済生会総研News Vol.24

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第23回 新しい階層の研究

 社会学の重要なテーマに階層論がある。最近の社会を見ると、世界全体で階層に激動が起きている。
 先進国は、経済成長とともに中間層が増大し、低所得者層は減少していく歴史だった。社会全体の生活水準が上昇し、多くの人が豊かな生活を享受するようになった。所得水準が平準化し、健康、教育、文化などは向上した。
 一方、途上国は、中間層が育たず、貧困層が多い状態が継続している。一部の国では資源の独占などによって巨額の富を持つ者が生まれる。所得分布は著しく不平等で、大多数の国民の健康や教育は低水準に放置されている。
 しかし、近年、先進国の図式は、大きく変化している。中間層が細る傾向が顕著になり、途上国と同様に低所得者層が増大している。
 世界の標準的な社会学の教科書であるアンソニー・ギデンズ著「社会学」では、階級を論じる章に「アンダークラス」という概念を特記して解説している。階級構造の最下部に位置付けられる人口区分を表わすために「アンダークラス」が使用される。この層に属する人は、長期失業者、転職を繰り返す者、常住できる住まいを持たない者などで、不利な境遇に置かれ、社会的に排除されている。
 さらにギデンズは、エスニック・マイノリティグループもアンダークラスを構成していると言及する。アメリカではインナーシティに住む貧しい黒人、ヨーロッパでは移民である。
 最近、日本では、橋本健二早大教授が、アンダークラスの概念を使用して日本社会の問題を指摘している。十分な給料が得られない非正規雇用の労働者の増大に注目する。彼らは、家庭を持つことが困難なため少子化が進み、老後の備えがされないため社会保障負担は増大する。
 アンダークラスは今後とも増大し、所得格差は拡大し、固定化していく。これは先進国共通した現象である。
 対策が急がれる貧困家庭の子どもの問題は、ここから派生してくる代表例である。7人の子どものうち 1人は、貧困家庭である。50年前の日本では、低所得の家庭の子どもでも教育を受け、処遇の優れた仕事を得、中・上流社会に移動することができた。世代間移動が活発だったが、最近は停滞している。
 貧困家庭の子どもは、行政や大学の実態調査から明白なように、小学生の時から健康や学力に明らかなハンデキャップを背負う。年齢を重ねてもこの差は縮小せず、親と同じ低所得者層に沈殿する。
 このような現象は、社会の不公正感を増大させ、活力を喪失させる。早急に根本的な対策が求められるが、このためには世界的に起きている階層変化を分析し、把握することが必要である。

研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭

研究テーマ 「重症心身障害児(者)施設における現状と課題」

  • 1.はじめに

    今年度は重症心身障害児(者)施設に焦点をあて、研究をすすめていくことにした。
    本号では、重症心身障害児(者)施設等の現状について、整理した。

  • 2.重症心身障害の定義

     重症心身障害とは、重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態をいい、その状態にある子どもを「重症心身障害児」という。また、18歳以上の重症心身障害児を含めると「重症心身障害児(者)」という。重症心身障害児(者)(以下、「重症児者」)は、医学的診断名ではなく、わが国独自の児童福祉行政上の法律概念である。
     重症児の判定基準は、国は明確に示していない。現在では、「大島分類」(表1)によって判定するのが一般的となっている。
     重症児に対して行われる保護並びに治療及び日常生活の指導を目的とする施設を「重症心身障害児施設」(児童福祉法第43条の4)という(以下、「重症児者施設」)。重症児者施設は、児童福祉施設であると同時に医療法に規定された病院でもある。

    表1 大島分類*

    表1 大島分類

    出所:社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会,療育相談ネットワーク,
    5.重症心身障害とは~いのちゆたかに~, 重症心身障害児(者)とは,
    http://www.normanet.ne.jp/~ww100092/network/inochi/page1.html
    より筆者引用,一部加筆.

    *表1の赤枠の1~4の範囲になるものを「重症心身障害児」と判定
    *元東京都立府中療育センター院長大島一良博士により考案された判定方法

     さらに、呼吸管理など医療的なニーズが高く障害の思い重症児について、鈴木康之氏による「超重症児・準重症児判定基準」が診療報酬の中で位置づけられている。
     「超重症児(者)・準超重症児(者)の判定基準」(表2)の各項目に規定する状態が6ヶ月以上継続する場合、それぞれのスコアを合算し、スコア25点以上を「超重症心身障害児」(以下、「超重症児」)、スコア10~24点を「準超重症心身障害児」(以下、「準超重症児」)とした。

    表2 超重症児(者)・準超重症児(者)の判定基準

    1.運動機能:座位まで
    2.判定スコア
    (1)レスピレーター管理10
    (2)気管内挿管・気管切開8
    (3)鼻咽頭エアウエィ5
    (4)O2吸入またはSpO2 90%以下の状態が10%以上5
    (5)1回/時間以上の頻回の吸引8
            6回/日 以上の頻回の吸引3
    (6)ネブライザ6回/日以上または継続使用3
    (7)IHV10
    (8)経口摂取(全介助)3
            経管(経鼻・胃ろう含む)5
    (9)腸ろう・腸管栄養8
            持続注入ポンプ使用(腸ろう・腸管栄養時)3
    (10)手術、服薬でも改善しない過緊張で発汗による更衣と姿勢修正を3回/日以上3
    (11)継続する透析(腹膜灌流を含む)10
    (12)定期導尿 3回/日以上5
    (13)人工肛門5
    (14)体位交換 6回/日以上3

    出所:岡田喜篤 (監修), 小西徹 (編集), 井合瑞江 (編集), 石井光子 (編集), 小沢浩 (編集)『新版重症心身障害療育マニュアル』, 第1編 基礎編―重症心身障害の基本的理解 第1章 重症心身障害児(者)の療育と理解 1.重症心身障害児(者)問題の変遷, 4)鈴木康之:超重症児(者)、準超重症児(者)、いわゆる動く重症心身障害児(者), P16, 表1-1-3 超重症児(者)スコア(現行)より筆者引用改変.

  • 3.重症心身障害児者、重症心身障害児者施設の状況

     重症児者は全国で約43,000人と推計されており、そのうち、在宅がおよそ28,000人、施設入所がおよそ15,000人となっている1)
     平成31年3月時点において、重症児者施設は、国立センターが1か所60床、国立病院機構(国立療養所重症児病棟)が72か所7,343床、公・法人立が136か所13,754床、あわせて208機関21,248床が全国に整備されている2,3)
     さらに、近年、新生児医療や小児救命救急医療など、医療の進歩により、NICU等に長期入院した後、引き続き、人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たん吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な障害児(以下「医療的ケア児」)が増加してきた。平成27(2015)年までにおいて、0~19歳の医療的ケア児は、全国で17,078人となっている(図1)。
     また、18歳未満の在宅にいる重症児(以下、「在宅重症児」)は19,000人~28,500人とされ、そのうち、医療的ケアを受けている在宅重症児は10,000~15,000人となっている。さらに、人工呼吸器を必要とする在宅重症児は3,069人となっている(図2)。

    図1 医療的ケア児数
    図1 医療的ケア児数
    図2 在宅人工呼吸器患者数
    図2 在宅人工呼吸器患者数

    出所:埼玉医科大学総合医療センター, (研究代表者)田村 正徳, 平成28年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究」の中間報告. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000147259.pdf,P7~8より筆者引用.


    図3 医療技術の進歩によって変わっていく子供たちの病態
    出所:日本医師会小児在宅ケア検討委員会『平成28・29年度小児在宅ケア検討委員会報告書』,P6より筆者引用.
     このように、寝たきりで医療的なケアを受ける子どもが増加している。しかし、最近では、医療的ケアが必要で、立って話せる子どもが急速に増えており、その子らの定義や呼称は決まっていないことに加え、福祉制度や社会制度の保障も十分ではないのが実態である(図3)。こうした実態の中、小児の在宅医療において、国も動きを見せている。例えば、永田町子ども未来会議の超党派(自民、公明、民主、厚労省、文科省、内閣府など)の勉強会では、医療的ケアを加味した新判定基準の確立、報酬改定に関する加算の算定、教育分野と医療・福祉との連携等について提言をしている4)。また、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律において、医療的ケアを要する障害児が適切な支援を受けられるよう、自治体において保健・医療・福祉等の連携促進に努めることを明記したこと、などである。

  • 4.全国の入所待機者数

    全国における在宅重症児は約28,000人である。近年、在宅重症児の重度化が増加しており、特に、医療的ケアの対応の困難さから入所を希望される方が増えている5)。また、重症児本人の加齢に伴い、介護者の高齢化や健康状態の悪化により、在宅での支援が困難となることも出現している。しかしながら、重症児が入所できる重症児者施設等は満床状態であり、すぐに入所できる状況にはない。
     そこで、平成23年度障害者総合福祉推進事業(厚労省)において、社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会が実施した調査結果を紹介する。
     全国の入所待機者数については、各県市、東京都内児童相談所、重症児者施設等を対象に実施している(表3~4)。ブロックでは関東・甲信越、圏域別では首都圏において、入所待機者数が多くいることが明らかとなっている。全国の重症児者施設等の入所待機者は、3,703人と推計している6)

    表3 全国の推計入所待機者数
    表3 全国の推計入所待機者数
    表4 圏域別入所待機者数
    表4 圏域別入所待機者数

    ※入所待機者数を推計するにあたっては、正確な基礎データが存在しないこと等を考慮すると、全国の入所待機者数は3,000~5,000人とするのが妥当であるとしている5)

    出所:社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会. 厚生労働省平成23年度障害者総合福祉推進事業『重症心身障害児者の地域生活の実態に関する調査についての事業報告書』,P4~5より筆者引用.

     また、同報告書において、全国の重症児者施設(196施設)を対象に、入所待機者の把握について調査をしている。その結果、入所の待機場所で最も多かったのは「自宅」が811人(60.5%)で、次いで「一般病院」が238人(17.8%)となっている。一般病院で入所を待っている方が約20%程度いることから、自宅以外の行き場の選択肢が数少ないことが示唆されたといえる。また、入所待機者のうち、「医療的ケア」が必要である重症児者は668人(53.9%)だ。
     施設入所の理由(複数回答)では、「医療的ケアの対応の困難性」が348人、「主介護者の高齢化」が243人、「主介護者の病気又は健康状態」が198人となり、入所を希望する時期については、「早急に」が467人38.6%)、「将来の重度化・介護者の高齢化に備えて」が340人(28.1%)という結果となっている6)

  • 5.まとめ

     このように、早期の入所を望んでいながらも、重症児者施設は、全国的に満床状態であり、なかなか入所できない状態にある。こうした中、数多くの重症児者が在宅でのサービスや支援を受けながら生活していることがわかった。
     なるべくでれあば、重い障害を抱えた子を自分たち(親として)のそばで看ていきたいという気持ちは、どの家族にもあるのではないかと考える。しかしながら、様々な理由によって、在宅生活の継続が困難になる場合もある。その際、家族にとっては安心して入所させることができる施設を望むのは当然のことである。重い障害を抱える本人や家族が、「この施設なら、子ども自身が楽しく、安心して過ごすことができる」と思ってもらえるような施設づくりを目指していくことが、これまで以上に今後は重要となってくるのではないか。

    • 引用文献
    • 1)椎原弘章:重症心身障害児(者)の概念と実態. 小児内科, 40, 1564-1568, 2008.
    • 2)厚生労働省:第2回障害児入所施設の在り方に関する検討会(第2回参考資料),社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 障害児・発達障害者支援室調べ(平成31年3月26日時点), P1.
    • 3)全国重症心身障害児(者)を守る会:機関紙『両親の集い』. 第721号(2018年5・6月号).
    • 4)永田町子ども未来会議 提言2017. 平成29年9月19日版. https://www.arai21.net/wp-content/uploads/2017/09/提言170919.pdf.(2019.3.28閲覧)
    • 5)杉本健郎, 河原直人, 田中英高, 谷澤隆邦, 田辺功, 田村正徳, 土屋滋, 吉岡章:超重症心身障害児の医療的ケアの現状と問題点―全国8府県のアンケート調査―. 日本小児科学会雑誌, 112(1), 94-101, 2008.
    • 6)社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会:厚生労働省平成23年度障害者総合福祉推進事業 重症心身障害児者の地域生活の実態に関する調査についての事業報告書. 東京, 2011.
    • 参考文献
    • ・日本医師会小児在宅ケア検討委員会:平成28・29年度小児在宅ケア検討委員会報告書. 東京, 2018.
    • ・岡田喜篤, 蒔田明嗣:重症心身障害児(者)医療福祉の誕生―その歴史と論点―. 医薬出版, 東京, 2016.
    • ・岡田喜篤 (監修), 小西徹 (編集), 井合瑞江 (編集), 石井光子 (編集), 小沢浩 (編集):新版重症心身障害療育マニュアル. 医薬出版, 東京, 2015.
    • ・大島一良:再び重症心身障害とは何か. エル・エス・ティ学会誌 1(2), 51-60, 1986.
    • ・障害児支援のあり方に関する検討会ヒアリング「重症心身障害児(者)への支援について」, 公益社団法人日本重症心身障害福祉協会, 北住映二資料.
    • ・東京都:障害児入所施設利用者数の推移.
      http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/shougai_kyogi/dai8ki/senmonbukai2.files/290808_8-5.pdf. (2019.4.19閲覧)

済生会総研から ―編集後記―

 今号は、障害福祉分野の重症心身障害に焦点をあて、基本的理解に関することを中心に書きました。
 研究をすすめるにあたり、多くの文献を整理し検討しています。そこで、重症心身障害のことについて知りたいと思う方へ、私がお勧めする著書を紹介します。
 それは、髙谷清著『重い障害を生きるということ』(岩波新書)です。
 著書では、重症心身障害の歴史をはじめ、医師としての実践経験からの事例も紹介をしています。事例では、心身に重い障害を抱えた人たちが日常生活をどのように感じ、生きがいや喜びは何か、という視点から重症児者の日常を細かに捉え、懸命に生きぬく重症児者の様子、そして、施設職員の熱心な支援状況が紹介されています。
 本を読み終えた後、重症心身障害を抱えた人の支援の奥深さと家族支援の重要性について考えさせられました。

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