済生会総研News Vol.67
先日家族が長期の入院治療をした。個室を利用したため、自己負担は多額に上ったが、民間の医療保険に加入していたので、大変助かった。
日本人は民間保険加入率が高いらしい。ネット情報では生命保険の加入率は約90%である。私は、結婚した機会に生命保険会社に勤務している親戚の人に頼まれて、義理的に加入した。このほか火災保険、自動車保険、がん保険そして医療保険と加入している。
合計してみるとかなりの保険料になる。医療保険以外に保険給付を受け取ったことはないが、現代はリスクが社会に広く存在しているので、個人の経済力では対処できない異常事態の発生に備えて、合理的だと思う範囲で加入している。
どの程度各種の民間保険に加入するか、難しい判断だ。保険会社の立て板に水の巧みな説明を受けると高いカバレッジの保険に加入しないと不安になってくる。それに応じ保険料が高くなっていく。リスクと負担とのバランスを考えることになる。
一方、社会保障政策の見地からは日本社会には民間保険の保険料を負担できない層が多数存在することに着目しなければならない。社会のリスクの対処をすべて民間保険分野に委ねた場合、保障されない多数の人が生じる。これに該当する人は、事故が発生した時に生活破綻に陥る。
そこで社会保障制度において民間保険の役割をどのように位置づけるか、公的制度との分担をどのようにするかが重要な論点になる。これは各国の社会保障の歴史、国民性、経済等によって変化する。社会保障制度が手厚く、国民の連帯感が強い北欧などでは公的制度が優先し、民間保険の役割は小さい。これに対してアメリカに代表されるように個人の自助努力を重視する国は、民間保険が大きく発展している。
どの方向を目指すべきなのだろうか。アメリカで公的医療保険が長い間未整備で、医療保障が受けられない低所得者の存在が、長い間アメリカの最大の政治論争テーマであった。オバマ政権の時に「オバマケア」の実施で一応の決着がついたが、今でもトランプ前大統領にように「オバマケア」の廃止を訴える政治勢力がある。この背景には強大な民間保険会社の勢力がある。
私は、医療のような人々の人生にとって根幹的な分野は、公的制度が支えることが基本でなければならないと確信している。日本では市場原理を重視する経済学者、経営者、官僚は、民間医療保険の役割の拡大を主張するが、このようになると社会保障制度は早晩崩壊し、社会不安の増大は不可避である。
研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子
ソーシャルインクルージョン事典
私の業務として、BCPなど災害対応に関する研究や看取りに関する研究など研究が主軸であるが、それ以外にも、済生会のホームページにある「ソーシャルインクルージョン シンク!」(本部事務局の総合戦略課が所管している)の中のソーシャルインクルージョン事典(炭谷理事長監修)での用語のピックアップや内容のチェックなどにも協力をしている。
福祉用語の事典作成に以前関わったことがあるが、用語をピックアップして割り振り、原稿執筆を経て出版となるとどんなに早くても世に出るのに2年はかかったと記憶している。しかし、ホームページで公開されているこのソーシャルインクルージョン事典は、ほんの数カ月で、時には今話題になっているような関連用語をすぐにピックアップするなど、とにかくスピード感が今までとケタ違いである。
「社会福祉法人」「児童相談所」などといった基本的な用語から、「済生丸」「なでしこプラン」など済生会の取り組みにかかわる用語もあり、すべての人に関連するソーシャルインクルージョンとしてのあり方を表現した内容となっている。
また、取りあげられた用語に関連した済生会の取り組み事例もリンクしており、現場での実践がみられるのも大きな特徴である。
私も知り合いから学生が活用しているということを耳にしている。事例もありイメージできると好評のようである。ぜひ皆様にもご活用いただければと思う。
ソーシャルインクルージョン シンク!
https://www.socialinclusion.saiseikai.or.jp/
ソーシャルインクルージョン事典
https://www.socialinclusion.saiseikai.or.jp/encyclopedia/
人材開発部門
指導医ワークショップ 今回も対面で開催護室研修報告 事業推進課
第48回全国済生会臨床研修指導医のためのワークショップが11月26~27日に大阪市のクロス・ウェーブ梅田で開かれ、15病院から27人が参加した。本年度2回目の対面開催となった。
開催責任者で長崎病院の衛藤正雄院長とチーフタスクフォースの風巻拓・横浜市東部病院救急科医長 スキルトレーニング室長が中心となって研修を進行、7人のタスクフォースが受講者をサポートした。事務局は開催担当の長崎病院と次回以降担当の水戸済生会総合病院と富田林病院、本部が務めた。
研修では、eラーニングによる事前学習から始まり、当日は主に臨床研修プログラムの立案、目標設定、研修方法(方略)、評価など指導医に求められる知識と技術をグループワークで学んだ。
受講者は「学んだことを実践で生かしたい」「タスクの先生の丁寧なサポートにより、理解を深めることができた」と評価した。
同ワークショップは平成18年に第1回を開催。これまでの修了者は1444人に達した。
―編集後記―
12月に入ると一気に気温も下がり、朝晩の寒さを感じます。
コートとタートルネックの組み合わせに頼りきりです。その一方、通勤時は暖房のきいた混雑した車内の妙な暑さにハンカチを出さねばならず、体調管理に気を配る毎日です。
電車の中でも、スーツケースや大きめのリュックなどを手にしている方をよく目にするようになり、街中では外国からの観光客も増えているように感じます。
どんな年末年始になるのかなと思う帰社時に、パチリと写真を撮りました。立ち止まって撮る方も多かったように思います。ちょっとレアな東京タワーです。よいお年をお迎えください。
(Harada)

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