済生会総研News Vol.23

総研News 一覧はこちら ≫

済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第22回 ~寄付を生かす~

 4月15日、パリのノートルダム寺院が火災で焼損した。パリに旅行した人は、必ず訪れる。何よりもフランス国民にとっては心のよりどころである。フランス革命、ナチス侵略の歴史の荒波に耐えてきた。
 火災発生後、時間を置かずマクロン大統領は、5年以内の再建を明言したのも理解できる。
 驚かされたのは、再建費用の寄付の意思表示が直ちに続出したことだ。その額は、本稿執筆時(4月20日)で1千億円を超えている。著名企業による巨額な寄付が大宗を占めるが、今後、庶民の少額の寄付も行われることだろう。
 このような事態における寄付行為は、未来に対する希望の光と元気を与えてくれる。寄付行為の力である。
 私は、寄付について嫌な記憶がある。60年前だった。町で見かけぬ中年の男が書類の綴りを抱えて訪ねてきた。父が応対した。「某地の災害復旧のため、役所の支援を得て寄付を集めている」と丁寧に話す。書類には近所の人がずらりと署名し、同じ寄付金額が書かれていた。負担になる金額でなかったのだろう。父は、右へならえした。
 翌日、市役所からの緊急連絡で詐欺だと判明した。10歳前後の子どもの目にさえ男の所作は怪しく見えた。父も感じたに違いない。寄付をしたかったわけではない。近所との横並び意識が支配したのだ。詐欺男は、それを巧みに利用した。
 寄付行為は、寄付者が寄付目的に賛同し、経済的能力の範囲で自発的に行うことが基本である。日本社会ではこれが、捻じ曲げられるケースが大変多い。
 福祉は、人間が生来的に有している他人に対する慈しみの心から生まれた。寄付は、それから醸し出される行為である。このため日本では明治以来福祉の財源は、原則的に寄付が予定された。
 この考えは、平成12年の社会福祉基礎構造改革まで継続した。社会福祉施設を建設する費用で補助金を除いた施設の自己負担は、寄付を集めて充当し、利用者からの収入の充当を禁止するという規則があった。
 今日では多額の寄付を集めることは、困難である。ここに経理操作など不正が多発した。旧厚生省社会・援護局長に在職していた私は、長期間疑いもなく続けられた非現実的な規則を根本から改正することにした。
 福祉における寄付の重要性はあるが、集め方や使途が問題である。公的負担の肩代わりであってはならない。人件費に使うのは、寄付者の意図に反する。
 社会政策における寄付の位置づけを明確にし、善意の心を100%生かす望ましい方策を確立が必要である。税負担による制度と市場原理の両者の限界が顕著になってきた今、寄付の意義を再確認すべき時代である。

研究部門 

DPC データを使用した分析手法のワークショップ(入門編)開催報告

 「DPC データを使用した分析手法のワークショップ(入門編)」を平成31 年2 月21 日(木)済生会本部会議室で開催しましたので報告いたします。
 済生会保健・医療・福祉総合研究所の医療分野研究テーマ「済生会の病院のDPC 機能評価係数Ⅱの現状とその課題」の研究グループの主催。当ワークショップの目的は、「DPC データの分析結果を適切な情報へ変化させ、精度の高い経営分析を実現する。自院のDPC データを使用してデータ分析手法の基礎を習得すること」です。
 参加対象者はデータ分析の入門者とし、33 名(31 病院)の参加がありました。
 当日の流れは次の通りです。(敬称略)

(午 前)

講義1:
「医療機関別係数の理解と経営へのインパクト」~分析手法の前に DPC の係数とは
講師:
済生会横浜市南部病院 医事請求課長 福田 和宏(代行:小砂 剛志)
内容:
DPC 係数(基礎係数・機能評価機能係数Ⅰ・Ⅱ)とDPC 係数の病院経営におけるインパクトついて
講義2:
DPC データについて
講師:
済生会横浜市東部病院 経営企画室室長 波多野 隆行
内容:
DPC データ(診療データ)を可視化して分析資料の作成、課題の抽出、改善案の検討ができるようになるためにDPC データ(様式1、D、EF ファイル)の意味と関連性について
講義3:
DPC 機能評価係数Ⅱの決定プロセス
講師:
済生会保健・医療・福祉総合研究所 上席研究員 持田 勇治
内容:
DPC 機能評価係数Ⅱ(効率性・複雑性・カバー率・救急医療)について済生会病院の診療データからDPC 係数算出までのプロセスについて
講義4:
アローズを使用したデータ出力
講師:
済生会横浜市南部病院 医事請求課長 福田 和宏(代行:小砂 剛志)
内容:
自院のDPC データ分析に向けて病院経営管理システム(ニッセイアローズ)からのデータの出力方法について

(午 後)
自院DPC データを分析

講師:
済生会栗橋病院 診療情報課 副主任 坂野 直樹
講義:
CCP マトリックスについて説明・自院のデータ処理・データ分析・改善点の気づき
内容:
自院のデータからDPC 機能評価係数Ⅱ(効率性・複雑性・カバー率)算出作業

グループワーク

テーマ:
DPC 機能評価係数Ⅱを改善するためには?
グループ検討・
グループワークでの成果発表・講評
内容:
数名のグループに分かれて自院のデータからDPC 機能評価係数Ⅱの改善に向けた対策についてのグループワーク

 午前は、DPC のデータについての基本となる講義に始まり、午後は自院のデータからDPC 機能評価係数Ⅱの分析可能なデータを作成しました。その後、作成したデータからDPC機能評価係数Ⅱを改善するためには?というテーマでグループワークを行いました。開催後の参加者からのアンケートでは、「理解する事ができた」「ぜひとも病院に戻ったら分析してみたい」等の前向きな意見が多く寄せられました。ワークショップでは、済生会内の研修で参加者が自院のデータを使用した分析作業であり、そこから得られた情報が参加者にとって身近に感じられることにより理解がより深くなったものと考えられます。
 今後もこのような研修会を開催してDPC データ分析を行える人材の育成を積極的に行っていきたいと考えています。

人材開発部門

平成 31 年度 看護部長・副学校長研修

 平成31 年度看護部長・副学校長研修が4 月18~19 日、本部で開催し、全国から看護部長、副学校長86 名が参加されました。今年は新任14 名を迎えての開催となりました。
 1日目は、厚生労働省医政局看護課の島田陽子課長の講義「看護の動向」で、「看護師の特定行為に係る研修制度の概要・現状と推進方策」について、次に今月施行となった「働き方改革関連法」に関して、医師の働き方改革の実現に向けた、医師以外の職種へ「タスク・シフティングの推進」について解説いただきました。この推進は、「質の高い医療を確保するために、チーム医療の推進、医療機関の勤務環境改善、そして医師・看護師等の確保対策である。そこで、実践的な理解力・思考力及び判断力、高度かつ専門的な知識と技能を取得した看護師を計画的に増やしていき、医療機関の勤務環境改善支援につなげていく。この取り組みのさらなる推進のためにも、日本で最大の団体である済生会グループの看護管理者には、多くの看護師が特定行為研修を受講できるよう支援して欲しい」と話されました。さらに、「保健師助産師看護師の国家試験について」「保健師助産師看護師国家試験におけるWeb 公募システムについて」についてのほか、「助産師活用推進事業」について、妊産婦の多様なニーズに対応し、産科医不足・分娩施設減少への対策として産科医療機関において助産師を積極的に活用し、活躍を推進することを目的とした事業であると説明いただいた。
 続いて「平成30 年度全国済生会看護部長会と施設長との連携事業の報告」があり、済生会吹田病院感染管理認定看護師・藤本憲明氏より、高齢者・福祉施設における感染管理の連携強化を目的とした感染対策の実情調査について、施設との均等な関りができるよう、さらに感染管理を推進していくために企画書を立案したと報告されました。次に同院の専門副看護部長 皮膚・排泄ケア認定看護師・間宮直子氏より高齢者施設におけるスキントラブルのリスク要因とスキンケア対策について、各事例をもとに活動内容を説明されました。活動を通して、多くの課題が明確になり、今後も済生会グループの医療・福祉施設にとどまらず、近隣の施設の多職種と切れ目のない連携を築き上げていきたいと説明がありました。

 午後から、茨城大学名誉教授・福島学院大学教授・高輪心理臨床研究所主宰の岸良範氏の講義「人間関係とリーダーシップ メンタルヘルス・パワハラと『対話力』についてー豊かにはたらくためにその2―」とグループワークが行われ、「パワーハラスメント防止法」に関し、パワハラの問題については「『長』を担う立場の人は自分自身を守るために、またスタッフを、さらに病院を守るためにはたえず頭の中にいれておかなければならないこと」、また、労働者のメンタルヘルスの「指針」について、管理者は業務遂行に伴う疲労や、心理的負担が過度に蓄積して、心身の健康を損なわないように注意する義務「安全配慮義務」が求められると説明された。最後に人間関係を豊かにするためには、「自分と同じように他者も『様々な事情を持つ存在』という考えがわかり合う関係のひとつの契機になる。人間に対する深い理解が必要であり、人を尊敬・リスペクトすることから管理は始まる。その実践は、とにかく相手の話(時には言い訳)を聴くことが第一である。」と力説されました。
 2日目は、中京大学法科大学院の稲葉一人教授の講義「看護管理と臨床倫理 基礎と実践 +認知症の意思決定支援のガイドラインを受けて」が行われました。医療倫理の4原則と4分割法(症例検討シート)について、この4分割法を活用すると、職種や職場によって倫理の問題の見え方の違いを理解することができ、看護管理者は臨床倫理の視点を生かし、患者家族対応をしていくことが必要である、と解説されました。続いて、「人生の最終段階の医療ケアの決定のプロセスガイドライン」についての解説、最後に、平成30 年度 厚生労働省の老人保健健康増進等事業として、「認知症の人の意思決定支援 ガイドライン研修―認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン―」について説明があり、稲葉氏の監修のもと作成した研修用DVD を上映し、活用方法を解説いただきました。

済生会総研から ―編集後記―

 財務省は2024 年から一万円、五千円、千円の紙幣(日本銀行券)を刷新することを発表しました。一万円の肖像画は日本資本主義の父と言われる渋沢栄一、五千円は津田塾大の創始者である津田梅子、千円札は近代医学の基礎を築いた北里柴三郎が用いられることになりました。渋沢栄一は済生会設立当初の役員、北里柴三郎は医務主管及び済生会中央病院の初代院長であり、済生会と強いつながりのある方々の肖像が使用され新紙幣がより身近な存在に感じられます。

Adobe reader

PDFファイルをご覧になるためには Adobe Reader が必要です。
お持ちでない方は、 Adobe Readerをダウンロードしてください。