済生会総研News Vol.78
政府が6月13日に策定した「こども未来戦略方針」について引き続き考察する。
前回この戦略方針を実行するに当たっての財源対策の問題点を述べた。戦略方針を実行するために国民負担の増加を求めることになるが、岸田内閣は、11月2日に閣議決定した総額17兆円規模の新たな経済対策では、所得税と住民税について1年限りを念頭に4万円の定額減税を盛り込んだ。
効果の乏しい対策に税金を投入したうえ、さらに減税を行うことでは、財政規律を危うくなるという批判が噴出するのも止むを得ないだろう。国の政策の軸の混乱が心配される。
戦略方針を実施するのが、4月に発足したこども家庭庁である。私は、子ども対策を一元的に進められること、過重になっている厚労省の業務を分離できること等の理由から新しい庁の業務や体制が十分に整備されるならば、同庁の創設は期待できると思っていた。
しかし、発足した同庁の現状を見ると、危うさを感じざるを得ない。
その1つは、各省庁が所管する子どもに関するすべての業務の一元化が実現しなかったことである。特に幼稚園行政をこども家庭庁に集約することが最も重要だった。議論が行われたのだろうが、文科省に残されたままである。
昭和56年春ころ、幼保一元化問題を旧厚生省で担当課の課長補佐として3月間という短期間携わった。当時の行政管理庁から幼保一元化を進めるようにとの勧告を受けて、旧厚生省と旧文部省の両省で検討が行われた。私が携わった時は、すでに結論が出ていたが、保育所と幼稚園の目的や機能が異なっているので、両施設を一元化することは困難であり、両省で連携を密にして両施設が特徴を生かして発展する方向を目指すということであった。
両施設には政治的に強い力を持つ団体があった。総理大臣クラスの政治家が有力メンバーであったので、両省での検討の当初から一元化は困難だという前提で議論がなされていたと思える。しかし、行政管理庁が勧告を出したように利用する国民の立場からは、両施設の役割や機能には大きな差異はない。他の先進国の実情を見ても一元化している国が圧倒的に多かった。両施設を一元化しても大きな支障はないはずだ。
一元化に向けた一歩として両施設ともこども家庭庁が所管すべきだった。
第2の懸念は、施策の実行体制である。実際に政策を実行するのは、地方自治体であるが、現時点では同庁と地方自治体との関係が脆弱である。私が環境省の幹部だった時も苦労したが、今後地方自治体との連携関係強化に向けて相当の努力が必要である。
研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子
ソーシャルワーク教育の動きー日本ソーシャルワーク教育学校連盟の紹介
ソーシャルワーク教育の動きとして、重要なとりまとめ役として活動しているのが、一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟(http://www.jaswe.jp/)であり、2017年に「日本社会福祉士養成校協会」「日本精神保健福祉士養成校協会」「日本社会福祉教育学校連盟」の三団体が合併してできた団体である。つまり、全国のソーシャルワーク教育学校(社会福祉士、精神保健福祉士、社会福祉教育を行っている学校)で組織しているのが特徴である。

社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟(http://www.jaswe.jp/)より
主な活動として、まず、「養成教育の充実・発展」があり、主に社会福祉士や精神保健福祉士の教育内容・教育方法の充実に向けて、関係団体や組織と連携して教育体制の強化に向けた検討及び研修を行っている。
次に、「福祉人材確保」として、福祉人材の安定的な確保に向け、社会的な認知や地位の向上、任用や活用の促進、職域拡大、待遇改善等をはかるための諸活動を行っている。
さらに、「広報・啓発」として、若年層や資格取得を目指す学生や社会に対して、ソーシャルワークやソーシャルワーカーを知ってもらえるよう、SNSや動画を活用した広報・啓発活動を行っている。
そして重要項目である「国家試験合格支援」として、社会福祉士・精神保健福祉士の資格取得を目指している人を対象にした全国統一模擬試験や受験対策web講座などの国家試験合格に向けた支援を行っている。
ぜひ現場の方々に知っていただきたいのが、受験資格取得後に国家試験を受験する際の模擬試験等の情報が得られる点と、社会福祉士と精神保健福祉士の求人をはじめ就職に関する情報が掲示されている点である。学生だけでなく既卒者への支援も積極的に行っており、SNSや動画でのサポートも充実している。私自身、模擬試験の作成・編集だけでなく、今年度行われている既卒者支援調査研究事業に参画しており、少しでも貢献できればと考える。
社会福祉士と精神保健福祉士のカリキュラムが2021年度の新入生から変更になっていることは以前のこの総研newsでも紹介したことがあるが、どんな学びを経て社会へ出ることになっているのか、ぜひ目を通していただければと思う。
―編集後記―
11月に入って27度の日もあれば、木枯らしの吹く冷たい日もあり、寒暖差になかなかなじめない今日この頃です。
とある日曜日、美容室に向かう途中、和装をした親子連れをみかけました。さらに、美容室に行くと、ちょうど髪の毛をセットしている鮮やかなブルーの装いの男の子がいました。髪のセット後、これまた和装で髪型をセットした両親と元気よく美容室を出ていきました。
美容師さんがいうには、今年は七五三祝いで髪の毛をセットする予約が久々に多いということでした。
これから年末にかけていろんな行事があると思いますが、健やかに穏やかに過ごせるといいなと思います。
(Harada)

PDFファイルをご覧になるためには Adobe Reader が必要です。
お持ちでない方は、
Adobe Readerをダウンロードしてください。