済生会総研News Vol.19

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第18回 人間の幸福の尺度

 経済統計ではGDPの動向で生活水準が測定される。近年、長く続いた景気の低迷から脱出し、GDPが上昇しているが、国民は、生活水準が向上したという実感がない。
 そもそもGDPで人間の幸福の程度を測定できるのだろうか。
 環境行政の仕事をしていた時、国会議員の集まりで3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進の重要性を説明したことがある。その際一人の議員から「環境省が3Rを進めれば、景気の回復が遅れる」と発言された。不意を突かれた発言で、一瞬、絶句した経験がある。
 確かに3Rを徹底すれば、新しい商品の購入が抑制され、GDPにとってマイナスである。1960年代の日本の高度成長は、大量生産、大量消費、大量廃棄によって支えられた。伊東光晴著『大量消費時代』(河出書房)が出版されたのは、1964年であったが、この本で大手広告会社は、消費者に「いかに買わせに、いかに廃棄させるか」に努めているか述べられていた。
 当時の日本の経済の勢いはすさまじく、月給が毎年10%以上増え、家の中には新しい家電が増えていった。同時代に生きた者として生活水準は、上昇していると感じたが、それと比例して本当に幸福だったかは分からない。人間の欲望にはキリがなかったし、公害の増加、自然の消滅など負の面が表面化していた。
 経済が成熟した今日でも経済成長を図るため、政治家、研究者、官庁からモノやサービスの消費刺激策や新しいニーズの掘り起こし策が提示される。例えば個人住宅建設が代表である。
 庶民の一生の目標は、マイホーム建築である。生活費を切り詰めて建築資金を貯金する。しかし、苦労して建築したマイホームも20年度程度で無価値になる。中古住宅として売り出しても、解体費用のためマイナス評価のケースもある。日本の中古住宅の住宅市場に占める割合は1割ほどで、アメリカの9割、イギリスの7割に大きく及ばない。
 住宅さえも、日本では使い捨てである。中古住宅を解体し、新築するのは、住宅のリユースよりもはるかにGDP増に貢献する。しかし、日本人の幸福度は、GDPが増加するほどには増加しない。欧米のように100年、200年と長期に住めるような建築方法や維持管理方法がある。戦前の日本の建物は、孫、ひ孫の代まで住むことが常識だった。
 経済学者は、市場での行為を評価するので、家事の外部化によって新産業の育成を提示する一方、コミュニティでのボランティア活動は、無視する。しかし、家事労働やボランティア活動は、経済統計に計上されないが、人々の幸福に貢献する。
 人々の本当の幸福度を測定するため、従来からGDPに変わる尺度が提案される。ブータンでGNH(国民総幸福量)が開発された。日本でも日本の実態に合う尺度の開発・普及が必要な時代になっている。

研究部門

済生会学会における活動報告に向けて

 2月に富山で行われる済生会学会での「済生会保健・医療・福祉総合研究所による活動報告」に向けて準備を行っている。発表に際して、松原所長代理のあいさつのあと、以下の通りの発表者と内容ですすめることを予定している。なお、座長は済生会総研の研究評価委員会の原澤茂委員(埼玉県済生会支部長)が務める。

発表者と概要

(医療分野)
① 山口直人部門長
済生会病院医師の働き方の現状と今後の在り方に関する研究
 済生会の全病院を対象とした「施設調査」および医師を対象とした「医師調査」の分析と結果に関する発表

② 持田勇治上席研究員
済生会保健・医療・福祉総合研究所 医療分野進捗状況報告
 済生会におけるデータを活用した現場職員との共同研究に関する発表

③ 藤本賢治客員研究員(産業医科大学)
医療の質の評価・公表推進事業における臨床評価指標の実施報告と今後の展望
 済生会における医療及び介護の質の評価指標の設定と公表及び今後の展望に関する発表

(福祉分野)
④ 原田奈津子上席研究員
「なでしこプラン」・「地域包括ケア」・「済生会DCAT」に関する研究活動
 なでしこプラン、地域包括ケア、済生会DCATに関する研究についての発表

⑤ 吉田護昭研究員
障害者入所施設職員における連携の実態に関する研究
       ―済生会独自の障害者入所施設のあり方を目指して―
 済生会の障害者入所施設の職員を対象とした調査の分析と結果についての発表

⑥ 篠原栄二上席客員研究員(山口地域ケアセンター)
社会福祉法人として取組む刑余者支援~居住支援活動の実践報告から~
 山口地域ケアセンターで行っている刑余者支援の実践についての発表

 この活動報告が研究成果の有意義な発信の場となるだけでなく、フロアとの意見交換によって双方向のコミュニケーションの場となるよう、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

人材開発部門

副看護部長フォローアップ研修

 副看護部長フォローアップ研修が11月27~29日に本部で行なわれ、67人が参加した。7月の研修で学んだ役割と看護管理を実践に結び付けることが目的。
 参加者は10グループに分かれ、「実践に強い副看護部長は何ができるか」をテーマに討議。

 看護部長会「看護管理研修会検討ワーキンググループ」の6人の看護部長らのサポートを受け、「次世代(看護師長)育成」「コンピテンシー・モデルの活用」「倫理的問題への支援」「看護部を活性化できる」「地域包括ケアシステム構築に向けた入退院支援システムに強化」などを検討した。
 最終日は全体発表をし、優秀な企画を全員の投票とアドバイザーの総合評価で決め、「済生会虹の架け橋賞」として上位2グループを表彰した。アドバイザーからは「各々が考えてきたプロセスを通して、多くの気付きが生まれたことが素晴らしい。自施設に戻ったらすぐに活用してほしい」「実践できないのではなく、どうしたら実践できるかを考える機会となった研修だった。これからは成果を出せる仕事をしてほしい」などの講評があった。
 受講後のアンケートでは9割が今後に生かせる内容と回答。自身の課題が明確になったとも回答した。

薬剤部(科・局)長研修会

 平成30年度薬剤部(科・局)長研修会を12月14日本部で開催しました。70病院72名の薬剤師の参加をいただきました。炭谷茂理事長から「済生会の経営の現状と今後の方向」と題して済生会病院の経営状況と経営対策を含む今後の方向性等についての基調講演、松原了理事から本部連絡事項として、昨年度の経営状況や本会が取り組むSDGs、共同治験、済生会総研の活動状況について説明があった。

 その後、浜松医科大学医学部附属病院 教授・薬剤部長 川上 純一 先生による「これからの医療政策の動向と病院薬剤師を巡る状況」では、薬剤師を取り巻く医療環境の変化や、今後求められる安全管理等について解説いただいた。
 続いて千葉大学医学部附属病院薬剤部 教授・部長 石井 伊都子 先生の講演「薬剤師育成の現状と課題」では、千葉大学における薬剤師育成の取り組みについて講演いただいた。

済生会総研から ―編集後記―

 職場のすぐ近くに東京タワーがあります。その東京タワーが12月23日の「誕生日」に「還暦」を迎えたということで、特別なライトアップをしていました。1958年開業ということで、昭和と平成をそれぞれちょうど30年ずつ見守ってきたことになります。これからもシンボルとして居続けてほしいところです。
 ちなみにライトアップについては、「還暦」なので、「赤いちゃんちゃんこ」をイメージした赤一色の点灯とさらに赤いサーチライトで照らしていました。職場からの帰り道、少しほっこりしました。
 今年もあと少し、来年もよろしくお願いいたします。

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