済生会総研News Vol.87
本稿では現行の介護保険制度の問題点について論じているが、これまで第1の問題として介護保険料、第2の問題として介護保険の被保険者の範囲について述べてきた。前2回からは介護サービスの問題を取り上げている。
まず介護事業の人手不足について述べ、前回からは高齢者支援についての総合性と包摂性の欠如を取り上げてきた。前回は、そのうち二つの問題点を説明したが、今回は残り二つの問題点を述べる。
第3の問題点は、高齢者の医療、介護等の各種サービスの連携が円滑に行われているかである。高齢者は、様々なニーズを抱えているが、それらに対応してサービス提供主体は異なる。開業医、病院、介護施設、訪問介護・看護事業所など多岐にわたる。診療報酬や介護報酬で一定の措置はされているものの、病院とこれらの施設や関係者との連携に溝があるのが現実である。
知人から年老いた親の介護について相談を受けることがある。一番多いのが、介護施設に関するもので、料金が手ごろで良心的な介護施設の照会である。入院中の親が近く退院予定だが、遠距離で仕事をしているため在宅介護は、困難などの事情を抱えているためである。安心できる施設の情報が得たい。こんな人はたくさんいるに違いない。最近介護離職が、年に10万人を超え、増加傾向にあるのも当然である。
第4の問題点は、地域社会全体の包摂性である。個々のケースで連携性や総合性が担保されるためには地域社会にこれを支える体制が必要である。昔の日本社会は、家族・親族、地域社会の結びつきが強かった。
私が小さかった70年前は、冠婚葬祭で親族が集まった。人数は数十名になっただろうか。生活支援、子どもの教育、情報交換などの機能を果たした。金融機関からの借入の際の保証人など経済面の助け合いの機能もあった。
私は、商家に育ったが、町の商店会では、客を呼び込むための特別セールやくじ引き大会などのほか、町民が参加する盆踊り大会や海水浴大会などレクリエーションが企画された。商店街の住民のつながりは、日常的に形成された。
これらは、ある人が何らかの問題を抱え、困ったときに援助する機能を果たした。これは前時代的で個人の人権を制約する面があった。ただ言えることは、これらの機能が30~40年前ほどから日本社会から消え始め、これを代替するものができていないことである。
このため自助努力や行政では、対応できないニーズが放置される。高齢者の介護についても日常の見守り、緊急事態の連絡、ゴミ出し、買い物などがある。このような多発する日常的なニーズに対応するためには、誰一人取り残さないという地域社会の包摂性の構築が必要である。
研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子
日本介護福祉学会研究大会参加報告
2019年以来の対面での開催となる日本介護福祉学会の研究大会に参加してきた。介護福祉の分野でどのようなことが課題となっているのかも含め、報告したい。
大会テーマは、「科学的介護を見据えた介護福祉学の到達点~全人的介護と科学的介護の調和に向けて~」であり、開催校である北星学園大学の畑亮輔氏による基調講演では、「介護福祉学の構築への挑戦 ~科学的介護の確立に向けて~」と題し、実践や研究の積み重ねによる科学的介護の確立に関する話があった。
シンポジウムでは、日本介護福祉学会設立30周年記念企画として「介護福祉学の到達点と将来像」、大会企画として「科学的介護が照らす全人的介護への道 ~科学的介護の具体的取り組みから~」の2つがあった。記念企画では、研究の視点からの振り返りも含め、今後の介護のあり方に関するディスカッションがなされた。大会企画では、病院での取り組みや特別養護老人ホームでの実践など現場で活躍している実践者の報告が印象に残った。
大会の公開講座では、「介護人材の確保と育成 ~量的確保と質保障のバランス~」というテーマで開催地の北海道を中心に、さまざまな立場からの報告があった。福祉人材センターからは「福祉人材確保の現状と課題」、介護福祉士会からは「専門教育による質保障」、特別養護老人ホームからは「現場における人材確保と質保障」、養成校からは「養成校における学生確保と教育」と、それぞれの立場での課題が提示された。特養の方の報告で、施設の人材確保について、実際は「人員が充足している施設とそれ以外の施設」というフレーズがあり、自分や同僚が働きやすいと思える施設づくりを進めることで改善していったという話があった。夜間業務の不安への対応、実習の受け入れに関する見直しなど、課題に対して施設全体で取り組むことの重要性を述べていた。
口頭発表では、そのうち半数の分科会が「介護福祉教育・人材育成」であり、そのほか、「介護機器の開発」、「介護技術」、「在宅介護」、「運営管理」などの分科会に分かれて報告があった。私も看取りに関する報告を行った。
全体を通して、大会テーマでもある“全人的介護”と“科学的介護”の調和について、どのように研究が寄与していくのか、今後の動きを見極めていきたいと感じた。この学会の特徴として、公開講座を含め、現場の職員の参画が多いことが挙げられる。公開講座の「介護人材の確保と育成」において、介護福祉士の養成施設数・入学者数が年々減少する中で、養成校での学生確保の課題が提示されたが、新たな人材の養成だけでなく、何らかの事情等で介護の現場を離れている方へのアプローチや現場で働く方々へのサポートをしていくことが必要であると感じた。さらに、介護人材の確保と育成には、地域の特性も踏まえた対応も含め、養成校と現場、さらに職能団体など関係機関の連携が求められていると改めて気づかされた。
―編集後記―
8月もあっという間に過ぎていく感じでした。オリンピック、甲子園、音楽フェスなどさまざまな規模のイベントが多く開催されていたように思います。ちなみに今回学会で訪れた北海道では、札幌で北海道マラソン、函館でモルック世界大会などが行われていました。空港もにぎやかでした。
残暑とはいえ、さすがに札幌は東京よりも過ごしやすく、水道水がひんやりしていて、ちょっとうれしかったです。
(Harada)
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