済生会総研News Vol.95
本欄の87回からは、安定した信頼できる介護保険制度とするため、どのように改革すべきかについて考察している。前回からは、介護サービスの提供主体について提供主体には、社会福祉法人、労働者協同組合、生活協同組合、農業者協同組合、NPO、ボランティア団体等の中間団体が中心的な役割を担うべきであると述べた。
利潤の最大化を使命とする企業は、不採算地域や不採算事業に進出せず、進出しても採算が悪化すると、即座に撤退し、利用者に迷惑を与える。時には介護報酬の不正受給によって指定取り消し処分を受け、利用者が困惑する事例が起きている。
自治体は、公的立場から住民サービスを提供する場合は、信頼性・安定性に優れているが、効率性よく質の高いサービスを提供という面では不安が残る。また、近年地方財政の逼迫や職員定数削減のために介護サービスから撤退する自治体もある。
そこで住民の立場に立ちつつ効率的な経営を行い、企業と自治体の中間に位置付けられる中間団体の役割が期待される。
ヨーロッパでは協同組合、労働組合、慈善団体、宗教団体等の中間団体が医療、福祉、教育等の分野で重要な役割を果たしている。
各国は、歴史的、経済的、社会的等の理由によって中間団体に特色がある。ドイツは、中世からギルト社会で職業組合が強かった。ギルト内で資格制度を制定し、特定の分野で業務を独占していた。この伝統を受けて、医療、福祉分野で今では職業団体、教会、労働組合等の中間団体の影響力は強い。オランダでは労働組合や教会等の中間団体が、医療、福祉、教育の分野では自治体を上回る役割を担っている。イタリアは、憲法で協同組合の地位の保障規定があるように、協同組合は、社会の各方面で主体的な役割を果たしている。イギリスは、中世以来の伝統で慈善団体が活発に活動し、福祉サービスの約半分を担っている。
世界は、市場主義経済が席巻しているが、所得格差が拡大し、社会的弱者が苦境に追い込まれている。これに対抗するためには公益と経済が融合したソーシャルエコノミーが社会の一定部分を占める必要がある。ヨーロッパではこの考え方が定着し、関係法が制定されている。
ソーシャルエコノミーの主体になるのが中間団体である。日本の介護事業で中間団体は、実績を残すことでソーシャルエコノミーの意義を国民に示し、ソーシャルエコノミーの先達役を果たすことができる。
研究部門
令和7年度研究実施計画(重点課題)
研究部門における令和7年度に取り組む重点課題は以下のとおりです。
【重点課題】 総研として重点的に取り組む課題
重点課題1. DPC等の大規模データを活用した診療支援
(1) DPC等のデータ分析による済生会の経営・運営の諸課題へのアプローチ
(2) DPCマンスリーレポートの作成と公開
(3) 医療と福祉の評価指標の公開事業
(4) 診療サービス指標の作成と公開
重点課題2. 地域での暮らしを支える医療と福祉の連携
―済生会の特徴をいかした地域包括ケアモデルの確立に向けて―
重点課題3. なでしこプランとソーシャルインクルージョンの展開と課題
―地域の特性に応じた各地の取り組みから―
この他、済生会内・外との連携課題も計画しています。ご協力のほどよろしくお願いいたします。
今年度もこの総研Newsを通して、活動の進捗等を報告していきます。
―編集後記―
朝のラッシュ時の電車に乗っていると4月を感じる今日この頃です。扉の周辺から地蔵のように動かない着慣れないスーツの人が増えるからです。今朝もそういう状況に加え、大きなスーツケースの旅行客が乗ってくるというカオスな2025年の春となっています。
写真は、休日の夕方、日本橋で撮った桜です。快晴とはいきませんでしたが、春の陽気に包まれ、いつもより混雑していました。スマホで気軽に撮る人、プロ仕様のカメラで構図を気にしながら撮る人など、それぞれに桜と街並みを記録していました。(Harada)



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