済生会総研News Vol.13
数年前、社会福祉法人に対する強烈な批判が国会、マスコミなどから噴出した。社会福祉法人は、法人税や固定資産税などで優遇されるが、サービスの質が悪く、利用者に対する人権侵害が起こっている。会計が不透明で、役職員の豪華な海外視察などの不適切な支出があるといった事案が明らかにされた。
一方、有料老人ホームやホームヘルプのような福祉サービスに民間企業の進出が近年活発であるが、民間企業は、「社会福祉法人に劣らないサービスを提供しているが、税金や補助金の面で不利な扱いを受けている。イコールフッティングにすべきだ」という議論を展開した。
経済学者は、福祉や医療分野に市場原理の導入や規制改革の推進の論陣を張ったので、民間企業の主張は、一層勢いを持った。
これらの動きに対応するため、平成28年に社会福祉法が改正された。
そもそも社会福祉法人は、民間らしい創意工夫を凝らし、利用者の人権を最大限尊重する福祉・医療等の社会サービスを提供しなければならない。経営の効率化を行い、法律や予算制度の枠外の分野についても、利用者が必要とする場合は、何とか財源を工夫して応えるように努力することに社会福祉法人の神髄がある。
今回の社会福祉法の改正は、規制強化の面が強いだけに、これが適切に果たしていけるのか、懸念されるが、今後の社会福祉法人の努力が求められる。これができなければ、社会福祉法人制度は、自壊していくだろう。
法改正によって大規模な法人に会計監査人による法定監査が、平成29年度決算から義務づけられたことは、済生会にとって重い業務になった。これを適切に果たさないと、経営を続行することが許されない。
本会では法定監査に備えるため、情報システムの整備、本部による指導監査・研修の実施、監査法人トーマツの指導助言など万全の準備を整えて臨んだ。いよいよ29年度の本番に入って、第1線の病院や施設は、毎日の会計書類の作成から最終の財務書類の作成まで完璧な正確性が要求されるので、膨大な作業となった。法定監査の理解の浸透や会計事務作業に徹底しない面が一部に見られ、職員の苦労は大きかった。
最大の社会福祉法人である済生会は、経理業務の模範を示さなければならない。経理の正確性は、コンプラアンスの前提である。法定監査は、不正行為の発見や未然防止となる。また、経営は、正確な財務数値の上に成立する。
法定監査は、規制強化という面だけでなく、激変する経済社会の嵐を乗り切るため、経営の質的変化と飛躍的発展に活用していく面に着目しなければならない。
研究部門 済生会総研 上席研究員 原田 奈津子
研究の進捗状況
今回は、「生活困窮者の就労支援における現状と課題 ―刑務所出所者支援に関する済生会モデルの構築と展開―」の研究について、報告いたします。
1.研究の目的と方法
本研究では、生活困窮者の就労支援における構成要素を明らかにすることを目的としている。具体的には、山口地域ケアセンターでこれまで取り組まれてきた支援について精査し、済生会モデルの構築とその展開について検討を行う。本研究は主に調査による実証研究であり、研究スケジュールは2年間を予定している(平成29年4月~平成31年3月)。
昨年度は、山口地域ケアセンターが刑務所と連携し、刑務所内で実施している「介護職員初任者研修」の受講者への介護や就労に関する意識調査を実施した。
今年度は、刑務所出所者を介護職員として山口地域ケアセンターの福祉施設で雇用したケースを中心に、職員がどのようにかかわってきたのか質問紙調査によって明らかにしたい。
2.調査の概要
調査の実施にあたっては、山口地域ケアセンターに調査協力を依頼し、日本社会福祉学会の研究倫理指針等を遵守しながら、倫理的配慮のもと実施している。また、済生会総研における倫理委員会での審議において承認された。
調査の対象は、山口地域ケアセンター内の福祉施設の施設長、看護職、相談職、介護職など約200名である。調査票の配布と回収については、各施設に個別の封筒と共に調査票を配布し、施設ごとに取りまとめて済生会総研へ返送する形をとっている(自記式調査票による郵送調査)。
調査項目として、刑務所出所者の雇用にあたっての事前準備、実際に雇用した場合の課題や支援のあり方についてたずねている。具体的な支援として、「社会人としてのマナー」、「職員とのコミュニケーション」「生活リズムの調整(出勤、休み管理)」「介護・福祉に関する知識や技術の修得」「利用者とのコミュニケーション」等、どのようにかかわってきたのか、組織的な体制作りと共に調査の結果を踏まえて検討していく。
3.今後の取り組み
職員に対する質問紙調査を行うことで、就労支援に必要な要素を検討していく。介護を学んだ受刑者による刑務所内での実践や出所時の就労支援など具体的な仕組み作りについて検討し、済生会モデルが確立することで、済生会内外での取り組みへの波及効果が期待できる。そのため、学会等でも積極的に成果を発表していくこととする。
人材開発部門
看護部門
6月19日(火)に平成30年度第2回「看護管理者研修会」検討ワーキンググループが本部で開催されました。目的は、済生会看護理念に基づいた済生会看護管理者研修の在り方の検討です。今年度は主に、本部で開催する副看護部長研修(7月18日~20日)と副看護部長研修フォローアップ研修(11月27日~29日)について、内容、実施指導、評価の検討を行います。
副看護部長研修は、済生会という組織における副看護部長としての役割と看護管理のあり方について学び実践することを目的とした研修です。今回のワーキングでは、研修プログラムの内容とフォローアップ研修に向けて、グループ編成とグループワークの内容について検討しました。主な研修内容は、看護部長のマネジメント、臨床倫理、医療安全に関する講義と、平成29年度に実施した副看護部長フォローアップ研修の成果発表を予定しています。
福祉部門
福祉施設リーダー研修が、7月から3回に分けて開催されます。福祉施設の監督者を対象とした研修で、リーダーとしての資質の向上、リーダー相互間の連携を図ることで、済生会業務の発展に資することを目的としています。
二日間にわたり実施され、1日目(13:30~17:15)は炭谷理事長による挨拶・基本説明と外部講師による基調講義を中心に、2日目(9:30~15:00)はグループワークを中心に構成されています。
7月30日(月)・31日(火)【本部】、9月4日(火)・5日(水)【本部】、10月16日(火)・17日(水)【岡山済生会ライフケアセンター】の3回で、いずれも定員は24人です。
昨年度までは、東京の本部会議室で年2回開催されていましたが、本年度は、新たに岡山会場が加わり年3回の開催となりました。
受講を希望される方は、受講申込書を7月10日(火)までに本部に提出してください。詳細は、平成30年4月26日付け済事発第63号をご参照ください。
(昨年度の研修の様子)
済生会総研から
ロシアにてワールドカップが開催され、選手個々の力とチームとしての戦術で熱戦が繰り広げられています。フィールドにいる選手だけでなく、監督をはじめとしたチームにかかわるスタッフ、そこに声援をおくる観客、さらに、審判、運営スタッフ、メディアなど、その瞬間に立ちあうまでに、一人ひとりそれぞれのドラマがあると思います。自分の今いるフィールドで真摯に取り組むことの重要性を感じる今日この頃です。
(Harada)

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