際情勢の変化に対応した国際法の規定、憲法を始め出入国管理法、社会保障法等国内法の規定、諸外国の法律等多くの複雑な法律問題が絡み合う。人道主義という立場や排外主義的な主張のように、単一の視点だけからは、割り切れない。
 法律問題が複雑なだけでなく、滞在外国人の歴史的背景と生活状況、日本社会や労働市場の状況、国民の意識等の実態面も把握しなければならない。さらに行政実務的な問題や財政問題も考察を要する。
 したがって研究対象としては、大変挑戦し甲斐のあるテーマである。しかし、各国では法律内容が頻繁に改正されるので、インターネットの検索機能で情報が得やすくなったとは言え、一個人が常に最新の正しい情報に接することには、限界がある。私は、いつもその困難性を意識しつつ、古い情報を使ったのであれば、判明した段階で修正するという方針で臨んでいる。
 先の参議院選挙戦での論戦を経て、今後外国人の社会保障の適用の在り方が政治的、社会的、行政的に議論されていく。欧米ではかなり以前から熱い議論がなされている。
 イギリスの医療保障制度であるナショナル・ヘルスサービス(NHS)は、経済が成長を続け、国家財政に余裕のあった時代は、イギリス国内に滞在する外国人にもNHSに登録を認め、薬剤等の一部負担を除いて原則無料で医療サービスを提供してきた。だから日本人も含め外国人は、医療面では安心して滞在できた国だった。
 しかし、財源問題や税金を納めている者との公平等の視点から1982年10月よりNHSの病院サービスの対象は、イギリス国内で就労している者、治療を受ける時点で1年以上滞在している外国人に限定した。さらに1984年5月からは家庭医サービスについても病院と同様に限定された。
 それ以降イギリスでは観光客や短期に語学留学などの外国人は、NHSサービスの対象外とされた。NHSのほかに高額の料金で自由診療を行う医療機関が存在するが、病気に備えて観光客は、民間保険に加入するなどで備えなければならなくなった。
 この制度改正が実施されたときに、在英日本大使館に勤務していたので、不安に感じた日本人から質問を受けることがあった。ただすでに日英間に協定が結ばれており、1965年以来相互に医師を相手国に派遣して自国民の医療を行うことが実施されていた。観光客も含め日本人の多くは、全額患者負担だったが、この診療所を利用していた。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

厚生労働白書からみるトピックの動向

 社会福祉士や精神保健福祉士の養成や国家試験に向けての学びや今後の制度や政策に関する動きとそれに伴う研究を考える上で、厚生労働省が毎年出している『厚生労働白書』でどのようなことがトピックとして取り上げられているのかをおさえておく必要がある。今回はあらためてどのようなことに着目しているのかを取り上げたい。

 厚生労働白書は、第1部と第2部で構成されている。第1部が特定のテーマについて、現状分析や関連施策の紹介などを行い、国民に理解を深めてもらうという構成であり、毎年テーマは異なっている。第2部は、年次行政報告として、厚生労働省の様々な政策課題への対応について、報告する形になっている。
 令和7年版厚生労働白書では、「第1部 次世代の主役となる若者の皆さんへー変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知るー」・「第2部(年次行政報告) 現下の政策課題への対応」となっている。
 この第1部について、令和6年版では、「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」とし、こころの健康を取り巻く環境とその現状や、取り組みの事例の提示を通して、こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会づくりの方向性について考察するとしている。
 令和5年版では、「つながり・支え合いのある地域共生社会」として、単身世帯の増加、新型コロナウイルス感染症の影響による人々の交流の希薄化などを背景として、複雑化・複合化する課題、制度の狭間としてのひきこもりやヤングケアラー等の顕在化を課題として示している。こうした課題に対して、新たなつながりや支えあいとして、安心して生活を送ることのできる地域共生社会を実現する意味を提起しているのが特徴である。
 令和7年度の「第1部 次世代の主役となる若者の皆さんへー変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知るー」は、以下の構成となっている。

はじめに
第1章 社会保障と労働施策の役割とこれから
 第1節 社会保障の役割
 第2節 労働施策の役割
 第3節 人口減少・超高齢社会とこれからの社会保障・労働施策
第2章 社会保障・労働施策に関する若者の意識と知ることの意義
 第1節 若者の社会保障・労働施策に関する意識
 第2節 社会保障や労働施策を知ることの意義
第3章 若者に社会保障や労働施策を知ってもらうための取組状況と方向性
 第1節 社会保障教育・労働法教育に関するこれまでの検討状況
 第2節 現場における取組状況
 第3節 今後の方向性

第2章の概略

出典 令和7年版厚生労働白書〔概要〕厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/001524055.pdf

 着目すべき点として、若者が社会保障や労働施策を知ることの意義を提示した第2章では、どのようなライフプランを持つのか、またトラブルに巻き込まれた時の解決など、主体的に生活するという視点を強調しているような内容が目立った。また、地域社会の一員として、社会へのかかわり方についても触れており、事例などから、考えるような構成になっていた。
 これまでトピックとして、高齢化や少子化に関わることが取り上げられることが多かったように思うが、今回の白書では、若者、つまり、「高校生、大学生、社会人になったばかりの人」を対象としており、少しシフトしているように感じた。今後の政策や制度の動向なども含め、この世代にも着目していきたい。

引用・参考文献
厚生労働省ホームページ 厚生労働白書 https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/

―編集後記―

 ボンタンアメをご存じでしょうか。鹿児島出身の私にとって、兵六餅と共になじみのあるお菓子ですが、ここ最近、東京でもよく目にするようになりました。最初は2月の劇場で、グッズ売り場で並んでいる時に少しお話をしていた方(20代くらいの女性)がこれを食べるとトイレに行かなくて済むそうなのでとカバンから買ったばかりのボンタンアメを取り出して、1粒どうぞとすすめてくれたのが久々のボンタンアメとの遭遇でした。ちなみに効果はなんかそんな気がするという感じでした。そこから半年、映画館で長時間の作品を観る時に、取り出している方々を見かけました。ただ、今やなかなか手に入りづらいアイテムとなっているようです。 (Harada)

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