済生会総研News Vol.20

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第19回 統計調査の信頼性

 これまで日本の統計調査に対する国際的な信頼性は、高かった。国や自治体の統計調査担当職員が地道に仕事をしている姿を見ると、頷ける。
 私は、実施責任者として担当した2つの統計調査が、強く記憶に残っている。いずれも政治的に神経を使う仕事で、大きなエネルギーを使った。
 第1は、昭和60年の被爆者実態調査である。旧厚生省で調査の企画・設計から実施まで担当した。被爆者の健康、生活状況を把握するため、旧厚生省は、昭和40年から10年ごとに実施していた。
 被団協を始め関係者の調査に対する関心が強かったので、関係者との調整が調査の成否を決定した。それまでの実態調査は、十分な理解を得られない状態で実施された。
 そこで私は、被団協を始め、被爆者の関係者と時間をかけ、徹底的に話し合う方針を取った。被爆者の意見のうち適切な事項は、全面的に調査対象に含めた。その結果調査項目は、大幅に増加した。また、集計・分析に手間を要するが、被爆者が人生で苦労した経験等についての自由記載欄や所有する被爆記録等の提出の協力要請も新たに加えた。
 調査の実施に当たっては、被爆者の積極的な協力があったので、調査は、成功した。その後の国立原爆死没者追悼平和祈念館の建設、被爆者援護法の制定などにつながった。
 第2は、平成5年の同和地区実態把握等調査である。全国の同和地区や同和関係世帯の実態を把握するもので、調査を実施する際に人権侵害が発生するおそれがあるので、慎重に進めた。
 この調査も民間運動団体の全面的な協力を得た。5分の1で抽出した同和関係世帯に記入してもらう調査も含まれていた。督促を行わなかったが、回収率は、90%近くで、社会調査の専門家は、「驚くべき数字だ」と評価してくれた。
 この調査は、その後の同和対策の方向に決定的な役割を果たした。それから25年が経過したが、同様な調査は、行われていないので、私は、この調査結果を基礎に同和問題の状況を考察している。
 このように調査統計は、国の政策の方向に大きな影響を与える。国や自治体の政策は、科学的で正確な調査統計に基づかなければならない。直感的、感情的であってはならない。
 だから最近発覚した厚労省による「毎月勤労統計」の調査の不正は、深刻である。雇用保険等の支給額に誤りが生じた。閣議決定した政府予算案の修正は、前代未聞の失態である。国の統計調査の信頼の回復が急務になっている。

研究部門済生会総研 上席研究員 持田 勇治

股関節・大腿近位の骨折の平均入院日数について(診断群分類:160800xx01xxxx)

 済生会経営管理システムのDPC/PDPSデータを利用して股関節・大腿近位の骨折(診断群分類:160800xx01xxxx)の入院患者について、退院先を「自宅」・「他の医療機関」・「福祉施設」の3つに分類して、平均入院日数の比較を行ないました。分析に使用したデータは、DPC/DPPS請求病院とデータ提出している病院の2018年4月からの退院患者で、2018年12月に当システムへデータ提出(分析対象件数は、2,919件)されているものを対象としました。DPC/PDPSの関節・大腿近位の骨折(診断群分類:160800xx01xxxx)のDPC点数表では、包括点数は、入院期間Ⅰ( 1日~12日)2,462点/日、入院期間Ⅱ(13日~24日)1,820点/日、入院期間Ⅲ(25日~60日)1,547点/日となっています。したがって、全国の平均入院日数は、入院期間Ⅱの24日となります。

(図1)済生会の病院別の平均入院日数済生会の病院別の平均入院日数

 (図1)済生会の病院別平均入院日数を棒グラフで示したもので、青い部分はDPC算定病床平均入院日数、オレンジの部分はDPC算定病床以外平均入院日数を示しています。病院毎に平均入院日数の差が大きいことがわかります。また、多くの病院では、DPC算定病床以外(回復期リハ・地域包括等)の病床が利用されています。済生会病院全体の当該診断群分類の平均入院日数は、33.82日(DPC算定病床平均入院日数 24.63日+DPC算定病床以外平均入院日数 9.19日)で、DPC算定病床の平均入院日数は、全国平均の24日をやや上回っています。
 次に退院患者の退院先のデータを加えて考えます。DPC提出データ(様式1号の退院先)で退院先のデータは必須項目であり、今回は、そのデータを利用しました。分類区分は、次の通りとしました。・(0):院内の他病棟への転棟・(1):家庭への退院(当院に通院)・(2):家庭への退院(他の病院・診療所に通院)・(3):家庭への退院(その他)・(4):他の病院・診療所への転院・(5):介護老人保健施設に入所・(6):介護老人福祉施設に入所・(7):社会福祉施設・有料老人ホーム等に入所・(8):終了(死亡等)・(9):その他(0~8、a以外)・(a):介護医療院。それらのデータから退院先を次の3分類に分けました「自宅」は、(1)(2)(3)、「他の医療機関」は(4)、「福祉施設」は(5)~(7)(a)として、(0)(8)(9)他病棟・終了(死亡)・その他については、今回の分析の対象外としました。

(図2)退院先別平均入院日数(全体)(図2)退院先別平均入院日数(全体)

 (図2)退院先別平均入院日数(全体)では、「自宅」に退院する患者の平均入院日数は49日間(DPC算定病床平均入院日数 26.1日+DPC算定病床以外平均入院日数 22.9日)であり、他の退院先分類と比較すると入院日数は長くなっています。また、DPC算定病床平均入院日数は、全国平均入院日数(24日)よりも、2日ほど長くなっています。そのほかの退院先分類の「他の医療機関」、「福祉施設」でもDPC算定病床平均入院日数も、全国平均を上回っています。

(図3)退院先別平均入院日数(DPC算定病床以外の病棟を利用した患者のみの集計)(図3)退院先別平均入院日数(DPC算定病床以外の病棟を利用した患者のみの集計)

(図4)退院先別平均入院日数(DPC算定病床のみを利用した患者のみの集計)(図4)退院先別平均入院日数(DPC算定病床のみを利用した患者のみの集計)

 (図3)退院先別平均入院日数(DPC算定病床以外の病床を利用した場合)では、DPC算定病床平均入院日数は、19.3日~21.3日と全国平均よりも短くなっています。(図4)退院先別平均入院日数(DPC算定病床のみを利用した患者を集計)では、退院先別のDPC算定病床平均入院日数は、24.5日~32.7日といずれも全国平均よりも長い平均入院日数になっていることがわかります。
 股関節・大腿近位の骨折(診断群分類:160800xx01xxxx)は、診断群分類の中でも発生症例が、比較的多くあります。したがって、当該診断群分類の入院日数を短縮することにより効率性係数に大きな影響を与える要素になります。
 今回の股関節・大腿近位の骨折(診断群分類:160800xx01xxxx)の退院先別平均入院日数を分析してわかることは、当該診断群分類のDPC算定病床平均入院日数を全国平均入院日数以内にするためには、入院中の効率的な医療の提供を行なうことが重要です。今回のデータからは、それに加えて、退院支援を行なうことや他の医療機関や福祉施設との連携を強化することの重要性がわかります。

人材開発部門

アドバンス・マネジメント研修Ⅲ 第1回

 1月21日(月)~23日(水)中堅看護師を対象としたアドバンス・マネジメント研修Ⅲが本部で開催され、68施設80名の参加がありました(老健・特養ホーム含む)。この研修は済生会中堅看護師(クリニカルラダー・レベルⅢ三以上の該当者)が対象としています。看護の現場でリーダーシップが取れ、中堅看護師としての役割を明らかにし、輝いて看護ができることを目的とした研修です。
 1日目は炭谷茂理事長の「看護に関する済生会原論―済生会人として知っておいてほしいこと―」と題した基調説明があり、最近の日本と世界の社会情勢と医療福祉をめぐる情勢を解説されました。続いて、済生会の歴史とこれからの「済生会人」としての役割を解説いただきました。
 続いて、関東学院大学大学院看護学研究科委員長・教授 金井Pak雅子氏による「より輝ける看護師を目指して」と題して講義が行われました。組織の変革者として中堅看護師に期待される役割やコミュニケーションスキルについての説明があり、様々な事例をもとに、効果的なコミュニケーション方法を解説されました。看護ケアにおける最も効果的な問題解決の方法の一つは、コミュニケーションであり、自分の目的と立場を把握し、相手と話し合いをする。お互い正しい理解に基づき、共感できるように伝えることが大切と話されました。最後に金井Pak氏より、「これから管理者になっていく皆さんに、この講義を通して看護師として自分自身のキャリア、今後何を目指したいのか、ぜひ考える機会にしてほしい。」との熱いメッセージをいただきました。
 2日目からは2日間に亘って、グループワーク形式になり、高輪心理臨床研究所主宰・岸良範氏の「人間関係とリーダーシップ―互いに育てあう職場を目指して―」と題して講義とグループワークを行いました。人間関係を豊かにするためには、相手に敬意を払いながら、話を「聴く」こと、自分の人間関係にいつもどのような問題が生ずるのか、自身の傾向を知ること。そして、相手に完璧を求めるのではなく、出来たことを認めること。出来ないことがあっても、認めること。相手に「心を傾けて聴くこと」で信頼関係が生まれ、「認められている」という感情が湧き、意欲につながっていく。「お互い認めるー認められること」の大切さを力説されました。しかし、「誰にでもそれができない時がある。それはどういう時なのか」実例を通して解説し、グループで話し合いました。対応策として、まず手を止め、相手の顔を見ながら対応することで共感的に受け止めることができる。相手の話を「聴く」時は、時間と場所のマネジメントも必要である。

 午後からは、創造的対話を考えていくための講義と、13グループに分かれて「豊かに働くために 後輩たちとの関係・上司との関係~その時のコミュニケーションについて考えてみよう~」をテーマにグループワークを行いました。多くのグループから出た意見は、「後輩には自ら声かけをし、どこまで出来ているのかを具体的に説明していく。」「自分自身の言動をフィードバックしていく。」「後輩に対してだけでなく、上司にも聴く・話す姿勢を振り返る。」でした。
 グループワークの総括として、「相手に敬意をもって話を聴くこと。違った個性の人と反対意見でぶつかりあっても、相手の意見を認め、尊重しあえる関係を作っていくことが大切。反対意見は決してマイナスにはならない。どんな反対意見でも組織の新たな価値観となり、多くの「知恵」となり、良好な人間関係がある組織へと繋がる。」という講義でした。
 最後に「話を聴くときのポイントは、心を傾けて真剣に聴くこと。そして、話し手の今の気持ちや考えを『教えてもらう』という姿勢で聴くことである。」そして、「話し合うこと、わかり合うことは、今までに自分の中になかったもの、互いの関係の中になかったものを生み出す、創造的な体験である。」との講義をいただきました。
 第2回は2月12日(火)~2月14日(木)に開催予定となっています。

済生会総研から ―編集後記―

 NHKの番組「チコちゃんに叱られる」という番組を楽しく見ています。
 番組では5才のチコちゃんが素朴な疑問を問いかけて、それにゲストが答える雑学クイズ番組です。このところの自分にはチコちゃんのように、「なぜ」と疑問を持つことが確実に減っています。何もわかっていないのにわかったふりを無意識にしてしまっています。
 今年は、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られないように、様々なものに興味を持ち思考力を強化したいものです。

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