済生会総研News Vol.21

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第20回 骨髄移植に係る倫理

 競泳女子の池江璃花子選手が血液がん「白血病」であることを公表してから、その治療法として骨髄移植に社会的な関心が急激に高まっている。若者を中心に骨髄バンクの新規登録者が増加していると伝えられる。
 これまで多数の人が骨髄バンクに登録し、実際に骨髄液の提供をしている。これは崇高な奉仕精神の表れである。近年人への思いやりの精神が希薄になり、自己中心主義が社会に万延しているが、このような人たちの行為を見ると、日本人の優れた一面が窺える。
 日本の骨髄バンクは、平成3年に発足した。その設立に携わったが、忘れられない思い出がある。
 当時から骨髄バンクは、すでに外国では広く設置され、白血病や再生不良性貧血の治療に不可欠な存在になっていた。日本でも早急な設立について、長い間、医療関係者や患者などから要望されていた。しかし、執行体制の整備、財源の確保、倫理問題の対応など困難な課題があったので、役所の悪習か、ずるずると先延ばしにされていた。
 そのような状況のなか担当局長に就任したA氏は、迅速な設立に強い意欲を示された。「万難を排して絶対に実現するのだ」と決意を述べ、部下を叱咤激励する姿は、鬼気迫るものがあった。直属の課長だった私は、温厚で定評のあるA局長からは、想像できなかった。
 関係各省や医療団体との折衝、事業を担当する団体づくりのための利害関係者の説得、多額の寄付金集めなどに自ら行動し、一つひとつ着実に解決された。そのころすでに重篤の病気を患わっていたので、体に相当の負担がかかっただろう。私は、本人の闘病経験から患者のために、一刻も早い骨髄バンクの設立を痛感したのではと想像している。A局長の獅子奮迅の努力によって骨髄バンクが発足した。
 私は、骨髄バンクの運営に伴う倫理面を担当した。提供者への十分な説明と納得、提供者の自由意志の保障、提供の無報酬性、提供者名の秘匿、移植者の公正な選定などが論点だった。いずれも重要なテーマで制度と運営の両面で確保されなければならなかった。これが確実に担保されないと、骨髄移植は、かっての心臓移植の二の舞になり、日本社会で普及しないおそれがあった。
 設立から27年の年月が経ち、多くの命を救ってきたが、倫理面では特に大きな問題が生じていないことをうれしく思う。
 一般に医療において倫理面の問題が多く存在する。インフォームドコンセントから臓器移植、終末期医療まで枚挙に暇いとまがない。これらの問題に正面から向かい合い、考えていかなければならない。医療に係る倫理は、医療関係者とともに国民のコンセンサスの形成が何よりも求められる。

研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭

第71回 済生会学会「済生会保健・医療・福祉総合研究所による活動報告」

 2月24日(日)第71回済生会学会において「済生会保健・医療・福祉総合研究所による活動報告」(座長:原澤茂埼玉県支部長、川口総合病院名誉院長(兼)川口医療福祉センター総長、済生会保健・医療・福祉総合研究所研究評価委員)を行った。

 発表者は、山口直人研究部門長、持田勇治上席研究員、藤本賢治客員研究員(産業医科大学)、原田奈津子上席研究員、吉田護昭研究員、篠原栄二上席客員研究員(山口地域ケアセンター)の6名。
 まず、松原了所長代理より、済生会総研の活動概要の説明を 行った。
 次に、医療分野については、山口研究部門長から「済生会病 院医師の働き方の現状と今後の在り方に関する研究」についての調査結果を、持田上席研究員から「医療分野の進捗状況の報告」として、客員研究員とチームで行っている2つの研究並びにDPCデータを使用した分析手法のワークショップについての活動報告を行った。また、藤本客員研究員から「医療の質の評価・公表推進事業における臨床評価指標の実施報告と今後の展望」について、医療情報に加え、介護情報に関する指標(一部紹介)の情報が提供された。
 次に、福祉分野では、原田上席研究員から「なでしこプラン・刑務所出者支援」、「地域包括ケア・MSWの調査」、「済生会DCAT」についての研究の進捗状況と研究結果を、吉田研究員から「障害者入所施設職員における連携の実態に関する研究―済生会独自の障害者入所施設のあり方を目指して―」についての調査結果の報告を行った。
 篠原上席客員研究員は「社会福祉法人として取組む刑余者支援~居住支援活動の実践報告から~」として、山口地域ケアセンターで行っている自立準備ホームの実践について報告を行った。
 各研究員の発表後は、フロアから質疑応答も含め活発な意見交換の場となった。
 今回の活動報告や研究成果を積極的に済生会内外に発信していくとともに、今後も現場に身近な研究を続け、実践化できるような研究をすすめることとしたい。

 日頃から済生会総研の研究にご協力してくださっている方々、学会における活動報告にご参加くださった皆様、また、学会の場を提供くださった学会運営事務局の富山病院スタッフの皆様に感謝いたします。

第71回 済生会学会「福祉施設長会議(障害者施設分科会)」

 第71回済生会学会「福祉施設長会議」が2月23日に富山市の富山県民会館で行われた。
 まず、全体会議が行われ、老人保健施設分科会、老人福祉施設分科会、障害者施設分科会、訪問看護ステーション分科会の順で概況報告があった。その後、各会場に分かれ、分科会が行われた。

 今回、私(吉田研究員)は障害者施設分科会に参加をさせて頂き「済生会の障害者支援施設における調査研究からみえてきたもの」と題して、研究報告を行った。その後、出席者から、施設や事業所の現状報告や課題についての報告がなされた。
 報告では、入所者や利用者の高齢化、重度化、医療的ケアの必要な人が増加傾向にある施設や事業所が多くあった。
 また、障害児においては人工呼吸器管理などの高度な医療的ケアを要する超重症児の増加も見受けられるとの報告があった。そうした状況の中で、「済生会病院との連携」、「近隣の医療機関との連携」、「地域との連携」、「地域移行の推進」などに関する課題が挙げられた。そのような様々な課題に対して、各地域における様々な社会資源との連携やネットワーク構築も重要としているが、済生会の同事業種による横のつながりをもつことがより重要かつ効果的であるとの意見があった。具体例として、今年度設立された「済生会障がい就労支援協議会」である。現在までに2回の活動を実施しており、本分科会に出席された方からは「同じ法人なので困った時にすぐに相談できて本当によかった」、「いろんなことが勉強になる」、「協議会が設立されて本当に救われた」などの意見があり、非常にいい効果をもたらしている。その他にも医療型障害児入所施設(重症心身障害児施設)では、毎年、医学・共同福祉研究に取り組んでいることも報告された。
 本分科会に参加をしてみて、各施設の職員が現場での課題を抱えながらも当事者の主体的な生活のあり方や生き方に寄り添っていくために、熱い想いをもって日々の支援を展開されていることが印象的だった。

 今回、障害者施設分科会において、私の研究報告の場、時間を提供くださった皆様に感謝いたします。また、本分会の参加を通して、皆様からの貴重なご意見等を聞くことができたことは、今後の研究につながる材料となり、改めて感謝いたします。

人材開発部門

第42回全国済生会臨床研修指導医のためのワークショップ(SWS)

第42回SWSを2月2~3日に大阪市の「セミナーハウス クロス・ウェーブ梅田」で開催し、本会病院の医師32人が参加しました。平成18年2月に〈埼玉〉川口総合病院で第1回を開催して以来、これまでの修了者は1249人に達しています。

 このWSは厚生労働省の認定を受けており、修了者が取得する「臨床研修指導医」の資格は所属施設が変わっても生涯有効となり、内容は臨床研修の目標・方略・評価といった計画立案がメインで、コーチングやリーダーシップなど後輩指導に役立つスキルも習得できます。16時間以上の講習義務が課せられていますが、本会では診療への影響を最小限に抑えて参加できるよう土・日の2日間で実施しています。さらに限られた時間内で研修に集中できるよう、同じ済生会の医師がタスクフォースを務め、伴走しながら参加者を導いていくのも特徴の一つです。
 開催責任者の松原了本部理事は修了式で「開会式に比べて参加者の皆さんの目の色が変わった。良い研修医を育て働きがいのある病院をつくることは済生会ブランドの形成にもつながる。今回学んだことを臨床指導に役立ててほしい」と参加者をねぎらいました。参加者は「すごく疲れたが、中身の濃い充実した研修だった。教わった指導法を明日から生かしたい」と話しました。
 WSは本会の臨床研修病院が持ち回りで事務局を担当し、例年2回実施していますが、今年度は定員を超える参加申し込みがあったため、済生会本部が担当して急きょ3回目を開催したもので、山口総合病院、〈愛媛〉松山病院、〈福岡〉二日市病院から事務スタッフが応援にかけつけていただきました。
 次回は6月22~23日に同会場で〈福岡〉二日市病院が担当して開催する予定です。

アドバンス・マネジメント研修Ⅲ

 次世代の看護管理者の役割を担う中堅看護師を対象とした「アドバンス・マネジメント研修Ⅲ」を本部で2回開催し、1月21~23日、2月12~14日合わせて158人が参加しました。
 プログラムは2回とも同様で三部構成で、第一部は炭谷茂理事長から「看護に関する済生会原論―済生会人として知っておいてほしいこと―」と題し、日本と世界の社会情勢と医療・福祉をとりまく環境を解説、済生会の歴史とこれからの「済生会人」としての役割を訴えられました。
 第二部は関東学院大学大学院看護学研究科委員長の金井Pak雅子教授の講義「より輝ける看護師を目指して」と題して、看護ケアにおけるコミュニケーションの重要性について、「お互いに正しい理解に基づき、共感できるように伝えることが大切。看護師として自分自身のキャリア、今後何を目指したいのか考えてほしい」と話されました。

 第三部は高輪心理臨床研究所主宰・岸良範氏による「人間関係とリーダーシップ―互いに育てあう職場を目指して―」と題する講義とグループワークを行いました。岸氏は「人間関係を豊かにするためには、相手に敬意を表して、話を『聴く』ことが大切。相手には完璧を求めず、出来ないことがあっても認めることで信頼関係が生まれる」と力説されました。
 グループワークでは、「豊かに働くために/後輩たちとの関係・上司との関係~その時のコミュニケーションについて考えてみよう」をテーマに討議を行い、参加者から「後輩に自ら声かけをし、どこまで出来ているのかを具体的に説明する」「自分自身の言動をフィードバックしていく」「後輩に対してだけでなく、上司にも聴く・話す姿勢を持ちたい」という意見がありました。
 岸氏は最後に、「反対意見は決してマイナスにはならない。組織の新たな価値観、多くの知恵となり、良好な人間関係のある組織へとつながる」とし、「話を聴くポイントは、心を傾けて聴く。相手の気持ちや考えを『教えてもらう』という姿勢で聴くことが大切」と参加者にアドバイスいただきました。

平成30年度済生会初期研修医のための合同セミナー

 2月23日(土)富山市国際会議場において初期研修医のための合同セミナーを開催しました。当セミナーは、本会の臨床研修指定病院で研修する1年目の研修医全員を対象とし、総会・学会に合わせて開催することで本会の規模を実感し、帰属意識を高めていただくことを目的としています。また、研修責任者(指導医等)にも出席いただき、他院の初期研修医・指導医との交流も深めています。参加者数は34病院から初期研修医236名、指導医35名に上りました。
 このセミナーは、企画責任者に中川晋 医師臨床研修専門小委員会委員(中央病院 副院長)、進行役に塩出純二 同委員(岡山済生会総合病院 院長代理)、小西靖彦 同委員(京都大学 臨床研教育門長)、高畠靖志 福井県済生会病院 脳神経外科部長をはじめ、富山病院のスタッフの方々のご協力をいただきました。

  セミナーは、本部松原理事の開会挨拶、高木誠 医師臨床研修専門小委員会委員長(中央病院 院長)の講演「済生会の理念と医師臨床研修」の後、近年課題となっている「医師の働き方改革」をテーマに基調講演とグループワークを行いました。
 基調講演は、山口直人 済生会保健・医療・福祉総合研究所研究部門長より「済生会医師の働き方の実態と今後の在り方に関する研究」について発表いただきました。グループワークでは、医師の働き方改革に対する各グループの意見をまとめ、発表を行いました。随所にアンサーパッドと呼ばれる集計機器を活用して初期研修医の反応をリアルタイムで示し、盛り上がりを見せました。
 また、レジデント企画「当院の研修の魅力はこれだ!」と題して、参加各病院から自院の研修の魅力ある点についてスライド発表とアピールを行い、指導医の投票により表彰を行いました。優勝は今治病院、準優勝に熊本病院、3位に前橋病院が選ばれ、賞状と記念品が贈られました。

平成30年度臨床研修管理担当者研修会

 「初期研修医のための合同セミナー」に先立ち、臨床研修管理担当者研修会を開催しました。当研修会は、これまで本部にて開催していましたが、出席者が合同セミナーに指導医として参加することから、医師臨床研修専門小委員会において同日開催とされたものです。企画責任者に塩出純二 医師臨床研修専門小委員会委員(岡山済生会総合病院 院長代理)、進行役に泉 学 同委員(宇都宮病院 総合診療科主任診療科長)のご協力をいただいています。
 講演は、聖路加国際病院 福井次矢 院長より「医師臨床研修制度はどのように変わるのか」と題して、座長を務めておられる「医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループ」の状況について、済生会陸前高田診療所 伊東紘一 所長からは「済生会陸前高田診療所における初期臨床研修」と題して、本会の臨床研修交流事業で研修医を受け入れている状況について説明いただきました。次に、岡山済生会総合病院 藤岡真一 診療部長及び宇都宮病院 垣内大樹 救急科医員から事例発表に続き、全体で意見交換を行いました。

済生会総研から ―編集後記―

  これまでに済生会学会総会には4回参加をしました。1回目は第58回(平成17年度)の学会において一般演題で発表しました。2回目は平成25年度総会で永年勤続10年表彰を受けました。3回目は昨年度、総研に入職しての参加となりました。参加をするたびに、済生会組織の規模の大きさを実感し、済生会人として身の引き締まる思いになります。
 今回の学会(富山)参加を通じて、済生会総研として、現場に身近でかつ即実践化できる研究をしていくことが求められていると改めて実感するとともに、非常に大きな責任も感じました。
 引き続き、現場の皆様と共に研究をすすめていきたいと思いますので、ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。

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