済生会総研News Vol.92

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第91回 介護保険制度の将来像(12)

 本欄の87回からは、安定した信頼できる介護保険制度とするため、どのように改革すべきかについて考えている。まず前回までに財政基盤の強化について取り上げ、3つの選択肢を示した。
 第3の選択肢として述べたのは、現在50%となっている公費負担割合を引き上げる案である。
 介護保険制度検討時から安易な公費繰入を警戒する議論がなされた。国民健康保険制度においては財政力のある自治体では一般会計からの繰入を行い、保険料や患者負担を軽減することがなされていた。これによって市町村の格差が拡大し、市町村財政を歪める結果になるので、その2の舞にならないように歯止め策が検討課題だった。
 介護保険法では一般会計繰入を禁じる規定は置かれていない。法的に市町村の判断によって行うことは可能であるが、厚労省は、国民健康保険の経験から自治体に対して一般会計から繰入を実施しないように厳しい指導を行っている。
 国会での質疑でもこの旨を述べている。
 確かに安易な繰入は問題が多く、避けなければならない。第3の選択肢は、公費負担割合の引き上げについては、法律に根拠を持ち、国民の納得感が得られる明確なルールに基づいて行わなければならない。
 しかし、いったんこの道を設けると、安易に公費負担に依存することになりがちであることは想像に難くない。これは厳に注意をしなければならない。そのためにも介護保険制度の運営経費の節減の努力を示す必要がある。この趣旨に沿うため介護保険の運営の国民健康保険への統合が考えられる。
 介護保険の運営は、市町村によって行われているが、運営に成功しているドイツを参考にし、国民健康保険制度に統合して運営する方法である。介護保険制度は、国民健康保険の一部門となる。
 その理由は、運営経費の合理化、効率化である。市町村の介護保険制度の運営に必要な人件費、コンピューター経費等事務費は、多額に及び、今後急増することが見込まれる。住民に対するサービスに直接関係しない事務経費は、できる限り節減し、財源を住民のためのサービスに向けるべきである。
 市町村では国民健康保険制度と介護保険制度は、別の組織で行われている。介護保険被保険者数が多い横浜市の場合介護保険課と介護事業指導課の2課の体制である。介護保険制度を国民健康保険制度に統合すれば、介護保険担当組織は不要になり、現在の介護保険担当職員数が純減にならないまでも、業務の合理化で相当の削減ができる。

研究部門 総研 上席研究員 原田 奈津子

インクルーシブ社会に関するシンポジウム参加報告

 人権文化を育てる会主催の第25回シンポジウム「インクルーシブ社会実現に向けて、日本の社会システムを点検する!~排除でなくつながりを創出する社会政策へ~」に参加しました。
 このシンポジウムは人権週間に行われてきたもので、今年は12月4日(水)に衆議院第一議員会館の会議室において実施されました。今回は特に参加者の職域の幅も広く(議員、弁護士、医師、行政の方々等)、済生会からも本部事務局をはじめ、東京都済生会の方々もいらしており、会場は満席状態でした。以下、内容を報告いたします。

 シンポジウム概要と所感
 はじめに、炭谷茂氏(人権文化を育てる会代表世話人、社会福祉法人恩賜財団済生会理事長)により、インクルーシブ社会の建設に向けて問題提起がなされた。障がい者の社会参加がすすまないことをはじめ、高齢者虐待や孤独死、不登校の増加、ひきこもりなど、さまざまな社会課題に対する取り組みが求められており、インクルーシブ社会の早急な実現が必要とされているという話であった。理念とそれにあわせた施策が求められているということであった。
 また、新井利昌氏(埼玉福興株式投資CEO)により、ソーシャルファームとして、社会的に働きにくい人たちの雇用をすすめ、農福連携や農福一体という新たな形での農業生産に取り組んでいるという報告があった。障がい者や刑務所出所者の就労の機会を創出するだけではなく、地域での連携など幅広い視野での取り組みが非常に興味深いと感じた。
 関哉直人氏(弁護士)からは、旧優生保護法被害弁護団東京弁護団長としての立場を踏まえ、「優生保護法と障害者差別」に関する報告があった。教育での差別解消の必要性、インクルーシブ教育の実現について、施策にどのようにおとし込むのかが課題だと考えさせられた。また、原告の方も当日いらしていたが、声をあげられない同じ境遇の方もいるという言葉が印象に残った。

 全体の所感
 シンポジウムでの一貫した視点として、インクルーシブ社会とは、ソーシャルインクルージョンを基本理念として、すべての人々が差別や排除、孤独や孤立から援護され、社会の一員として人権が尊重され、支えあう生活の場やコミュニティを実現することであり、それをいかに構築していくのかが課題であるということであった。
 今の社会では、異質な人に対する排除が強まり、孤立する人々が増えているということで、社会政策のあり方を考える機会となった。

―編集後記―

 新しい年がはじまりました。今年もよろしくお願いいたします。
 2025年というと、2025年問題というフレーズを耳にしてきた方も多いのではないでしょうか。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、日本における高齢化が進むことで諸問題が顕在化すると言われてきました。労働力、介護、社会保障など多岐にわたる問題にどう向き合うのかが問われる年であると言えます。社会全体の課題であるだけでなく、個々の問題にもつながるのかなと思います。ひとまず、丁寧な暮らしを心がけたいです。
 写真は、三田国際ビル内の新春の飾りです。デジタルサイネージなどが増えてきつつありますが、立体もいいなと感じました。
(Harada)

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