済生会総研News Vol.81

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第80回 介護保険制度の将来像(1)

 介護保険制度は、長期間の検討を経て平成12年4月に発足した。それから25年、国民の間には医療、年金、雇用、労災とともに第5の公的保険分野としてすっかり定着した。高齢の親を抱える人にとって介護保険なくしては、親の介護はできない。
 介護保険の発足に伴い、特養、ホームヘルプ、デイケア、ショートステイなどの分野でたくさんの民間介護サービス事業者が進出して1大産業分野を形成するようになった。就労の場を提供し、経済の発展に貢献していると言える。NHKの長寿番組の「NHKのど自慢」の出演者には必ず介護関係の従事者が入るようになった。
 しかし、介護保険は、現状のままで大丈夫かと言えば、私は、否定的である。「介護保険丸」の一部分ではすでにひび割れが生じ始め、放置すれば沈没することは間違いない。介護保険は、今や国民の福祉にとっても、また産業構造的にも不可欠な存在になっている。また、今後の少子超高齢化が進行するにしたがい、認知症高齢者を始め需要は急速に増加していく一方である。女性の社会進出、単身高齢者世帯又は高齢者のみの世帯(老老介護)、ヤングケアラー問題、保育と介護の二重負担の世帯などを考えると、介護の社会的支援の必要性を一層強くしている。
 そこで介護保険の現状の問題点について考察するとともに解決策を回を分けて述べていきたい。

 第1にあげたいことは、国民にとって直接的な影響を与える保険料問題である。
 介護保険制度の財源は、国が25%、都道府県が12.5%、市町村が12.5%の合計50%は、税金、残りの50%のうち65歳以上が加入する1号被保険者が22%、40歳から64歳まで加入する2号被保険者が28%の割合になっている。
 1号被保険者、2号被保険者の全国平均保険料は、制度発足当時は、いずれも3,000円程度だったが、今では2倍の6,000円を超え、両者から負担が過重になってきたことへの悲鳴の声が上がっている。
 特に1号被保険者の収入の大部分は、年金であるが、年金支給額はそのようには増額されない。近年は物価高のため支給額は、むしろ実質的に目減りである。今後認知症など要介護高齢者が急増していくため、介護給付費が増大すると、介護保険料は、引き上っていく。中でも1号被保険者の負担能力の限界を超え、生活破綻する高齢者の増加が心配される。

研究部門 済生会総研 研究部門

研究評価委員会

 済生会総研における研究評価委員会(村上陽一郎委員長:東京大学名誉教授)が令和6年2月5日に開催され、研究活動について評価を受けるとともに、令和6年度の研究実施計画について審議された。研究活動報告を山口直人研究部門長、原田奈津子上席研究員、植松和子特別参与が行った。
 山口研究部門長からは、「済生会における新型コロナ感染症対応に関する分析」「DPC データ等に基づく将来推計による病院経理・運営への支援」を中心に、「診療サービス 13 指標の作成と公開」「DPC マンスリーレポートの作成と公開」の4つの課題について報告がなされた。
 次に、原田上席研究員から、「福祉施設における看取りの現状と課題」を軸に、「地域包括ケア」「ソーシャルインクルージョン」「災害時の受援」に関する研究報告があった。
 最後に、植松特別参与から、「済生会病院におけるプロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の調査」に加え、「済生会高齢者福祉施設・児童福祉施設における服薬等に関する調査」として「薬剤部への調査」「福祉施設への調査」をそれぞれ行った報告があった。


報告1:山口研究部門長
・診療サービス13指標の作成と公開
・DPCマンスリーレポートの作成と公開
・済生会における新型コロナ感染症対応に関する分析
・DPCデータ等に基づく将来推計による病院経理・運営への支援


報告2:原田上席研究員
・地域での暮らしを支える医療と福祉の連携
   -済生会の特徴をいかした地域包括ケアモデルの確立に向けて-
・なでしこプランとソーシャルインクルージョンの展開と課題
   -地域の特性に応じた各地の取り組みから-
・福祉施設における看取りの現状と課題
・福祉施設における被災時の「受援」に関する研究(科研費)


報告3:植松特別参与
・済生会高齢者福祉施設・児童福祉施設における服薬等に関する調査-薬剤部への調査-
・済生会高齢者福祉施設・児童福祉施設における服薬等に関する調査 -福祉施設への調査-
・済生会病院におけるプロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM :Protocol Based Pharmacotherapy Management)の調査
さらに、審議事項として、令和6年度研究実施計画について審議され、承認された。

 済生会総研は、実践的な研究を目指し、保健、医療、福祉を担う済生会施設の活動の支援を目指していきます。済生会内外の施設との研究ネットワークを構築して共同研究を推進しますので、引き続き済生会総研へのご支援をよろしくお願いします。

―編集後記―

 先日、映画館にて「夜明けのすべて」を観てきました。
 パニック障害やPMS(月経前症候群)を扱っているのですが、ことさらそれを強調するのではなく、いかに共存していくのか、日常の暮らしを丁寧に描いていました。主人公の2人をはじめ、登場人物が皆、その街に実在しているかのような自然なたたずまいが印象に残りました。
 人を理解しようとする姿や支えあう関係性など、みんなちがってみんないいというフレーズが浮かぶ、クスっと笑える場面もあり、観るとあたたかな気持ちになる良作です。明日もがんばってみようかなとそっと背中を押してくれる映画でした。私の今年のベストの作品です。
(Harada)

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