済生会総研News Vol.18
現在開催されている臨時国会の最大のテーマは、入国管理法の改正による単純外国人労働者の受け入れ拡大である。これは、日本の国家のあり方を変革する政策転換なので、国会での徹底した論議を期待している。
従来日本社会は、外国人の受け入れについては消極的だった。治安の心配や文化や宗教の違いなどの理由からだが、根本には日本人は、昔から異文化と接する機会が乏しかったことに起因するのだろう。
しかし、最近メデイアが行ったいくつかの世論調査では、外国人労働者の受け入れについては、賛成が多くなり、従来とは異なった様相である。これは職場や商店で外国人と接触する機会が増えた、海外旅行で外国に対する理解が深まったことがあるだろう。労働力不足を身近に感じていることも影響している。
今回の入国管理法の改正では介護等の分野について5年間、労働者としての滞在を認めるが、家族の帯同を認めていない。しかし、今後多数の外国人は、地域社会で生活することに変わりはない。だから外国人居住者の増加に着目した医療、福祉、住居、教育などの対応が急務である。地方自治体の責任も重大だ。
現在の状況下で地域社会が、多数の外国人労働者を円滑に受け入れられるか不安が先立つ。受け入れに賛成と回答した人も、自分の隣りの家に迎えることに抵抗感はないだろうか。
外国人に対する差別が表面化し、日本人とのトラブルが懸念される。日本人、外国人双方にとって不幸な結果になる。日本の国際的評価を毀損し、経済成長のための改正が逆効果になりかねない。
地域社会が外国人を受け入れるためには、相互の理解、協力関係を深め、ダイバシティが尊重される共生社会の形成に努力を積み重ねなければならない。
私は、4年前にベルリンに5日間滞在したことがある。ベルリンは、人口350万人、うち外国人が19%の65万人と多い。世界180国からの人が居住し、日本人は4千人弱である。
ダイバシティが尊重されている都市で、外国人も住みやすく、文化水準が高い。ヨーロッパ第2の都市として発展を続ける。治安が優れ、深夜の一人歩きも不安はなかった。共生社会づくりが成功している。
共生社会は、済生会が目指すソーシャルインクルージョンの理念と同じである。本欄でも述べてきたが、ソーシャルインクルージョンは、外国人を含め障害者、難病患者、引きこもりの若者、刑務所出所者など多様な人々が、ともに暮らす社会を目指す。済生会総研は、これを現実化するために、成功している地域も研究し、具体的な方策を提示していきたい。
研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭
研究の進捗状況
今回は、私が主担当である研究の進捗状況ならびに研究概要についてご報告いたします。
【研究テーマ】
障害者入所施設職員における連携の実態に関する研究
―済生会独自の障害者入所施設のあり方を目指して―
1.研究背景
障害者入所施設では、入所者の高齢化や重度化、医療的ケアを要する人の増加をはじめ、親亡き後の生活、地域移行支援など、様々な課題がある。そのため、医療と福祉、多職種や多機関との連携による支援は益々必要となる。
済生会は医療と福祉の施設を併せ持ち、保健・医療・福祉サービスを横断的かつ総合的に提供できる強みを持っている。そのため、これまで以上にその強みを活かした支援を展開していくことが必要であり、急務である。
2.研究目的
本研究は、障害者入所施設における職員の連携に関する実態を明らかにし、済生会の強みを活かした「済生会ならでは」の障害者入所施設のあり方を検討することを目的とする。
- (1)調査方法
質問紙調査(5施設を訪問し調査票を配布、郵送にて回収) - (2)調査対象者
全国の済生会にある5施設の障害者入所施設の全職員 - (3)調査票の作成
2018年6月8日~6月15日に5施設を訪問し、施設長や施設職員からの聞き取り並びに先行研究のレビューをおこなった上で作成した。 - (4)調査期間
2018年9月6日~10月5日
4.研究結果
調査票の回収率(194部を配布し、186部を回収)は90.7%となった。分析対象は欠損値のない176部とした。現在、調査の分析中である。
5.今後の予定
本研究において、障害者入所施設の全職員を対象とした、実践レベルにおける連携の実態を明らかにできたことは意義があった。今後は、本調査の結果のみではなく、済生会の障害者入所施設5施設の職員の方々との研究ミーティングを通して、「済生会ならでは」の障害者入所施設のあり方について、検討を深めていく。
人材開発部門
福祉施設リーダー研修
福祉施設リーダー研修を10月16~17日に岡山市で開催し、定員の24人が参加されました。これまでの年2回の本部開催に加え、今年度は3回目を岡山済生会ライフケアセンターで開催しました。
プログラムは前2回と同じですが、「済生会の福祉事業~社会の期待に応える~」と題した炭谷茂理事長の講演には、研修参加者の他に岡山県済生会の福祉施設職員30人が耳を傾けていました。特養みなみがた荘の協力のもと初めての地方開催となりましたが、参加者からは「職場や家庭を長期に空けずに参加できてよかった」という声が聞かれました。
新人看護職員教育担当者研修
新人看護職員教育担当者研修を10月17~19日に本部で開催し、63人が参加された。各施設で新人看護職員研修を効果的に行うため計画の立案、実施、評価などを検討することを目的としている。
1日目は、炭谷理事長の基調説明「看護に関する済生会原論」の後、東京工科大学名誉教授・齊藤茂子氏から「新人看護職員の成長支援」と題して講義いただいた。新人看護師の離職理由で最も多いのは、教育現場で習ったことを臨床で上手く生かせないことであり、厚労省が作成した「新人看護職員研修ガイドライン」の効果的な活用方法について解説いただいた。
2日目は杏林大学保健学部看護学科准教授・金子多喜子氏から「コミュニケーションの特性」と題して最近の若手看護師のメンタルヘルスについて講義いただいた。1日目に講義した齊藤氏には2日目も「『こうすれば新人の成長を支援出来る』提案集をPBLで作ってみよう!」と題し、PBLの活用方法を講義いただいた。3日目は、前日のチームワークで生み出した「知の成果」をパワーポイントで発表し、ロールプレイで解決策を実施した。
齊藤氏は「新人看護職員担当者が感じる疲れとは、誠実に対応している表れである。頑張っている自分を認めてあげてほしい」と訴えたうえで、「新人教育は個人の力ではできない。全職員で教育担当者を支え、新人と共に成長する組織作りと仲間作りをしてほしい」と話された。
新任看護師長研修
新任看護師長研修を10月30~11月1日に本部で開催し、病院や特養などから77人が参加された。1日目は炭谷茂理事長の基調説明「看護に関する済生会原論」の後、野江病院看護部長の米須久美氏より「看護部長のマネジメント~『師長力』を上げて管理を楽しもう~」と題して講義いただき、師長は患者や家族、職員との対話を通して問題をいち早くキャッチすることが大切と話された。
2日目は日本看護協会常任理事の川本利恵子氏から「人材育成の基本―チームで看護ケアを継続するために、人財を自ら作る―」と題し、師長は自らの判断で行動し責任を負うことができる人材を育成してほしいと講義いただいた。加藤看護師社労士事務所の加藤明子氏は「労務管理」を講義いただき、育児や介護関連の法律について、仕事との支援制度、多様な勤務形態の事例を説明いただいた。
3日目は東京外国語大学非常勤講師の市瀬博基氏が「ポジティブ・マネジメント―自ら考え、行動し、助け合う組織をつくる―」と題して講義され、職場の学びと成長は、協働と対話から生まれる。対話をつくり、協働の中から仕事の「意味」を見出すことをサポートしていくことが必要であると主張された。
第3回 済生会地域包括ケア連携士養成研修会
第3回済生会地域包括ケア連携士養成研修会を11月12~15日に本部で開催し、病院のMSWや看護師、福祉施設の相談員、訪問看護師など、様々な連携業務に携わる78人が参加されました。済生会地域包括ケア連携士には、「済生会地域包括ケア」を中核となって進めていく役割が期待されており、研修内容は、高齢、障害、児童、生活困窮者など各分野における連携や、施設における地域貢献、ケアマネジメント、職種間連携など多岐にわたりました。
参加者からは、「全体を通して終始、済生会が目指す地域包括ケアを考えることができた」、「多彩な講師陣の話を一度に聞くことができて良かった」、「視野を広げて、もっと地域に関わっていきたい」、「済生会の実践事例と外部講師の濃厚な講義のバランスが良かった」といった意見が寄せられました。
済生会総研から ―編集後記―
先日、第3回済生会地域包括ケア連携士養成研修会を受講しました。4日間というハードな日程でしたが、グループワーク等を通じて、多くの方々の意見や日々の実践の様子など、情報交換をすることができ、私にとって非常によい刺激になりました。
済生会地域包括ケア連携士は、人と人、人と地域などを「つなぐ」、「コーディネート」していく重要な役割を果たすことが求められていると改めて思いました。
今回、受講された皆さまは、今後、済生会地域包括ケア連携士として各施設で実践していかれることと思います。また、済生会総研としては、済生会地域包括ケア連携士の実践活動に関する研究をすすめていくことの必要性を感じました。

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