済生会総研News Vol.98

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第97回 外国人問題考察の視座(1)

 本稿を執筆している7 月12 日は、今回の参議院選挙戦を折り返したところである。今回の選挙は、専門家でも予測が難しいようだ。新しい政党の勢い、SNS の影響、Z 世代を中心とする若い世代の投票行動、投票日が酷暑で3 連休の中日などのほか、争点がたくさんあるのが特色である。
 国民の関心を集めている争点としては、第一に物価の高騰である。国民の日々の暮らしに物価高騰は、直撃している。米の価格が2 倍になり、米離れが起きている。家庭は、購入量を減らし、低価格商品に切り替えることで自衛している。国民消費の金額は減少しないので、生産部門や流通部門の経営へのダメージは、現在避けられているが、早晩生じてくる。
 政府や日銀の経済政策の柱に物価を引き上げ、デフレ脱却としていたのは、つい最近のことだった。
しかし、いったんインフレに移行すると、金融政策や財政政策では制御できなくなることは、昭和40年代後半の狂乱物価時代に経験したはずだ。
 私が英国で暮らしていた1980 年代半ばも英国国民は、荒れ狂うインフレに苦しんだ。失業者の増加、労働争議の多発、店舗の閉鎖、犯罪の多発などが発生し、暗鬱な社会となった。国民は、未来への希望を失っていった。インフレの大きな原因は、社会保障等への財政支出の増大であった。
 同じ状態が日本で起こりつつある。争点の二つ目に国民の生活難への対策として給付や減税対策のあり方がある。各党から対策が競って発表された。これらの対策が実施された場合、日本の財政構造はどうなるのか、日本国債の信任は大丈夫か、インフレが激化しないか、懸念事項がたくさんある。
 三つ目にアメリカの関税政策への対応がある。トランプ大統領の一貫性のない方針に日本は翻弄されている。政府の対応が適切だったのか、論争になっている。世界秩序維持の盟主を自負し、行動してきたアメリカが、方針を一転させた。歴史の転換期にあると言える。
 四つ目に当初、全く注意していなかったが、外国人対策である。各党からは、違法外国人ゼロの取組み加速、外国人の受入れ総量規制、非熟練・単純労働の外国人受入れ制限、外国人の土地取得規制、外国人の生活保護支給停止、外国人の社会保険加入状況の調査など多岐にわたる公約が発表されている。選挙戦が過熱するにつれ、大きな争点に浮かび上がってきた。SNS では生保受給者の3分の1は、外国人という明らかに誤った情報が流された。
 選挙結果の如何を問わず、今後外国人対策が大きな政治課題になることは間違いない。社会保障と密接な関係を有するので、本欄で考察を深めていきたい。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

社大福祉フォーラム2025への参加報告

 本号では、6月21日(土)・22日(日)に行われた社大福祉フォーラム2025に関する参加報告をしたい。社大福祉フォーラムとは、日本社会事業大学社会福祉研究大会で今回が第63回となる。今回の大会テーマは、「灯し、紡ぐソーシャルワーク~デジタル時代における福祉をデザインする~」であった。
 このフォーラムは、基調講演など講堂での全体プログラムに加え、分科会や自主企画などが行われ、福祉分野の研究者や実践者だけでなく、在学生や地域の方々も参加する大規模なイベントとなっている。2023年には筆者も、学長室の多心型福祉連携センターの自主企画「災害と福祉の支援と受援」と題したシンポジウムにて、「済生会における災害対応の現状と課題」について研究報告を行った。それ以降、災害に関するテーマのシンポジウムが行われており、毎年聴講している。

 21日のプログラムとして、基調講演Ⅰ「AI・DX時代における福祉とテクノロジー利用~最新の支援技術とコミュニケーション支援から考える~」と基調講演Ⅱ「誰も取り残さない学びの場へ:マインクラフトとデジタルものづくりの可能性」の2つが行われた。
 AIの活用によってさまざまな方へのコミュニケーション支援に関する事例報告、マインクラフトを用いた子どもへの学習支援の実践に関する報告がなされた。
 22日は複数の分科会が実施されていたが、「災害における認知症の人と介護家族への包括的支援について~能登半島地震における支援から考える~」に参加した報告を記す。
 今回の企画の立案と運営をされてきた多心型福祉連携センター長の入部寛先生からの挨拶に続き、下垣光先生より企画主旨の説明があった。その後、金沢医科大学の橋本玲子先生より、「令和6年能登半島地震 金沢医科大学からの報告 ~災害時、災害後の認知症の人の生活を支えるために今できること~」と題した報告がなされた。また、専門職大学院の北川進先生より、「能登半島地震から考える認知症の人と家族の災害時支援の課題」という報告があった。
 橋本先生からは、高齢者のリロケーションの課題、つまり、広域への避難など環境変化による負担が高齢者には特に大きかったということが示された。避難所での認知症の方への支援について課題があることから、福祉避難所へ受け入れてもらうこともあったという。コミュニティでの認知症の人への理解を深めることや災害が起きた時の避難について意思決定をするなどの平時からの準備が必要であることが示唆された。北川先生からは、災害が起こることで、要配慮者ニーズに十分に対応できないことや、福祉避難所の受け入れが建物や職員の被害状況により難しいケースも出てくるという話があった。その後、会場の参加者から質疑や感想などがあり、意見交換もなされた。

(所感)災害について、多くの福祉関係者や地域の住民、学生が同じ空間で意見交換をしあえる場は貴重であった。多様な視点をほかの研究にもつなげたいと思う。

―編集後記―

 7月になり、ますます暑い日が続いています。夜になってもビルやアスファルトの熱がこもっている街の様子になかなか適応できていない気がします。そんな7月ですが、日傘に注目しています。
 朝の通勤時、外の日差しはやはり強烈です。最近は、決してカラフルではない、ベージュや黒などの日傘を男性がさしている姿を見かけることが増えた気がします。2019年頃から国や東京都などから男性の日傘利用の普及啓発をされていたようですが、ようやく浸透しはじめた気がします。建物に入り、日傘をたたむとき、その熱さにびっくりすることが多いので、日傘の利用は暑さから身を守るいい傾向だと思います。(Harada)

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