済生会総研News Vol.65

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第64回 不可欠な法的検討

 10月5日までのメディアで知る限りだが、高橋治之東京大会組織委員会元理事の行動は、あきれるばかりだ。ビジネスで常習的に行われていた手法をオリンピック大会開催に絡んで実行し、巨額の金銭を得ていたと報じられている。
 利益提供は、AOKIホールディング、KADOKAWA、大広という一流企業である。社内のコンプライアンス体制はどうだったのだろうか。私たちが、大企業関係の仕事をすると、異常なくらい煩瑣はんさな手続きを要求される。一つの誤字も書き直しさせられるのと大違いだ。企業の人との雑談的な意見交換も詳細な記録や録音をし、将来のトラブルに備えている。社内の法務部をはじめ、厳格な審査があるためだろう。
 贈賄側で逮捕されたのは、企業のトップだったので、部下の社員は、違法だと認識していても、自分の保身のためか、止められなかったのか。KADOKAWAでは顧問弁護士が贈賄罪のおそれがありと助言したと報道されているのは、救われる思いがした。
 最近のニュースに接すると、行政や企業の行動について法的な観点からの検討が十分に行われていたのか、疑問に思うことが多い。
 中央官庁は、法律を軸に仕事がなされる。立憲主義の下では行政は、国会が制定した法律に基づき仕事をしなければいけない。これが崩れると民主主義国家としての基盤が危うくなる。私の長い官庁経験でも神経質なくらいに法的な問題点について議論がされた。起こりそうもないケースも想定して、あらゆる角度から法的問題を検討し、国会やメディアの批判に耐えうるまで詰めた。
 しかし、最近の中央官庁の仕事ぶりを見ていると、法律に縛られると現実の問題に的確に対応できないからと、実行してしまうケースがある。場合によっては無理に無理を重ねた法解釈を行っているのではと感じる。
 このような風潮が日本社会全体を覆っていないだろうか。うまい方法があれば、少々危ない道を歩く。そうしないのは度胸がないからだと言わんばかりだ。
 しかし、済生会が行う医療や福祉の仕事は、公益性を確保するため細部にわたって法律による規制が存在する。これを無視すると、行政の許可が下りない、補助金が出ない、行政処分を受ける、場合によっては犯罪になる可能性がある。だから済生会の業務に当たっては厳密な法的な検討が不可欠である。
 済生会総研における研究に当たっても同様で、法的な検討を常に行っていないと、研究成果が、実効不可能で無駄に終わり、社会的に批判を受ける研究になりかねない。このような当たり前のことを述べなければならないのは、最近の社会に蔓延まんえんしている風潮のせいである。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

国際福祉機器展レポート

 国際福祉機器展(10/5-7)があるということで、セミナーの参加や最新の介護や福祉等の機器の情報収集のため、東京ビッグサイトに行ってきました。
 福祉や医療の機器展示がメインですが、各種セミナーも同時に開催され、福祉や介護、医療などの今やこれからを感じられる内容が詰まった空間となっていました。
 まず、「地域共生」を掲げたセミナーに参加しました。「農業を介した持続可能な地域共生社会へのアプローチ」のテーマで登壇したのは、社会福祉法人白鳩会(鹿児島県南大隅町)の中村隆一郎理事長でした。ちなみに総研NewsのNo.34(2020年3月)にも記事を掲載したのですが、障がいのある方々が自身の能力を生かし、社会とつながっていくことを目指している開放型福祉農園の「花の木農場」を運営している法人です。刑務所出所者や精神障害者の雇用において作業と本人の適性の見極めが重要であることや、地域での他の企業等との共存や連携が不可欠であるとうかがっていたのですが、コロナ禍により、さらに行政や組織などとの連携を進め、地域に根差した取り組みを行っているという報告がなされました。規格外で売り物としては扱いの難しい小さいジャガイモを小いもプロジェクトとして売り出したり、ネット販売に力を入れたりと活動実績を積み重ねているようでした。福祉の団体だけでなく、いろいろな分野との連携を意識して活動をしているところが先駆的だと感じました。

 福祉機器の展示ですが、子どもの療育の教材やベッドや車など多岐に渡る展示がなされていました。介護の移乗の際の補助機器や車いすのブースが以前より増えているように感じました。写真はTOYOTAのブースにあった車いすです。開発中ということでしたが、非常にスタイリッシュで洗礼されたデザインでした。段差があってもクリアできるという使う側にとっての安心感のある機能も整った製品でした。
 また、最新の技術を用いた機器も多く目にしました。VRを用いた旅行気分を味わえる機器もその1つです。旅行にいくことが難しい状況にある方でも、VRのゴーグルのような機器を装着することで世界を旅できるのはワクワク感を味わえる新たなエンタメになる可能性を秘めている機器でした。
 福祉の機器や製品に関しては、今までよく言われてきたのは地味でおしゃれじゃないということでしたが、色や形も含め、シックなものやカラフルなものと選択肢が増えているなと今回の展示で感じました。会場には、中高生や大学生らしき集団もみかけましたが、熱心に見てまわっているようでした。いろんな立場から多くの情報を得ることができる空間でした。

―編集後記―

 この季節にキンモクセイの香りに予期せず出合うと少しほっとします。ちなみに花言葉は、「謙虚」「気高い」「真実」だそうで、存在感のある匂いと可憐かれんな花のギャップにきつけられます。季節の変わり目を感じ、コートなど冬の装いの準備をしなくてはと動き出す今日この頃です。
(Harada)

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