済生会総研News Vol.84
本稿では現行の介護保険制度の問題点について論じているが、第1の問題として介護保険料を前回まで取り上げた。第2の問題として介護保険の被保険者の範囲について述べたい。
介護保険法は、第1 号と第2 号に被保険者を分けた。第1号は、65歳以上の者で、主たる受益者である。第2号は、40歳以上64歳の者で、受益者としてよりも負担を担う立場である。
被保険者の範囲については、制度発足時の最大の検討課題の一つであったが、激論が交わされた結果、40歳以上とされた。40歳以上とされたのは、初老期認知症や脳卒中による介護ニーズの発生の可能性が高くなるほか、自らの親も介護を要する状態になる可能性が高く、介護保険によって家族としての介護負担が軽減されるからであると公的に説明されている。
しかし、決定的な理由とは言えず、説得力に乏しい。第2号被保険者の給付対象になる保険事故は、一般的に少なく負担とバランスが取れない。親を介護しない者も多く、40歳未満でも祖父母を介護するケースも少なくない。第2号被保険者を設けた趣旨は、個々の親の介護負担に注目したわけではなく、法第1条の目的に明記されているように「国民の共同連帯の理念」に基づき国民全体で高齢者の介護を負担するという目的であったはずで、矛盾している。
40歳で区切った理由は、若い世代には介護問題の関心が乏しく介護保険創設に対する支持が得にくい、保険料の未納が心配される、老化によらない障害も保険給付の対象とすべきという議論に拡散するおそれなどだろう。
保険料負担者の範囲が狭まったため、介護保険制度の財政基盤は当初から危うさを有していた。介護保険制度が先行し、日本で制度設計の参考にされたドイツの介護保険制度の被保険者は、20歳以上で幅広い層が負担をし、今も財政の安定が図られている。
日本の介護保険財政に黄信号が点滅しているが、大きな理由の一つが被保険者の範囲である。現在介護保障制度を抜本的に改革すべき時に立っているが、その際の重要なテーマである。
20歳以上に被保険者を拡大し、広く障害も含めた介護保険制度に改めるべきという見解を示す研究者が多いが、私は、反対である。理由は、障害対策は性格上保険制度になじまず、税を財源に一般対策として行うべきである、保険制度では財政が不安定になる、現行介護保険制度のように地域との関連性が希薄になりがちである等々多岐にわたる。
研究部門 済生会総研 研究部門長 山口 直人
総研DPC マンスリーレポート
「DPC 等の大規模データを活用した診療支援」は、済生会総研の研究部門が実施する重点課題のひとつですが、令和5 年度から新たな取り組みとして、「総研DPC マンスリーレポート」(以下、レポート)を毎月発行することとしました。
レポートでは、済生会支部、病院向けに、病院の経営、運営に重要なテーマを取り上げて解説し、さらに、病院に導入されているシステムMEDI ARROWS 等を用いて、各病院が自院の課題を分析する具体的方法(分析手順)の提示を行ってきました。令和5 年度に情報提供したテーマは下表のとおりです。
「総研DPC マンスリーレポート」 2023年度(令和5年度)一覧
解説 | 分析手順 | |
---|---|---|
2023年 4月 |
看護職員処遇改善評価料を活用した看護職員配置の分析(その1) | MEDI-ARROWS を使った特定入院料の算定率を確認するための集計手順 |
5月 | 看護必要度データを活用した認知症ケア加算算定状況の分析 | MEDI-ARROWS を使った看護必要度の評価状況と認知症ケア加算の算定状況を確認するための集計手順 |
6月 | 看護必要度データを活用した摂食機能療法算定状況の分析 | MEDI-ARROWS を使った看護必要度の評価状況と摂食機能療法の算定状況を確認するための集計手順 |
7月 | 看護職員処遇改善評価料と病床稼働率のベンチマーク | 自院の一般病床に限った看護職員処遇改善評価料の算出方法 |
8月 | 経営インパクトの大きい救急医療管理加算の算定に関して深掘りする | MEDI-ARROWS を使った予定外入院に占める在宅患者緊急入院加算と救急医療管理加算の算定状況を確認するための集計手順 |
9月 | 高齢者救急の視点から在宅患者緊急入院加算の算定状況をもう一段階深掘りする | MEDI-ARROWS を使った在宅患者緊急入院加算算定患者数と入院前に在宅医療を受けていた患者数を確認するための集計手順 |
10月 | 人員不足と言われている病院薬剤師の現状と国策の動き | MEDI-ARROWS を使った新入院患者における薬剤管理指導料の算定患者数(人)を確認するための集計手順 |
11月 | リハビリスタッフ確保の重要性と現状 | MEDI-ARROWSⅢrd を使ったリハビリテーションを実施している患者数と1日あたりの平均単位数を確認するための集計手順 |
12月 | 新入院患者数と管理栄養士数のベンチマーク | MEDI-ARROWSⅢrd を使った入院栄養食事指導料の算定患者割合および、特別食加算(食事療養)の算定患者割合を確認するための集計手順 |
2024年 1月 |
2022年度の病床稼働率と2023年4-9月の病床稼働率の傾向 | MEDI-ARROWS Ⅲrd を使ったコロナ前(2019 年度)とコロナ後(2023 年度)のデータを比較する手順 |
2月 | 大腿骨頚部骨折の入院患者数と緊急挿入加算の算定数 | MEDI-ARROWS Ⅲrd を使った大腿骨頚部骨折の新入院患者における緊急挿入加算を算定した患者の割合、及び二次性骨折予防継続管理料を算定した患者の割合を確認するための集計手順 |
3月 | 様式1 のがん患者数とがん患者指導管理料ロの算定数とのバランス | MEDI-ARROWSⅢrd を使った様式1 のがん患者数式1 のがん患者のうち、がん患者指導管理料ロ、及びがん性疼痛緩和指導管理料の算定数を確認するための集計手順 |
令和6年度は、レポート発行は、4月、6月、8月、...の隔月刊とし、5月、7月、9月、...には前月に発行したレポートの内容に関するオンライン説明会を開催することとしました。レポート発行のみでは、一方的な情報提供になりがちですので、オンライン説明会では質疑の時間を十分に設定して、支部、病院からの質問や意見にこたえられるように工夫したものです。
2024年4月のレポートは、解説として「医療、看護必要度の変化(一般・ICU・HCU)と対策」、分析手順として「MEDI-ARROWS Ⅲrd を使った 診療年月別に精密持続点滴注射加算の算定数を 確認するための集計手順」を取り上げました。そして、5月13日には、「医療、看護必要度の変化(一般・ICU・HCU)と対策」について株式会社シーユーシー病院事業部長の池田周一氏を講師に迎えて、オンライン説明会を開催しました。参加者は、8支部、50病院、2福祉施設から287名、内訳は、支部長6名、病院長21名、支部幹部・病院副院長など8名、事務(部)長24名、事務系職員68名、看護部長36名、看護職123名でありました。
質疑では、ICU、NICU が宿日直許可を取得している場合に取るべき対応など、令和6年度の診療報酬改定に関連したホットな話題が取り上げられて活発な議論が行われました。
6月のレポートは、解説として「地域包括医療病棟の届出意向と予定外入院比率との関連性」、分析手順として「予定外入院に占める疾患傾向」を取り上げます。また、7月1日(月)12:00~13:30 にオンライン説明会を開催予定です。奮ってご参加ください。
―編集後記―
ゴールデンウィーク中、祝日と土日に挟まれた平日は例年、通勤時の電車がすくので、少し気が楽なのですが、今年は違いました。通勤客に加え、大きなスーツケースを抱えたテンション高めの集団やウキウキな様子の家族連れなど、車内が複雑な雰囲気で混雑していました。
ゴールデンウィークが明けると、通勤用のカバンに加え、北海道や福岡など各地の名菓の袋を抱えた方々を目にしました。紙袋のロゴや色合いで、ドコのナニかがわかってしまうので、うらやましくてしょうがない5月の朝でした。
(Harada)
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