済生会総研News Vol.79
前回まで6回にわたって政府の「こども未来戦略方針」について問題点を述べてきた。この戦略方針は、日本の少子化ストップに効果がないばかりでなく、むしろ少子化を促進させる要素もあることを述べてきた。これに加え、日本の社会保障制度を崩壊させる心配がある。
最近政府が打ち出す社会保障制度関連の政策は、場当たり的で、国民の歓心を買おうとする狙いが透けて見える。しかし、国民に見抜かれ、内閣支持率の低下の原因になる。焦った政権側は、同様な欠点を内在する政策を続ける「失敗の連鎖」に陥っている。定額減税が代表的である。
戦略方針の実施費用は3兆5千億円とされる。この財源は、既存予算の活用、社会保障制度の節減、新たな支援金制度の3本から捻出するとされる。年末の予算編成までに決定する予定なので、これがネットで掲載される時には判明している。執筆時点(12月10日)では分からないので、多少のずれが生じるだろうが、社会保障制度の存続に重大な問題を孕む内容にならないか懸念している。私の懸念が杞憂だったとすれば、それはそれで良しとしたい。
まず社会保障制度からの捻出は、狭い道で副作用があまりにも大きい。年金制度の国費の節減は、困難であるので、まず医療費がターゲットになる。しかし、病院の経営は、従事者の給料の引き上げなしには人材が集まらない現状にある。物価も高騰しているので、むしろ診療報酬の引き上げが必要である。もしこれがなければ、医療提供体制はマヒし、イギリスのように病院で医療を受けられない人が社会に溢れる。保険あってもサービスなしの状況になる。
次に介護保険がターゲットになるが、増加の一途を辿る利用者による介護費用の増加は不可避である。給付の抑制策が検討されているようだが、要介護の高齢者の現状を見ると、余地はない。保険料や自己負担の増加は、高齢者の所得から見ると厳しい。受給を抑制するマイナス効果が出て、介護保険制度の意味がなくなる。
高所得の保険料を大幅に引き上げることも考えられているが、給付と負担の関係から成り立っている保険制度への信頼を失ってしまう。
医療保険料に上乗せして徴収する新しい支援金制度は、大きな問題が存在する。政府は保険料であるかは言及を避けるが、負担する国民からは、保険料そのものである。前述のごとく負担の一方で給付というのが保険の大原則だが、支援金にはない。これでは本体の医療保険制度もぐらついでしまう。
次回述べるが、いわゆる「106万円の壁」等で国が取った年金制度、医療保険制度、雇用保険制度での対策は、社会保障制度の根幹を危うくしてしまう。
研究部門 済生会総研 客員研究員 曽我部 直美
福祉施設における服薬等に関連する支援の検討
済生会は多くの福祉施設を有しており、入所者の薬物治療も継続的に行われることが多いと考えられます。薬物治療の対象者は高齢者が多数ですが、少数ではありますが小児の入所者も対象となります。高齢者では近年、服用方法、使用方法が複雑な薬、副作用のモニタリングが必須である薬も多く、多剤併用による相互作用の確認などが増加しております。また、小児にも多種多様な疾患があり、薬物治療も投与量の調節、飲ませ方、副作用症状の所見など複雑かつ細かい対応が必要となることが多くあります。医薬品情報の入手においても多様化した情報から適切な内容を選択することが難しい場合もあります。
このように医療安全、医薬品適正使用の観点からも、服薬等に関連する課題への対応は重要となっております。そこで全国済生会病院薬剤師会は、済生会保健・医療・福祉総合研究所、福祉施設会と連携して以下に示す2つの調査研究を実施しております。この調査研究は、福祉施設での薬の使用に関連する課題を調査し、入所者の薬に関する安全性、適切な薬学的ケアについて薬剤師としてどのような支援が可能であるかを明らかにすることを目的としています。
調査対象の介護老人保健施設、老人福祉施設などでは多数の高齢者が薬物治療の対象となり、児童福祉施設、重症心身障害児施設では様々な疾患を有した小児、乳児院では様々な背景を持つ乳幼児が薬物治療の対象となります。
1. 済生会高齢者福祉施設および児童福祉施設における服薬等に関わる調査
(薬剤部対象)
【方法】各病院の薬剤部長あてに福祉施設との連携についてアンケート実施
【対象】済生会82施設(病院81、福祉施設1)
2. 済生会高齢者福祉施設および児童福祉施設における服薬等に関わる調査
(福祉施設対象)
【方法】各施設の施設長あてに服薬等に関わる課題についてアンケート実施
【対象】介護老人保健施設、老人福祉施設、児童福祉施設、障害者福祉施設、重症心身障害児施設など済生会福祉施設117施設
Ⅰ調査結果
1. 済生会高齢者福祉施設および児童福祉施設における服薬等に関わる調査
(薬剤部対象)
・全国の済生会82施設(病院81、福祉施設1)に調査し、全施設より回答が得られた(回答率100%)。
・薬剤師が在籍していると回答した施設は82施設中17施設で(20.7%)あった。
・薬剤について関りがあると回答した施設は82施設中30施設(36.6%)であった。
・業務としては主に調剤が多く、業務への対応頻度も高かった。
・薬学的管理の実施は少ない状況であった。
・薬に関する職員向け情報提供を実施している施設は20施設であった。
・福祉施設への関りが必要なことは理解しているが、マンパワーなどの問題で難しいとの回答もあった。
2. 済生会高齢者福祉施設および児童福祉施設における服薬等に関わる調査
(福祉施設対象)
・済生会福祉施設117施設へ調査し59施設(50.4%)より回答が得られた。
・薬剤師の関りがあると回答した施設は59施設中34施設(57.6%)であった。
・薬剤に関して問題があると回答した施設は59施設中43施設(72.9%)であった。
・薬剤に関して問題があると回答した43施設の内訳は、薬剤師の関りがあると回答した施設は22施設で64.7%(22/34)、薬剤師の関りがないと回答した施設は21施設で84%(21/25)であった。薬剤師の関与がないと回答した施設ほど多くの薬剤に関する問題を抱えている傾向にある事が示された。
・薬の管理や患者に薬を投与する事は、日常において各施設で実施されている業務ではあるが他の施設がどのように実施しているのか知りたいという意見も多かった。
・自由記載の意見からは、薬剤の服用の運用等で、他の福祉施設との情報共有したいという要望があることが明らかとなった。
Ⅱ結果をうけて
薬剤師側の関与状況が明らかになったことから、福祉施設側からの具体的な問題点、要望を確認した上で、継続的な情報交換の場を持ちたいと考える。薬剤に関する情報提供を実施し連携を深める等、可能なところから薬剤師ができる支援について検討を進め、より安全な入所者の薬学的ケアにつなげたいと考える。
―編集後記―
師走を迎え、本年もたくさんの感謝や反省をして振り返る時期となりました。
この一年を思い返しますと、2月には第75回済生会学会・令和4年度済生会総会が3年ぶりの会場開催として開かれ、9月には済生会総裁の秋篠宮皇嗣殿下に当研究所を訪問いただくなど、コロナ禍で離れがちだった人と人との距離が若干縮まったように感じます。
本年も余日少なくなってまいりました。皆様がすこやかに新年をお迎えになられますようお祈り申し上げます。
(見浦)

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