済生会総研News Vol.88
本稿では現行の介護保険制度の問題点について論じているが、これまで第1の問題として介護保険料、第2の問題として介護保険の被保険者の範囲、第3の問題点として介護サービス内容について述べてきた。
これらの問題は、いずれも介護保険制度の存在意義、持続性、国民の支持等を危うくしており、介護保険制度を崩壊の瀬戸際に追い込んでいる。制度が機能不全に陥れれば、要介護の高齢者が適切な介護が受けられなくなり、孤独死、高齢者虐待、介護離職など悲惨な事態を招くことは、想像に難くない。これは日本の経済や社会の安定を根底から脅かす。そんな状態は、遠い未来のことではない。
しかし、政治や行政には危機感が乏しいように思える。例えば現在進行中の自民党総裁選や立憲民主党代表選を見てもこの問題についての議論があまり交わされないのは残念である。
そこで問題を克服し、安定した信頼できる介護保険制度とするためにどのように改革すべきか考えることにする。
まず重要なことは、財政基盤の強化である。現行の介護保険制度は、発足時から財政構造に不安を抱えた状態での船出だった。当時から私もそうだったが、一部の研究者等からは、指摘されていた。
制度設計に当たった人も、早晩収入不足になることは懸念しただろうが、「それは将来のことだ。今は制度を発足させることが優先される」という考えが、あったのではないだろうか。
介護保険制度の収入は、公費と保険料負担を折半になっている。折半としたのは、「保険制度」に拘ったためだろう。しかし、費用の50%が保険料であれば、「保険制度」であるという理論的な理由は、考えられない。現行制度は、保険制度とも税を財源とする給付制度とも言えないあいまいな性格で、日本独自の仕組みである。
保険料負担は、65歳以上の1号被保険者と40歳から64歳以下の2号被保険者によって負担されるが、給付費総額が高齢者の増加するに伴い増加するので、保険料も増加する制度になっている。一方、高齢者の主な収入である年金は、介護保険料の増加ほど増えないので、負担能力の限度を超えることは当然の帰結である。
介護保険制度に創設の検討に加わった人が、「保険料が増えることは、介護保険が機能している証左」と最近書いていたが、能天気過ぎないだろうか。そこで解決策を考えるためには、まず高齢者の負担能力を前提にしなければならない。
研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子
介護人材の確保と育成に関する動向 ―介護福祉士養成施設のデータから
前号で、日本介護福祉学会大会の参加報告を行ったが、公開講座でも取り上げられていた「介護人材の確保と育成」について、再考してみたい。
公開講座では、介護福祉士の養成施設数・入学者数が年々減少する中で、養成校での学生確保の課題が提示されていた。
介護福祉士養成に関する団体として、公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会(以下、介養協)がある。社会福祉士及び介護福祉士法に定める介護福祉士養成施設(介護福祉士を養成する専修学校・各種学校、短期大学、大学)の全国団体で1988年から任意団体として発足し、2013年から公益社団法人に移行している。
介養協のホームページ(https://kaiyokyo.net/index.php)において、いろいろな資料を確認することができる。そこで、入学と卒業に関するデータをみていきたい。
介養協では介護福祉士養成施設への入学生の定員充足状況等に関して毎年調査を行っており、令和5年4月入学生の定員充足状況等に関する調査結果をまずは見てみる。
表1 介護福祉士養成施設への入学者数と外国人留学生
表1をみると、入学定員数に対して、定員充足率は約半数で推移している。養成校数が年々減少していることもわかる。
表2 外国人留学生受入数の推移等
また、表2によると、入学者に占める留学生の割合も3割前後となっている。
介養協では介護福祉士養成施設での進路調査を実施しており、この調査では国家試験受験者数等についての調査も行っている。
表3 令和5年3月卒業生進路
表4 国家試験受験の状況
表3は、全国314校の令和5年3月卒業生を対象にした進路調査となっている。続く表4をみると、卒業生数では6,054人であり、離職者訓練生 国家試験の受験については、訓練生の合格率はほぼ100%で、留学生の合格率が5割を超えている。
表5 就職先の種別
報告によると、就職先種別としては、全体に高齢者分野の施設への就職が多いが、居宅サービス関連事業への留学生の就職が増えてきているということであった。
この他、就職活動に関連しては、給与や手当の額面だけでなく福利厚生を重視する傾向にあるということも指摘されていた。また、通いやすさや駅に近いところへの希望が目立つという。コロナ禍を経て、実習先・アルバイト先への就職が多いということであった。
専門職養成施設では、国会試験受験対策だけでなく、離学防止に向けた取り組みにも力を入れていることが分かった。実習での対応など養成校と現場での連携が必要になってきている。
介護人材の確保と育成には、地域の特性も踏まえた対応も含め、養成校と現場、さらに職能団体など関係機関の連携が求められている。
引用文献:公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会 https://kaiyokyo.net/index.php
―編集後記―
9月も終盤に入りましたが、今年は天候を気にすることの多い夏だったという印象です。
例年にない台風の動きに、各地の緊張も高まっていたと思います。ほとんど動かない台風や予想のむずかしい進路など、気が抜けない夏でした。
また、突然の雷雨などに戸惑うこともよくあったように思います。まずは身近な場所のハザードマップに目を通しつつ備えていけたらと感じました。
(Harada)
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