済生会総研News Vol.68

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第67回 社会保障制度に対する諸外国の影響

  戦後の日本における社会保障制度の発展の歴史を俯瞰的ふかんてきにみると、いくつかの段階があった。これを諸外国との関係性の視点で考察してみたい。
 第1段階は欧米の制度の導入期である。「欧米に早く追いつけ」がスローガンであった。当時の日本の社会保障制度の基準は、先進国だった欧米の制度であった。「欧米で実施されている」と説明すれば、認められる時代である。
 欧米といっても国ごとに相当の差があったが、日本の実情に都合のよいものを選択して導入していった。これは後発国の有利な点である。また、日本の官僚が得意とすることでもあった。しかし、この方法は、個別の制度をピックアップするだけであるので、社会保障制度全体の理念や哲学を学ぶことにはならなかった。また、社会保障制度の体系が崩れ、制度間の連携等に問題を生じることになる。今日でも日本は、この後遺症に悩んでいる。
 終戦直後の日本の社会保障制度は、壊滅状態だったから、新しい制度を基礎から構築していくことになる。当時はGHQの指導下にあったので、欧米の制度を導入する方法が採用された。ちょうどそのころヨーロッパやオセアニア諸国は、戦争で疲弊した国民生活を支えるため、福祉国家の建設が進められていた。日本もこれにならって福祉国家の建設が国政の柱になった。
 当時日本では社会保障を研究・教育する大学は限られており、専門的研究者も少なかった。社会保障の研究に当たった人は、哲学、法律、経済等の隣接する分野出身者が大半だった。このような状況下で研究をリードしたのが旧厚生省で政策立案に当たった旧内務官僚である。彼らは新しい制度を設計するに当たっては、欧米諸国に長期滞在し、制度を学び、これを丸ごと日本に導入しようとした。明治維新後の文明開化期と似た状況である。
 昭和二、三十年代に医療保険、年金、福祉の各部門の法整備が進み、日本で残された最後の制度と称された児童手当法が昭和46年(1971)に制定され、水準等はともかく制度は、欧米と同等の体制に整った。
 児童手当制度の創設の中心を担った厚生官僚の近藤功氏は、『児童手当創設日録』(講談社出版サービスセンター、2006年)を自費出版されたが、私も一部贈呈していただいた。近藤氏が児童手当制度創設の検討にあった昭和41年から45年までの日記をもとにされたものだが、大変興味深い。米、英、独、仏、伊等の国の状況を丹念にフォローされ、検討に生かされていた。語学が堪能で、これらの国の人とのネットワークに感心する。
 第1段階の時期は、1973年のオイルショックによって高度成長が終焉しゅうえんを告げると、一緒に幕を下ろし、第2段階に入る。以下次回に続けたい。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

済生会総研のホームページと所報についてのお知らせ

 前号にて、済生会のホームページにある「ソーシャルインクルージョン シンク!」(本部事務局の総合戦略課が所管している)の中のソーシャルインクルージョン事典(炭谷理事長監修)について、紹介をしたが、今回は、総研のサイトについて取り上げておきたい。
 済生会のホームページのトップページをスクロールするとトピックスの中に済生会総研があり、クリックすると総研のページにつながる。

 総研のコンテンツには、この済生会総研のvol.1から前号のvol.68までがPDFで格納されているとともに、総研の研究部門と人材開発部門の成り立ちと事業説明がある。そして、済生会総合研究所報の最新号である12月に出たばかりの第3号<新型コロナ特集>が置かれている。

 コロナ対応に関する研究も目にするようになったが、1つの施設での事例報告や1つの地域に対して調査をしても回収率が10%程度など、全国をカバーした研究は未だ少ないのが現状である。そのような中、所報第3号では、済生会における全国での施設を対象とした研究であるというのが特徴となっている。内容は以下の通りである。

 炭谷所長による巻頭言にはじまり、松原所長代理によるトピックス「済生会のコロナパンデミックの経験~新型コロナ感染症に対する済生会の取り組み~」が続いている。
 さらに、総研の客員研究員でもある藤本 賢治氏(産業医科大学 産業保健データサイエンスセンター)、山口 直人研究部門長(済生会保健・医療・福祉総合研究所)、総研の顧問である松田 晋哉氏(産業医科大学 医学部公衆衛生学/産業保健データサイエンスセンター)による「済生会病院における新型コロナウィルスによる受診状況変容の記述的研究」が掲載されている。次に、山口 直人研究部門長と松原 了所長代理による「済生会病院 DPC データに基づく新型コロナ入院患者の入院時併存疾患と死亡退院リスクの関連に関する臨床疫学的研究」、そして私(原田)の「コロナ禍での課題解決に向けた取り組み―済生会の在宅サービス事業所への調査から」がある。
 所報の第1号・第2号もあるので、ぜひご一読していただければと思う。

*なお、研究にあたって、データの収集や意見交換などでご協力くださいました皆様には感謝申し上げます。引き続き、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

―編集後記―

 2023年、どんな年になるでしょうか。今年もよろしくお願いいたします。
 最近、気になっているのが光熱費の高騰です。一般家庭だけでなく、病院や施設にも波及しているようで気がかりです。先月、ひさびさに東京国立博物館に足を運びました。教科書でも目にしたことのある国宝の数々にきつけられました。まさに、その博物館でも光熱費が課題というニュースを見かけました。

 ひとまず、個人でできる取り組みとして、東京都の推奨しているタートルネックなど保温効果の高い服装の着用でオフィスの暖房温度を下げる「ウォームビズ」を実践しています。「クールビズ」のように広がるといいなと思います。
(Harada)

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