済生会総研News Vol.46

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第45回 職業人としての倫理

 最近国家公務員の不祥事が目立つ。国家公務員を退職して15年も経つが、今の堕落ぶりは、心配になる。
 高級官僚が、「飲み会を断らない女」と公言し、新社会人にも同様な生き方を推奨していたのには驚いた。利害関係企業の幹部と庶民の常識を超える高額な食事を共にすることは、彼女の行動原理から断る選択肢は、なかったのだろう。
 平成8年、厚生省(当時。以下省庁名はいずれも当時)で事務次官が収賄容疑で逮捕されたのは、私が厚生省に在職中だった。その時の省内のすさんだ空気は、鮮明に記憶している。東京地検特捜部の家宅捜査が入り、メディアの取材が殺到した。他にも波及するのではと、密かに話された。他に逮捕者はなかったが、多数の懲戒処分者が出た。
 この事件の発生後就任した小泉純一郎厚生大臣の指示は、「一切の外部との飲食を禁じる」と明快だった。利害関係の有無や金額の多寡などに迷うことはなかった。
 大臣の指示は、省内に緊張感を与え、不祥事再発や信用回復に効果的だった。当時私は、社会・援護局長だったが、すべての食事会を「大臣の命令ですから」とお断りした。
 小泉大臣は、職員がかわいそうだと思われたのだろう、大臣のポケットマネーで幹部職員を麻布等のレストランで度々食事を共にする機会を設けられた。食事が終わると、大臣自ら支払いに立たれたのには驚いた。
 翌々年には大蔵省幹部に対する金融機関の過剰接待問題を受けて国家公務員倫理法が制定されたが、厚生省では壊滅的なダメージを受けた後だったので、厳格に順守されていた。私は、もともと宴席が好きでなかったので、食事の誘いを断るのに都合が良かった。しかし、時間の経過とともに国家公務員の倫理が、緩み始めたように感じた。明白な利害関係者との宴席やゴルフなどのうわさを耳にした。これらが倫理規程に則り、処理がされていたのかは知らない。
 平成18年9月に退官して1,2カ月後、人事院から国家公務員の現状や改めるべき点について意見を述べると場に招かれた。ここでは率直に国家公務員の倫理の乱れが生じており、放置すれば昔のような事件が再発するので、強力な対策の必要性を述べた。
 今回の問題は、その後も国家公務員の行動を遠くから眺めていた私にとって意外性はなかった。
 国家公務員倫理法は、国民全体の奉仕者としての国家公務員としては当然過ぎることを定めたものだと思う。本来、公務員の職業倫理は、国民の幸せと国家の発展のために全身全霊を傾注するというもっと高度な理念に基づくものであるべきだ。
 医療や福祉関係の職業倫理は、それぞれの学会や専門職団体で高度な内容を有すものが定められている。この分野に携わる者としては、この機会に該当する職業倫理規定を読み返してみたいものだ。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田奈津子

第1回済生会地域包括ケア連携士フォローアップ研修会グループワークを担当して

 3月19日にZoom使用によるWeb研修として、「第1回済生会地域包括ケア連携士フォローアップ研修会」が行われた。この研修は、本部事務局社会福祉・地域包括ケア課の主催であり、私はグループワークの時間の講師として参画した。
 研修では、地域包括ケア連携士による活動報告により、済生会支部・施設での地域包括ケアの推進状況について情報共有することをまず目的としている。今回、活動報告を行ったのは、唐津病院、松山病院、北海道済生会、福島総合病院、高岡病院、特別養護老人ホーム康和園、豊浦病院の7つの支部・施設であった。
 さらに、グループワークを通して、各地域での住民のニーズに沿ったサービスの展開や、その実践を可能にする環境づくりについて検討し、さらなる地域包括ケアの推進や連携の深化を目指すという内容になっている。
 受講者は、病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)、福祉施設の相談員、在宅サービスの職員(ケアマネ、看護師等)、支部の職員など、幅広い施設で働く多様な職種の方々約80名が参加した。
 本稿では、グループワークでの動きについて報告していきたい。
 グループワークは、グループワーク①、グループワーク②、全体発表・まとめの3部構成になっており、自己紹介や役割分担をした後、事前に送ったシートをもとにすすめることとした。グループは1グループ5-6名で15グループの編成となった。
 グループワーク①では、「7つの報告を聴いての気づき」・「自分の実践と照らし合わせて、すでに実践できていること、今後取り入れたいと考えたこと」といった〈7つの報告の振り返りと応用〉について検討した。
 次に、グループワーク②では、〈今後どのように実践していくのか〉ということを主軸にし、具体的に何をどうすすめるのか、今の実践のブラッシュアップや新しい取り組みの必要性について検討し、互いに共有した。
 このグループワークでのねらいは、「意図的な実践や取り組みを目指す」ということであった。総研で行っている地域包括ケアに関する研究等では、効果的な実践に向け、いくつかの事項を意識する必要があることが明らかになっている。そのため、グループワークにおいて、以下の事項を検討のポイントとして据えた。

 最後の全体発表では、時間の都合もあり、約半数のグループに発表してもらったが、「どのように地域に出向くのか」・「済生会内での連携のあり方」・「地域の社会資源の活用」など、グループ内での検討を通して、有意義な情報共有がなされたようであった。 
 済生会地域包括ケア連携士が単独で動くことには限りがあり、職場の理解、済生会内での協力、済生会外の組織との連携、地域でのつながりなど、周りをどう巻き込みながら実践していくのかが重要であることを確認できたのではないかと思う。また、それぞれの地域のニーズに合わせた持続可能なよりよい実践を目指す意義を共有できた時間であった。

 当日の資料でも明示したが、上記のような社会で期待される実践の背景を意識した取り組みが進められ、今後さらに深化していくことが望まれる。 
 Web研修の参加がはじめてという受講者も多くみられたが、活動報告者を含め、済生会のスケールメリットを活かした研修であり、かつ、総研の研究成果をいかしたグループワークの実施になったように思う。 
 今後とも研修に貢献すると共に、研修等を通じて還元できるような研究の実施を目指したい。

人材開発部門

MSW・生活困窮者支援事業研修会

 2月26日、令和2年度MSW・生活困窮者支援事業研修会をMSW68名の参加を得て開催しました。Zoomを活用した完全オンラインでの開催とし、本部事務局に18台のPCを配置してブレイクアウトセッション機能を活用したグループワークも実施しました。

 炭谷理事長より「済生会におけるMSW事業の理論と方法」、本部事務局広報室の山内敦室長より「済生会の歴史と使命から考える生活困窮者支援」それぞれ講演があり、炭谷理事長は「済生会のMSWが日本のMSWをリードしてほしい」と強い期待を述べられました。続いて中津病院の冨士川浩子氏から無料低額診療事業等の取り組み事例を報告いただきました。

 午後のグループワークでは、伊藤直行氏(山形)・神田義則氏(新潟)・岩﨑圭介氏(静岡)・南本宜子氏(京都)・平田正彦氏(呉)・松尾美穂氏(日田)の6名をファシリテーターとし、コロナの影響やその中で済生会に期待される支援等について検討しました。 
 参加者からは「済生会のMSWであることに誇りをもって仕事をしたい」「済生会のMSWとして院内にとどまらず地域でも広く活躍できる存在になりたい」といった意見のほか、Zoomでの研修については「初めてで不安だったが事前の丁寧な説明があってよかった」「子育て中で出張ができないためオンラインで研修に参加できてよかった」等の感想が寄せられました。情報交換会は、グループごとにブレイクアウトルームを自由に使用する時間を設けることで交流を図っていただきました。

―編集後記―

 とある日の仕事のついでにパチリと撮った桜です。ここ最近、下を向いて歩く日が続いていた気がしますが、たまには顔をあげて歩くのもいいなと思いました。桜の季節は、切なさと希望に満ちあふれているなと感じます。4月からまた新たな気持ちでスタートをきりたいと思います。

(Harada)

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