済生会総研News Vol.12

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済生会総研の視点・論点 済生会総研 所長 炭谷 茂
第11回 地域社会の機能の再考

 先ごろ新潟市で小学校2年生が、連れ去られて殺害されるという事件が発生した。事件発生後、地域で小学生の登下校時に住民による見守り活動が行われたが、事件の1年半前からこの地域ではボランティアの高齢化により中止されていた。
 警察庁の調査では、全国の防犯ボランティア組織4万7千のうち6割以上が平均年齢は、60歳を超えている。若い年齢層は、仕事の関係もあるが、地域に対する関心が希薄化しているためである。町内会や青年団などの活動は、低迷している。
 このため地域社会が崩壊し、犯罪の発生だけでなく、高齢者や障害者の孤立化、環境の悪化などを招いている。
 内閣府が平成30年1月~2月に行った世論調査では、住民の32.1%の人は「地域で付き合っている人がいない」と回答しているが、サラリーマンを退職した男性に限定すれば、この割合がもっと高いだろう。
 健康、経済力、趣味に恵まれた人であれば、自宅で孤立していても支障が少ないかも知れない。昨今著名人の「他人の干渉は、余計なお世話。孤独で何が悪いのだ」という勇ましい発言が持て囃されるが、一人暮らしで医療や介護を必要となった場合、独力で暮らしていくことは困難である。どんなに元気な人も、ある日突然病魔に倒れることが生じる。
 そこで医療、介護、福祉などについて公的制度が整備されてきた。しかし、個々の人へ見守りや地域の問題をすべて行政が担うことは、プライバシー、マンパワーや経費から不可能である。地域社会で対応しなければならない。
 サッチャー首相は、在職中、企業の役割を重視し、「社会というものは存在しない」と社会の機能を無視した。日本でも政府に強い影響力のある経済学者が同じ発言をした。社会は富を生み出さないという含意だろう。確かにGDPで計算される富を生み出さないが、今日、社会の機能は、益々大きくなっている。地域社会は、社会の最も大きな領域である。
 社会学は、社会を研究対象として発展してきた。1920年代シカゴ学派による社会解体論が登場した。当時は都市化の進展によって地域の慣習が衰え、社会が機能を失い、犯罪等の反社会的行動が増加していることを指摘した。1990年代には欧州では社会的排除論が展開された。失業中の若者、障害者、外国人などが地域社会から排除される現象が、欧州全般を覆い、現在に至っている。
 地域社会の機能を再構築するためには従来の地縁、血縁に依存するのではなく、特定の目的で集結する組織の役割が期待される。社会学でいうネットワーク型地域集団である。

研究部門 済生会総研 研究員 吉田 護昭

Ⅰ.研究の進捗状況

1.はじめに

 今年度は、新たに障害福祉分野に関する研究テーマを追加し、そのなかでも、障害者支援施設に焦点をあてた研究を行うことにしています。研究をすすめていく上では、先行研究の精査が必要不可欠となります。それは、これまでに何が明らかにされて、何が明らかにされていないのかを整理することが重要となるからです。
 私が済生会総研に着任して4か月が経ちました。この間、研究計画書の作成をはじめ、障害者支援施設に関する先行研究や関連資料等の整理を行ってきました。
 今回は「済生会総研News」をご覧のみなさまに、少しでも障害福祉分野に興味や関心を持って頂きたいと思い、これまで整理した先行研究や各資料等の中から、障害福祉分野に関する基礎的なことについて、ご報告をいたします。

2.障害者支援施設とは

 障害者支援施設とは、障害者総合支援法第5条の11において「障害者につき、施設入所支援を行うとともに、施設入所支援以外の施設障害福祉サービスを行う施設(のぞみの園及び第一項の厚生労働省令で定める施設を除く。)」と位置付けられています。
障害者支援施設は、2005(平成17)年の障害者自立支援法の施行によって新たに位置付けられました。また、同法ではこれまで障害種別ごと(身体障害、知的障害、精神障害)に異なる法律に基づいて提供されてきた福祉サービスを、共通の制度の下で一元的に提供する仕組みへと変更されました(図1)。


障害者自立支援法
【※現在では障害者総合支援法】

(共通の制度の下で一元的に提供する仕組み)
障害者支援施設

身体障害者福祉法
身体障害者療護施設
肢体不自由者更生施設
など

知的障害者福祉法
知的障害者更生施設
知的障害者授産施設
など

精神保健福祉法
精神障害者生活訓練施設
精神障害者授産施設
など

図1 施設分類等に関するイメージ図

(出所)厚生労働省「障害者自立支援法の概要」、http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0214-1a.html(2018年5月23日閲覧確認)の図を参考に筆者作成。
※本来であれば、児童福祉法(障害児施設)も含めての一元化となります。本紙では主に3障害に焦点をあてているため、ここでは取り扱わないことを予め断っておきます。

なお、障害者支援施設では旧法に基づく施設種別が以下のように整理され分類されていました。
・「生活施設」:在宅で生活することが困難な重度障害のある方に介護を提供する施設
(身体障害者療護施設など)
・「更生施設」:リハビリテーションや職業訓練を行う施設
(肢体不自由者更生施設、知的障害者更生施設、精神障害者生活訓練施設など)
・「作業施設」:雇用が困難な障害のある方に入所又は通所により就業機会を提供する施設
(身体障害者授産施設、知的障害者授産施設、精神障害者授産施設など)

その他にも、障害者の施設においては様々な種類の施設も存在しています。

3. わが国の障害者数

3.1 わが国の障害種別における障害者数

 『平成29年障害者白書』(内閣府)によると、わが国の障害者数は、推計で805.4万人となっており、そのうち、在宅者数は757.8万人(94.1%)、施設入所者数は47.6万人(5.9%)となっています。
 以下に、わが国の障害種別における障害者数を整理しました(図2)。
 平成15年の時に比べると、身体障害者で34万人、知的障害者で5.6万人、精神障害者で32万人程度、増加しています。

身体障害者
382.1万人
  知的障害者
57.8万人
  精神障害者
365.5万人
在宅 376.6万人
(98.6%)
 
在宅 46.6万人
(80.6%)

  在宅 334.6万人
(91.5%)
  施設入所
11.2万人(19.4%)
 
   
施設入所 5.5万人(1.4%)     入院 30.9万人(8.5%)

(出所)内閣府「平成29年障害者白書 参考資料 障害者の状況」、P.219を基に筆者作成。
※精神障害者に関しては、入院と外来の数値です。
※障害児の人数はカウントしていません。

図2 わが国の障害種別における障害者数

3.2 障害者数の推移(年齢階層別)

障害者数の推移を年齢階層別でみると、65歳以上の障害者数は、身体障害、知的障害、精神障害の3障害とも年々と増加傾向にあります(図3~5)。

図3 身体障害児・者
図3 身体障害児・者
  図4 知的障害児・者
図4 知的障害児・者
  図5 精神障害者
図5 精神障害者

(出所)内閣府「平成29年障害者白書 参考資料 障害者の状況」、P.222より筆者引用加筆。

4. 全国の障害者支援施設数と済生会の障害者支援施設数

4.1 全国の障害者支援施設数

 全国の障害者支援施設数と済生会の障害者支援施設数を比較しました(表1)。

表1 全国の障害者支援施設数

施設種別 施設数(箇所) 定員数(人)
全国 障害者総合支援法による障害者支援施設等(障害者支援施設、地域活動支援センター、福祉ホーム) 5,778 19万2,762
障害者支援施設 2,550 3万9,627
済生会 障害者支援施設   262

(出所)厚生労働省「平成28年社会福祉施設等調査の概況」、P.1-22、社会福祉法人恩賜財団済生会「支部・施設一覧表 平成29年4月1日現在」、P.1-70を基に筆者作成。

5.障害者支援施設における「施設入所支援」の利用者数の推移

 障害者支援施設における「施設入所支援」の利用者数の推移について整理をしました(表2)。施設入所支援とは「施設に入所する障害者につき、主として夜間において、入浴、排せつ及び食事等の介護、生活等に関する相談及び助言、その他の必要な日常生活上の支援を行うこと」です。

表2 施設入所支援の利用者数の推移

施設入所支援の利用者数の推移
(出所)内閣府「平成22年~平成29年障害者白書 参考資料 障害者の状況」を基に筆者作成。

 表2によれば、2010(平成22)年から2013(平成25)年にかけては、利用者数が段階的に増加しています。この理由については、2006(平成18)年の障害者自立支援法の施行に伴い、これまで入所施設のサービス体系が包括的サービスから、「日中活動(昼のサービス)」と「居住支援(夜のサービス)」に分けて提供する体系に変わったことが主な要因ではないかと考えられます。さらに、その旧サービス体系から新サービス体系へ移行するための準備期間(2006年から2012年3月)が設けられたため、各施設が段階的に移行したことも一因ではないかと考えられます。
 そして、2013(平成25)年を境に、少しずつですが、施設入所支援の利用者数が減少傾向にあることが見受けられます。その要因については、この紙面上で速断はできませんが、地域移行支援の推進や障害者の高齢化による入院・死亡退所の増加などが考えられると推察されます。

6.おわりに

 これまで、障害福祉分野に関する基礎的なことについて、図表等を含めて、ご報告をさせて頂きました。障害福祉分野について、少しは興味、関心を持って頂けましたでしょうか。
 今年度、研究に取り組む済生会の障害者入所施設は5施設で、済生会内における他分野の施設数と比べても少ないのですが、障害福祉分野においては貴重な5施設ではないかと考えます。その貴重な5施設に焦点をあてた研究をすすめていくことにしていますが、今後は本研究を機に、他の障害福祉分野にも焦点をあてた研究に取り組んでいくことができればと考えております。そして、済生会内の障害福祉分野の活動や取り組みがさらなる発展のきっかけに繋がればと思います。

7.本研究の今後のスケジュール

 今後の研究スケジュールですが、6月に静岡(2施設)、大阪(2施設)、山口(1施設)の障害者支援施設へ訪問し、各施設の状況等を整理した上で、本調査の項目内容について精査します。
 その後、倫理審査委員会での承認を得た上で、8月に本調査(量的調査もしくは質的調査)を実施する予定にしています。
 障害福祉分野に携わる皆様をはじめ、特に、今年度、本研究にご協力してくださる各支部・施設の方々におかれましては、引き続き、何卒よろしくお願い申し上げます。


Ⅱ.研究ミーティング開催

 平成30年4月26日(木)、今年度はじめての全体ミーティングを済生会総研にて開催しました。出席者は、松原了所長代理、研究部門から山口直人部門長、持田勇治上席研究員、原田奈津子上席研究員、吉田護昭研究員、篠原栄二上席客員研究員、藤本賢治客員研究員、人材開発部門(本部事務局)から平井滋課長、見浦継一企画員の9名でした。
 約2時間にわたって、各研究テーマに関するディスカッションを行いました。各部門、各研究テーマの担当者は、いい刺激を受けることになったと思います。
 特に、今年度に関しましては、研究結果が求められる一年となります。そのため、これまで以上に、自らの研究テーマに対して、熱い思いを持って取り組んでいくことが必要となります。

先月号(Vol.11)でのお詫びと訂正 済生会総研  上席研究員 持田 勇治

 「済生会総研News( Vol.11)」の 研究部門の内容について訂正がありましたので、お知らせ致します。
平成30年度診療補修改定・DPCの影響について(包括点数・機能評価係数Ⅱ等)に誤りがありましたので訂正させていただきます。
P3 2.基礎係数・機能評価係数Ⅱの影響
誤)その結果、係数が+0.098
正)その結果 係数が+0.0103

人材開発部門

訪問看護ステーション管理者研修会

 平成30年度訪問看護ステーション管理者研修が5月17、18日、本部で開かれた。今年度新設された1事業所を含め、51人(うち7人が新任)が参加した。
 1日目は、炭谷茂理事長が「看護に関する済生会原論」を、続いて日本訪問看護財団常務理事・佐藤美穂子氏が「平成30年度報酬改定と訪問看護の動向」と題して講義した。
 2日目は午前中に(株)ケアーズ 白十字訪問看護ステーション統括所長・暮らしの保健室 室長・マギーズ東京 センター長 秋山正子氏が「在宅現場と訪問看護の課題 つながる・ささえる・つくりだす 在宅現場の地域包括ケア」と題して講義した。予防から看取りまでを担う訪問看護は、在宅医療・看護・介護の協働が必要不可欠で、地域での活動の実践をもとに情報発信をして、活動を広げていくことも必要である。また、訪問看護師は自身の看護ケアの評価を行い、家族とのコミュニケーションを円滑にし、看護の質を高め、利用者の満足度の高いケアを提供していくことが必要であると説明した。
 訪問看護事業の他に、「つながる」地域包括ケアとして、予防の視点を持つ地域の中の相談支援と居場所づくりの取り組みで「暮らしの保健室」、がん患者と家族のための新しい相談支援の場「マギーズ東京」の活動内容の説明があった。
 午後は、済生会訪問看護ステーション管理者間の交流を通して、連携・親睦を深める目的で、「交流ワーク」を行った。
 はじめに、全体交流会で各施設の状況を紹介。次に8グループに分かれて事前に調査した意見についてグループワークを行った。
 最後にブロック別に分かれて交流会を行った。活発な意見交換と情報共有の場となった。

済生会総研から

 様々な分野の第一線で活躍をされている一流のプロの仕事について、徹底的に掘り下げるドキュメンタリー番組をご覧になったことはありますか。
 番組の最後には、その一流のプロに対して「あなたにとって、プロフェッショナルとは」と問う場面があります。その問いに対する答えを聞くたびに、共感したり、刺激を受けたりすることがあります。
 では、「あなたにとって、プロフェッショナルとは」と自分が問われたら、どのように答えることができるでしょうか。
 日々、多忙な業務や実践に追われているなか、少し立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
 自分自身を振り返ることができるよい機会になるのではないかと思います。
「あなたにとって、プロフェッショナル」とは。

(吉田護昭)

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