済生会総研News Vol.25

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第24回 SDGsで思うこと

 済生会では昨年度から始まった「第2期中期事業計画」ではSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを新規に盛り込んでいる。各支部、病院、施設等の代表的な取り組みをまとめて、「SDGsと済生会」と題する冊子を作成して広く頒布している。今後とも積極的に目標達成に向けて努力し、医療や福祉分野でのモデルとなるようにしていきたい。
 ところで最近、企業でもSDGsに取り組むことを表明する企業が、増えている。これにはいくつかの理由がある。
 欧米での潮流を受けて、1970年代ごろから日本では、CSR(企業の社会的責任)に関心を持つ企業が現れた。今では大半の大企業は、CSR重視の経営方針を取り、CSR報告書を公表している。
CSRに対する熱意によって企業価値が判断される。フランスの個人投資家の3分の2は、会社の環境や社会に対する貢献度を投資の判断材料にするという。
 かつて欧米で事業展開をしている日本企業が人種差別を行い、地域社会から厳しい批判を受けて工場や事務所の閉鎖の危機に瀕するという手痛い経験によって、CSRの重要性を学んできた。
 SDGsは、これまで取り組んできたCSRの延長にあるので、比較的取り組みやすい素地あることが、企業で浸透している理由の一つだろう。また、SDGsは、ISOと違って認証を受ける必要がなく、17の目標のうち、企業にとって取り組み可能なものを選択できるので、企業にとってハードルが低い。
 SDGsは、企業の本来の事業遂行によって達成することが、基本的な実行方法である。特別に経費を支出しなくても構わないので、負担感が少ない。
 世界各国でSDGsに取り組もうとする機運が、盛り上がっている。日本国政府も2016年5月に推進本部を設置して、行政機関、企業、団体等あらゆる機関が取り組むように呼び掛けている。
 このような様々な理由から日本企業は、SDGsに取り組んでいることは、喜ばしいことである。
 私は、長い間、環境行政に従事してきた。公害防止、廃棄物処理、地球温暖化対策などいろいろな局面で企業側と熾烈な交渉を行った。経産省(旧通産省を含めて)とは、怒号が飛び交う深夜に及ぶ交渉は、日常茶飯事だった。
 企業経営や経済の論理を根底に一歩も引かない主張と激しく衝突し、徒労感や諦観を感じることも少なくなかった。
 最近のSDGsを巡る状況は、私が経験してきた風景とは、全く異なっている。これを契機に日本社会のパラダイムが転換するならば、素晴らしいことである。

研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子

研究の進捗状況

 今回は、「済生会DCAT」(研究タイトル「済生会DCATの取り組みにおける現状と課題 ―組織化と派遣職員へのサポート―」)の研究について、報告いたします。


  • Ⅰ.研究の目的と方法

     本研究は、日本においていち早く災害時の福祉分野にかかわる支援活動を行ってきた済生会による済生会DCAT(Disaster Care Assistance Team:災害派遣福祉チーム)の組織化の過程や取り組みの現状と課題について、調査を通して明らかにすることを目的としている。
     また、「支援者支援」の観点からも、済生会DCATの支援活動に参加した職員のメンタルヘルスなどへの影響も考慮し、どのようにサポートしていくのかも含め、実践に寄与しうるような研究を目指す。本研究は主に調査による実証研究である。

  • Ⅱ.調査にあたっての検討

     先行研究のレビューを行うと共に、済生会DCATにこれまでかかわってきた済生会の現場の職員へ研究協力者として参画を依頼し、研究ミーティングを行った。その研究ミーティングでの意見交換をもとに、調査対象や調査項目の検討を行った。

  • Ⅲ.調査の概要

     済生会DCATは、これまでに3回、「熊本地震(H28年)」「岩泉災害(H28年)」「7月豪雨(H30年)」派遣されている。この3回で活動に参加した職員、派遣施設、受け入れ施設を主な調査対象とする。調査の実施にあたっては、日本社会福祉学会の研究倫理指針等を遵守し、倫理的配慮のもと実施する。そのため、当研究所の倫理委員会で調査内容についての承認を受けた。

    調査① 済生会DCAT参加職員への質問紙調査(6月実施)
     活動参加にあたっての不安、実際の活動内容や評価、活動によるストレス、活動後の取り組み等
    調査② 派遣施設へのインタビュー調査(6~7月実施)
     職員の派遣にあたっての困難事項、派遣職員へのサポート等
    調査③ 受け入れ施設へのインタビュー調査(6~7月実施)
     活動支援内容、受け入れにあたっての困難事項、事前準備で必要なこと等
    調査④ DCAT部会長、現地調整員(本部)へのインタビュー調査(6~7月実施)
     調査①・②・③を踏まえた済生会DCAT活動の課題整理、今後の研修や活動への展開等

  • Ⅳ.今後の取り組み

     済生会DCAT参加職員、派遣施設、受け入れ施設への調査を通して、済生会DCATの検証をすることで、災害時の済生会内・外での取り組みへの波及効果が期待できる。調査結果について分析を進めると共に、研究ミーティングを開催し、調査結果への考察を深めた上で、提言を行う。報告書の取りまとめをはじめ、学会等でも積極的に成果を発表していくこととする。

人材開発部門

訪問看護ステーション管理者研修

 令和元年度訪問看護ステーション管理者研修を5月23~24日に本部で開催しました。今年度新設された1事業所を含め、50人(うち10人が新任)が参加されました。
 1日目は、炭谷茂理事長の基調講演が行われ、「訪問看護師はまさに「地域包括ケアの推進」の一役を担っている重要な存在である。済生会の訪問看護師が患者・利用者満足度の向上と、「住民に信頼される済生会」を目指し、内外に済生会の活動を発信して欲しい」と語られた。
 続いて、日本訪問看護財団常務理事・佐藤美穂子氏の講義「訪問看護制度をめぐる動向」において全国の訪問看護ステーションの経営状況や人材確保の課題等の現状について解説され、ICT化等により成果を可視化し、多職種との連携の効率化・タイムリーな情報共有により看護の専門性を発揮して真っ先に選ばれる訪問看護ステーションを目指してほしいと話された。
 2日目は、一般社団法人空と花訪問看護リハビリステーション 日本財団在宅看護センター代表理事・神奈川歯科大学短期大学部看護学科教授 石川徳子氏の講義「訪問看護ステーションの経営戦略について」が行われ、訪問看護師に必須であるフィジカルアセスメント能力、コミュニケーション能力そしてマネージメント能力を育成することの重要性と管理者に求められる役割について示された。
 続いて、(株)在宅看護センター横浜代表取締役 山本志乃氏の講義「訪問看護ステーションの運営・経営」において自身の家族の在宅看取りをきっかけに、起業するまでの経緯を説明され、経営者としての管理者の取るべき行動やコミュニケーションの重要性を解説された。

 午後は、中央病院・副院長兼看護部長 樋口幸子氏と中津病院看護部長 中西裕子氏が「訪問看護ステーションの連携について」説明いただいた後、グループワークを行いながら、2人の看護部長と活発な意見交換が行わた。多くのグループから「病院との人事交流をもっと増やし、ステーションの現状を知って欲しい」、「病院の看護管理者に向けて、在宅看護の研修をぜひ取り入れて欲しい」などの意見が出された。
 続いて、済生会訪問看護ステーション管理者間の交流を通して、連携・親睦を深める目的で「交流ワーク」を行った。はじめに、新任管理者の自己紹介があり、全体交流会で各施設の状況を紹介。次に8グループに分かれて事前に調査した意見や質問についてグループワークを行った。活発な意見交換と情報共有の場となった。

済生会総研から ―編集後記―

 研究部門の報告にもありますように、済生会DCATの調査を行っております。インタビュー調査で各支部・施設に直接訪問する機会があるのですが、先日おじゃました熊本県済生会の取り組みに感銘を受けました。
 済生会熊本福祉センターの障害福祉サービス事業の就労継続支援として、障がいを持つ方々が、熊本病院の清掃やカフェの場でいきいきと役割をもって活動をしている様子を拝見することができました。地域で信頼されていることも垣間見えて、素敵だなと感じました。
 今後も、インタビュー調査等で各支部・施設におじゃますると思いますが、普段の素敵な取り組みにも出会えたらと思います。よろしくお願いいたします。

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