済生会総研News Vol.94

総研News 一覧はこちら ≫

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第93回 介護保険制度の将来像(14)~中間組織が中核に~

 本欄の87回からは、安定した信頼できる介護保険制度とするため、どのように改革すべきかについて考えている。前回からは、介護サービスの提供主体について考察している。
 現在は、介護サービスの提供は、自治体、社会福祉法人、NPO、民間企業等様々な実施主体によって行われている。これは実施主体間の競争を促進し、質の向上や量の拡大につながっている。しかし、一部の提供者に利益最優先で不適当な事案も現われ、問題が発生している。これは、株式会社の営利企業に多いとみられがちだが、社会福祉法人等の他の経営形態にも発生している。
 福祉の世界は、性善説で成立していると述べられることがあるが、私は、素直に肯けない。「福祉の仕事に従事する人は、心の優しい人だ」と思われがちだが、現実は異なる。
 最近福祉施設に会社でリストラにあった人が、勤務している事例が多くなっている。人手不足に苦しむ施設側は、適性を考慮しないで採用する。応募する人は、福祉の知識や技能がないが、誰にでもできるだろうと安易な気持ちである。しかし、現実は違う。このため不適切なケアが横行し、早期離職が発生している。これが、近年福祉施設での虐待事件が増加している理由の一つではないだろうか。
 人間は、性善説や性悪説のいずれでも割り切れるほど単純でない。大方の凡人は、これらが混合しているのが正解だろう。配合は、人によって異なるというのが、私の人間観察の結果である。
 ところで適正な福祉サービスの提供主体は、どのようにあるべきだろうか。自治体等の公的主体は、公正性、平等性を果たすには優れているが、効率性や経済性で著しく劣る。
 反対に株式会社等の営利企業は、公的主体の弱点を克服するものの、利益追求が営利企業の本質的な目的である。これは批判すべきことではなく、人類の発展のため中心的な役割を果たしてきた。しかし、利益を上げるためには手段を選ばない企業が存在する。福祉サービスが生命の維持や生活に必須であり、サービスの選択能力に劣る人も多いから、営利企業が福祉の世界で中心的な役割を担うことは、問題が多い。
 そこで私は、社会福祉法人、協同組合、NPO法人、住民団体等の中間組織が介護サービスを始め福祉の世界ではもっと大きな役割を担うべきであると考えている。しかし、日本では中間組織が自立して育っていないことに問題がある。

研究部門 済生会総研 客員研究員/済生会神奈川県病院/慶應義塾大学SFC研究所上席所員 古田 裕亮

COVID-19における高齢者のADL変化とリハビリテーション介入の変遷

はじめに
 済生会総研では、外部機関や各済生会支部病院と連携した共同研究を推進している。今回は、済生会神奈川県病院の客員研究員から済生会74病院のDPCデータを用いた解析結果をお届けする。
 COVID-19は全身性の炎症を伴う疾患であると同時に、感染対策や安静状態による廃用症候群を引き起こす。特に高齢者では、これらの影響により日常生活動作(ADL)の自立度が低下し、自宅での生活に支障をきたすことが問題となる。本研究の初期の解析結果からも、退院時に入院時よりもADLが悪化した状態で退院する患者が一定数存在することが示唆され、早期からのリハビリテーション介入がADL改善に寄与することが期待される。
 一方、医療逼迫や提供体制の違いから、リハビリテーション提供が十分ではなかった期間もあると考えられ、医療の質・提供体制の改善に向けて、患者のADL状態や医療提供体制の実態の把握が必要とされている。
 本研究では、済生会74病院のDPCデータを用い、COVID-19による入院患者について、以下の点を明らかにする。
 ・感染波ごとの入院患者の傾向の遷移
 ・入院時から退院時へのADL状態の変化
 ・リハビリテーション提供(介入の有無および早期介入割合)の遷移

全国的なCOVID-19の感染推移と入院患者の動向
 厚生労働省が公表している新規感染者数と入院治療を要する患者の推移を図表1,2に示す。2020年1月以降、COVID-19の感染拡大は繰り返し波を描きながら進行し、特に2022年の第6波以降大きく増加している。

図表1:新規陽性者数の推移
図表2:入院治療等を要する者の推移

済生会グループにおけるCOVID-19入院患者の傾向
 済生会74病院におけるCOVID-19入院患者数の推移を図表3に示す。済生会グループ全体では、2020年1月~2023年3月にて28,463人のCOVID-19入院患者を受け入れてきた。全国的な感染増加に対しても、早期からCOVID-19の受け入れに積極的に取り組んできたことが確認できる。また、第6波から高齢者の入院が急増していることが確認される。

図表3:済生会74病院におけるCOVID-19新規入院患者の推移

COVID-19入院患者のADL変化
 患者のADL状態を、ADL評価バーセルインデックスから「自立」「中介助」「重介助」の3群に分類し、入院時から退院時への変化を、75歳未満・以上で分析した。その結果、75歳以上の高齢者においてはADLの自立度が低く、入院時よりも退院時にADLが悪化して退院するケースが一定数存在することが明らかになった。退院時のADL低下は、自宅復帰の困難さや長期入院に影響を与える要因となるため、早期からのリハビリテーション導入が望まれる。

図表4:COVID-19入院患者のADL変化

リハビリテーション介入の遷移
 75歳以上のCOVID-19入院患者に対するリハビリ介入の割合、リハビリ介入をした患者の早期介入の割合(5日以内)の動向を調査したところ、第6波7波以降に若干の向上が見て取れる(図表5)

図表5:リハビリテーション介入、早期介入の割合の推移

 しかし、リハビリテーションの提供体制は、医療逼迫や病院機能および提供体制の違いなど、個別病院により異質である可能性がある。そこで、各病院のリハビリテーション介入と早期介入割合の時系列的な変化(軌跡)が類似している病院群を類型化しその特徴を明らかにした。

 リハビリテーション介入割合の軌跡からは3つの病院群に分類できた(図表6)。病院群Aではリハビリ介入割合は3波目から増加し、病院群Bでは4波目に増加、病院群Cでは介入割合はゆっくりと増加していることが分かる。

図表6:リハビリテーション介入割合の遷移パターンによる病院分類別の傾向

 リハビリテーションの早期介入割合の軌跡からは4つの病院群に分類できた(図表7)。病院群Dでは2波には早々と早期介入割合を増加し、続いて病院群Eは4波、病院群Fは6波で増加している。病院群Gでは早期介入は一定に推移してきたことが分かる。

図表7:リハビリテーション早期介入割合の遷移パターンによる病院分類別の傾向

まとめと今後の展望
 本研究では、済生会グループ全体におけるCOVID-19患者の受け入れ状況の推移を可視化し、第6波からの高齢入院患者の急増と、退院時のADL悪化事例を確認した。また、「リハビリテーション介入」および「早期介入」の実施状況の推移には病院間でばらつきがあることが明らかとなった。これには、「スタッフの配置状況」「病院機能・規模」「医療逼迫の影響」「入院患者の特徴」など、さまざまな要因が影響している可能性があり、今後、これらの背景要因をより詳細に分析することが求められる。また、リハビリテーション介入効果の因果推論分析や費用対効果分析により、医療資源の最適配置や政策決定への示唆を得ることが重要である。

 済生会グループは、日本最大級の公的病院ネットワークとして、COVID-19のような公衆衛生上の危機に対応する責務を担っている。今後も、全国規模のビッグデータを活用しデータ駆動型の研究を推進することで、エビデンスに基づいた医療提供体制の構築に貢献し、持続可能な医療体制の確立を目指すことが求められる。

―編集後記―

 3月に入り、暖かい日と寒い日が入り交じり、体調管理のむずかしさを感じています。そろそろ桜が楽しみだなと思っていた春分の日の前日、ふたたび寒さが訪れ、雪とあられが降り、歩道には雪が積もっていました。そして、ふたたび、春の陽気になり、通り沿いにある木々につぼみを発見しました。
 3月21日には、東京都済生会中央病院で開催された「桜ほころぶ!はるかぜConcert」に行ってきました。東京都交響楽団の方々が奏でる音色が素晴らしいのはもちろん、普段は待合のホールの音響がよかったのは驚きでした。また、入院されている方や地域の方が多く参集されており、職員の方々が誘導や声かけなどいきいきと運営されているのも印象的でした。素敵な空間に参加することができました。ありがとうございます。(Harada)

Adobe reader

PDFファイルをご覧になるためには Adobe Reader が必要です。
お持ちでない方は、 Adobe Readerをダウンロードしてください。