済生会総研News Vol.69

総研News 一覧はこちら ≫

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第68回 急がれる少子化問題研究

 昨年の日本の出生数は、80万人を下回り調査開始以来最少となったことが確実である。私は、第1次ベビーブーム直前に生まれたが、人生の前半は、人口が急増する時代を生きてきた。
 この時代に学校、入試、就職を体験した者は、経済が高度成長し、日々豊かになっていくことを実感した。しかし、ある日突然必需物資が得られなくなるかもという恐怖をいつも潜在的に抱いていた。この裏返しとして上昇志向や競争意識が強かった。私と同時代に生きた経済人が執筆した日経の「私の履歴書」には、この精神構造が読み取れる。このエネルギーが日本を「ジャパン アズ ナンバーワン」と称されるまでに押し上げたと言える。
 しかし少子化が進んでくると日本社会の風景は、がらりと変わった。若い年代は、豊かさを既定のものとしてとして考え、苦労することを忘れてしまった。繁栄の絶頂を過ぎたローマ時代後期の爛熟らんじゅくな社会を連想させる。
 国の経済力は、人口×1人当たり労働生産量であるから、少子化は国力を確実に減衰させる。労働生産性の低下は著しく、日本生産性本部の調査では2021年の一人当たりの労働生産性はOECD加盟国38カ国中28位で、韓国よりも下回る。
 人口減少が国家衰退へ一瀉千里いっしゃせんりの道であるということは、歴史の教訓である。少子化ストップが日本の緊急の課題である。
 これまでも国は、少子化対策を講じてきた。
 1990年は「1.57ショック」と称され、社会に衝撃を与えた。これを受けて1994年にエンゼルプランが策定されたのを始まりとして、新エンゼルプラン、少子化対策基本法、次世代育成支援対策推進法、児童手当法改正等と次々に実施された。しかし、出生率は、一向に回復せず下降したまままである。少子化を必ず止めるのだという決意に欠け、政治的行政的パフォーマンスに終わった。
 現在国会や政府では新たな少子化対策について活発な議論が展開されている。児童手当の所得制限の撤廃、N分N乗という所得税計算方式の導入などフランスやドイツで成果があったといわれる政策が提案されている。
 しかし、私は、これらが少子化を防止するために効果があるか疑問に思っている。今必要なことは、まずは過去の施策の失敗理由の解明である。
 次いで日本の経済、社会、文化等の実情に合致した施策である。日本が直面している少子化問題は、ヨーロッパの経験よりもはるかに重症で日本の独自性が絡んでいる。ヨーロッパでの対策とは「次元の異なる」強力な政策が必要である。このためには裏付けとなる実証的な研究が早急に行われなければならない。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

第75回済生会学会・令和4年度済生会総会での活動報告

 2月11日・12日に第75回済生会学会・令和4年度済生会総会がパシフィコ横浜ノースで開催され、筆者は、済生会福祉施設長会議での講演と第75回済生会学会で口頭発表を行なった。その概要について、報告する。

 1.済生会福祉施設長会議での講演(2023年2月11日)
「済生会福祉施設における災害対応の現状と課題」のタイトルで、科研費による研究成果の報告を行なった。福祉施設の災害時や感染症の対応に向けたBCP(事業継続計画)の策定や福祉避難所の設置運営に関する質問紙調査を実施し、現状と課題を整理した。

 <BCPと避難訓練、地域との協働>の視点では、多くの施設で、被災時を想定した取り組みとして、食料や飲料水の確保や避難訓練を実施していた。一方、BCPの策定が進まない施設での課題として、「BCPに関する情報不足」、「策定にかかわる人員の確保」への対応の必要性が示された。また、災害時支援活動の受け入れ準備、地域の諸団体との協働による避難訓練の実施では、コロナ禍もあり、地域における連携の課題がみられた。
 <福祉避難所>の視点では、災害時、福祉施設ではもともとの利用者への対応に加えて、福祉避難所としての役割への期待があるが、要配慮者(高齢者、障がい者、妊産婦、乳幼児、医療的ケアを必要とする者等)の対象の幅広さが課題であり、さらに、行政と福祉施設での連携課題として、「情報の集約と共有」「受け入れ調整」「人的支援」が挙がった。平時から地域における具体的な検討を重ねることが重要であると示された。

2.第75回済生会学会での口頭発表(2023年2月12日)
 「コロナ禍での課題解決に向けた取り組み―済生会の在宅サービス事業所への調査から」と題し、済生会の在宅サービス事業所へ調査した結果のうち、コロナ対応に関する自由記述を分析し、報告を行なった。課題として、「支援や相談における対面でないむずかしさ」・「職員の感染対策や予防」・「病院を退院する方の情報」が挙げられ、対応として、「リモートやWeb会議システムといったオンラインの活用」・「地域での社会資源を活用した新たな連携の模索」等の取り組みを行なっていることが明らかになった。利用者や家族への対応、組織としての事業継続を踏まえた感染対策など臨機応変な対応や近接施設との関係性や地域のニーズも鑑み、課題解決に向けた取り組みをそれぞれの事業所で行っていることが示された。

*なお、研究にあたって、データの収集などでご協力くださいました皆様、また、報告の場を提供くださった学会運営事務局の済生会横浜市東部病院のスタッフの皆様に感謝いたします。

人材開発部門

臨床研修管理担当者研修 今後の臨床教育病院に求められることなどを学ぶ  事業推進課

 2月11日にパシフィコ横浜ノースで「臨床研修管理担当者研修会」が行なわれ、指導医35人が参加した。
 企画責任者で済生会の医師臨床研修専門小委員会・泉学委員(宇都宮病院 総合診療科)が進行した。
 研修会は2つの講演が行なわれ、第一部では、静岡県立総合病院の小西靖彦院長が「卒前・卒後の医学教育について」と題し講演。実習を含めた卒前教育と卒後研修との継続性や、臨床教育病院として今後求められることなどを学んだ。
 第2部は、船﨑俊一川口総合病院循環器内科部長・リハビリテーション科部長(兼)済生会保健・医療・福祉総合研究所 担当顧問が「臨床実習後OCCEと済生会の研修について」「アウトカム基盤型臨床実習と臨床研修にどう向き合うか」と題し講演。済生会における医学教育システムなどを学んだ。
 各講演後は意見交換が行なわれ、今後の臨床研修に関する理解を深めた。

指初期研修医合同セミナー 「学ぶ側」から「教える側」を議論  事業推進課

 2月11日にパシフィコ横浜ノースで「初期研修医のための合同セミナー」が開催され、全国の済生会病院に勤務する研修医257人と研修責任者等35人の合計292人が出席した。
 当セミナーは、1年目の研修医が済生会の規模を実感し、帰属意識を高めることが目的。済生会の医師臨床研修専門小委員会・泉学委員(栃木・宇都宮病院総合診療科主任診療科長)が企画責任者となり、済生会学会・総会に合わせて開催しているもので、研修責任者(指導医)も出席し初期研修医と指導医との交流も深めている。
 本部・松原了理事の挨拶に続き、2つのグループワークが行われた。
 1つ目は「学ぶ側から教える側へ」をテーマに行なわれ、川口総合病院 船﨑俊一 循環器内科部長・リハビリテーション科部長(兼)済生会保健・医療・福祉総合研究所 担当顧問が担当した。
 2つ目のグループワークは、「臨床実習を受け入れている病院でよりよい研修を行うためには」をテーマに松坂総合病院 近藤昭信 外科部長が担当した。
 昨年に続き、アンサーパッドと呼ばれる集計機器を研修医全員に配付。現在の臨床研修やこれから教える側になっていくことについてなどの質問に答えながら意見交換した。
 また、レジデント企画「当院の初期臨床研修について」と題して、各病院を研修医が自院の研修の魅力についてスライドを用いてアピール。研修責任者の投票の結果、優勝―熊本病院、準優勝―宇都宮病院、3位―中央病院に賞状と記念品が贈られた。

―編集後記―

 今、看取りと災害対応についてのインタビュー調査で福祉施設におうかがいする機会があるのですが、先日訪れた滋賀県では、朝起きると雪の光景が広がっていました。ちなみにこの直前、東京では、20度近くあり、パーカーで買い物に行けるくらいだったので、日本の多彩さに改めて驚きました。なお、インタビュー調査では、先駆的な取り組みや地域の特性に合わせた実践など、どの施設でも学ぶことだらけです。いずれ、この総研news等で報告したいと思います。
(Harada)

Adobe reader

PDFファイルをご覧になるためには Adobe Reader が必要です。
お持ちでない方は、 Adobe Readerをダウンロードしてください。