済生会総研News Vol.53

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第52回 社会保障と人権

 千葉県船橋市は、アンデルセンの生まれたデンマークのオーデンセ市と姉妹都市になっている。船橋市ではオーデンセ市の職員を招いてワークショップを開催している。松戸徹・船橋市長は、このワークショップを通じて「デンマークでは社会保障と人権を同一に考えている。利用する側と支える側との人間のありようについて学校でディスカッションされていることが分かった」と話している(からだサイエンス2021年10月号)。
 船橋市長の発言は、ポイントを捉えている。社会保障は、人権を守るためにあり、人権とは一体である。医療や福祉の行政や現場で携わる人にとって心得ていなければならないが、日本では徹底していない。ちなみに厚生労働白書でも人権について詳細に考察した記述は、見当たらない。
 私は、旧厚生省社会・援護局長の時に人権確立の立場から社会福祉基礎構造改革を行った。明治時代から続く「施す福祉」から「権利として福祉」への転換であるが、省内外は、猛反対の大合唱だった。法律制定まで3年、関係団体との交渉は、160回を超え、大変苦労したが、私の信念が揺るぐことは一瞬たりともなかった。
 その中で痛感させられたことは、日本社会の人権意識の希薄さだった。有力な保守系の政治家は、「福祉の金をもらうのを権利とはふざけるな」と書類を突き返された。旧厚生省の大物OBは、「現在の制度のままでないと、役所のOBが勤めるところがなくなる」と大変正直な反対論だった。
 これに対してデンマークでは小学生の段階から社会保障と人権の密接な関係を学んでいるので、国民の常識になっている。
 この立場に立てば社会保障制度の対象は、自ずと大変広範囲になる。
 半世紀前、多数のベトナム難民が日本に上陸した。本来は、日本での生活保障は、社会保障の対象のはずだが、当時の厚生省は所管外として断固拒否した。これは正しい判断だったのか、他局にいた私は疑問に感じた。私が責任者であれば、難しいけれども、進んで引き受けたと思う。
 引きこもり問題は、児童は厚労省が所管しているが、成人は内閣府になっているのも不思議に思う。児童の貧困問題は、社会保障問題そのもので、他省庁の協力を得ながら厚労省が中心的役割を担うべきだと思うが、現実は違う。
 近年人権問題としてクローズアップされているLGBTQ問題も社会保障で扱うべき問題が多いが、社会保障からのアプローチは少ない。
 このように人権の立場に立てば、社会保障が対象としなければならないことは、今後も拡大していく。済生会総研は、感度を常に鋭くし、このように生起する問題に積極的に挑戦していかなければならない。

研究部門 済生会総研 上席研究員 持田勇治

一般入院基本料から地域医包括ケア病棟へ移行シミュレーションツール

 済生会保健・医療・福祉総合研究所研究チーム「地域包括ケア病棟運用最適化の検討」では、研究テーマとして一般入院料から地域包括ケア病棟への移行に関してのシミュレーションの研究を進めてきた。済生会経営情報システムデータを使用し、地域医療ケアへ移行した場合の経済的な評価可能なシミュレーションツール開発を開始した。多くの済生会病院において病院経営改善のツールとして共有できることを目的とした。
 研究メンバー体制は次の通り。

氏名 所属
持田勇治(代表) 済生会総研 上席研究員
研究協力員  
名古屋 和也 済生会向島病院 事務次長
高原 裕一 済生会二日市病院 医事企画課係長
山形 篤史 香川県済生会病院 医事課課長
宮竹 浩史(7/31まで) 済生会西条病院 医事課長
荻野 智子(8/ 1から) 済生会西条病院 医事課係長
矢野 清久 済生会今治病院 診療情報課課長
山中 信也 済生会松山病院 医事課主任

 当ツールを開発するにあたって各病院で自由にデータ分析が可能となるよう、使用データは済生会経営情報システムデータが収納されているニッセイアローのデータ抽出機能であるプリセット抽出機能を使って「入院時請求データ」「医師・病棟コードデータ」「地域包括対象外請求金額データ」「食事療養費データ」の4つのデータファイルを出力して使用する。また、そのデータの分析は、Microsoft Excelで可能となっている。
 その4つのデータファイルを使い、Microsoft Excel VBAで1つのデータファイルを統合し「統一データベース」として作成する。その内容は、一般入院基本料を算定している患者が、地域包括に移行した時の診療報酬請求額の影響を患者毎、診療日毎で比較できるものであり、それに加えて医師、診断群分類、診療科、病棟等の情報も付加している。また、「統一データベース」からMicrosoft Excelピポットの機能を使って、「医師別」「病棟別」「診療科別」「DPCコード別」等の基本的な分類毎の分析が可能なツールも作成した。
 これまで総研からの分析結果は、病院自身がデータ作成を行うものは少なく、データ分析結果を提供する形であった。今回のツールは、各病院をデータ出力して分析可能なものとしており、各病院にとってが機動的に使用できるツールとなっている。今後マニュアルを含め済生会病院へ提供していく予定。

人材開発部門

初のオンライン開催 臨床研修指導医WS

 第45回全国済生会臨床研修指導医のためのワークショップが9月24~25日に本部主催で開かれ、本会24医療施設(協力施設を含む)から24人が参加した。
これまでは宿泊研修施設で開催していたが、新型コロナの影響によりオンラインで行なわれた。Zoomのブレイクアウトセッション機能やGoogleのアプリケーションを活用することで、ワークショップを行った。
 この研修は厚労省の認定を受けており、16時間以上のプログラムを実施する。平成18年2月に第1回を開催して以来、修了者は1314人に達した。
 開催責任者(兼)チーフタスクフォースの近藤昭信・済生会松阪総合病院外科部長のほか7人のタスクフォースが参加者をサポート、今後開催担当予定の長崎病院の協力も得ながら、職員7人が事務局を務めた。


 主とするテーマは研修医が行なう研修プログラムの立案。目標の設定、研修方法(方略)、コーチング、評価といった指導に必要な知識と技術等ついて、グループワークなどを用いて効果的に進められた。本部の医師臨床研修専門小委員会の委員長で岡山済生会総合病院・塩出純二院長や京都大学の小西靖彦教授の講演も盛り込まれた。
 受講者からは「目標を具体化し、評価することの重要性を理解できた」「現状においてこれまでとほぼ同様の内容でワークショップを開いていただき、とてもありがたかった」「オンラインだったが非常にスムーズだった」といった声が寄せられた。

(事業推進課)

―編集後記―

 この最近コロナ感染者が急激に減っている。感染者が減った原因ははっきりしないといわれるが、これまで制限されていた社会生活が徐々に感染症拡大前へと加速している。
私は、この1年半前、外でお酒をのんでいない。
感染が拡大を始めたころに飲みに行く約束を思い出し、感染には十分に留意しながらその約束を実行するか思案中である。
(持田 勇治)

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