済生会総研News Vol.22

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第21回 ソーシャルエコノミー論を深める

 現代は、国を越えて活動するガリバー企業が世界経済を支配している。GAFAと言う4大企業が、世界のあるゆる個人情報を集積し、ビジネス拡大に利用している。ガリバー企業による経済活動の弊害が、指摘されている。
 プライバシーが侵害され、自分が気が付かないままに企業によって操作されていると恐怖感を感じるのは、私だけだろうか。各国が、GAFAに対する規制に乗り出したことは、当然だろう。
 法規制は、有効な対策であるが、企業と対抗するセクターの強化も必要である。企業との対抗関係に位置する強力な主体は、国、自治体という「公」である。
「公」は、強力な手段だが、副作用がある。濫用されると人権侵害となる。非効率的で生産性が低い。拡大すると、税負担が増大するなどの問題をはらむ。
 そこで「ソーシャルエコノミー」に注目しなければならない。
 ソーシャルエコノミーの定義は、時代や国によって変化があるが、代表的なものとしては、EUの定義を挙げておく。
  参加的な経営システムを備えた協同組合、相互共済組合、社団、財団など社会的な目的を追求するための経済的な活動
 ソーシャルエコノミーは、利潤を上げることではなく、社会的な価値を最終目的にする。
 企業と市場で競争をする。経営方針の決定は、自律的・民主的な方法が取られる。企業の対抗・牽制勢力となり、企業が、行えない分野の補完をする。
 ソーシャルエコノミーの普及は、国によって相当に異なっている。
 歴史的にヨーロッパで活発である。近世にはすでに教会、慈善団体、職人組合などが活動をし、互助的な機能や困窮者援助を行っていた。近代に入って労働組合、協同組合が誕生した。
 私が推進しているソーシャルファームもこの領域に該当する。企業や「公」だけでは不十分な社会的弱者のための就労の場づくりである。必要性が高いので、設置数が増えている。
 医療や福祉の分野の大半は、日本では「公」やソーシャルエコノミーの主体でなされてきた。一方アメリカでは企業が大きな比重を占め、日本に進出している。政治家や経済学者には、アメリカにならって企業の活用を拡大すべきだという主張が強い。
 これはソーシャルエコノミーの主体は、非効率などの面も有するからだろう。
 しかし、私は、現代の巨大企業の行動をみると、社会や住民の福祉の確保・向上のためには、一層ソーシャルエコノミーの重要性が増していると確信するようになっている。企業に依存が過ぎると、国民に被害を生じる。ソーシャルエコノミーの代表格である済生会は、行動と実績でソーシャルエコノミーの価値を証明していきたい。

研究部門 済生会総研 部門長 山口 直人

平成31年度の研究実施計画について

●はじめに
 平成31年1月30日に第2回研究評価委員会が開催され、済生会総研の研究活動について評価を受けると共に、平成31年度の研究実施計画に対する御意見をいただきました。そこで、今回は研究計画を説明します。

●テーマ別研究課題
 テーマ別の研究課題は8課題の継続研究を設定しました。課題名一覧を表1に示します。

表1 テーマ別研究課題

課題番号分野課題名
テーマ1医療DPCデータの利活用を目指した効果的な分析手法の開発と展開
テーマ2医療済生会の病院のDPC 機能評価係数Ⅱの現状とその課題
テーマ3医療DPCデータを使用した地域包括ケア入院料運用への取り組み
テーマ4医療・福祉医療・福祉の質指標の整備と分析評価、活用に関する研究
テーマ5福祉なでしこプランの展開と課題
―地域の特性に応じた各地の取り組みから―
テーマ6福祉済生会独自の地域包括ケアモデルの確立に向けて
―地域での暮らしを支えるためのまちづくり―
テーマ7福祉済生会DCATの取り組みにおける現状と課題
―組織化と派遣職員へのサポート―
テーマ8福祉障害児・者入所施設における入退所の実態と今後の展開
  • (1)医療分野(テーマ1~3)
     テーマ1「DPCデータの利活用を目指した効果的な分析手法の開発と展開」

     平成30年度は、『診療サービスの向上』の達成・『収益改善に向けた対応策の策定』の契機を目的に診療サービスの指標(12指標)(平成28年度実績)を作成して、済生会内で公表をしました。平成31年度は、診療サービスの指標(12指標)(平成29年度実績)を完成させるとともに、診療サービスの指標の結果や各病院でのヒアリングから改善策を策定します。また本改善策は、各施設の共有の情報として、さらなる改善を目指します。

  •  テーマ2「済生会の病院のDPC 機能評価係数Ⅱの現状とその課題」

     平成30年度は、平成30年度DPC機能評価係数Ⅱ(効率性・複雑性・カバー率・救急医療)の「指数」と「係数」の算定プロセスについてのとりまとめをしました。また、データ分析ができる人材の育成活動として、平成31年2月に「DPCデータを使用した分析手法のワークショップ(入門編)」を開催しました。33名の参加があり、DPCデータの説明、データ分析や改善するためをテーマとしたグループワークを行いました。平成31年度は、DPCデータの分析をさらに深めるともに、分析できる人材育成を進めていきます。

  •  テーマ3「DPCデータを使用した地域包括ケア入院料運用への取り組み」

     DPCデータ分析により地域包括ケア入院料の導入・運用に関する研究を行います。平成31年度から具体的な活動となります。地域包括ケア入院料に移行することによる経済的なメリットや、地域における貢献の評価方法等について、DPCデータを使用して有効な運用方法についての研究を進め、適宜、これらの結果の各施設へ向けてのフィードバックを行っていきます。

  • (2)医療・福祉分野(テーマ4)
     テーマ4「医療・福祉の質指標の整備と分析評価、活用に関する研究」

     医療・福祉の質指標の公開事業は、本部事業推進課が実施しており、済生会総研は、指標の見直し、新規の質指標の開発、収集した指標の詳細な分析等を行っています。現在、済生会臨床指標ガイドライン(仮称)を作成中であり、指標の算出方法などの周知を図り、各施設での指標の活用を推進します。また、介護施設における介護サービス利用者の個人別データを収集・分析して、「済生会介護データベース(仮称)」を構築し、介護サービスの質指標の作成を進めていきます。

  • (3)福祉分野(テーマ5~8)
     テーマ5「なでしこプランの展開と課題―地域の特性に応じた各地の取り組みから―」

     平成30年度までは、刑務所出所者への就労支援の取り組みという実践を軸に、ミクロな面でのなでしこプランの取り組みに着目して研究をすすめてきました。平成31年度からは、なでしこプランの評価と検証を行うマクロ的視点からの研究をすすめていきます。地域の特性やニーズに基づいた取り組みについて、評価できる仕組みを構築していきます。

  •  テーマ6「済生会独自の地域包括ケアモデルの確立に向けて―地域での暮らしを支えるためのまちづくり―」

     平成30年度では、済生会病院に勤務しているMSW(医療ソーシャルワーカー)に調査を実施し、「医療と福祉の一体的提供」や「地域やボランティアとの連携」などの課題が明らかになりました。平成31年度は、介護老人福祉施設に勤務する生活相談員を軸に、福祉施設職員を対象とした調査を実施する予定です。関係する職種の参加による研究ミーティングも必要に応じて行っていきます。

  •  テーマ7「済生会DCATの取り組みにおける現状と課題―組織化と派遣職員へのサポート―」

     済生会DCAT(Disaster Care Assistance Team:災害派遣福祉チーム)の組織化の過程や取り組みについて、検証をします。研究協力者(現場職員)参画による研究ミーティングを行い、DCAT活動参画職員、職員の派遣元施設、受け入れ施設に対して平成31年度に調査を実施する計画を立てています。

  •  テーマ8「障害児・者入所施設における入退所の実態と今後の展開」

     平成30年度から障害者入所施設の職員を対象に調査を実施するなどしてスタートした研究ですが、平成31年度では、障害児も対象にし、医療型/福祉型障害児入所施設も含めた障害児者の入退所に関する研究をすすめていきます。必要に応じて研究ミーティングを実施します。

  • ●おわりに

     済生会総研は、実践的な研究を目指し、保健、医療、福祉を担う済生会施設の活動の支援を目指していきます。済生会内外の施設との研究ネットワークを構築して共同研究を推進しますので、引き続き済生会総研へのご支援をよろしくお願いします。

人材開発部門

平成30年度MSW・生活困窮者支援事業研修会

 平成30年度MSW・生活困窮者支援事業研修会を3月12~13日に開催し、本会病院のMSWを中心に72名が参加しました。
 炭谷理事長が「済生会におけるMSW事業の理論と技法」と題して講演し、「済生会のMSWが日本のMSWをリードしてほしい」と強い期待を述べました。続いて、香川県済生会病院の梶久美子氏、福岡総合病院の今井俊介氏、静岡済生会総合病院の岩﨑圭介氏から、各施設の無料低額診療事業の実践状況が報告されました。

 2日目は、中央共同募金会・渋谷篤男常務理事が「社会的孤立の解消に向けて」と題して講演され、制度外の支援の重要性や、地域福祉の視点を学ぶことができました。
 講演後のグループワークでは、「無料低額診療事業と済生会のMSW実践を通じた社会的孤立の解消に向けて」をテーマに話し合い、1日目の実践状況報告と併せ岩﨑氏がコーディネーターを務められました。
 参加者からは「ニーズの背景に孤立と排除があることを改めて感じた」「日本社会の最終ラインを守る覚悟をもって業務にあたりたい」などの決意が述べられました。
 情報交換会では、障害者就労継続支援事業を行う熊本済生会ほほえみ「パン工房ふわり」のパウンドケーキや、愛媛・松山ワークステーション「なでしこ」のクッキーなどが用意され、参加者同士、交流を図ることができました。

済生会総研から ―編集後記―

 済生会総研が発足して2年が経過しました。済生会の支部・施設をはじめとした多くの方々のご協力のもと、研究がすすめられています。これからますます、研究の成果を現場の皆様にフィードバックし、さらによりよい実践につながるよう、研究に取り組んでいきます。

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